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要   約

第1章 調査方針

本調査である2002年度「外務省・NGO共同評価」は、外務省とNGOの連携事業のひとつである「NGO事業補助金制度」を評価対象とし、本制度をその目的、プロセス、効果から総合的に評価し、今後のNGOと外務省の協力・連携のあり方についての提言を行うことを目的としている。

本調査ではNGO事業補助金制度を以下のA.目的、B.プロセス、C.効果の3つの視点から分析し評価を行った。

A.  目的(NGO事業補助金制度の目的が妥当であったか?): NGO事業補助金制度の目的((1)「被援助国に対して国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」)の妥当性について検証した。
B.  プロセス(NGO事業補助金制度のプロセスの適切性・効率性はどうか?): NGO事業補助金制度の(1)申請手続き、(2)書類審査と採択の通知、(3)完了報告書、補助金の支払い、という一連のプロセスについて、適切性、効率性を検証した。
C.  効果(NGO補助金制度の目的が達成されたか?): 補助金制度で行われたプロジェクトにおいて、NGO事業補助金制度の目的((1)「被援助国に対して国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」)が達成されたか、分析した。

NGO事業補助金制度の評価の視点

対象国及び分野に関しては、NGO事業補助金制度において最も実績のある国のひとつであるフィリピン国の保健分野に絞ることとし、また、NGO事業補助金制度の中の3つのスキームのうち、「開発協力事業」に限定して調査を行った。「国際ボランティア補償支援制度」「NGO海外研修支援制度」は調査対象外とした。上記基準を満たす調査対象となるNGO事業補助金交付プロジェクトは9事業(9団体)であったが、実際の調査協力を得られた団体は7事業(7団体)で、そのうち4事業(4団体)については実際のプロジェクト現場の視察を含む現地調査を行った。

第2章 フィリピンの保健政策

フィリピンの保健医療分野の第一の特徴としては、人口増加率及び妊産婦死亡率の高さが挙げられる。一方で、人口増加率は、依然として2%を超える水準に留まっており、人口抑制は引き続き重点課題となっている。第二に、10大死亡原因を見ると、感染症と共に生活習慣病も増加傾向であり、途上国の問題と先進国の健康問題が混在している様子が伺える。第三に、乳幼児死亡率は減少の傾向にあるものの、呼吸器系感染症や下痢、栄養失調など予防可能な疾患で死亡する乳幼児が多いことである。第四は、特に地域間格差が大きいことである。

これらの背景には、1991年に制定された地方自治体法(Local Government Code: RA7160)により、保健行政が中央の保健省から、地方自治体の保健局に移管されたが、一方で、地方自治体が保健行政の実施を十分に行えるだけの財政的基盤や組織制度、人材などが十分に整備されていない状況が挙げられる。加えて医療従事者の不足や、貧困層における健康保険カバー率の低さなどの問題も存在する。これが、保健医療サービスの地域間格差や、保健医療サービスへのアクセス、標準、サービスの質における格差などを生じる原因となっている。

フィリピン政府は現在、1999年に発表された「保健改革アジェンダ」の実施期間中であり、それによると、(1)公立病院の独立採算性の導入、(2)優先順位の高い公衆衛生(保健)プログラムに対する予算の確保、(3)地域保健システムの開発とその効率的な実施の促進、(4)保健行政の能力強化、(5)保健医療サービスの質の向上、(6)国家健康保険プログラムの普及、の6つが保健改革として取り組まれている。

このような状況下、NGOはフィリピン保健分野において重要な役割を担ってきた。特に、前述の地方自治法(RA7160)によって、NGOを積極的に地方自治に取り込んでいくことが立法化されて以降、NGOの地方自治における参加は促進された。フィリピンには3,000~5,000のNGOがあるといわれるが、保健分野においても活発に活動している。

