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第5章 ザンビアへの今後の支援



5.1 提言

 70年代半ば以降、ザンビア経済は危機的状況に置かれてきた。さらに、構造調整による経済の自由化と民営化は短・中期的には失業者や貧困層の増加をもたらし、社会サービスの量的・質的低下や有料化などによって多くの国民の生活水準は著しく低下している。 この現状に鑑み、基礎生活分野における人道的支援に加えて、経済再建に向けての地域開発、インフラ整備、構造調整支援などが不可欠であり、我が国をはじめとするドナーによる更なる経済協力がなければ、これまで築き上げてきた開発援助の効率性や継続性が失われかねない。
 ザンビアは8カ国と国境を接し、南部アフリカ地域の平和と安全にとって地政学上重要な位置にある。また、財政難をもたらしてきた要因の一つである銅公社(ZCCM)のアングロアメリカ会社への売却が実現することにより、将来への明るい見通しが可能となってきた。とはいえ、経済の自由化・民営化の恩恵が国民全体に広く行き渡るまでは相当の時間を要するものと考えられる。国民の約7割が貧困の状態にあるという事実からすれば、貧困の軽減(医療や保健を含む)、今後期待される農業、観光産業等の分野への支援、特に人材育成やソフト支援、あるいはインフラ整備などへの支援が強く望まれるところである。
 本評価調査結果を踏まえ、対ザンビア援助への今後の支援として以下の9項目を配慮する必要があると考える。

(1) 貧困削減への取り組み

 我が国の対ザンビア援助は引き続き貧困削減に重点を置くべきである。この関連で、地方農村開発への支援は特に検討が必要である。また、これまでの経験及び予期されるインパクトを考慮すると、農業、教育、医療、公衆衛生及び社会福祉等の分野が我が国の重点分野として挙げられる。また、現在、同国で策定中の貧困削減戦略ペーパーの内容についても注視していく必要がある。

(2) 村開発及び農業開発に対する支援

 農村開発及び農業開発を達成する上で、小農の生産性向上への援助、農業開発計画策定支援、農業生産性向上・農業技術定着への支援及び農業用資機材等の農業投入財導入のための小規模金融機能強化のための支援が検討されるよう。

(3) HIV/AIDS対策

 HIV/AIDS問題はザンビア国の開発にとって、健康上の問題のみならず社会経済的な問題として捉えることが肝要である。この観点から、HIV/AIDS対策へは優先的に援助を実施すべきであると考える。また、HIV/AIDS対策以外としてはプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)に対する支援を拡充することが望ましい。

(4)ベーシック・ヒューマン・ニーズとしての社会インフラ開発

 国民が最低限の生活水準を維持するため、また、貧困削減のためにも、医療クリニック、医療ポスト、病院、学校及び農村道路等の必要不可欠な社会インフラが一層拡充されるべきである。

(5)教育

 基礎教育の量的拡充と共に質的向上を一層推進すべきである。そのためには、教員養成を通じて教員の資質を向上させていくことが非常に効果的であると考える。

(6)キャパシティー・ビルディング(能力開発)及び技術移転の必要性

 我が国の今までの援助経験から、アフリカ地域での援助を成功させるためには、キャパシティー・ビルディング(組織能力開発・強化)が必要である。長期的には、キャパシティー・ビルディング及び技術的ノウハウの移転はザンビアにとって大きな効果を上げる。

(7)ドナー間の調整の必要性

 援助の効果を一層高めるためにも、他のドナーとの協力関係をより促進していくべきである。このドナー間の協力関係の結果、我が国と他のドナーとの共同プロジェクトが生産的な成果を上げている。この成功例として、国境地域HIV/AIDS予防日本―米国共同プロジェクト等がある。
 また、我が国は、「オーナーシップ」及び「パートナーシップ」を基本理念としたセクター・プログラム(SP)アプローチを支持しているが、その促進への積極的な議論に引き続き関与していくべきである。

(8)NGOとの連携促進

 NGOとの連携は効果的な開発援助を実施する上で肝要である。一般的に、ザンビアでのNGOの活動はヘルスケア、公衆衛生、人的資源開発及び環境保護等の分野であり、これらの分野はザンビアの社会経済開発上も重要となる分野である。

(9)オーナーシップ

 より効果的な開発援助の実施のためには、ザンビア国民が開発案件に対する当事者意識を持つことが極めて重要である。この点で、ジョージ居住地区(コンパウンド)のPHCプロジェクトは非常に効果的であると言える。

