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第1章 要約

 

1.1 調査の目的と方法

 「NGO・外務省相互学習と共同評価」は、NGO関係者とODA関係者が、共同で双方の援助活動を評価することを通じ、互いの援助活動につき学習するとともに、各々の事業形成や援助方針等にフィードバックしつつ、今後の協力・連携の方向性を導き出すことを目的として実施されている。今回の共同評価においては、ベトナムにおいて実施されている開発福祉支援事業2件を評価することにより、開発福祉支援事業や双方にとっての協力・連携の具体的なあり方等について提言を得ることが、主たる目的である。
 開発福祉支援事業は、現地で活動しているNGOをODAのパートナーとし、草の根レベルの住民に直接裨益するような事業を、住民の参加を得て実施していくことを目指しているものである。さらに資機材や施設の供与よりも技能の訓練や組織化の支援に重点を置いている。事業の対象分野は、(1) コミュニティー開発、(2) 高齢者、障害者、児童福祉、(3) 保健衛生、(4) 女性自立支援、(5) 生活環境整備、(6) 人材育成、(7) 地場産業振興の7分野である。
 評価は、各案件について、プロジェクト・レベルでの評価と、援助プログラムである開発福祉支援事業としての評価を実施した。評価項目は、プロジェクト・レベルでは、「プロジェクト目標の達成度・効果」「プロジェクト効果や活動の持続性」の2項目を、プログラム・レベルでは、「開発福祉支援事業としての妥当性」「開発福祉支援事業によるインパクト」「開発福祉支援事業の運営管理」の3項目を検討した。評価は、現地JICA事務所、大使館の担当者、現地政府行政官、実施NGO、受益者など関係者からの聞き取りと現地視察によって行なった。

1.2 ケーススタディー対象プロジェクト

 開発福祉支援事業のスタディケースとしてベトナムにおける、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)が実施する「子どもの栄養改善事業」、ベトナムの子どもの家を支える会(JASS)が実施する「フエ市児童福祉総合支援プロジェクト」を選定した。

(1) 子どもの栄養改善事業

(目的) プロジェクト対象地域での3歳以下の子どもと妊産婦の栄養状態改善状況を数値化できる指標を用いて持続的に向上させる。
(活動内容) (イ)幼児検診と栄養改善教育(ロ)妊産婦検診(ハ)家庭菜園の普及(ニ)小規模回転資金の貸付


(2) フエ市児童福祉総合支援プロジェクト

(目的) フエ市における障害児のリハビリを行うと共にストリートチルドレン等の児童の福祉を促進する。
(活動内容) (イ)病気の子ども及び障害児の手術・リハビリによる治療(ロ)児童文化センターの充実による音楽、図書、日本語、英語、絵画等の児童文化の普及向上(ハ)子どもの自立を目指した上級職業訓練センターの建築及び研修の実施


1.3 評価結果の概要

 開発福祉支援事業においては、「住民への直接裨益」「住民参加」「ソフト支援」に重点が置かれているが、今回視察を行った2つのプロジェクトについては、双方共に草の根レベルの住民等に直接裨益している点で評価できる。

1.3.1 子どもの栄養改善プロジェクト

(1)プロジェクト目標の達成度・効果

 プロジェクトの主要目標である中・重度の低体重栄養不良児については、大幅な改善がみられた。また、急性の栄養不良についても、明確なプロジェクト効果が測定された。但し、長期的なスパンで効果が発現する軽度の低体重不良及び慢性の栄養不良については、一部の地域を除いて、まだ十分な効果が現れるには至っていない。

(2) プロジェクト効果・活動の持続性

 対象地域の村民から選ばれる「草の根保健婦(Health Volunteer)」を中心として、母親の意識改革及びそれによる行動変化を重視し、地元で手に入る食材を利用するなど、持続性、自立発展性によく留意してアプローチ方法を選択している。対象地域の人民委員会についても関係局間相互の連携が行われており、各関係者の当事者意識は高い。現地視察を行ったビンロック村では、すでに母親の行動変化が見られるなど協力効果はかなり浸透、定着しており、プロジェクト終了後も子どもの体重測定や誤った習慣の改善普及などの活動は継続されていた。今後、これらの活動が周辺地域へも徐々に波及することが期待される。

(3) 開発福祉支援事業としての妥当性

 このプロジェクトは、開発福祉支援事業の対象7分野のうち、「保健衛生」と「コミュニティー開発」に該当し、まさに開発福祉支援事業が目指している住民参加型で住民に直接裨益するプロジェクトである。最終裨益者は3歳以下の子どもであるが、そのような子どもを持った母親達が活動に直接参加しており、コミュニティーレベルで事業を進めている「草の根保健婦」も地域の母親である。さらにソフト支援という観点でも、施設や機材供与は最小限に留めてあり、地域社会での組織作りと意識改革に向けての指導などを実施しており、妥当性は非常に高いものと判断される。

