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1) 農業分野  

 農業分野においては、前述の通り、キリマンジャロ州で多くの協力事業が行われており、ローアモシ地区を中心に以下の案件が実施されてきた。

案件名 協力の形態 実施年(金額)
キリマンジャロ州農業開発 プロ技 1974~1978
キリマンジャロ農業開発センター(KADC) プロ技 1978~1985
ローアモシ農業灌漑事業 有償資金協力 1981年度-完工1987年(33億円)
キリマンジャロ農業開発計画(KADP) プロ技 1986~1993
キリマンジャロ州収穫後処理施設整備計画 無償資金協力 1987年度(5.96億円)
キリマンジャロ農業技術者訓練センター計画(KATC) プロ技 1994~2001
2002~
キリマンジャロ州中小工業開発協力事業(KIDC) プロ技 1978~1993
キリマンジャロ村落林業計画(KVFP) プロ技 1991~2000

 1970年代から20年以上にわたりキリマンジャロ州ローアモシ地区を中心に農業開発を展開し、同州では、我が国の協力により、灌漑農業が普及し高収量品種による稲作が広まったという効果を見ることができる。GNPの約50%、労働人口の約8割が農業に従事しているタンザニアにおける農業の重要性を考えると、同国のマクロ経済に与えるインパクトも大きかったと言えるだろう。

 我が国のタンザニア国に対する農業協力の効果を考えるうえで、我が国の実施したプロジェクトが系統立てて実施され、各々が相互に与えた影響を無視することはできない。キリマンジャロ農業開発センター(KADC:表9参照)によって稲の品種開発・栽培技術の研究等を通じた農業技術の確立、農業技術の向上がはかられ、KADCの事業はさらに1986年からKADPへと継続され、こうした時と時期を同じくし、有償資金協力によるローアモシ農業灌漑事業において1987年に1,100haの灌漑施設が建設された。栽培技術、水管理の確立、普及をさらにはかる必要性がKADPで継続されたと言える。1993年にKADPは終了し、プロジェクトは農民稲作組織であるCHAWAMPUへ移管された。1994年からはキリマンジャロ農業技術者訓練センター計画(KATC:表10参照)が実施され、タンザニア全州の稲作技術者の能力向上へ向けた協力が行われており、これまでのローアモシ地区における協力の成果を全国へ普及しようとしている。

 ただし、プロジェクトの実施体制を個々に見るといくつかの問題もある。KADPから事業の移管を受けた農民稲作組合(CHAWAMPU)の経営管理能力は十分ではなく、ローアモシ農業灌漑事業地区上流部(プロジェクト外の地区)の農民が取水し始めたため、プロジェクト地区で水不足が生じて、水利権をめぐる争いが生じた。ローアモシ地区での協力は、計画時からの農民参加とタンザニア側のオーナーシップが十分でなかったとの反省点を残し、以後の他州におけるプロジェクト、「バガモヨ灌漑農業普及計画」、「モロゴロ州ムウェガ地区小規模灌漑開発計画」等ではこの教訓が生かされ、初期の段階から農民組織の参加を得て協力を実施するようになっている。ローアモシ地区では、現在でも、農民稲作組合への登録農民は地域住民の半分にすぎない。このため農民稲作組合は十分な活動資金が得られず、キリマンジャロ州政府のKADP部の補助を受けている。食糧増産援助(2KR)で供与されたトラクターのスペアパーツの購入資金も十分でない状況にある。このような状況では、カウンターパートへの技術移転がうまくいっていても、協力が終了した後のプロジェクトの自立的発展に支障を来す恐れがある。こうした問題への一つの対策は、プロジェクト実施中から県事務所等地方政府と密接な連携を保ち、地方政府レベルでのプロジェクトの重要性に対する認識を高め、現地の実施組織レベルとのコンセンサスを十分に得ておくことが重要と考えられる。

 キリマンジャロ州以外の農業分野における協力では、バガモヨ灌漑農業普及計画、モロゴロ州ムウェガ地区小規模灌漑開発計画、ヌドゥング地区農村開発計画(無償資金協力、1987~1988、17.25億円)、ソコイネ農業大学地域開発センター(プロ技)等が実施されている。また、1978年度から開始された食糧増産援助は1999年度までで総額153億円に達した。