5.2 各重点分野の展望

5.2.1 農業分野

 自由化後、特に遠隔地域や経済力の弱い農民において化学肥料の入手が困難となり、メイズ作の縮小傾向が見られる。小規模農家における基礎食料の確保、食料安全保障の達成が急務である。また貧困軽減の視点においても、小規模農業、とくに遠隔地域の小規模農家に対する農村および農業開発は重要である。とくに遠隔地農村部の多くの農民は貧困の状態にある。貧困からの脱却を図るためには、総合的な農村開発を推進し、これを面的に拡大していくための支援が必要と言える。
 農業省の予算と人員の削減により、農業研究、普及事業など行政サービスの提供が大幅に低下している。また、従来は政府が提供していた融資事業、生産投入財の供給、生産物流通等のサービスは、流通の自由化・民営化により民間部門の手に委ねられるようになったが、マクロ経済安定政策等により十分に機能しているとは言えない。
 農村道路の整備は農業自由化の前提条件であるが、極端に悪い道路事情は民間部門の流通活動を抑制している。これは、余剰地域から不足地域へ食糧が必ずしも円滑に流通していないことに顕著に見られ、特に雨期が始まると生産地から消費地への流通は全く機能しなくなると言われる。季節・地域間の価格差によって生産が刺激されるのではなく、むしろ遠隔地域の農民は流通自由化によって軽視されるようになったとも考えられる。
 前政権時代、獣医関連のサービスは政府によって無料で提供されていた。しかし、自由化以降は、このサービスは基本的には有償でなされている。近年、家畜、特に牛の病気が頻繁に発生し、一部の地域では牛が大量に死亡する事態が起こっている。ザンビアでは、牛は単に食料の供給というよりも、様々な文化儀礼や富の象徴として飼育されている場合が多い。また、農耕地において牛は役畜として用いられて、特に牛耕はツエツエバエの生息地を除けば、中小規模の農民においては耕起作業の迅速化、メイズ早期播種の実現において重要な存在であることからも農耕民にとって牛の疫病の蔓延は生産力の低下をもたらす大きな打撃となる。
 農業生産においては、化学肥料の供給は原則的には市場メカニズムの重視が尊重されるべきであるが、食糧安全保障の観点から当面の間、政府の介入もある程度は止むを得ないと思料され、同時に、農業の研究・普及の分野では化学肥料偏重の体質改善が望まれる。 輸出産業として近年成長しつつある都市近郊の大規模農業(花卉、園芸など)は大いに注目される。小規模農業との連携を前提に、この分野への支援体制が検討されるべきであろう。政府が描いた農業流通自由化の大きなねらいは、マクロ経済政策に関しては生産物や農業投入財に対する公的介入により生まれた莫大な財政赤字の削減にある。農業生産に関していえば、それは適正な市場価格のシグナルに基づいた適地適産の誘発であり、農業生産の多様化である。しかし、市場経済機構が十分に発達していないとすれば、このような抜本的な改革が長期的に継続できるかは疑問である。
 自由化後の流通が円滑に機能する条件整備がこの間に達成できなかった主な理由は、未発達な市場経済とともに脆弱な農業部門という特殊性にあると考えられる。均質な諸条件のもとで標準的農業技術を利用して生産が営まれているのではない。それは気象変動の影響を直接受ける農業であり、技術の選択幅がきわめて限られた農業である。このような農業に流通面だけの自由化を適用するのは時期尚早であろう。 
 農民の多くは、常に貧困と隣合わせの生活を営んでいる。また、農民が自由化に不慣れだというよりも、原料を含めて外国から輸入せざるを得ない化学肥料への依存は国内の自由化のみで対応できるものではない。そこに国家というチャンネルに依存せざるを得ない必然性が生まれてくるのである。
 1996年開始の「農業部門投資計画」が第2フェーズとして延長される。これは農業投資の調整、制度と政策枠組みの改善を目的にしており、議論の余地はあるが、我が国の援助もこれとの協調が必要になると考えられる。農業統計整備や土地分類などの分野に加えて、地域専門家の育成等の分野において我が国のソフト支援も必要となると思料され、住民の価値観や世界観を考慮した上での開発協力が農業・農村開発の分野でも重要であると考える。

5.2.2. 保健分野

 ザンビアにおける保健部門でのプライオリティ分野は、次の分野が挙げられる。

A) HIV/AIDSの予防対策
B) ディストリクト管理能力の強化及びディストリクト・バスケット・ファンドを強化することによる人材育成の促進
C) 保健省(Ministry of Health; MOH:政策策定機関), 中央保健審議会(Central Board of Health; CBOH:執行機関)の事務的、行政的負担の軽減
D) ルサカ市への人口流入増加にともなう都市地域でのプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)(学校保健との連携)および第2次リファラルシステムの構築、UTHとの連携の強化等
E) 結核・マラリアの予防対策及び母子保健(MCH)・リプロダクティブ・ヘルスの拡充


