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第2章 専門家派遣事業に関する評価調査の結果

1. 専門家を派遣している省庁に対する質問票調査の結果

 以下は、JICA専門家を派遣している18省庁に対して行なった質問票による調査結果の要旨である。質問票および調査の詳細な結果については添付資料2.を参照いただきたい。

1) 専門家派遣の実態(専門家全体、2)以降は長期専門家を想定)

 本質問は、調査実施時点(2001年1月)における調査対象省庁の専門家派遣の概要を把握することを目的としている。回答結果によれば、調査の時点で文部科学省が最も多い697人のJICA専門家を派遣しており、農林水産省(550人)、国土交通省(82人)と続いている。所属先の割合については、国家公務員の割合が最も高く、派遣数の多い文部科学省の95%、農林水産省の40%が国家公務員となっている。

2) 専門家派遣の目的

 調査結果によれば、専門家派遣の目的については、「日本のODAに対する貢献」(80%)、「優良なプロジェクト形成への支援」(53%)、「その他」(33%)の順となっている。各省庁にとってプロジェクト形成が専門家派遣の重要な目的となっていることが確認されたわけであり、今後国際協力におけるプログラム・アプローチの推進において外務省・JICAと各省庁との調整がより重要になってくると思われる。

3) 専門家に期待する役割

 専門家に期待する役割については、多くの省庁が、従来の相手国に対する単なる技術指導(93%)のみならず、近年の傾向を反映した政策アドバイザー的な役割も専門家に期待している(80%)ことを調査結果は示している。また、プロジェクト形成のための情報収集、指導を専門家に期待する省庁も多く(67%)、プロジェクトの形成を重視する省庁の姿勢をここでも確認できる。

4) 専門家に対する選考要件

 選考要件については、専門分野での能力や技術を挙げる省庁が80%と最も多く、次に語学(67%)、そしてその他(47%)の順になっている。専門家の語学力に関しては、海外の受入機関において問題とみなされているケースが全体の一部ではあるが存在しており、派遣する側のより高い問題意識が求められる。また、コミュニケーション能力、協調性や信頼性といった受入機関側の重視する要件*を重視している省庁も少ないようであり、効果的な技術協力のためにこうした面にもより注意が払われることが望まれる。

*註:これらの要件は、「専門家派遣制度に関する調査研究(2000年3月)」でタイ側C/Pが重視していると報告されているもの(p.61)である。

5) 専門家選考手順

 専門家の選考手順については、明確な回答を寄せた機関が少なく、また未回答のケースも散見されるため、各省庁の選考手順の詳細を把握するには至らなかった。

6) 相手国側の専門家に対するニーズの把握方法

 調査結果によれば、相手国側の専門家に対するニーズを把握する方法については、ほとんどの省庁がJICAの要望調査を利用しているが、同時に、各省庁はすでにそれぞれの省庁から派遣されている専門家や独自の方法を通じてもニーズを把握しているようである。

7) 過去3年間におけるニーズの適合性に対する認識

 過去3年間に派遣された専門家がどの程度相手国側のニーズに応えていたかについては、専門家を派遣している省庁としては、自らの派遣する専門家が相手国側のニーズをよく満たしていると認識している。具体的には、回答者16名のうち、約81%にあたる13名が5段階評価で5(先方ニーズに非常に適合)または4(概ね適合)を選択している。この結果は、今回実施した海外での質問票調査で判明した相手国側の認識の程度とほぼ同じである。ただし、聞き取り調査などでは受入機関のニーズと専門家の専門性・能力のミスマッチが部分的に発生していることも指摘されており、先方のニーズを把握することに未だ改善の余地はあると言えよう。

8) 派遣専門家の語学力

 派遣専門家の語学力については、5段階評価で5または4を選択した回答が14名中11名と調査結果は多くの省庁が語学力の高い専門家を派遣していると認識している。ただ、同様の質問を受入機関側に対して行なうと、日本人専門家の語学力はより低く評価されている。すなわち、双方の認識にギャップがあることを示しており、改善のための何らかの方策をとる必要があろう。

9) 能力の高い人材の確保

 専門家として能力の高い人材を確保するための方策については、専門家の待遇を改善する必要性を指摘する省庁が14機関中9機関と最も多く、こうした意見に関するより具体的な調査が必要と思われる。「公募制度の拡充」「技術費のついた公募短期専門家の登用」といった最近外務省・JICAの進めている方策に賛同する声は少なかった。

10) 中間評価の実態

 多くの省庁が何らかの形で中間評価を実施していると回答した。その反面、徹底して実施しているとの意見はゼロであり、また「ほとんど行われていない」(3件)「評価手法が未確立」(1件)との回答もあり、評価手法の改善・確立の必要性が感じられる。

11) 事後評価の実態

 事後評価は中間評価以上に多くの省庁により実施されていることが示されている。しかしながら、「徹底して行なっている」との回答はわずか1件であり、「あまり行われていない」「ほとんど行われていない」「評価手法が未確立」の回答も1件ずつある。やはり、評価手法の改善・確立の必要性が感じられる。また、JICAの事後評価結果について知らされていないとの意見もあり、今後JICAと各省庁が評価の面で積極的に情報交換を行なうなど連携を深める必要もあろう。

12) 派遣された国に対する専門家の貢献度

 派遣された国に対する専門家の貢献度合いに対する認識については、回答14件中、5段階評価で5(貢献は非常に高い)が5件、4(高い)が7件と多くの省庁が貢献度は高いと認識している。しかしながら、これは、後に見るように、途上国の受入機関側が質問票調査での専門家の貢献度に関する同様の質問(5段階評価)に対してメキシコでは4.0(平均値)、タイで3.0、フィリピンで3.8と全体的に低く回答していることと比べると認識にギャップがあり、日本側は現状に満足すべきではないと思われる。

13) 派遣された専門家にトラブルが発生した場合の対処方法

 派遣期間中に専門家が問題に直面した場合には、JICAや関係機関と連携しながら、直接本省・庁が支援するとの回答が比較的多かった。

14) 現在の専門家制度の問題点

 現在の専門家制度の問題点については、人材の不足や人材確保の難しさを訴える省庁が多く、また派遣専門家の語学力に関する問題点も指摘されている。

15) 14)で挙げられた問題に対する方策

 14)で挙げられた人材不足の問題に対しては、必ずしも明確な対策は示されておらず、JICAによる公募制や短期専門家(技術費付き)登用など人材確保のための具体策を推進する必要性は高いと考えられる。



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