(4) 開発福祉支援事業によるインパクト

 開発福祉支援により、活動地域の拡大やプログラムの規模の増大(家庭菜園事業の実施など)がもたらされ、総合的な栄養支援を組めるようになった。活動アプローチ自体の変化は特になく、開発福祉支援事業の導入がされる前と同じアプローチが取られている。

1.3.2 フエ市児童福祉総合支援プロジェクト

(1)プロジェクト目標の達成度・効果

 障害児に関しては、病気も含め障害を持った子どもに対して治療・リハビリテーションが行われ、支援対象となった子どもに直接効果が現れている。ストリートチルドレン等に関しては、具体的には、児童文化センターが建てられ子ども達に利用されていること、上級職業訓練センターが建てられたことが確認された。しかし、児童文化センターと上級職業訓練センターによる効果はまだ時を待たなくてはならない。

(2)プロジェクト効果・活動の持続性

 このプロジェクトは、実施パートナーであるフエ市人民委員会にも高く評価されており、また地元のマスメディアにもしばしば取り上げられている。人民委員会はこの活動を継続していきたいと考えているが、継続するためには資金が必要である。そこで、「子どもの家(児童文化センターもその一部)」の維持費創出のため、上級職業訓練センターで子どもに対してまずはバイク修理の職業訓練を行い、卒業生によるバイク修理による収入の一部を維持費に回すことを考えている。上級職業訓練センターは、プロジェクト活動の持続のためばかりでなく、子ども自身の自立のためでもあるが、このセンターが期待された成果を出せるかどうかについては、センターが始まったばかりの現時点では、まだ何とも言えない状況である。また病気・障害児の治療をさらに続けていくための資金目処もまだ立っていない。

(3)開発福祉支援事業としての妥当性

 このプロジェクトの活動内容は、開発福祉支援事業の対象7分野のうち「社会的弱者救済」に該当し、住民への直接裨益という点では既に記した通り成果を上げている。しかし、住民参加という観点では、プロジェクトの裨益者たる子ども達及びその家族は、プロジェクトに参加するよりむしろ客体に留まっているという印象を受けた。今後、子どもの依存心を生み出さないように配慮することや、子どもあるいは保護者などが自ら事業運営活動に参加できるような仕組みを整備することが望ましい。また、本プロジェクトは、施設の建設、機材供与などのハード面での支援が多く、人材育成、制度作りなどのソフト面でのアプローチは弱いので、今後より強化することが望まれる。

(4)開発福祉支援事業によるインパクト

 開発福祉支援事業が入ることによって、ベトナムの「子どもの家」を支える会による活動の規模が大きくなり、それ以前に出来なかった事業も手がけることができるようになった。

1.4 提言の要約

1.4.1 総合所感

(1)開発福祉支援事業の意義

 NGOが出来ること、ODAが出来ることを組み合わせて効率的・効果的に援助を行っていくために開発福祉支援事業は有効であり、また今回調査した2件とも、住民へ直接裨益しているという点で高く評価され、これはODAとNGOが連携したことにより可能となったと考えられる。具体的な成果や持続性に関する判断は、他の国の案件も含めた評価を待たねばならないだろうが、支援案件数をもう少し増大することを提案する。

(2)日本のODAの広報について

 ODAを実施するにあたっては、納税者である日本国民への報告義務があると同時に、外交上のプレゼンスを保つために、被援助国の国民へも日本のODAについて広報活動をする必要がある。現地JICA事務所、日本大使館関係者は、開発福祉支援事業を通じて日本のODAを現地の人々へアピールしたいと考えているが、どのレベルの人々へアピールする必要があるかについては調査団内で大きく二つの意見に分かれている。一つの意見では、日本のODA事業であるという事実を裨益者レベルまで知らしめる必要があるとし、他方の意見では、裨益者レベルではなく、被援助国の行政官レベルまで周知することで足りる、としている。後者の意見が出された理由は、裨益者達(または地元住民)へ日本のODA事業であるという事実をアピールすることは、地元住民の事業に対する当事者意識を薄めてしまう危険性があるからである。日本のODAであるという認識がどのレベルまで伝わるべきであるか、未だ議論の余地がある。

1.4.2 開発福祉支援事業の運営に関する提言

(1)NGO等へ対する明確なスキーム説明

 開発福祉支援事業は、現場レベルでは、草の根無償、開発パートナー事業等のスキームとの類似性が多く重なり合った部分が多く、これらの違いは分かりにくい。案件の的確な選定及び円滑適正な実施のためには、これら多様で類似面の多いスキームを統合的に把握できるような体制・仕組みを作ることが肝要と考える。まず、ホームページその他可能な手段を活用して、NGO等への各スキームについての情報提供を行うことが必要であるが、その際各事業の違いを分かりやすく示すことが必要であろう。

