第4章では、第一に、NGO事業補助金制度の2つの目的、すなわち、「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、「本邦NGOの組織能力を強化する」は、それぞれ、ODA大綱や、ODA中期政策、国別援助計画等の上位概念や、相手国のニーズ等に整合しており、妥当であると評価された。第二に、プロセスについても、本制度の2つの目的や、我が国の法律や規則に整合しており、妥当なプロセスであることが判明した。第三に、NGO事業補助金が交付された具体的事業において、NGO事業補助金の目的(1)、(2)は達成されているとの評価に達した。
また、参考として他の類似のODAスキームとの比較の中で、NGO事業補助金制度は「我が国のNGOの強化育成・支援をはかりつつ」、「きめ細かな援助を可能」にするという独自の特徴を持ち、外務省とNGOの連携という大きな枠組みの中で役割を有していることが確認された。
本章では、第4章の評価の結果に基づき以下の提案を行う。
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4-2で検証したが、NGO事業補助金事業の申請と報告書においては、事業の会計面に関する申請と報告が中心であり、事業の「期待する成果」や「その達成度」の確認が十分でなく、申請から報告まで一貫した把握が可能な様式となっていなかった。さらに、事業審査における「基本的考え方」の4つの基準、すなわち、(A)政府レベルでは対応が困難な草の根レベルの事業であり、途上国住民に対する人道的配慮及び環境保全の観点から配慮がなされており、かつ経済・社会・地域開発、民生の安定につながること、(B)地域社会のニーズが十分把握されていること、(C)地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること、(D)援助効果が対象地域の女性にも裨益するように配慮されていること、により審査ができうる申請書の様式ではなかった。
従って、申請から報告に亘り一貫性を持たせ、事業の「成果」にも重点を置いた、書類様式にする必要がある。具体的には、申請書と報告書の様式について、次の改善を提案する。
「申請書」の改善
■ | 案件概要(1)の「事業の目的及び内容」を400字程度で記載するよう文字数の例示を行う。さらに、「期待する成果」、「成果達成をはかるための指標」(定量的・定性的)もその中で記述するものとする。 |
■ | 案件概要(2)に、審査に際し重要となる「基本的考え方」の4つの視点を盛り込む。すなわち、「草の根レベルの事業としての特徴、プロジェクトの選定理由」「地域社会のニーズ(地域・地区の開発計画を添付する)」「計画段階、実施段階、実施後の住民参加の度合い」「女性の裨益」をその記載項目に追加する。また、「プロジェクトの背景と必要性」に、継続案件である事業の場合は本年度の位置づけを明確に記入するものとする(別添8:申請書の案件概要フォーマット改善案を参照)。 |
「事業完了報告書」の改善
■ | 「成果」の達成度を明らかにするために、報告書のフォーマットについて、現在の但し書きに、以下を追加する。 「地域ごとの成果(申請書に記載した「期待する成果」とその達成度)」、「プロジェクトの自己評価(計画の妥当性、効率性(時間、費用)、有効性、インパクト、自立発展性)(定量的+定性的)」、「今後の方針」を記述すること。」 |
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4-2で検証したように、申請事業の審査の際の4つの基準は適切なものであった。しかしながらこの4つの基準に優先順位は無かった。4-3-1で検証したように、ケーススタディとして取り上げた4事業(4団体)では、「地域社会のニーズが十分把握されていること」「地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること」の2項目の達成度、すなわち、「地域住民のニーズにかなった事業であったか?」「地域住民の参加が得られ、自立発展性があったか?」ということについては、各事業によって差異が見られた。例えば、前者については、現状のプロジェクトに関しては、対象受益者のニーズは把握しているが、当該周辺地域との比較の上での緊急度、優先度など明確でないものが多かった。また、後者については、プロジェクトへの住民の参加はあったが、住民による地域レベルの自主的な活動にまで、達しているか否かは相違が見られた。従って次ぎのことを提案したい。
審査基準における優先付け