 この中でも優先順位の第一はエイズ対策(予防、治療を含む)である。世界銀行がいみじくも指摘しているように「エイズはもはや保健医療の問題ではなく開発の問題である」。最近のザンビアの統計ではHIV/AIDSの有病率は15才・49才の成人で20%(すなわち5人に1人)であり、エイズ対策で成功しつつあるセネガル、ウガンダ又はタイ(マヒドン大学)との南南協力の可能性は大きいと思料される。

 また、アフリカにおいてはアジアの多くの国々と異なり、保健システムそのものが未整備で形成されていない。そのような状況下では、医療従事者の人材育成を第一義的に考慮すべきであり、その実施のために必要となる費用負担も行うことが望ましいと考える。特に、地方レベルでの人材育成及び保健システム管理等については、相当な投資を相当期間行わなければならないであろう。

 また、コモンバスケット方式による援助に関しては、保健全体ではなくむしろ保健部門のなかでの各部門、すなわちディストリクト・バスケット(District Basket (Sectoral Support)、ディストリクト・保健管理(District Health management (Human Resource Development))、 調達バスケット(Procurement Basket (Essential drugs))、HIV/エイズコミュニティー・ケア・バスケット(HIV/AIDS Community Based Care Basket)、給水衛生・病院バスケット( Water and Sanitation, Hospital Basket)等に各ドナーの状況、得意分野に応じて個別のバスケットに資金をプールし、資金管理を行うことにより効率的、且つ、効果的な開発案件の実施管理を行うものである。この方式は、基本的にはセクター・ワイド・アプローチ(Sector Wide Approaches; SWAps)の一つであり、ディストリクトレベルではディストリクト委員会を通じたセクター間調整アプローチ(Inter-sectoral Approach (coordination))も考えられるが現在は行われていない。コモン・バスケット方式では、年次予算、会計報告に資金供与した国の貢献額も記載されるので我が国の資金供与額も明記される。コモン・バスケットへの資金投入については、納税者たる国民への説明責任及び「顔の見える援助」を十分確保する必要がある。その使途については調整/監理委員会(Coordinating/Steering Committee)が少なくとも四半期毎に1回開催されるため、透明性は保たれると考えられる。問題は、プログラム間/ドナー間の調整をいかに適切に行うかであるが、我が国の重点分野と考えられる調達バスケット、給水バスケット等を積極的に提案することにより、引き続きコモン・バスケット方式の議論に積極的に関与していくことが望ましい。同時に、セクター間統合アプローチ(Intersectoral Integrated Approaches (Crosscutting issues))の重要性を強調してゆく必要があろう。我が国としてもザンビア保健省の戦略開発計画に沿って支援を進めていく際、日米連携案件がどのような位置付けになっていくのかを見極めるためにも関与していくべきであると考える。このような出資は、ザンビアがセクター・ワイド・アプローチ重点国となっていることからも、又、ドナー協調を促進する上でも非常に重要なことになると思料する。また、但し、その際に、開発上の優先順位を考慮してどのプロジェクトのバスケットに資金供与すべきかのコンデBショナリティーをつけることが重要となり、我が国在外公館で援助政策を担当する日本人職員を拡充することも視野にいれるべきであると考える。

 最後に、開発援助を実施する上で提起されなければならないことは、保健分野に限ったことではないが、ODAを実行する「援助国」(のみならず世銀、WHOなどの国際機関、国連機関やNGOをも含めた援助機関)に対する基本的問いかけとして、「被援助国」の国家主権(それが国民国家 [Nation state]であれ複合国家であれ)、政府の統治権に対して絶えず「緊張した」姿勢が求められなければならないという点である。住民参加(Popular participation, community participation)、自立(Self-reliance)、自立発展性(Sustainability)などの用語がしばしば用いられるが、そこで語られる用語に秘められている内容は個人に即していえば人間としての「尊厳」であり、国家(民族)としての誇り、「尊厳」なのである。「被援助国」やその国の地元NGOの人々と出会い、語り、交渉する時、そこに垣間見るものは「弱者」の尊厳である。「先進国」に住むわれわれはそのことを決して忘れてはならない。「援助」はわたしたちがこの地球上で、ともによりよい生を営んでいくための相互的な営みなのである点を常に忘れてはならない。

 現地視察プロジェクトについての将来的な展望は次の通りである。

(1) ザンビア大学教育病院(UTH)

 施設、機材供与で総額59.24億円、とくに1995年度は35.54億円を投入しており、ザンビでの唯一の大学付属の第3次医療機関であることから、プロジェクトの効果をより高めるためには、今後も2-3年に一度はモニタリングおよび維持管理、修理、適正な使用方法の教育等のために専門家を短期派遣し、3-5年毎の定期的な評価を実施することが望ましいと考える。