表9 参考視察案件1:キリマンジャロ農業開発センター(KADC)及び農業開発計画(KADP)
ローアモシ農業灌漑事業(円借款)
名称 キリマンジャロ農業開発センター(KADC)及び農業開発計画(KADP)
ローアモシ農業灌漑事業(円借款)
実施地域 キリマンジャロ州モシ地区(ローアモシ)
協力期間 KADC:1978年~1985年
KADP:1986年~1993年
援助形態 プロジェクト方式技術協力
有償資金協力(円借款)
無償資金協力
対象分野 農業一般
実施目的 キリマンジャロ農業開発センター(KADC)における稲の品種開発・栽培技術の研究等による農業技術の確立、農業普及員・農民への技術研修の実施を通じた対象地域の農業技術向上。援助重点項目のうち、「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。
投入実績 (日本側)
有償資金協力:33億円(水田1000ha、畑1200haの農地基盤・灌漑整備)
無償資金協力:計31.12億円(KADC建設、KIDC建設、トライアルファーム・パイロットファーム整備、ライスミル建設、トラクター供与他)
プロ技協:長期・短期専門家派遣、研修員受入、機材供与、ローカルコスト

(相手国側:キリマンジャロ州開発庁)
カウンターパート、施設・土地、ローカルコスト

終了時評価概要
 本案件は、1978年にタンザニア政府との間で実施が合意された「キリマンジャロ州総合開発計画」の一つである。有償資金協力によって整備された水田では、計画段階で平均4.7トンの収量が見込まれたていたが、1988年に6.3トン、1990年6.51トン、1992年7.83トンと予想以上の水準を維持しており、プロジェクトによる品種の選定と栽培技術の移転・普及が適切に行われたことが示された。
 KADPは稲作用の水利権を取得していたが、プロジェクト域外で独自に稲作を始めた農民による取水が原因で、水の確保が懸案事項であった。今後は、プロジェクト業務を現地の稲作組合が行うこととなるが、組合の運営能力の向上と財務管理の徹底が重要な課題である。水利権問題とケニア側への米密輸が、社会的混乱を引き起こす可能性を有している。


表10 参考視察案件2:キリマンジャロ農業技術者訓練センター計画(KATC)
名称 キリマンジャロ農業技術者訓練センター計画(KATC)
実施地域 キリマンジャロ州モシ市
協力期間 1994年7月1日~2001年6月30日 (フェーズI)
2001年10月1日~         (フェーズII)
援助形態 プロジェクト方式技術協力 対象分野 農業一般
実施目的 灌漑稲作分野の農業技術者を対象とした訓練センターの研修機能の強化。
援助重点項目のうち、「人造り及び研究協力等技術の向上・普及をもたらす努力」に相当。
投入実績 (日本側)
長期専門家12名、短期専門家44名、研修員受入24名(第3国研修1名、国内研修1名を含む)、機材供与2.36億円、ローカルコスト2.67億円

(相手国側:農業協同組合省)
カウンターパート41名、施設、ローカルコスト1.20億シリング

終了時評価概要
 キリマンジャロ農業技術者訓練センターでは、7年間でタンザニア国内全州の稲作技術者1,428名を対象に、稲作栽培、中核農民、水管理、農業機械化、トラクター操作等多種にわたる研修を実施した。これらの研修を通じてカウンターパートの能力が、独自にコースの運営管理を支障なく行えるまでになり、研修機関としての機能が向上した。
 観点別には、以下のような評価がされている。

1) 目標達成度 研修修了者の満足度は高く、実施担当者も運営機能の強化を認めている。目標達成度は高いが、受講者のフォローアップに課題がある。

2) 効率性 研修指導員の能力が向上し、研修は計画どおり実施されたため効率性は高い

3) 効果 受講者から受講した技術の活用による経営状況の改善が報告され、正へのインパクトが見られる。

4) 妥当性 タンザニア政府の農業畜産政策に合致している。

5) 自立発展性 財政面に難があるが、技術面・組織面では発展の可能性がある。

 実施体制上の問題点として、日本側には問題は認められないが、タンザニア政府が構造調整計画を実施中のため、相手機関のプロジェクトに関する運営経費の確保が困難である。

 我が国の農業協力における事業効果をさらに仔細に見ると、プロジェクトによる灌漑農業の普及が農業の安定的生産の実現につながって行ったことが見て取れる。さらに個々のプロジェクトの安定生産への効果が広く農民に認識され、プロジェクト対象地域でない上流部の農民も灌漑農業を始め、周辺地域への波及効果は大きかったと言える。1988~1992年には、1ha当たり6~7トンが収穫され、生産性の向上により農民の所得の向上、生活水準の向上に寄与した。しかし、最近では水不足問題により、2期作は不可能となり、全農家に年1回の作付けも保証できないような状況にあるが、灌漑農業の普及をキリマンジャロ州全体で見れば、高収量品種による稲作が広まり、州の米生産量はこの10年で5倍に増加している。

