要約
1. 評価の実施方針
1.1 評価の背景と目的
パプアニューギニアは、わが国の二国間援助実績(支出純額累計)で、大洋州地域最大の受け取り国であり、さらに、インフラ整備分野を同国政府の優先政策のひとつとして位置付けており、わが国としては、同国に対するインフラ整備分野の支援をより効果的かつ効率的に実施するためにも、これまでの取り組みおよび実績をレビューすることが求められている。
上記の背景の下に、本件はプログラムレベル評価の一形態であるセクター別評価の一つとして行うものであり、わが国がパプアニューギニアに対し実施したインフラ整備分野に係る一連の協力を、総合的かつ包括的に評価し、今後のより効果的・効率的な協力の実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的とするものである。
1.2 評価方法
本件では、パプアニューギニアのインフラ整備分野に対する支援を、(i)目的の妥当性、(ii)結果の有効性、(iii)プロセスの適切性、という観点から評価した。まず、評価対象を把握するために、外務省、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)の関係部署及び有識者と協議を行い、当該分野における我が国の援助を目標体系図に整理した。次に、評価基準や測定指標を設定し、国内及び現地調査にて評価に必要な情報を収集した。その後、収集した情報に基づいて評価を行い、その結果を報告書としてとりまとめた。
本評価の実施にあたっては、(i)文献及びヒアリングから得られた限られた情報に基づく評価であること、(ii)目標値や測定指標が設定されていないため、目標達成度を定量的に測定できないこと、(iii)投入から最終目標までの因果関係の証明が困難であり、成果の分析に限界があること、という制約があった。
2. 評価対象時期におけるパプアニューギニアの概況
2.1 社会経済概況
パプアニューギニアは大小の島々からなる島嶼国である。首都のポートモレスビーや第2の都市であるラエなどの主要な都市が立地するニューギニア島においては、標高3000mを越える山脈が東西に連なり国土を分断している。このような地理的条件の下で、約500万人の人口が居住し、800以上の部族言語を使用している。
評価対象期間(1997年度-2001年度)の人口は、年間約2%強で増加しており、1997年の約450万人から2001年現在では約520万となっている。これらの内、8割以上が農村地域に居住している。
また、出生時の平均余命は57歳と短いだけでなく、1000人当たりの5歳未満時の死亡率は90人を超えている。さらに、成人の識字率は35%と低い水準にあり、保健・衛生および教育面などの社会面では多くの課題を有している。
マクロ経済面では、パプアニューギニア通貨であるキナの対ドルレートの悪化により、ドルベースのGDP総額が減少し続けている。また、財政収支も悪化している。
輸出入の実績については、輸出額が1998年以外ほぼ横ばいの状況を維持しているが、輸入額が減少し続けている。また、消費者物価上昇率は1997年と2001年以外二桁を保っており、インフレが進行している。さらに、対外債務残高はGDP総額に匹敵する規模に拡大している。
これらの指標が示すとおり、評価対象時期におけるパプアニューギニアの経済は厳しい状況に置かれているといえる。
パプアニューギニアの経済構造は自給自足経済と貨幣経済が共存し、大部分を鉱業や農産物などの一次産業が占めており、主な輸出品目は、金属鉱石、原油、木材などの一次産業品目である。また、主要な貿易相手国はオーストラリア、日本、ドイツ、米国であり、パプアニューギニアにとってわが国は全輸出額の1割強を占め、約3割弱を占めるオーストラリアに次いで第二位の貿易相手国となっている。パプアニューギニアの輸入相手国は、オーストラリアが輸入量全体の50%以上を占め最大の輸入先であるのに対し、日本からの輸入量はオーストラリアの約10分の1と少ない。
日本からパプアニューギニアへの輸出品目構成は運送機械が60%以上を占めており、一般機械と合わせ全体の80%程度を占めている。一方パプアニューギニアから日本への輸出品目構成は銅鉱石、木材が全体の75%程度を占めている。
2.2 パプアニューギニアの開発政策
パプアニューギニアの地理的拡散性や隔絶性といった地理的条件の下で、教育の普及、保健・衛生の確保等、国民の民生安定化にとって、人口の8割以上が居住する農村地域と主要な都市との交通手段の確保が重要な課題とされてきた。さらに、パプアニューギニアの主要産業である天然資源や農産物の主要産地であるニューギニア島北西部地域の高原地方と主要な都市等を結ぶ交通手段の確保が重要な課題となっている。
パプアニューギニア政府は評価対象期間にあたる計画期間を対象とした「中期開発戦略1997-2002」を作成しており、この中で、運輸インフラを他の三つの優先政策分野である保健分野、教育分野および民間セクターの政策推進にとって不可欠な優先政策分野として位置付けている。
上記の「中期開発戦略1997-2002」を達成するために、中期的資源配分枠組み(1997年-1999年)が作成され、5つの優先分野の中でもインフラ分野への資源配分は大きなウエイトを占めている。
2.3 パプアニューギニアの公共投資と主要ドナーのODA推移
1998年から2002年にかけセクター別に見るパプアニューギニアの公共投資計画では、インフラセクターが全公共投資計画の4割弱を占める最大の公共投資セクターである。また、1998年から2002年におけるパプアニューギニアの公共投資の支出予測および融資源をみると、直接プロジェクト融資に対する外国政府や国際機関からの貸付や無償援助の割合が約70%を占めており、公共投資の財源が大きくODAに依存していることがわかる。
