第5章 今後の協力の改善に向けた提言
5-1 WID的視点の評価から導き出された提言
第4章で、グアテマラ及びホンジュラスにおける取り組みをケーススタディとして、WIDイニシアティブのこれまでの取り組みについて、WID的及びジェンダー主流化の2つの視点から分析し、成果・課題を抽出した。本章では、その結果に基づき、提言を導き出した。ただし、以下に示す提言は、この2カ国を対象とした調査に基づき導き出されたものであることをお断りする。
5-1-1 政策の策定プロセスに対する提言
提言1:今後、WIDイニシアティブを見直す際や他の重点課題政策を策定する過程で、有識者と実施機関の知見を活用する。 |
今回、調査した限りでは、WIDイニシアティブの策定過程で、有識者や、当時、WID/ジェンダー分野の取り組みで先行していたJICAとJBICにアドバイスを求めたことは保存されている資料では必ずしも確認できなかった。仮にそのようなアドバイスを求めてこなかったことが事実である場合には今後、WIDイニシアティブを見直す際や、重点課題政策を策定する際には、この分野を専門とする有識者や、実施機関の知見を活用するプロセスを確保することで、この分野の動向や実施機関のそれまでの取り組み状況の蓄積をより反映したものを立案することができる。
5-1-2 政策の実施プロセスに対する提言
提言2:実施機関との連携を強化し、WID/ジェンダー案件とWIDイニシアティブとの関連を明確化し実施するために、WID担当官制度の一層の活用・発展を図ることを検討する。
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在外公館・省内に共通した提言
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WID担当官の機能の明確化
1995年までに、本省と在外公館にWID担当官が配置されたが、機能が不明確なまま、その後の担当官の交代等により形骸化している。WID担当官の機能を明確化のうえで、各担当官に再度認識を高めてもらうためにも改めて指名することが望まれる。
WID担当官の機能は、省内外にWID/ジェンダー分野への取り組みの重要性を認識させ、WID/ジェンダー案件の形成につなげていくことにあるべきである。具体的には、WID/ジェンダー分野への取り組みを、被援助国政府との政策協議の議題として可能な限り取り上げるよう努める、被援助国のWID/ジェンダー分野への取り組みに関する実施機関との協議を実施する、などがその役割となろう。その一助として、本省から大使館に対し、案件形成等に関して実施機関現地事務所との協議を実施するよう、実施機関側でも本部から現地事務所に対して、大使館と十分に協議するよう、それぞれ指示することもその促進に役立つだろう。
政策協議の場で、WID/ジェンダーが議題に挙がれば、当該国のニーズや社会・文化的な配慮について政府レベルで協議することが可能となり、現地での案件形成や情報収集への取り組みがより促進されると思われる。また、実施機関との協議を通じ、実施機関については、政策を受けた案件レベルでの取り組みを促進することが容易となろう。そのためには、WID 担当官制度を活用して、WIDイニシアティブを主管する課だけでなく関係各課及び在外公館に対し、WIDイニシアティブの周知を今後も継続して努めることが求められよう。
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2) |
WID/ジェンダー研修の実施
外務省では一定期間ごとに職員が異動する。現状ではこの異動により、担当官のWID/ジェンダーに関する認識が変わる可能性が指摘された。担当官のWID/ジェンダーに関する認識により、WID/ジェンダー分野への取り組み方やその度合いが左右されることを防ぐため、WID担当官にWID/ジェンダー研修を実施し、WID/ジェンダー分野の取り組みが十分行われるようにすることが望まれる。
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外務省内
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WID/ジェンダーの取り組みに関する勉強会の実施
WID担当官を中心にWID/ジェンダーに関する国際的な潮流や他ドナーの動向、我が国のこの分野の支援のあり方について勉強会を実施することが望まれる。勉強会の場でWID/ジェンダーについての認識を深め、WIDイニシアティブに継続して取り組むことを再確認することができれば、政策レベルでODAの全サイクル(計画・立案、実施、評価)でWID/ジェンダーの取り組みが促進される。JICA、JBICも勉強会に交えることで、連携が強化される。
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2) |
WID案件の定義の再検討
