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3.3.3 民間企業の評価するベトナムの市場経済化の進捗と日本の援助の貢献

(1)ベトナム商工会議所等ベトナム側企業の評価

 日本とは貿易(1位)、投資(3位)、ODA(1位)とも深い関係にあり、ベトナム側政府関係機関、また民間企業とも、日本を極めて重要なパートナーとして認識している。

 ODAに対する評価もインフラ整備、人材育成の面で貢献度、存在感は他のドナーに比べて極めて高い。また、中小企業指導等にあたっているシニアボランティアの活動も効果的である。

 今後のODAに対する要望としては、より高度な産業人、ビジネスマンの育成がある。数年後のWTOの加盟を目指してグローバルな視点と競争力を持った企業人を育成していくこと、またサポーティング産業等中小企業を育成していくことが緊要の課題である。

 低コスト労働力の国として、中国と競合する面は多いが、ベトナム企業の努力により、ベトナム市場において中国製品に負けず競争力を改善できているケースもあり(例えば、扇風機、自転車等)ベトナム企業にとって品質向上が重要であり、こうした面で官民の協力をお願いしたい19

(2)日系企業の評価(金融機関・商社)

 民間投資はアジア経済危機後低調であったが、2001年に入って大企業、中小企業とも日本企業の投資は活発化している。かつてのような投資ブームではないが、中国投資一極集中リスクを回避しての第2工場のベトナムへの建設といった意味合いが強い。

 ASEANの中では、マレイシア、タイは既にハイコストで製造業は流出しつつあり、その受け皿となるのはインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国である。前2カ国が政情不安定で投資先としては企業から回避され、ベトナムがASEANの中では唯一の低コストかつインフラも相応に整備された投資先となっている。

日系の工業団地でのヒアリング(管理棟で)
日系の工業団地でのヒアリング(管理棟で)

 2000年はホーチミンのみならず、ODAでインフラの整備が進んだハノイ、ハイフォンに大型投資を中心に立地しつつあることが特徴である。ここ数年ベトナム政府は、積極的に投資環境整備を行って、海外からの投資を呼び込もうという積極的な姿勢に転じており、その努力は評価できる。

 インフラ整備は進展しており、道路網整備また停電等も月2~3回程度にまで減少してきている。但し都市部の交通渋滞が大きな問題で、日本人駐在員やベトナム人経営スタッフがホーチミン市近隣に多く立地する工場に通勤するにも1時間程度(過去30~40分)を要するようになっている。

 ODAによるインフラ整備と人材育成に対するベトナムの期待は高く、各省庁や商工会議所などでも、ひんぱんに話題にのぼっている。但し、日系製造業の間では、インフラの整備が進み都市化すると、経営スタッフ・労働者ともホーチミンのオフィス勤務・金融・サービス業勤務指向が高まり、優秀な人材、労働力維持が今後数年で困難になるとの懸念も高まっている。

 金融面でも改革は徐々にではあるが進展しており、具体的には外資企業をめぐって、

 (1) 輸出により外貨獲得の一定割合をドンに換金するとの義務付けを80%~40%に低減、
 (2) 貸し付け上限金利を各行の自由裁量とする、
 (3) 土地使用権をリースしたものに対し担保権を認める

 などの改革も行われている。

 また、証券市場は2000年にホーチミン市にようやく開設、現在12社が上場しているが、本年中には20~25社に増える見込みで、ベトナムの上場し得る優良企業が育ってきている現状である。ちなみにハノイでも取引センターの開所予定である。 他方、国民のドンに対する信認は依然として低く、個人の銀行預金も増加していない。個人金融資産はその大半が金もしくはドルで保有されている。

(3)日系企業の評価(製造業)

 2001年に入って日本企業のヴィトナム投資は北部を中心に活発化している。新規建設のハノイ近郊のタンロン工業団地では、キャノン、デンソーをはじめとして9社が立地予定で1期工事分は完売。また、1995年開設のハイフォン工業団地も、7社立地のまま4年間低調であったが、今年に入って、ヤザキその他4社が新たに立地を決定している。

 両工業団地とも北部に建設され、ホーチミン近郊の南部と比べ周辺の道路、港湾等インフラの未整備が立地上のボトルネックとされていたが、ODAによるインフラ整備が進んだ。これらの場合、売上金回収の問題に加えて獲得した現地通貨ドンの外貨への交換枠規制の問題が残っており、輸出型企業の立地が投資の大半を占めている。

 投資手続きは簡素化され、ワン・ストップ・サービスとなっており、また許可権限も地方に委譲されており、企業側からの大きな不満は聞かれなくなった。

 また、ハイフォン市等ヴィトナム側も投資誘致に積極的姿勢を取るなど、最近の変化は大きい。なお、米国との通商協定も結ばれたことから、今後は対米市場輸出を狙った米国企業からの投資も増加が見込まれる。

