(4)日本の援助における提言と今後の課題
日本の援助の特徴として、事前調査には時間がかかるが、実施段階になると一気に実施されていることがあげられた。台風の影響を受けやすい地域での小学校建設を中心とした過去6年間の援助は、適切な目的に向かって実行され、教育・訓練の質的改善に役立ったとベトナム政府側から評価されている。
今後の課題として、ベトナム教育訓練省から以下の項目があげられた。平野部での小学校の就学率の完全化はほぼ達成したと考えているが、まだ山岳部で3シフト制(3つの学級がひとつの教室を、午前、午後、夕方と3回に分けて使う)が広範に見られるため、山岳部での小学校整備を推進していきたい。また、毎年洪水の影響を被る南部のメコン・デルタ地帯での整備も重要と考えている。そのために日本の援助が必要と考えている。
また、オーストラリアの援助は、援助額は小さいが大学など高等教育機関への援助が中心である。この影響もあって、現在、オーストラリアへの留学を希望する人が増えている。今後、日本に関しても大学レベルでの援助を増加させることを希望している。調査団としては、ベトナム政府側の意見も踏まえて、以下の点を今後の日本の教育支援の重点分野として提言する。
(1) | 地域的には、少数民族が住む山岳部に重点を置く。 |
(2) | 分野としては、小学校に加え、今後需要が増すと予想される小学校よりも上位の中等教育や高等教育18における施設整備や教育内容の充実を支援する。 |
(3) | 市場経済化の進展に伴って今後深刻化する可能性がある都市中心部でのストリート・チルドレンの増加に対応した子供たちに資する教育施設を強化する。 |
さらに、ベトナム政府が作成した第7次5カ年計画(2001 - 2005)では、教育分野に関して7つの重点項目をあげている。そのうち、まだ各国の援助が本格化していない項目としては、 以下の3点をあげることができる。今後の日本の援助の方向性を拡大する際に検討されるべきである。
(4) | 既存の大学と同水準の大学を新設する。 |
(5) | ハイテク産業に質の高い労働力を供給するための教育の実施を支援する。 |
(6) | 全国的な職業訓練校の早急な展開を支援する。 |
最後に、日本の援助の改善点としては以下の改善策を提言する。
今回の評価調査で訪問したナム・ハ県の小学校のみの特殊な現象なのか、その他の学校でも広く見られる現象なのかは定かではないが、援助の当初の目的である小学校における台風被害の軽減、交代制の改善、入学率・卒業率の改善と言った効果よりも、中学校での学習時間の延長が最大の効果であったことが確認された。ここに日本の援助に関する重要な示唆が得られる。それは、援助実施前に相手方のニーズを的確に把握すべきだということである。校舎はできたが当初の目的とは違う目的を実現したということは、当該援助案件が成功したと評価しても良いものかどうか判断が難しくなると言える。これは教育関連案件に限らないことだが、日本が採ってきた「要請主義」(被援助国政府からの自主的な要請に基づいて援助案件を決定する)は今日でも大切であるが、その一方で
援助実施前に相手国政府と十分に協議し、場合によっては日本側の判断で追加的な予備調査を実施し、相手側が主張する目的の実現性や真のニーズを的確に把握することにさらに努めるべきである。
18 第7次5カ年計画等において、中学校の入学率を49.9%(1999年)から80%(2005年)に、また高校の入学率を27.3%(1999年)から60%(2005年)に向上させることが目標値として掲げられている。