(2) ザンビア感染症対策プロジェクト

 本来の目的である感染症対策のためのPublic Health Laboratoryとしての機能拡充を目的とするプロジェクトとして再編を考慮し、保健分野で優先順位の高い、1) HIV感染者のスクリーニング、エイズの早期診断、垂直感染等に対する予防・治療の支援、2) 抗結核剤耐性菌の検出、3) コレラなどの感染症の流行を防止するための病原体(細菌、ウイルス)の早期発見・同定等に主力を注ぐべきであろう。現状の「研究」を主体にしたプロジェクトの継続が必要であれば、ザンビアでのニーズ調査を十分に行った上で再検討すべきである。

(3) ザンビア国ルサカ市プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)プロジェクト

 プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)プロジェクトの本質から考えれば、5年で終了することは推奨できない。本来、このプロジェクトはPHCの構成要素のなかでの1) リファラルシステムの確立、2) 1次医療センターとしてのジョージ・クリニックの整備強化、3) UHCの強化(X線撮影装置の導入等)により2次医療施設の確立(200万人の人口を抱えるルサカ市のなかでUHCは2次医療機関として十分に機能していないことから、UTHへ患者が転送される)を到達目標として設定し、さらに5年間程協力期間を延長することが望ましいと考える。
 その際、地元のNGO及び国際NGOとの協力・協調、ザンビア国内で行われている我が国のODAによる保健医療のみならず他のプロジェクトとの協力・協調が必要であり、且つ、プロジェクトの効果を高めるために有効であると言える。これは、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)そのものが、本来、包括的なアプローチであり、教育、農村開発、社会開発、地域開発、経済開発、貧困対策、ジェンダー、人権等をその戦略の中に含んでいるからである。現在行われている開発調査のうちルサカ市未計画居住区住環境改善計画事前調査(都市環境・生活関連インフラ)、ルサカ市未計画居住区環境改善計画事前調査(社会配慮)が実施に移される時点で、本プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)プロジェクトとの密接な協力関係を持つ必要があろう。

5.2.3 教育分野

 ザンビアへの今後の援助を考えるにあたっては、ザンビアの教育に関する十分な理解が不可欠である。教育は裾野の広い分野であり、それはさまざまな角度から理解される必要があろう。ここでは、今回の現地調査をもとに、現在ザンビアの教育が抱えるさまざまな問題点をはじめに指摘し、それらを踏まえた上で、今後の援助課題について検討する。

(1) 構造調整後のザンビアにおける教育

 1991年のチルバ政権誕生とともに、政府は世銀・IMFの構造調整を受け入れ、経済自由化など構造調整プログラムを開始した。構造調整下では当然、公務員削減も進んだが、教員は対象外であった。政府支出削減、教育予算削減は1980年代からすでに始まっており、構造調整のみにより急激に教育予算が削減されたというわけでもない。
 1990年のジョムティエン会議により、基礎教育重視の方針はさらに強まった。1992年には「Focus on Learning」という政策文書が教育省から出され、基礎教育における「学習」の重要性が強調された。すなわち、教育において重要なのは単に学校へ通っているという「就学」ではなく、そこで何を学ぶか(学習)が重要であるとの認識である。そして、1996年には「Educating our Future」という政策文書が出され、さらに基礎教育重視の方針が確認された。そこでは、2005年までに初級・中級基礎教育(1-7年)を完全普及させ、2015年までに上級基礎教育(8-9年)を完全普及させ、高等学校の就学率は50%にすることが目標に掲げられている。また、「Educating our Future」では、教育の自由化、地方分権化、コストシェアリング(受益者負担)といった、構造調整的方針も明確に打ち出されている。
 そして現在、教育セクターは、「セクター・プログラム」のもとで教育政策が実施されつつある。「セクター・プログラム」とは、それぞれの援助機関が個々に行っていた援助を分野ごとに束ねて、被援助国が主体的に立案したセクター開発計画の下でドナー間で援助を調整し、効率的な且つ効果的な開発を行うことが主目的である。セクター・プログラムの特徴は次の5つである:(1)セクター全体への働きかけである(プロジェクトではなくプログラム)、(2)オーナーシップ(当事者意識)、パートナーシップが重視される、(3)援助手続きの共通化を視野に入れる、(4)コモン・バスケットを視野に入れる、(5)キャパシティー・ビルディング(途上国側の行政能力の向上)を重視する。ただし、セクター・プログラムには、複数セクターにまたがる問題(例えば「貧困」など)への対応が難しくなるという問題点があることには注意しておく必要がある。
 ザンビアにおける教育セクター・プログラムは、世銀のイニシャティブのもとで1995年に作成された。当初は、教育関連4省(教育省、科学技術職業訓練省、社会開発省、青少年・スポーツ省)を対象に作成されたが、4省間の調整手続きが難航し、1997年には基礎教育部門(BESSIP)と職業訓練部門(ESIPTS)に分割され、特に基礎教育部門に高い優先順位がおかれた。
 BESSIPは、ザンビアの教育政策(Educating our Future)にそって策定されたもので、基礎教育を支援するすべての援助機関が資金を提供しあう「コモン・バスケット方式」であり、基礎教育に関するすべての援助はBESSIPの政策を考慮しなければならないとされている。BESSIPに関わるドナーは、フィンランド、オランダ、アイルランド、スウエーデン、英国、ノルウェー、EU、アメリカ、デンマーク、カナダ、UNICEF、OPEC、UNDP、IDAなど。BESSIPにおける取り組みは次のようになっている:(1)教育行政における制度能力の構築、(2)学校施設建設・改修、(3)教員研修、(4)教科書の配布、(5)学校保健衛生の改善、(6)教育格差解消。

