1.評価結果の概要
● | 日本は、これまでベトナムの道路、港湾、鉄道、発電所、病院、小学校、大学、農業、その他人材育成などの援助を行なっており、ベトナムへの援助総額のうち48%が日本からの援助であった(1999年)。その上、同国の財政支出の10%あまりが日本からの援助によって賄われたことになる。 |
● | ベトナムはドイモイ(刷新)の開始以来、市場経済の導入を進め、高い経済成長を実現してきた。この過程で、我が国は人材育成・制度構築、およびインフラ整備支援を2大重点分野とし、さらに農業・農村開発、教育・保健医療、環境などの5つの分野を中心に援助を実施してきた。 |
● | 日本の援助は、それぞれの分野で高い効果を発揮しており、ベトナム政府からも高く評価されている。特に、「市場経済化支援開発政策調査」(通称「石川プロジェクト」)や「経済改革支援借款」(いわゆる「新宮沢構想」の延長線上の支援)といった政策支援は我が国初の試みであったが、前者はベトナムの国家開発5カ年計画(2001-2005年)に活かされているほか、後者は投資や貿易を促進するための制度構築や市場環境の改善に大いに貢献したとして評価されている。 |
● | また、日本は円借款により道路、港湾、鉄道、発電所などの経済インフラの整備を実施してきた。発電に関しては、過去10年間の発電能力の伸びの38%が日本の援助によって実現された。また、首都ハノイと主要港湾を結ぶ国道5号線の整備(首都ハノイと北部の最重要港ハイフォン港を結ぶ約100キロの道路で、以前の5時間の所要時間が1.5~2時間程度に短縮されたとのこと)、ハノイと南部の商業都市ホーチミンを結ぶ国道1号線の整備、ホーチミンにおける東西道路など、ベトナムの主要な幹線道路が日本の援助によって整備されている(一部整備中)。これらはベトナムの物流を大幅に改善し、同国の急激な経済発展に貢献し、また今後貢献度合が高まっていくものと評価されている。 |
● | ハノイ、ホーチミンという南北の中心都市におけるナショナル・レベルの病院整備、台風の被害を受けていた200件近くの小学校整備、情報処理センターでのIT研修、農業分野における大学レベルでの技術支援などを含む個別の援助案件も、それぞれ所期の効果をあげていることが確認された。 |
● | 日本のODAは、ベトナム国民の間でもよく知られている。日本の支援で整備された病院、道路、小学校等は住民にとって目に見えるもので、裨益住民だけでなく国民の多くが日本の援助を知っている。また、中央政府や省レベルにおいても広報活動に努めているし、日本大使館の広報活動とも相まって、テレビニュースや新聞記事で、頻繁に日本のODAプロジェクトが紹介されている。 |
2.今後の課題と提言
● | ベトナムでは、他の援助国による「援助協調」の動きが活発化している。ベトナム政府のオーナーシップにより、ドナー、国民との協議を通じて、セクターごとに開発戦略・政策を策定し、協調して実施する援助協調の動きとともに、欧州6カ国(英国、オランダ、スウェーデン、ノルウェイ、フィンランド、スイス)主導による援助手続調和化に関する議論が活発化しているが、日本としても、こうした動きにより積極的に対応することが必要である。他方、ベトナムにはインフラ整備をはじめとした莫大な援助需要があり、トップ・ドナーである日本は、個別の援助案件について従来通りベトナム政府と協議して、独自に継続的な援助を行なっていくべきである。(「顔の見える援助」の継続・拡充)。 |
● | 上記の「援助協調プラス個別案件支援」を効率的に実施するために、外務省本省から大使館へ、JICA・JBICなど実施機関本部から現地事務所への、より一層の権限の委譲を行なうべきである。具体的には、2000年に策定・公表された「ベトナム国別援助計画」に基づく各年度の具体的な援助方針の作成は、現地大使館が行なうことを提案する。また、5年後に予想される国別援助計画の見直しも、JICA国別実施方針およびJBIC国別事業実施計画との整合性の確保及びそれらへの反映といったプロセスを経ながら、現地のJICA・JBIC事務所の協力を得て大使館が主導して行なうことを提案する1。さらに、現地では援助国の代表者が一堂に会して議論し、その場である程度の意思決定がなされることが増えており、日本もこうした現地会合の場で意思決定ができるような権限の委譲も必要である。その際、各国における援助協調の場での状況等を十分考慮したものとすべきである。さらに、各国のドナー会合等の議論が専門化する傾向を強めており、こうした議論に十分に対応し、また、他の援助機関との協議を緊密にこなすため、各現地事務所の人員の強化も必要である。(いわば「フロント・ラインの強化」) |
● | 一方で、日本の援助全体に関わる政策の変更については、外務省本省で決定し、各大使館へ明確に通知されていないように見受けられる。政策や統一方針の決定と現場への通知を徹底することによって、日本が援助を供与している途上国全体での統一的な援助目的及び援助政策の実現を確保する必要がある2。 |
● | 今後の対ベトナム援助の重点分野としては、(1)順調に進む市場経済化に対応した官民両面にわたる人材育成、(2)AFTAやWTOへの加盟など国際経済への統合に対応するための法制度などの制度構築、(3)工業生産の増加を下支えするインフラ整備需要への戦略的な対応、などを提言する。また、(4)工業生産で伸びる都市部と、農業に依存する地方の所得格差是正のための農業・農村開発なども併せて検討されるべきである。「ベトナム国別援助計画」の見直しの際には、これらの重点分野を踏まえ、優先すべき分野をより明確にすることが望まれる。 |
● | 円借款案件の実施面において、日本による援助実施の決定後、ベトナム側による事業の実施に遅れが見られた場合があることを指摘せねばならない。特に、道路や発電所案件などでこの傾向が見られた。すみやかな実施をベトナム政府側に求めていかねばならない。 |
1 国別援助計画の策定にあたり、大使館が主導してドラフトを作成することとしており、本提言の趣旨に合致したものとなっている。(外務省コメント)
2 例えば、外務省本省で援助協調に関する統一的な考え方を決定し、それを各大使館へ通知するなどしており、本提言に沿った形で援助が実施されつつある。(外務省コメント)