第3章 NGO事業補助金制度の概要

NGO事業補助金制度は、日本のODA事業の一環として、NGOによる途上国での開発協力事業に対する公的資金協力支援として、1989年度に創設された。その背景には、「開発途上国に対し開発協力を積極的に推進する十分な意欲を持ちながら、安定した財政基盤を持たない日本のNGOに対してその活動資金の一部へ政府が財政支援することにより、国家レベルの協力では十分に手の届かない開発ニーズへNGO活動を通じて対応し、また国民参加による国際協力を推進する重要性に応える」との認識が高まったことがあった。NGO事業補助金制度は、(1)開発協力事業(1989年度より)、(2)国際ボランティア補償支援制度(1994年度より)、(3)NGO海外研修支援制度(1999年度より)の3つに分類される。

今回の調査対象である開発協力事業とは、医療、農漁村開発、人材育成など一定分野で本邦NGOが実施する開発協力活動に対し、施設建設費、専門家人件費及び専門家等派遣旅費(あるいは派遣旅費)、資機材設備費など定められた経費について一定割合を補助する制度である。制度の目的は2つあり、(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」である。

NGO事業補助金制度のプロセスは、(1)申請手続き、(2)書類審査、採択の決定、(3)完了報告書、補助金の支払いから成る。そして、(4)プロセス全体を通じて関連する情報公開が課されている。補助金交付を受けるNGO事業の事業実施期間はその年の4月から翌年3月までであり、その期間内であれば、実施期間や実施時期については、制度上は特段の規定は設けていない。事業によっては前年度からの継続事業もあれば、数週間だけの短期事業もある。

補助金申請・応募より、審査、完了報告、補助金支払いまでのスケジュールは概ね次の通りである。

スケジュール

第4章 評価

第4章では、目的の妥当性、プロセスの適切性および効率性、効果(目的の達成度等)について、検討を行った。

4-1 NGO事業補助金制度の目的の評価

NGO事業補助金の2つの目的、すなわち目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」について、目的の妥当性の視点から検討した。目的(1)については、ODA大綱、ODA中期政策、我が国の国別援助計画という上位概念との整合性と、また、相手国のニーズとの整合性を検証した。目的(2)については、ODA大綱、ODA中期政策の上位概念との整合性を検討した。

4-1-1 目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする。」の妥当性

(1)上位概念(ODA大綱・中期政策・国別援助計画)との整合性

目的(1)の妥当性について検証した。第一に、1992年6月のODA大綱によれば、「政府開発援助の効果的実施のための方策」の中で、「必要に応じ、他の先進国の援助機関、国連諸機関、国際金融機関、我が国の地方公共団体及び労働団体、経営者団体その他の民間援助団体等との適切な連携・協調を図る。特に、国際機関を通ずる協力については…(略)…。また、民間援助団体(NGO)との連携を図ると共に、その自主性を尊重しつつ、適切な支援を行う。」とされ、ODAとNGOの連携・協調が挙げられている。

第二に、1999年8月に作成された「政府開発援助に関する中期政策(ODA中期政策)」では、「基本的考え方」において、「開発効果を高めるためには、開発途上国、先進国、国際機関、民間援助機関(NGO)など、あらゆる主体の持つ利用可能な資源との役割分担と連帯を図る包括的取り組みが必要である。」とし、また「開発援助を進めていく上で、納税者である国民の理解や支持が得られるように、我が国の‘顔の見える’援助を積極的に展開し、被援助国においても我が国の援助に対する認識と理解の推進に一層努めることが必要である。…(略)・・・ また、大学、シンクタンク、地方自治体、NGO等による国民参加型の協力の推進に努め、民間部門を含めた我が国自身の経験や、技術、ノウハウの一層の活用を図る。」と述べている。さらに、「ODAの実施にあたって」では「NGO等への支援及び連携」という項目が立てられ、「開発途上国に対する協力においては、貧困対策等社会開発面や環境保全分野での協力の比重が増すにつれ、住民に直接行き渡るきめ細かな援助への需要が増加している。その結果、民間援助団体(NGO)の果たす役割が重要となってきており、援助実施に当ってNGOとの連携の必要性が著しく高まっている。」とされ、きめ細かな援助への需要に応ずるためのNGO活動の重要性が述べられている。