(2) ザンビアの教育が抱える問題点

 従来、ザンビアの教育制度は、初等教育7年(義務教育)、中等教育5年(前期2年、後期3年)であったが、現在は義務教育を9年に延長し、基礎教育9年(義務教育、Basic School [小中学校] とよばれる)、中等教育3年という制度になっている。ただ、現在はまだ移行期であり、7年制の小学校と5年制の中等学校、9年制の小中学校が混在している。ちなみに、ザンビアの初等教育就学率(1997年)は87.8%(男90.6%、女84.9%)。中等教育就学率(1996年)は28.8%(男35.1%、女22.2%)とされている。では、ザンビアの教育現場は実際にどのような問題を抱えているのだろうか。現地調査で実施した学校訪問等から以下のような問題点が指摘できる。

1) 施設不足

 小学校入学は7歳からということになっているが7歳未満でも入学しているようである。小学校では7年生終了時に卒業試験があり、これに合格した者が中等学校に進学する。義務教育が9年ということになっているのに7年生修了時に試験で振り落とすのはおかしいと思われるが、現在は中学校の絶対数が不足しており、小中学校が普及するまでは止むを得ない措置だという。ただし、合格しても中学校不足のため入学待ちになることもある。

2) 教員の不足

 教員資格には、「小学校教諭」「中学校(8・9学年)教諭」「高校(10-12学年)教諭」の3種類があり、高校教諭になるためには大卒資格が必要である。ただ、現場では無資格教員が非常に多い。これは、有資格教員が不足しているためでもあるが、地方へは行きたがらない教員が多いことにもよる。都市部では教員が過剰であり、農村では著しく不足しているというのが現状である。その理由は、「都市のほうが住宅を見つけやすい」、「女子教員は都市部で働く男性と結婚する場合が多い」、「都市部のほうが社会サービス(交通、医療、水、電気、銀行など)が充実している」等である。農村部では8割以上の教員が無資格である学校もあるし、校長自身も無資格であることもある。  都市部の中でも、ルサカ市内と市周辺では大きな格差がある。一般的に市内では教員住宅があるが、市周辺部では教員住宅が不足しているし、住宅を借りたくても、給与が低くて借りられない(住宅費補助はない)。また、ルサカ市内から通うには時間がかかる上に、交通費が出ない。さらには、通勤で疲れてしまい、授業意欲が喪失される等の点が指摘されている。これらの理由により、ルサカ市周辺部にすら赴任したがらない教員も多い。

 一般的に言って、教員給与水準は低く、小学校の教員はだいたい月に15万~20万クワチャである。(税引後の手取りでは12万~17万クワチャ程である。)また、幽霊教員(実際にはいないにもかかわらず、いることになっている教員)も多い。公式統計の1割から2割が幽霊教員とも言われている。

3) 授業のシフト制

 都市部の過密校では、最高で4部制という学校もある。小学校の低学年は朝6時45分から授業が始まり、午後4時ごろまで4部制で授業をしている。

4) 直接費用の負担

 授業料は無料であるが、文房具代、制服代、PTA会費などを親は払わねばならない。文房具代は各児童の負担となっている。制服代、PTA会費は下表のように地域差、学校差がある。

  PTA会費 制 服
A小中学校 1年生から7年生は年3万クワチャ
8年生と9年生は年4万クワチャ
3万5千クワチャ程度
(靴や靴下なども含めると15万クワチャにもなる)
B中学校 年5万5千クワチャ 2万から3万クワチャ
C小中学校 1年生から7年生は年2万クワチャ
8年生と9年生は年3万クワチャ
3万クワチャ程度