案件形成時にはWID案件としての位置付けが明確ではない例が見受けられたことから、案件形成時からWID/ジェンダー配慮事項について記載することが望ましい。WIDイニシアティブは、わが国のWID/ジェンダー分野への取り組みの意思表示であることから、上記配慮事項はWIDイニシアティブの内容との整合性を取ることにより、当該案件はWIDイニシアティブに基づく案件となる。これにより、実施過程でのWID/ジェンダーへの配慮が促進されると思われる。ただし、男女格差の是正を達成するためには、女性のみをターゲットとするだけでは限界があることは既に指摘されているところであり、また、WID/ジェンダー分野支援の国際的な潮流はジェンダー主流化にある。したがって、本配慮事項は、女性の参加及び裨益が確保されているという観点のみならず、男性も対象とし、開発のすべての分野、計画・実施・評価のサイクルにおいてジェンダーの視点が入っているか否かを記載することが望まれる。
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在外公館
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WID/ジェンダー広域担当官の配置
上述の通りWID担当官を活性化することが望ましいが、一方で人員確保にも限りがあるため、各地域の中心となる公館にWID/ジェンダー広域担当官を配置し、適宜、域内国を巡回し、被援助国政府との協議やドナー会合等に出席することで、日本のWID/ジェンダーの取り組みをより積極的に対外発信すべきである。
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提言3:他ドナーとの意見交換を積極的に行うことが望ましい。
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グアテマラ、ホンジュラス両国においては、ジェンダーに関する常設のドナー会合は存在しないが、援助の重複の有無、援助協調の可能性を探る意味からも他ドナーとの積極的な意見交換を行うことが望ましい。また、提言2で言及したWID/ジェンダー広域担当官を配置し、域内国における動向をフォローし、適宜各国担当官にフィードバックする体制を確立することも一案と考える。
5-2 ジェンダー主流化の視点による評価から導き出された提言
第2章で概観したとおりジェンダー主流化アプローチが、国際的な潮流となっている。WIDイニシアティブにあるように「女性の地位の強化(empowerment)と男女格差の是正(gender equality)」を達成するためには、ジェンダー主流化が重要となっている。以下は、ジェンダー主流化を推進するための提言である。
提言1:WIDアプローチからジェンダー主流化に発展している国際的状況を反映して、ジェンダー主流化の視点を強化したWIDイニシアティブに改訂し、名称もたとえば、GAD(Gender and Development)イニシアティブとすることが望ましい。 |
WIDイニシアティブを日本政府が発表したのは1995年でありそれ以降、国連、ODA先進国では、「開発のすべてのセクター、すべてのプロセス、すべてのプログラムにおいてジェンダー平等の視点を統合し、すべての開発課題において男女双方が意思決定過程に参加できるようにする」というジェンダー主流化アプローチが主流になってきている。 また、男女格差の是正を達成するためには、女性のみをターゲットとするだけでは限界があることは既に指摘されているところである。上記の変化に対応して、ジェンダー主流化の視点を強化したイニシアティブに改訂し、名称も例えばGAD(Gender and Development)イニシアティブと改称することが望まれる。
提言2:被援助国政府の関係機関との連携を図り、ジェンダーに配慮した優良案件を発掘、実施する。
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今回の調査によれば、グアテマラ及びホンジュラス両国において、日本は当該国のナショナル・マシーナリーと協議を行ってはいなかった。当該国の社会・文化的条件に配慮し、またニーズに合致した支援を行ううえでも、当該国において女性の地位向上のための取り組みにおいて中心的な役割を果たすことが期待されているナショナル・マシーナリーとの連携が望まれる。ただし、ナショナル・マシーナリーは予算や人材の不足等により弱体であることが多く、連携にあたってはC/Pとしての能力を十分考慮する必要があろう。他ドナーは、ナショナル・マシーナリーの組織能力向上のための支援を行っているが、第3章で概観したとおり、政策や法律は整備されても、十分に施行されている状況とはいえず、日本の支援のように案件レベルでの支援もまた重要であるため、当該国のナショナル・マシーナリーを中心に、政府関係機関と連携して、ジェンダーに配慮した優良案件を発掘・実施することが望まれよう。