資料1. 日本のWIDイニシアティブ
1995年9月
外務省
<基本的な考え方>
世界の人口の約半分は女性が占めており、均衡のとれた持続的な経済・社会開発を実現すためには、女性が男性と同じように経済・社会開発に参加し、同時にそこから受益することが可能でなくてはならない。
開発における男女の平等な参加・受益に向けて努力することは、一義的にはその国自身の課題である。しかし、先進国は、開発における女性の参加・受益にも配慮した開発援助を実施することを通じて、開発途上国の努力を支援することができる。このようなWIDに配慮した開発援助は、均衡のとれた持続的な開発に貢献し、開発途上国の女性の地位の強化(empowerment)や男女格差の解消(gender equality)を促進することになる。
日本は、「政府開発援助大綱」において、援助の効果的実施のための方策の一つとして、「開発への女性の積極的参加および開発からの女性の受益の確保について充分に配慮する」と明記している。この基本方針を踏まえ、日本は、国際人口開発会議や社会開発サミットの成果を取り込みつつ、女性を主たる裨益対象とした案件を実施していくとともに、個々の援助案件について、その形成、実施、評価といったすべての段階において、女性の参加・受益に配慮するため、さらなる努力を行う。その際、他の援助国、国際機関、NGOとの協力に意を用いる。また、この分野において、NGOを含めて援助側の人材育成にも努力する。
<3つの重点分野>
日本は、開発援助の実施に当たって、就学、就業、出産、経済・社会活動といった女性の一生のすべての段階を通じて、女性の地位の強化(empowerment)と男女格差の是正(gender equality)に配慮する。特に、日本は、教育、健康、経済・社会活動への参加という3つの分野を重視する。それぞれの分野は相互に密接に関連しており、こうした相互作用に留意しつつ、包括的な取り組みを進めていく。
1. 教育
教育を通じて人造りを進めることは、国の経済・社会開発を進める上で不可欠の要素であり、個々人が経済・社会活動に参加する際の前提ともなる。
特に、初等教育における男女間の格差は、その国の経済・社会生活に大きな影響を与える。女性にも教育を受ける機会を充分に保障し、教育における男女格差を是正することが重要である。なお、その際、就学率を向上させるだけでなく、中途退学を減らす努力を行うことも重要である。
2. 健康
心身共に健康であることは、経済・社会活動の参加に不可欠であり、男女を問わず、最低限の医療・保健・衛生・栄養の水準を確保することは、開発の前提条件である。ただし、女性は、男性と異なり、妊娠や出産によって健康や生命が危険に曝されやすく、医療・保健・衛生・栄養の面で、開発援助を行うに当たっては、これらの女性に特有な問題にも配慮する必要がある。
また、女性が専ら出産のみを期待されるような社会では、女性が妊娠・出産・育児を繰り返すことによって、開発に参加し、開発から受益することが困難になる。家族計画によって望まれない妊娠・出産を防止し、計画的な妊娠・出産・育児を可能にすることを通じて、開発途上国の女性に性と生殖に関する健康と権利(reproductive health and rights)が確保されるような条件を整えていくことが必要である。
3. 経済・社会活動への参加
女性の地位の強化(empowerment)を図るためには、女性が潜在的に有している能力を発揮して経済・社会活動に参加することを可能にし、女性の自立を側面的に支援していくことも重要である。このため、人材への需要がある分野において女性を対象とした職業訓練を行うことにより、必要な能力を開発する。同時に、女性の起業家が多い零細企業に対する融資により、活動のための資金的手段を提供することが必要である。
また、女性が水汲みなどの特定の労働に従事することが期待されている社会では、こうした労働の負担を軽減することなどによって、経済・社会活動への女性の参加を可能にするための時間的・精神的・肉体的余裕を創り出す必要がある。
さらに、女性が経済・社会活動に参加しやすくするため、男女平等(gender equality)に関する国民の意識を向上させ、法律・制度などを改革していく開発途上国の努力を支援することも必要である。
<日本のこれからの協力>
開発途上国の政府および国民一般の意識の向上なくしては、WIDに配慮した援助もその効果を発揮しない。日本は、開発途上国との間のあらゆる対話の場を通じ、このような意識の向上を図るとともに、開発途上国の理解の下、次のような協力を強力に推進することとする。
1. 教育
日本は、教育の分野において、開発途上国および他の援助国と協力しつつ、2005年までに、開発途上国における6歳から11歳までの男女格差をなくすことを目指す努力を支援する。また、同様にして、2010年までに、開発途上国の6歳から11歳までの女子のほぼ全員が男子と同様に学校教育を受けられるようにすることを目指す努力を支援する。
このため、日本は、次のような協力を行う。
- 個々の社会の実状に合った女子教育の教科書・教材の作成・普及
- 教員の養成
- 女子が利用できる教育・訓練のための施設・設備の整備
- 成人女性の識字教育の促進
- その他の女子の初等教育の普及に資する協力
2. 健康
日本は、健康の分野において、開発途上国および他の援助国と協力しつつ、すべての国・地域で、2010年までに、妊産婦死亡率(出生10万人あたりの妊産婦の死亡数)を200以下に下げることを目指す努力を支援する。また、出産に対する圧力を軽減するという観点から、2015年までに、乳児死亡率(出生1000人あたりの1歳未満の子供の死亡数)を35以下に下げることを目指す努力を支援する。
このため、日本は、次のような協力を行う。
- 基礎保健医療体制の整備・強化
- 基礎衛生栄養教育の促進
- 母子保健サービスの強化 (例:乳幼児の健康診断・予防接種・栄養相談)
- 家族計画の普及
- 医療・保健・衛生・栄養・人口に関する基礎データの整備能力の向上
- その他の女性の健康に資する協力
3. 経済・社会活動への参加
日本は、経済・社会活動への女性の参加を支援するため、女性のための適正技術の研修・訓練の場の提供、女性の労働環境の改善、女性問題関連の法律・制度の整備のための協力を行う。
また、経済活動への女性の参加を促進する上で、女性の起業家が多い零細企業の育成を支援していくことが有益である。日本は、既にこの分野において、女性経営者向けの優遇措置を有するインド・小企業育成計画に対する円借款供与の実績があり、先般、バングラデッシュ・グラミン銀行に対する円借款供与を決定した。今後も、他の開発途上国において、このような女性に対する支援制度の導入を支援し、制度が導入された場合には、資金協力等、積極的な支援を行う。こうした零細企業の育成支援について、具体的には次のような協力を行う。
- 零細企業への金融支援を行う組織・制度の導入・整備のための助言・協力
- 個々の女性を零細企業や社会団体に組織化するための助言や指導
(例)機材供与や貸付の対象となりうる同業組合の設立
- 女性が従事する零細企業の育成や、その他の経済・社会活動への女性の参加に資する機材供与
(例)縫製業支援のためのミシンの供与
- 女性が従事する零細企業に対する支援制度への資金協力
4. 日本の努力目標
日本のWID分野の援助は、93年度には既に年間約6億ドルに達しており、また、94年度にはこれを大きく上回る見込みである。今後とも、開発途上国および他の援助国と協力しつつ、上記の目標を達成するため、3つの重点分野における協力を中心として、WID分野の開発援助の拡充に努力する。