 日系メーカーは、輸出型の立地と輸入代替型の立地に大別できる。輸出型は、ベトナムの低労働コストを活用し資材、部品を輸入する形であるが、日本、ヨーロッパ向け(今後はアメリカ向けも)に比較的順調な業績推移をしている(但し、IT関連では世界的低迷の影響を受け一時的に低調)。一方、輸入代替型ではこれまで50%程度の製品輸入関税に保護されていたが、ベトナムがAFTAの関連で、関税を引き下げつつある(今後も2003~4年に20%、2006年に5%程度にまで関税引き下げの方針)こと、中国等からの低価格品がベトナム市場に参入してきていること、また国内消費の伸びが鈍化していることから低調な推移にとどまっており、一部にはベトナムから撤退する動きも出てきている。こうした背景には、ベトナムに資材、部品の生産を担うサポーティング産業がほとんど育成されていないことがある。すなわち、現地生産によるコスト低減、また市場が小さいため量産によるコスト低減効果もなく、コスト的に部品を含めた産業集積の進んだ中国やタイに大きく差をつけられていることが要因である。ベトナムにおいては生産効率の向上とともに部品産業等サポーティング産業、中小企業の育成が重要な課題となっている。

 ODAに関しては、ベトナム政府関係者からは高い評価を得ており、よく話題にのぼるインフラ整備、法制度改革支援、人材育成等の面で民間企業にとっても経営環境の改善や親日的な関係改善に役立っていると認識されている。また市場経済化(規制緩和、自由化)、地方への投資認可権等の権限委譲等の面でも、改革は進んでいるが、タイ、マレイシアに比べれば改善の余地はまだある。

 今後もODAは地方のインフラ整備(ホーチミン周辺は比較的整備されており、ハノイ周辺や地方に重点を置くべきとみる)、人材育成、市場経済化のための法制度改革、中小企業・サポーティング産業育成等の面で有効に活用されると考えており、民間企業にとってもベトナムの市場経済化進展による国際競争力強化という点で大いに期待している。

 また、ベトナムでは知的所有権問題でも整備が遅れており、市中にコピー商品が氾濫しているのが実情である。立地企業にとっても、ブランド等の保護と同時にIT化による社内コンピュータ・ネットワーク化に伴う企業内部情報やデータの流出や不正アクセスを防止する上でも、知的所有権関連分野での一層の協力推進を期待している。

(4)調査団の評価

 日本のODAがインフラ整備などにより民間企業進出に与えた効果に関しては、ホーチミン市を中心とする南部と、ハノイ市を中心とする北部で、比較的明確に評価がわかれた。ホーチミン市を中心とする南部では、日本の援助でインフラが整備される前に、民間企業の開発した工業団地などに立地して操業開始したとする日系企業が多く、援助によるインフラ整備と企業立地との関連は特に認識されていない。

 一方、最近、日系をはじめとして民間投資が増加しているハノイ市やハイフォン市を中心とする北部では、日本の援助によりインフラ整備が進み、投資予定の土地から港湾まで整備された高規格(5号線。すでに完成して供用。片道2~3車線)の道路があること、コンテナー(部品や製品を積めて運ぶ国際規格の鉄製の箱。縦40(20)インチx20インチが標準)を扱える施設が整った港湾があること、安定した電力と水が供給されることなどを確認したので、ハノイ市周辺に投資を決定した、とするコメントが聞かれた。

 これら民間企業の評価も踏まえ、調査団としては、日本が、南部で供給が不安定ながら需要が増大し続けている電力供給を実現する、発電所整備を中心に援助する一方で、北部では道路と港湾を中心に援助を行なったことは、すでに進出した民間企業の需要に応えつつ、これから進出を考えている民間企業の需要を満たす(一種の「呼び水効果」)という点で、妥当な援助実施であったと評価している。なお、北部での5号線を除く道路、南部でのフーミー発電所を除く発電所の大半は、現在建設中か、あるいは建設が終了した直後であり、それらがベトナム経済に与えた効果を評価する時期には到っていない。

 総じて日系企業においても、ベトナムに対するインフラ整備・人材育成・法制度整備・経済改革支援などの分野での、日本の援助に関しての認識と関心は高く、ベトナム政府関係者や民間企業との会合でも頻繁に話題にのぼるとしており、民間ベースでの日越交流や関係の改善に良好な影響を及ぼしているといえる。

(5)民間企業の今後の日本の援助に関する提言

 ベトナムでは、本格的工業化の進展のためのより高度な産業人、技術者、行政担当者の育成と法制度など、環境整備が不可欠となっている。
 ベトナム経済の主役は依然として国営企業であり、法制度面でも民間セクターを発展させる上で残る課題は少なくないものの、企業法の施行、外国投資法の改正、国営企業の株式化等、ベトナム政府側の改革に向けた努力も続いている。

 数年後のAFTAやWTOへの加盟を目指して、グローバルな視点と競争力を持った官民の人材を育成していくこと、またサポーティング産業など中小企業を育成、また、そのための情報化や知的所有権関連を含めた法制度整備支などが、今後の協力重点分野としてあげられる。

 他方、インフラ整備については、ホーチミン周辺は比較的整備されており、引き続きハノイ周辺や地方に重点を置くべきである。


19 (外務省コメント)ベトナムの企業支援に関しては、日本からは、中小企業振興のためのJICA長期専門家をホーチミン市計画投資局に派遣中である。また、石川プロジェクトの第3フェーズで扱った民間セクターの人材育成を図ることを目的として、プロジェクト方式技術協力により「ベトナム・日本人材協力センター(VJCC)ハノイ校が、2002年3月に開所し、ベトナムのビジネス関係者に対するビジネスコースを開講し、同センターのホーチミン市校は2002年5月に開所予定となっている。なお、2002年経団連は、ベトナムの民間企業並びに投資関係政府機関の人材育成に関する協力プログラムを実施しており、今後の成果が期待される。




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