パプアニューギニアに対する、二国間ODAをセクター別にみると、社会インフラ・サービスおよび、経済インフラ・サービスに占める割合が高く、2001年では、運輸・通信の割合が51%と半分以上を占めている。
DAC諸国によるODA支出純額は、オーストラリアが最大ODA援助国であり、全ドナーによる支出額の70%前後を占め、1997年以降2001年までその割合が年々増加してきている。日本はオーストラリアに次いで2番目であり、1997年から2001年の間では、全ドナーによる支出額の12~20%を占めている。また、国際機関によるODA支出純額は、1997年時点では全支出額の16%程度を占めていたが、2001年には2%程度に減少している。特に、1997年時点では欧州委員会が最大の12%であったが、2001年には2%程度となっている。1997年時点ではアジア開発銀行が欧州委員会に次ぐ2%であったが、2001年ではマイナスとなっている
1。
パプアニューギニアに対するODAを形態別にみると、政府貸付においては、日本は1997年の43%から2000年には87%を占め、第1番目の貸付国となっている。また、無償資金協力においては、オーストラリアが80%前後を占めており、最大の支援国となっている。一方、日本はオーストラリアに次ぐ支援国であるが、10%弱でありオーストラリアと比較して少ない。
3. 評価結果
3.1 目的の妥当性に関する評価
3.1.1 わが国の政府開発援助の上位政策との整合性
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政府開発援助大綱との整合度合い
「政府開発援助大綱(1992年6月閣議決定)」では、「1.基本理念」において、「我が国は、(略)、開発途上国の離陸へ向けての自助努力を支援することを基本とし、広範な人造り、国内の諸制度を含むインフラストラクチャー(経済社会基盤)および基礎生活分野の整備等を通じて」政府開発援助を実施するものとしている。また、「3.重点事項」において「経済社会開発の重要な基礎条件であるインフラストラクチャーの整備への支援を重視する」としている。
このように、パプアニューギニアに対するインフラストラクチャー整備への支援は、政府開発援助大綱において重視されており、その方針に沿ったものである。
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政府開発援助に関する中期政策との整合度合い
「政府開発援助に関する中期政策(1999年8月)」では、政府開発援助大綱を踏まえ、その重点課題のひとつとして「経済・社会インフラへの支援」をあげ、「開発途上国の実情に応じ、運輸、通信、電力、河川・灌漑施設等や都市・農村の生活環境などの経済・社会インフラの整備を引き続き支援していく」ものとしている。
また、「地域別援助のあり方」において、パプアニューギニアが属する太平洋地域に対し、「経済改革および民間部門の育成による経済的自立達成の必要性が域内各国の共通認識となっており、各国は行財政改革に自ら努力している」ことを踏まえ、支援に際し重視すべき諸点のひとつとして、「経済・社会活動の基盤となり、島嶼国の抱える地理的拡散性・隔絶性を克服するための経済・社会インフラの整備」があげられている。
以上の通り、パプアニューギニアにおいて1997~2001年度に実施されたインフラ整備への支援は、当中期政策に沿ったものである。
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3.1.2 パプアニューギニアの開発ニーズとの整合性
経済インフラ整備は、パプアニューギニアの地理的課題に対処するものとして、同国の国家計画「中期開発戦略1997-2002」において優先的な政策として位置付けられており、この点、わが国の援助目的と整合している。
また、社会インフラ整備分野において実施された放送、水供給部門への支援は、全国的な交通確保が困難な状況の中で、分散した各地域の生活条件の向上に寄与するものであり、関係機関へのヒアリングにおいても評価されている。
3.1.3 インフラ整備分野に関する国際的な合意
わが国が参加している対大洋州地域の支援に関する国際的な合意としては、APECにおける「大阪行動指針(1995年)」および「APECマニラ行動計画96(MAPA96)」があげられる。
これらにおいては、「経済インフラストラクチャーの改善」等が主要課題としてあげられており、わが国のインフラ整備分野支援は、対大洋州地域の支援に関する国際的な合意と合致しているものと評価される。
3.1.4 まとめ
わが国の対パプアニューギニア・インフラ整備分野への支援は、わが国のODA上位政策、および、大洋州地域に対するインフラ整備にかかわる国際的な合意と合致している。また、パプアニューギニアの開発ニーズとも概ね合致しているものと評価される。
3.2 結果の有効性に関する評価
ここでは、わが国のパプアニューギニアに対するのインフラ整備分野支援が、インフラ整備分野支援の目的である「経済的自立達成」、「島嶼国の抱える地理的拡散性・隔絶性の克服」にとってどの程度有効であったかを評価するため、インプット、アウトプット、中間目標、最終目標の各レベルに分けて検証した。
3.2.1 インプットおよびアウトプット実績
1997年度~2001年度の間に実施されたわが国の援助を分野別にみると、運輸分野において有償と一般無償各1件(合計153.6億円)、道路分野では有償と一般無償各2件(合計155.87億円)、放送分野では一般無償1件(7.95億円)、水供給分野では一般無償1件、開発調査2件と草の根無償6件(合計11.18億円)となっており、総額328.6億円の資金が投入された。その結果として、以下のアウトプットが得られた。