 このような我が国の長期にわたるプロジェクト型援助の効果は世銀を始め、各国のドナーも認めるところである。今後、農業セクターへの協力は、ASDPが策定されればそれに沿った枠組での協力が求められることとなる。セクター開発計画の枠外で独自にプロジェクト型援助を実施することは、タンザニア側の援助資源の不足により、ローカルコスト、人材の確保の点で困難になると思われる。

 今後、我が国がこれまで行ってきた農業分野の協力成果を生かし、さらに発展させるためには、新しい援助環境の中で、各ドナーとのSPに関する議論に参加し、議論をリードすることが必要である。農業セクター開発計画に積極的に関与する日本の姿勢は、望ましい方向にあると言える。今後は、体系的にSPを構成する各コンポーネントとなるプロジェクトが実施されることとなるであろう。

 我が国は零細企業の振興ための支援として、「キリマンジャロ州中小工業開発協力事業(KIDC)」を実施してきた。(表11参照)本案件は、1978年から1993年の16年間にわたりキリマンジャロ州モシ市において実施されたプロジェクト方式技術協力である。(1)鋳造、(2)鍜造、(3)機械加工、(4)窯業、(5)オガ炭製造に関する基礎的技術の移転を図り、キリマンジャロ州の小規模工業の発展に貢献しようとするものである。

 KIDCではカウンターパートへの必要な技術移転は行われたが、タンザニアの経済構造改革により、市場の自由化が進行し、海外から競争力のある製品が流入するといった外部条件が変化したため、技術協力のみでは機械、金属、窯業等の中小企業の育成が行える環境ではなくなってしまった。

 KIDCの援助終了後の運営は必ずしも満足できる状態にはなく、調査時点でもセンター内は閑散としており、機械加工部門に6~8名の研修生がいるのみとのセンター側の説明であった。プロジェクト終了後はキリマンジャロ州政府に移管されたが、州政府予算も十分でないことに加え、上記のような経済環境の変化がKIDCの運営、維持管理面に影響を与えたと思われる。

 KIDCは、UNIDOから部品及び機材供与を2003年6月まで受ける計画が進行している。我が国の援助が終了して8年が経過し、タンザニアの経済も変化し、更めて中小工業の育成が必要な分野も出てきている。こうした運営に課題をかかえているプロジェクトをUNIDO等の国際機関が更めて支援し、活動が再び活発化することは望ましいことである。

 KADP等農業プロジェクトにしても、KIDCにしても、地方政府へ移管された後の予算措置等運営に問題をかかえているケースが散見される。他ドナーにおいても同様の問題があると思われる。こうした案件に対しては、ドナーによるコモン・ファンドを設け、フォローアップがなされる仕組みが必要である。


表11 視察参考案件3:キリマンジャロ州中小工業開発協力事業(KIDC)
名称 キリマンジャロ州中小工業開発協力事業(KIDC)
実施地域 キリマンジャロ州モシ
協力期間 フェーズI:1978年9月~1988年3月
フェーズII:1988年3月~1993年3月
援助形態 プロジェクト方式技術協力 対象分野 工業一般
実施目的 フェーズI)キリマンジャロ工業開発センター(KIDC)職員への、(1)鋳造、(2)鍜造、(3)機械加工、(4)窯業、(5)オガ炭製造に関する基礎的技術の移転。
フェーズII)応用技術の移転によるさらなる人材育成、相手国によるKIDCの自立運営支援、キリマンジャロ州の工業発展への貢献。
援助重点項目のうち、「貧困対策や社会開発分野への支援」に相当。
投入実績
(フェーズII)
(日本側)
長期専門家14名、短期専門家1名、研修員受入14名、機材供与1.31億円、ローカルコスト1,887万円

(相手国側:キリマンジャロ州政府開発庁)
カウンターパート20名、施設、ローカルコスト1.34億シリング

終了時評価概要
 フェーズIIの終了時において、プロジェクトの目的である「キリマンジャロ州の小規模工業発展に必要な人材育成及び応用技術の移転」は達成されたことを確認した。
 観点別には、目標達成度・効果・自立発展性の3点から以下のような評価がされている。

1) 目標達成度 KIDCにおける技術移転に関しては計画どおり実施された。工業発展のためには、タンザニア側の投資家誘致や企業へのPR等のさらなる努力が必要である。

2) 効果 KIDCに機械・金属・窯業の高い技術力を持つ集団が育成され技術的効果は高い。開始当初KIDCの運営費の30%程度であった独自の技術サービス業務による収入は、1991年度には70%にまで向上したため経済的効果も高い。ただし、KIDCの組織・運営能力に関しては、部門間の協力やチームワークの改善を要する。

3) 自立発展性 KIDCの有する技術力は高いものであり、技術的には発展性に問題はない。財政的な裏付けとそれを補う技術サービスを提供するだけの組織運営能力が課題である。



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