第三に、現在の我が国の対フィリピン援助政策との整合性であるが、外務省が作成している国別援助計画(フィリピン)(2000年8月3日)においても、NGO支援及び連携については、次のように指摘されている。「我が国援助の目指すべき方向」の項目の中で、「資金の有効活用の点から、円借款、無償資金協力、技術協力の一層の連携促進に留意する。また、民間資金、ODA以外の公的資金との役割分担や連携にも考慮する。」とされ、「援助実施上の留意点」の項目の中でも、「NGOとの連携」が掲げられている。このように、フィリピンにおいてNGO補助金の目的(1)は、上位概念との整合性が取れており、妥当性があるといえる。

以上のように、この目的(1)「きめ細かな援助を行うため」は、ODA大綱や、中期政策、国別援助計画の上位概念に整合し、妥当である。

(2)相手国のニーズとの整合性

NGO事業補助金制度の目的(1)「国家レベルでは対応が難しいきめ細かい援助を実施する」が相手国のニーズと整合しているかについて検討した。

フィリピンの保健セクターにおいては、1991年に制定された地方自治体法(Local Government Code : RA 7160)により、保健行政が地方自治体である州保健局に移管されるとともに、同法律の中でNGOを積極的に地方行政の中に取り組んでいくことが立法化され、NGOの地方行政での役割が期待されている。フィリピン政府が1999年に発表した保健改革アジェンダにおいても、保健セクターのパフォーマンス向上のために、地方自治体やNGO、その他の国家機関等との連携を図ることが述べられている。

従って、目的(1)は、フィリピンの保健セクターの現状に照らし合わせた場合、そのニーズに合致しているといえる。

4-1-2 目的(2)「本邦NGOの組織基盤を強化する」の妥当性

(1)上位概念との整合性

次に、本事業の目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」とODA大綱、ODA中期政策等の上位概念との整合性を検証した。

ODAとNGOとの連携、支援の妥当性については、第一に、ODA大綱で述べられている。「政府開発援助の効果的実施のための方策」の中で、「また、民間援助団体(NGO)との連携を図ると共に、その自主性を尊重しつつ、適切な支援を行う。」とされ、NGO支援が掲げられており、目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」は、これに整合し妥当である。

第二に、1999年8月のODA中期政策の「ODAの実施にあたって」において、5つの配慮点が掲げられている。(1)NGOとの対話、(2)支援策の拡充、(3)連携の強化、(4)NGOの財政基盤、及び(5)組織基盤の強化に対して支援を行うことが挙げられている。従って、目的(2)は、ODA中期政策に整合し、妥当である。

4-1-3 2つの目的の妥当性のまとめ

まず、目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」は、ODA大綱、ODA中期政策、国別援助計画に整合しており、妥当であった。また、フィリピンの保健セクターにおいてもきめ細かな援助を実施することに対するニーズはあり、目的(1)はそれに対応するものであり、妥当であった。次に目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」については、ODA大綱、ODA中期政策にと整合しており、妥当であった。

以上より本制度の、2つの目的は、妥当であったといえよう。

4-2 NGO事業補助金のプロセスの評価

NGO事業補助金制度のプロセスの概要は第3章で述べたように、(1)申請手続き、(2)書類審査と採択の通知、(3)完了報告書、補助金の支払い、(4)プロセス全体を通じての関連する情報公開から成り、それぞれの手続きの概要は以下の通りである。