■ | 申請事業の審査に当たり、4つの基準のなかでも「地域社会のニーズが十分把握されていること」「地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること」の2項目に優先順位をおき、審査することを提案する。これにより、目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しいきめこまかな援助を可能にする」ことの達成度が高まると思われる。 |
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4-2で検証したように、近年ODAの透明性が求められていく中で制度の応募要領等についてはホームページで詳細に公開され、さらに、平成14年度より申請団体の状況や、採択状況等のプロセスの進捗情報に関する情報は、外務省のホームページでの情報公開が行われるようになり、情報公開に積極的に対応している。しかし、事業の成果報告に関してはNGOのホームページで公開することしか義務付けられておらず外務省の情報公開としては不十分である。しかし、事業の成果の公開も重要であり、次のことを提案する。
事業結果の報告と公開
■ | ODA大綱の「内外の支持を得る方法」でも述べられており、国民に対するNGO事業補助金制度のPRのために、簡単にPRできる配布資料を用意し外務省の関連機関に置いたり、国際協力フェスティバル等の場を利用して、広報を充実させる。 |
■ | ODA中期政策の「情報公開の推進」の項にも「情報公開の幅を広げるだけでなく、より分かり易く、使いやすい形での情報提供に努め、また、インターネット等の積極的な活用により情報へのアクセスを改善する」とあるように、提出される報告書等の情報をより有効に活用するために、情報の電子化、データベース化を進め、自由に検索、閲覧が可能なシステムつくりを開始する。 |
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4-3で検証したように、モニタリング・評価はNGO事業補助金の一連のプロセスの中には、含まれていなかった。しかし、モニタリング・評価はODAをより効果的・効率的に実施するためのツールとして、その重要性が認識されており、現在行われている一連のODA改革の中でも大きな柱のひとつである。また、我が国の法・規則に基づいた、補助金の適正使用の確認のためにも、また、目的(1)、(2)の達成度を確認するためにもモニタリング・評価は必要である。
モニタリング・評価の実施に当たっては、対外経済協力関係閣僚会議の幹事会申し合わせ「ODAの透明性・効率性の向上について」(2000年11月27日)の中で、「実施体制の整備」の項で、「現地大使館及び実施機関の現地事務所の機能・体制の強化-途上国の実情・ニーズを最もよく把握しうる現地大使館や実施機関の現地事務所を積極的に活用し、その機能及び体制の強化に努める。」とあるように、現地大使館を活用することが重要である。しかしながら現在外務省で実施されているNGO事業補助金事業に対するモニタリング・評価活動は、規模及び実効性の面で限定的であり、その費用と効果の面から非効率であると思われる。
一方、事業実施者であるNGO側もプロジェクトの公開性を担保するためにも、ドナーからのチェックが重要になってきており、また公的資金のあり方を見なおすためにも、NGO自身によるモニタリング・評価が重要である。従って、以下のことを提案したい。
NGOによる自己評価の義務づけ
■ | 事業完了報告の際にNGO自身による評価を義務付ける。そこでは申請時に明記された「期待される成果」とその達成度、及び事業によるインパクトについての評価は必ず含むこととする。この活動は、ドナーに対するアカウンタビリティ(説明責任)の強化、情報公開の促進のみならず、この活動を通じてのNGO組織能力の強化にも貢献すると思われる。 |
現地大使館におけるモニタリング・評価の実施
■ | 現地大使館においてモニタリング・評価を行う。具体的には、現地大使館にてNGO担当のローカルスタッフを採用し、そのスタッフがプロジェクトを半年に一度は訪問し、事業進捗確認、情報交換を行い事業の改善を支援することが、より効果的かつ効率的な方法であろう。また現地大使館のスタッフに限りがある場合は、評価専門のコンサルタントや、ローカルコンサルタントなどの外部専門家を活用することにより、現地大使館のモニタリング・評価機能の強化を進めることも可能である。 |
調査団所感
外務省とNGO及び調査団との連絡調整の強化
今回の共同評価調査は、外務省とNGOの共同評価の第4回目であるが、共同評価調査の実施に関する外務省側とNGO側の連絡調整不足により、今次調査への関西NGOの参加が得られなかった。また、現地調査前に、調査の方法論の確定するための調整が不十分であった。これらは、効率的な調査をすすめるために重要であり、調整が十分に行われていれば、より質の高い調査を行うことが可能であったと思われる。