第3章 我が国の環境分野(砂漠化防止)支援政策および対セネガル支援状況
3.1 我が国の環境分野(砂漠化防止)に関わる援助政策
3.1.1 我が国と砂漠化対処条約
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地球環境保全に関わる理解と砂漠化対処条約
我が国は1994年10月に砂漠化対処条約に署名し、1998年9月11日に批准した。
この砂漠化対処条約の中で、「砂漠化に対処する」とは、乾燥地域、半乾燥地域および乾燥半湿潤地域における持続可能な開発のための土地の総合的な開発の一部を成す活動であると定義されており、1) 土地の劣化の防止または軽減、2) 部分的に劣化した土地の回復、3) 砂漠化した土地の再生を目的として必要な対応を行なうこととしている。
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砂漠化対処条約の発効経緯
1960年後半から頻発したサヘルの大干ばつは砂漠化の問題が地球規模の課題として認識される契機となった。以降、各国およびドナーが各々の立場で対応の努力を行っていたが、その成果は芳しくなかった。その主な理由としては、以下のような点が認識されている6 。
- 砂漠化の影響を被ってきた国にとり、大規模な砂漠化対処計画の立案や実施のための資金調達などが困難なことから、砂漠化に対する政策の優先度が低い。
- 貧困地域が多く、資金的な問題で対処が困難であった。
- 開発計画の中に砂漠化への対処が十分位置づけられなかった。
- 地域住民の参加の仕組みがなかった。
- 技術的な解決方法に関心が行き、社会的、経済的な要因への考慮が不足していた。
これらの問題の認識に対し、今回の砂漠化対処条約は原則の中に住民や地域社会の参加の重要性を謳っていること(上記の項目4に関連)や砂漠化の影響を受けている国は砂漠化対処活動国家行動計画を策定することが義務づけられている(上記の項目3に関連)など、これまでの教訓を取り入れた規定になっている。加えて各ドナーがどのような取組みを行なってきたかについての報告の義務が規定されている。
砂漠化問題への対応策が明確に決めがたい背景には、砂漠化問題が社会・経済的な幅広い問題と関連しているということがある。食糧の緊急援助、開発と女性の役割、農業開発、人口増加の抑制問題といった幅広い問題への解決策を組みわせることが砂漠化問題に対処する方法だとの理解が徐々に浸透している。この砂漠化対処条約の批准を踏まえ、先進国側としての対応の方向性は以下の内容が謳われている(同条約 第13、14条)。直接的な支援として、
- 影響を受けている国による行動計画の策定・実施の支援
- 影響を受けている国の地域住民による参加型対策事業の支援
- 影響を受けている国の砂漠化防止の能力形成の支援
などが挙げられている。一方、間接的支援としては下記の事項がある。
- 条約に定められた科学技術委員会の支援
- 調査研究の促進及び体制の整備
これらの対応を進めるに当たり、それぞれの国において砂漠化対処の行動計画の策定・実施を支援するとともに、当該国の対処能力の形成・強化支援、住民参加型の対策事業の支援などが必要となってくるとの理解が共有されている。
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3.1.2 我が国の環境分野への支援の枠組み
我が国の政府開発援助政策は「政府開発援助(ODA)大綱」をいわば「政府開発援助の憲法」としている。1992年6月に閣議決定された同大綱では、重点事項の一項目に環境問題などの「地球的規模の問題への取り組み」を位置付けている。(なお、2003年8月に策定された新しいODA大綱においても、我が国援助の重点課題の一つに環境問題などの「地球的規模の問題への取り組み」を位置付けている。)
また、1999年8月策定された「政府開発援助に関する中期政策(ODA中期政策)」では、重点課題の一つに「環境保全」を掲げ、自然環境保全、森林の持続可能な経営を含む各分野における施策などにつき積極的に協力を行うこととしている。
さらに、1997年6月の国連環境開発特別総会(UNGASS)に際し、我が国が発表した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」では、行動計画の一つに持続可能な森林経営の推進・砂漠化防止協力の強化を含む「自然環境保全」を位置付けている。(なお、2002年8月にそれまでのISDを改めて発表した「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)」においても、重点分野の一つに「自然環境保全」を位置付けている。)
また、アフリカ諸国への支援の枠組みとしてはアフリカ開発会議(TICAD
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)がある。TICADは国際レベルでアフリカの開発を支援するために、1993年に開催された第一回会議を皮切りに、以降長期にわたり継続するTICADプロセスの始まりとなった。1998年に東京で開催された第2回アフリカ開発会議(TICAD II)の場で採択された「21世紀に向けたアフリカ開発東京行動計画」においては、横断的テーマとして「環境の管理」が扱われていた。2003年秋、やはり日本で開催された第3回アフリカ開発会議(TICAD III)では、直接的に環境分野(砂漠化防止)に関わる議論はなされなかった。しかしながら、2002年のG8サミット(先進主要国首脳会議)でもそうであったように、TICAD IIIはNEPADに対する支援・協力を明確に打ち出した。
このような世界的なアフリカ支援の枠組みの中で、我が国は「基礎的生活基盤の改善」、「環境(砂漠化防止)」および「農水産業」の3分野をセネガル援助の重点分野としている。対セネガル国別援助方針については、本報告書の3.2.1で後述する。図3.1はわが国の対アフリカ環境分野(砂漠化防止)に関する支援政策の枠組みをまとめたものである。

図3.1 我が国の対アフリカ環境分野(砂漠化防止)の支援の枠組み