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運輸分野
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使用不可能となった滑走路の代替として、既往未整備滑走路(1,720m)を舗装し、エプロン整備を行い、ラバウル空港に就航していた提供座席数60席の航空機から85席の航空機の就航に対応する空港としての整備がなされた。 |
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2空港の管制施設、航空保安施設が更新された。 |
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2空港のターミナル・ビル計3棟(国内線用2棟、国際線用1棟)が新設された。 |
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72名(海外6名、パプアニューギニア国内OJT66名)の技術研修者を受け入れた。 |
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道路分野
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総延長244.87kmの道路が整備された。この内訳は、道路未整備区間での新設81km、寄贈道路の改良163km、橋の架け替えに伴い改築した取付道路0.87kmである。 |
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25箇所の橋梁が整備された。この内訳は、3箇所は架け替え、その他の22箇所は新設または改良である。 |
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39名の技術研修者(全運輸・交通分野を含む)の受入がなされた。 |
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放送分野
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スタジオ施設1ヶ所、中継所1ヶ所、送信機2式、VHF送信アンテナ1式を建設し、東ニューブリテン州国営ラジオ放送局の施設が一新された。 |
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54名の技術研修者(全通信・放送分野を含む)を受け入れ、その内、NBC所管範囲において1997~2001年の4年間に4名、2週間~2.5ヶ月の技術研修を実施した(NBC資料による)。 |
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水供給分野
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一般無償案件(1件)では、ポンプ・ステーション1箇所、浄水場1箇所、配水池1箇所が建設された。ただし、一部で、パプアニューギニア政府による負担部分が未完成であるため、プロジェクト完了後も本来の機能が発揮されていない。 |
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草の根無償案件6件の内、アウトプットが確認されたのは2件であり、貯水タンク2個の設置が確認された。 |
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3.2.2 中間目標への影響
ここでは、上記のようなインプットおよびアウトプットによって、当該分野における中間目標である「国内交易・交流の推進」及び「地域生活基盤の安定化」がどの程度達成されたのか検証した。中間目標の測定指標の中には、航空旅客運送量等、全国的な経済情勢に影響を受けているものと考えられるものがあり、わが国の援助の直接の効果を測ることができない場合があるが、運輸分野での全国的ネットワーク体系の維持・充実への寄与、道路分野における通行時間の短縮、放送分野の放送受信地域の回復、水供給分野の支援における裨益人口などについては、各分野での効果が確認された。
3.2.3 最終目標への影響(参考)
ここでは、わが国のパプアニューギニアへのインフラ分野への支援が、同国の社会・経済全般に及ぼす波及効果について検証を試みた。パプアニューギニアのODA総額におけるわが国の援助量が小さいため、わが国援助の直接の効果は確認できなかった。また、全国的な指標の動向からみると、パプアニューギニアの経済の健全性・自立性が進展しているとは言い難い。
3.3 プロセスの適切性に関する評価
3.3.1 援助方針の策定および実施における関係者との情報交換・協議
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パプアニューギニア政府との連携・協議の有無
■ 要請前の協議
日本大使館でのヒアリングから、2002年まではパプアニューギニア政府国家計画・地方開発省(DNPRD)とは、要請案件について、概ね4半期毎に実施中の案件の進捗管理を伴せ行う会合の中で公式な協議を行ってきたが、これに加え今年からは公式な政策協議が行われていることが把握できた。日本大使館はこれらの協議を踏まえ要請案件を受理しており、パプアニューギニア政府との協議・連携がなされているものと判断される。