 なぜ制服が必要かについては、貧富の差が顕在化しないため、通学時に事故があった際、どの学校の生徒かすぐわかるようにするため、学校に対する帰属意識を高める等の理由が挙げられている。制服のほかにも靴や靴下が必要であり、これらの費用負担は小学校に入学する子供を抱えた親の悩みの種である。(しかも、初等教育そのものは雇用獲得とほとんど関係ないという厳しい現状がある)

5) 教育機関による財源の確保

 学校の運営には様々な費用がかかる。教員給与は政府予算から支出されるが、良質な教員を確保し、教員のインセンティブを高めるには政府からの教員給与に学校が上乗せをしなければいけない。また、教員の通勤のための交通費は政府からは支給されず、盗難防止のため管理人を雇う必要があるが、政府からは多少の補助があるだけである。盗難にあった時には、学校が責任を取らねばならない。校舎の老朽化が進めば補修も必要であり、電気代等の光熱費も政府からは補助されない。
 これらの支出に対応するために、PTA会費等を集めていることは既に述べたが、財源はそれだけでは十分でなく、学校は「維持費」「スポーツ基金」などの名目でさらにお金を集めたり、APU(Academic Production Unit)クラスを設け、授業料を徴収したりしている。

6) 貧困と児童労働

 貧しい家庭では子供を学校へ行かせるだけでも経済的な負担が大きい。子供は、帰宅すると家事の手伝いや子守り、農作業の手伝いをしなければならない。また、電気のない家庭も多い。このような理由により、家庭での学習時間は非常に少ないことが一般的である(ほとんどないと考えていい)。最近実施された学力調査(小学校4年生を対象:英語、数学、現地語)では、どの教科も7割~8割の生徒が合格点に達していない現実から、「真の問題は初等教育にあり」といもいわれている。

7) 保健と教育

 子供の栄養状態の悪さも教育に悪影響を与えている。授業に集中する体力、試験を受ける体力のない子供もいるという。ザンビアでは、教育水準が比較的高いにもかかわらず、健康に関する指標は悪い。例えば、平均余命は42.7年と他のアフリカ諸国に比べて短いが、これはエイズの影響が大きいといわれている。また、家庭における子供の数も多い。その理由の一つには、「保健医療が悪いので、子供がかなり死亡する。たくさん子供を産んでおかないと、老後の保障がない」、という現実がある。ザンビアでは、社会保障制度は極めて脆弱なことから、老後の保障を得るためには男の子が2人は必要となるが、子供の半分は死亡すると考えると、8人産まねばならないという。


(3) 今後の課題

 今回の評価調査の結果より、今後の我が国の対ザンビア援助の展望を以下に考察する。

1) 基礎教育セクター投資計画(BESSIP)の現状

 現在、BESSIPにおいてイニシャティブをとっているのは世銀とイギリスである(北欧諸国も比較的発言力が強いといわれている)。BESSIPは教育省の行政能力を強化・拡充し、コモン・バスケットを実行することが最終的な目標ではあるが、現在のところ、コモン・バスケットに積極的(好意的)なのは、ノルウェーやオランダなどの北欧諸国のみである。イギリスやアイルランドなどは、当初は好意的であったが、教育省の能力不足を理由に現在はやや消極的であるし、アメリカはもっと消極的である。世銀、UNICEFなども消極的である。ただ、これは逆にいうと「イギリスや世銀ですらコモン・バスケットに躊躇するほど教育省の能力に問題がある」ということになる。コモン・バスケットは健全な行政組織を前提とする。よって、教育分野では、今しばらくはコモン・バスケットは実現しないものと考えられる。

2) 教育援助の今後の課題

 教育援助においても、「ハードからソフトへ」「ソフトとハードの連携」と言われて久しいが、現状では学校建設が急務であることには疑いはない。学齢人口はどんどん増加し、学校数が不足することは大きな問題である。中学校不足のため、能力はありながらも中学校で勉強できない子供も多い。しかし、中長期的には何らかの形でソフト分野での支援を行う必要があるというのも、関係者の間では一致した見解であると考える。
 我が国の援助は、必ずしも学校建設だけを実施してきたわけではない。理数科分野への青年海外協力隊派遣という形でソフト面への支援もかなり長期にわたって実施されており、これまでに派遣された隊員は延べ120名以上に上っている。また、最近では教育省に短期専門家が2名派遣され、今後、我が国がソフト面への支援を行っていこうという姿勢がうかがえる。現在、サブ・サハラ・アフリカではソフト分野での協力として、教員訓練(ケニア、ガーナ、南アフリカ)と教育情報整備(タンザニアでの開発調査)等が実施されているが、ザンビアにおける今後の支援可能性として、以下の5点を指摘して結論としたい。