(2)現地ニーズの総合的把握

 また、プロジェクトを適切なスキームによって支援するためには、現地の大使館及びJICA事務所においてニーズを総合的に把握するとともに、現地と本部の役割を明確化し統括的に案件の調整、選定等を行うなど、関係者間相互の緊密な連携体制が望まれる。

(3)「住民参加」「ソフト支援」重要性

 開発福祉支援事業は、「住民に直接裨益」するような事業を、「住民の参加」を得て実施することを目指しており、さらに資機材や施設の供与よりも、社会的弱者や貧困層住民が自立していくために必要な技能の訓練や組織化のための支援などの「ソフト支援」に重点を置いている。今回見た2件とも、「住民への直接裨益」という点では、その目的を果たしている。「子どもの栄養改善プロジェクト」では、さらに子ども達の母親などが主体となって事業を進めており、また機材供与はほとんどなくトレーニングなどのソフト分野への支援に重点が置かれている。しかしながら、既に記したように、「フエ市児童福祉総合支援プロジェクト」では、裨益者である子どもたち及びその家族は援助の主体というよりも客体に留まっており、また、人材育成、制度作りなどのソフト面での支援は弱い。当スキームがさらに有効活用されるためには、「住民参加」「ソフト支援」の側面が、さらに重視されることが望まれる。

(4)報告書の提出

 プロジェクトは四半期毎に区切りよく進められているわけではないので、四半期毎の定期報告書提出義務は実施団体にとって負担となっている。また年度末には、会計年度に合わせるために、四半期毎の定期報告書と共に、終了報告書を提出することが義務付けられており、二重手間となっている。四半期毎の定期報告は会計報告と事業の進捗スケジュール対照表のみとする等、報告書提出形式の簡素化を図ることを提案する。

(5)会計報告

 開発福祉支援事業によって支援されるプロジェクトは3年間の事業として計画、実施されているが、単年度毎の決算が実施団体に事務手続き上の負担をかけている。年度末毎の決算が必要であるにしても、会計報告書提出に係る負担を軽減するなどの措置が望まれる。

1.4.3 開発福祉支援事業スキームに関する提言

(1)「住民参加」の定義について

 開発福祉支援事業が重視していることの一つに「住民参加」がある。しかしながら、「住民参加」には多くの形、様々なレベルの参加があり、開発福祉支援事業では、どのような形での住民参加を目指しているのかを明確にすることが必要であると考える。また、開発福祉支援事業ばかりでなく、開発援助一般においても、「住民参加」のカテゴリー付けが必要であろう。

(2)技術協力としての開発福祉支援事業

 開発福祉支援事業は技術協力の範疇に入っており、必要であれば専門家の派遣も行うことになっている。しかしながら、今回の2件では、専門家などの派遣はしておらず、NGOとしても専門家を受け入れることについては、不安があるようだった。今回の2件は特殊なケースではあるが、どのような形で技術協力ができるのか、または開発福祉支援事業が技術協力として実施されることは妥当なのか、他の国の例も参考にしてNGO関係者と共に検討することが必要であろう。

1.4.4 ODAとNGOの連携に関する提言

(1)各種支援スキームの広報の改善

 日本のODAによるNGOとの連携スキームについて、当該国における現地のNGOや住民組織に対して、より効果的な広報を実施することが望まれる。

(2)アドバイザリーグループなどの設置

 ODAとNGOの連携スキームでの選考にあたって、現地で活動する経験豊富な複数NGOからなるアドバイザリーグループのようなものを設置して意見を聞くような仕組みが作られることが望まれる。

(3)NGO・ODAによる共同評価

 NGO・外務省定期評議会の活動の一つとしての共同評価ばかりでなく、NGOとODAによる共同評価を、より多くの案件に関して実施することを提案する。

1.4.5 本共同評価事業に関する提言

(1)準備の早期開始

 参加者の選考は、共同評価実施の6ヶ月以上前に行ない、充分な準備期間を確保することを提案する。

(2)ブリーフィングの有用性

 現地視察前にそれぞれのプロジェクトについてのブリーフィングを受けたが、とても有益であったので、今後の共同評価においても実施することが必要と考える。

(3)対象国について

 開発福祉支援事業についてより一般的な評価をするには、今回の2案件ばかりでなく、行政機構や、事業の実施団体の性格が異なるもうひとつの国を訪問することが望ましかったと思われる。

(4)現地における調査スケジュール

 現地での調査スケジュールは、サイトに行くためのゆとり、視察後の調査団内ミーティングの時間がもっと取れるように、計画を立てる必要がある。

(5)共同評価の方法論の整備

 NGOと外務省の共同評価は、今回で4回目であり、評価方法はその都度参加者によって作られ実施されているが、今までの評価経験をもとにある程度の方法論の整備を行うことを提案する。

(6)評価のフィードバック

 共同評価において出された提言を定期協議の場を通すなどして、提言をスキームの改善や見直しに活かしていくための仕組みを作ることを提案する。

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