■ 要請プロセス
日本大使館、JICA現地事務所、パプアニューギニア政府及び関係機関へのヒアリング結果から、有償および一般無償については、実施諸機関からパプアニューギニア政府のドナー担当窓口である国家計画・地方開発省(DNPRD)に案件要請が上げられ、国家計画・地方開発省(DNPRD)における内部調整を経た上で、日本大使館に要請するといったプロセスが行われており、案件の選定・採択プロセスは概ね問題がないものと判断される。
草の根無償案件については、地域コミュニティやNGOより直接日本大使館に要請が行われ、大使館で3回の審査を経て、外務省本省での承認を得るプロセスをとっており、概ね問題がないものと判断される。
■ パプアニューギニア政府側による要請案件選定プロセス
日本大使館、JICA現地事務所、パプアニューギニア政府及び関係機関へのヒアリング結果から、国家計画・地方開発省(DNPRD)では、基本的に「中期開発戦略1997-2002」に明示されている重点開発ニーズに基づいて、開発案件のニーズを調整し、案件の重複を避けていることが把握された。但し、昨年まで国家計画・地方開発省(DNPRD)からの要請案件リストに優先順位が付けられていなかったことにより、国家計画・地方開発省(DNPRD)によるパプアニューギニア政府内での調整機能が十分に果たし切れていなかったものと判断される。
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(2) |
JICA、JBICとの連携・協議の有無
日本大使館、JICA、JBICへのヒアリング結果から、国家計画・地方開発省(DNPRD)から要請された案件についてJICA、JBICと協議されていることが確認された。
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(3) |
他のドナーとの連携・協議の有無
日本はパプアニューギニア国の援助政策を企画・立案・実施するにあたって、案件の効率的実施に資すると考えられる場合にのみ他ドナーと情報交換を行っていることが確認されたが公式な定期協議は実施していなかった。
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(4) |
NGO等の民間との連携・協議の有無
日本大使館、現地関係機関へのヒアリング結果から、日本の関係政府機関は、援助の計画策定および実施に際し、NGOとは公式協議を実施していなかったことが把握された。
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3.3.2 インフラ分野の検証メカニズム
日本大使館でのヒアリング結果、完成報告の実施状況等から、現状では草の根無償案件の完了確認や事業効果について一部に書面での確認が得られない案件もあることが把握された。
3.3.3 まとめ
援助方針の策定および実施における関係者との情報交換・協議に関し、国家計画・地方開発省(DNPRD)とは概ね4半期毎に実施中の案件の進捗管理を伴せ行う会合の中で公式な協議を行ってきたが、これに加え今年からは公式な政策協議が行われており、要請案件の選定・採択は概ね問題がないものと判断される。一方、日本大使館はパプアニューギニア政府国家計画・地方開発省(DNPRD)から要請された案件についてJICA事務所と協議しているが、他ドナーと定期的な公式協議は実施していないことが確認された。さらに、検証メカニズムとして、草の根無償案件については、案件の完遂チェックや事業効果について、現状では十分なモニタリングが行えていない可能性がある。
4. パプアニューギニアのインフラ整備分野支援に関わる提言
前項までの評価結果を踏まえ、パプアニューギニアのインフラ整備分野への今後の支援に際し、以下を考慮することが望まれる。
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援助政策の企画・立案・実施における、より一層のドナー間での案件の調整・連携の強化への配慮
日本大使館、JICA、JBICは、支援の効果を高めるために、関係ドナー間で案件選定の連携・調整(例えば、整備事業とメンテナンス事業による役割分担や援助ツールの組み合わせ等)を強化することが望まれる。
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パプアニューギニア政府国家計画・地方開発省(DNPRD)の調整能力向上(キャパシテイ・ビルデイング)のための更なる支援
案件の要請プロセスを円滑にするためにはパプアニューギニア政府国家計画・地方開発省(DNPRD)による調整能力の一層の向上(キャパシテイ・ビルデイング)が必要である。
このための方法として、日本の地方自治体(政令指定都市等)での長期研修等、JICAスキームを利用した国家計画・地方開発省(DNPRD)の研修プログラムの強化が望まれる。
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草の根無償案件の実施状況および援助効果に対するわが国の管理体制強化
草の根無償案件の実施状況および援助効果に対するわが国による管理体制を強化することが必要である。このため、在パプアニューギニア有識者を活用した体制の形成等、草の根無償案件に対する日本大使館の体制強化を図ることが望まれる。
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1 ODA支出純額のため、返済額が新たな借入額を上回る場合、マイナスになる