a. 教育省のキャパシティー・ビルディングのための長期専門家派遣
 最大の問題は人材不足である。就学率(教育省統計と中央統計局統計では20ポイントもの差が見られたという)の把握、幽霊教員の実態の把握、学校配置計画作成等、教育計画の策定にはデータの収集、分析は不可欠であることから、教育省及び中央統計局における統計情報整備・教育計画能力構築が望まれる。また、ザンビアでは、技術移転が成されてもカウンターパートの異動、辞職、死亡したりするので、カウンターパートが交代してもすぐにそれを引き継げるような、わかりやすいシステム作りが必要である。

b. 教員住宅の建設
 これは、教育省の教育施設配置計画能力の構築とセットで実施されるべきであろう。また、教員住宅建設が教育の質にどのように影響するかという点も分析される必要がある。

c. 後期中等教育への協力
 BESSIP優先という風潮の中で、忘れられている領域である。我が国は、中等理数科への協力経験を有し、後期中等レベルへの多数の協力隊派遣実績があること等からも、協力隊の組織化など、協力の可能性は高いと思料される。

d. 保健教育
 学校を拠点に地域社会に公衆衛生を普及させる。男女別トイレ建設、学校の給水施設整備等も有効であるといわれている。これもソフトとの連携が重要となる。

e. 草の根無償
 実施の即時性が比較的高く、NGO、地方公共団体等の要請に対応できることから、有効な援助になると考えられる。


5.2.4 基礎インフラ分野 (1) 現状

1) 交通分野

 ザンビアの交通部門を分析するにあたって最初に考慮すべき事項は、ザンビアが南部アフリカ地域でどのような位置づけとなっているかという点であろう。始めにこの点について論じたい。1章で述べたように、内陸国であるザンビアにとって、輸送路の確保、とりわけ港へのアクセスは死活問題である。地理的に分析するならば、ザンビアにとって重要な港は、タンザニアのダルエスサラーム港、南アフリカのダーバン港とイースト・ロンドン港、モザンビークのマプト港、ベイラ港、ナカラ港、ナミビアのワルビスベイ港、アンゴラのロビト港、といった所である。しかし、政治的な問題があるためアンゴラのロビト港やナミビアのワルビスベイ港は殆ど使用されていないし、内戦を経験しインフラが破壊されいるモザンビークの3港へのアクセスも困難な状況にある。こうした点を加味すると、ザンビアにとって当座重要な港は、南アフリカのダーバン港とイースト・ロンドン港、タンザニアのダルエスサラーム港、の3港となろう。

 上記の港へのアクセスを踏まえつつ、ザンビア国内の重点交通網を分析するならば、ルサカからカプリ・ムポシを経由してタンザニアへ続くタンザン路線、カプリ・ムポシから銅鉱州への路線、ルサカからリビングストンを経て南アフリカへ続く路線になる。世銀が、道路セクター投資プログラムを発表し、そこに1997-2000年までの重点計画を記載しているが、同プログラムにおいてもこれらの路線の補修が重点プログラムとして取り上げられている。我が国としても、これらの路線を重点的に支援していくのが適切かと思われる。

 しかし、こうした産業育成の視点からのみ交通網を考察するのは片手落ちであろう。交通網、とりわけ生活道路は貧困層のBHNとして論じられることが多い。都市部へおいて道路は市場へのアクセスのため重要であるし、農村部においては保健施設や学校施設へのアクセスのため重要になってくる。殆どのドナーが、貧困削減をザンビアへの援助の第一義目的として捉えていることからも、斯かる視点を考慮せずにはいられないだろう。従って、我が国の今後の支援を考慮する場合でも、産業育成を目的とした支援と貧困削減を目的とした支援のバランスを考慮しつつプロジェクトを選択していくこととなろう。