3.2 我が国のセネガルに対する支援状況
3.2.1 セネガルに対する援助経緯
我が国のセネガルに対するODAは1980年10月の青年海外協力隊派遣まで遡る。その後、1995年3月の経済協力総合調査団(菊地ミッション)、1998年2月の3分野(環境・農水・基礎生活基盤)での協力の確認やその後の政策協議、および2000年6月のプロジェクト確認調査におけるセネガル側との支援政策対話を通して国別援助方針として漸次集約されて、今に至っている。我が国の援助対象国としてのセネガルの位置付けは以下の通りである
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1) |
西アフリカの中心国の一つであり、政治的に大きな発言力を有しており、また、仏語圏アフリカ諸国の中でも中心的な役割を果たしている。 |
2) |
'76年に複数政党制を採用して以来、2000年3月の大統領選挙で平穏に政権交代が行われたことに示される通り、アフリカ有数の民主主義国家として政情が安定している。 |
3) |
'79年より世銀・IMFの支援の下、構造調整、経済再建に積極的に取り組んでいる。 |
4) |
人口増加率の高さ、砂漠化防止等多くの開発課題を抱え、援助需要が大きい。 |
5) |
我が国との関係が良好である。 |
6) |
具体的な開発目標を掲げ、経済社会開発のための主体性(オーナーシップ)を発揮しているセネガルの開発政策は、DAC新開発戦略の趣旨にも合致し、セネガルにおいて新開発戦略の実施を重点的に支援しうる状況にある。
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なお、セネガルは我が国の二国間援助実績(‘99年までの支出純額累計)で第28位(サブサハラのアフリカ地域で第6位)の受取り国であり、また、セネガルにとって我が国は第2位(ODA国別データブック2001)の援助国となっている。
また、セネガルに対する国別援助方針では、現在以下の3分野を重点分野としている。
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基礎的生活基盤の改善
1) |
生活用水
セネガルでは安全な水へのアクセスが不足しているので、衛生状況の改善、女性の水汲み労働の軽減のため、地下水開発等による生活用水の確保を支援する。
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2) |
基礎教育
教育の遅れが深刻なセネガルにおいて、ハード・ソフト両面から基礎教育の充実に向けて協力を実施する。
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3) |
基礎的保健・医療
セネガルの人口増加率は非常に高い水準にあり、人口の増加等により、特に農村部において医療サービスの整備が遅れているため、プライマリー・ヘルス・ケア、公衆衛生等の基礎的保健・医療体制の整備を支援する。なお、エイズ感染者の増加が懸念されており、この分野での積極的な協力を実施する。
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(2) |
環境(砂漠化防止)
砂漠化の進行、土壌の劣化が深刻な問題となっていることから、苗木供給、植林運動等林業開発の観点を含めた環境保全分野での協力を実施する。
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(3) |
農水産業
国土の砂漠化、干ばつなどの厳しい条件の下、輸出用換金作物のモノカルチャー型農業生産に特化しているため、穀物の対外依存度が非常に高くなっている。したがって、食糧作物の生産性向上のための食糧増産援助、灌漑施設整備等の協力を実施する。また、水産品が最大の輸出品目となっており、食糧供給面においても重要であることから、零細漁業の振興などを支援する。
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また、以上のような援助方針を進める上で、下記の事項を留意点として認識している。
- 援助を効果的・効率的なものとし、構造調整の一層の推進、マクロ経済の安定、国民の生活水準の向上を図り、最終的に持続的な経済成長を達成するためには、援助依存からの脱却に向けたセネガル側の自助努力が不可欠である。
- フランス等の他の主要ドナーとの協調を図る。
- 新規円借款の供与については、パリ・クラブにおける債務削減適用国となっているため、慎重に検討していく。
- '98年10月に東京にて行われた第2回アフリカ開発会議(TICAD II)で採択された「東京行動計画」の推進に資する協力を実施する。
3.2.2 セネガルに対する環境分野(砂漠化防止)への支援実績
本評価対象期間(1996年度-2000年度)において我が国が、環境分野(砂漠化防止)関連の支援に係る4つの事業、および同時期に他のドナーによって実施された環境分野(砂漠化防止)関連の事業の実施タイムラインを下記の図3.2に示した。また、我が国が支援を行った4事業の投入と結果の実績は表3.1にまとめた。
図3.2 対セネガルの我が国の環境(砂漠化防止)関連支援および他ドナーの動向(PDF)
表3.1 環境分野(砂漠化防止)関係プロジェクト×の投入と結果に関する実績一覧表(PDF)
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「砂漠化対処条約と日本の役割」 環境庁 企画調整局
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Tokyo International Conference on African Development
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http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/seisaku_3/sei_3f.html 参照