2) 水供給分野

 当初、水供給プロジェクトはベーシック・ヒューマン・ニーズとしての水供給を行うといった趣旨で展開されていったものと思われる。しかし、現在は、実に多くの側面が水供給プロジェクトと関連づけて語られるようになっている。同時に、水供給プロジェクトの評価も、1日あたり20-30リットルの安全な水へアクセスが可能となることという当初目的を基準とした評価に留まらず、多面的な側面から論じられるようになっている。
 ザンビア政府は「Water, Sanitation and Health Education; WASHE」を展開しており、この活動では、給水・衛生事業における基本理念・制度上の枠組みが規定されている。この活動の基礎となったものは、80年代から実施されてきたノルウェーのプロジェクトであり、村落住民による維持管理能力の開発、衛生教育プログラムが導入された。現在のWASHE活動では、村落レベルから、中央政府まで階層毎に役割分担が行われている。
 エネルギー・水資源開発省(Ministry of Energy and Water Development)、Community Management and Monitoring Unit等の関連機関の行政能力は高い評価を受けている。これは、水供給プロジェクトへ、多くのドナーが参加していること(アイルランド、オランダ、ノルウェー、ドイツ、アメリカ、ユニセフ、等が実績を有する)、開発資金の多くをドナーの援助で賄えることから裏付けられている。
 ドナーが水関連プロジェクトを好む背景には、多くの副次的効果が期待される点があろう。安全な水へのアクセスが改善されることにより、水関連の病気の疾病患者数の減少が見込まれるし、同時に保健衛生教育の普及が期待される。また、女性や子供の水汲労働が軽減され、労働面や学習面での効果も期待される。さらに、水洗い場での井戸端会議を通じて情報交換が行われ、コミュニティーの結びつきが強くなることが期待される。このように、水供給プロジェクトは、実に多くに副次的効果が期待されるプロジェクトと判断されている。


(2) 今後の課題

1) 交通分野

財政ひっ迫しており、交通分野の開発戦略が不透明である。(ザンビア側の問題)
ガソリン税等で道路・橋梁等の維持管理費用を捻出するのが難しい。(ザンビア側の問題)


2) 水供給分野

水供給分野においては、参加型開発が基本となるが、こうした開発支援を実施できる人材が不足している。
他のドナーは、NGOを活用することによりプロジェクトを推進しているが、我が国もNGOを利用できる機会を一層拡大すべきである。
絶対貧困層に所属する住民にとって、ボランティアでの話し合いへの参加は困難と思料される。


(3) 今後の支援

1) 交通分野

 道路分野では上流部(政策策定機関)と川下部(実施機関)を分離し事業が展開されている。こうしたシステムの導入は、合理的な案件選択、資金利用の透明化、といった事項に一定の成果をおさめている。しかし一方で、「資金的な裏付けをもった計画策定を行えないため計画が実効性を伴わない恐れがあり、行政官の活力がそがれ、実際のところキャパシティー・ビルディングが実現しているのか疑問である」といった意見もある。ある程度のファイナンスの裏付けをもった計画策定が行えるよう、ドナーから利用可能な資金額を明示していくことが必要となろう。
 ザンビアでは民営化プログラムが推進中である。道路分野もその例外ではない。民営化の推進自体は必要な措置であるが、今後は民間ベースで採算にあわないプロジェクトをどのように取り扱っていくかも重要となってくる。また、ザンビアでは、貧困削減が第一義的な援助目的となっているため、案件選択においても、貧困削減のために強い必要性は認められるものの、民間ベースでは採算にあわないプロジェクトを支援していくことが適当であろう。おそらく、農村道路などは、こうした位置づけとなろう。ザンビア政府が発表しているNational Poverty Reduction Action Plan(2000-2004)によれば、2001年度の農村道路の確定金額は50.74%に留まっており、農業生産分野 90.13% などに比較して低い。

2) 水供給分野

 水供給プロジェクトの計画担当者に聴き取り調査を行うと、「地下水が比較的豊富であるため、ザンビアにおいて利用可能な水を得ることはそれ程難しい作業ではない」との意見をしばしば耳にする。一方、「住民参加の参加を募り、コンセンサスを形成し、プロジェクトを展開していくことは容易な作業ではない」と述べる人が多い。先に述べたよう、プロジェクトの持続性を勘案するならば、水供給プロジェクトは参加型開発で行うことが原則となるが、これは容易な作業ではないようである。実際、我が国が過去実施したプロジェクトでも、こうした分野はCAREやイギリスに負う部分が大きかったと言われる。今後、我が国としてもこうした分野を担当出来る人材を育成することが重要となろう。
 とはいっても、信頼構築からはじめて何年にも渡って現場に張り付くこと等は実際問題として不可能であることから、実質的な作業は現地のNGO等にまかせ、オーガナイザーとして活躍出来る人材を育成することが現実的な策であると思われる。
 近所で安全な水が利用できるようになれば誰でも喜ぶ。実際現場に行ってみると、貧困層から御礼を述べられることも少なくない、やりがいのあるプロジェクトであることは疑いのない事実であろう。しかし欲をいうならば、水供給プロジェクトを糸口として、その他の関連プロジェクトへと如何に結びつけていくかが求められているのではないだろうか。従って、水供給プロジェクトは決して易しいプロジェクトではなく、多くの改善の余地があるのかも知れない。

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