(1) 申請手続きに関連して、募集要領にA.応募要件、B.補助金交付の条件、C.申請書類、が定められている。
主なA.応募要件は、「我が国のNGOで自ら人員を派遣して、ODA対象国である途上国で開発協力事業を行っている団体であること」、「対象事業の種類は11種類に分かれており、農漁村開発、人材育成、女性自立、保健衛生、医療、地域産業向上、生活環境改善、地域総合振興など」、「対象事業の要件として、単年度事業であること」、「常時連絡可能な責任者がいること」等である。
主なB.補助金交付の条件は、「同一事業への支援は原則3年まで、合理的理由があるときは5年まで」、「補助金の補助率及び交付上限額は2分の1以下、1事業1,000万円まで、1団体としては5,000万円まで」、「補助対象経費の費用項目も多様で、特に、人件費、渡航費、事業管理費を認めている」である。
主な、C. 申請書類は、所定の申請書、事業計画明細書、見積書、案件概要などの事業に関する書類と、団体概要、団体設立趣意書、定款、寄付行為、規則等、過去2年間の事業及び収支報告書、役員名簿等の団体に関する書類である。
(2) 書類審査と採択通知が行われる。審査に当たり、開発協力事業の適性と団体の適性が考慮される。
(3) 事業実施後は完了報告を提出し、補助金金額の確定後、支払いが行われる。
(4) 申請・採択状況の情報公開、事業完了報告書の公開。

NGO事業補助金のプロセス

4-2-1 プロセスの適切性

(1)申請手続き、(2)書類審査と採択の通知、(3)完了報告書、補助金の支払い、(4)プロセス全体を通じての関連する情報公開、の各手続きの妥当性について、本制度の各手続きと本制度の目的、我が国の上位概念(ODA大綱、ODA中期政策)、我が国の法・規則との整合性という評価基準に基づき、評価を行った。

(1)申請手続き

A. 主な応募要件については、国の補助金を交付する上での法律や、目的(1)、(2)と整合しており、妥当であった。
B. 補助金交付のための条件は、目的(1)、(2)に整合しており、妥当であった。

申請書書類は、目的(1)や関連する法律に整合しており妥当であった。しかしながら、申請書のフォーマットは、審査の際の基本的考え方を反映したフォーマットには必ずしもなっていなかった。例えば、申請書類のひとつである案件概要(2)では、「住民、現地政府・自治体、その他関係機関等からの要望状況・内容」、「今回の申請事業の継続予定年数、現地住民・団体等への引継ぎ予定」「事業の年間スケジュール」を記載が定められている。しかし、目的(1)の4つの審査基準、例えば、「草の根レベルの事業としての特徴」や、「計画、実施における住民参加」、「女性の裨益」等を記載する項目が無く、必ずしも審査の考え方を反映するようなフォーマットになっていなかった。この点、妥当性は低いと考えられる。

また、案件概要(1)では、「目的」「内容」を記載する様式になっているが、プロジェクトの「成果」に関する説明を求めていない。そもそも、補助金事業は補助金金額の確定に当たり、「成果の報告を受け、その成果が補助金等の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合するものであるかを調査し、適合すると認めたときは、交付すべき補助金等の額を決定し、」(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律)とあり、成果の確認は補助金額の決定に当たり、重要なものである。しかしながら、現在の案件概要(1)の様式の中には「期待する成果」を記載するフォーマットとはなっていない。プロジェクト計画時に「期待する成果」がきちんと把握され認識されていなければ、当然のことながら事業完了時において、計画時と比べて「期待される成果」がどれだけ達成されたのかをはかることは困難となろう。従って、同法に照らし合わせた場合、案件概要(1)は様式についての妥当性が低いと思われる。

(2)書類審査と採択の通知

補助金交付の審査は、以下の4つの基本的な考え方をベースに、事業の適性と団体の適性を審査することになっている。

・基本的な考え方

(A) 政府レベルでは対応が困難な草の根レベルの事業であり、途上国住民に対する人道的配慮及び環境保護の観点からの配慮がなされており、かつ、経済・社会・地域開発、民生の安定につながること(わが国NGOが途上国NGO、政府等と協力して行う事業も対象とする)。
(B) 地域社会のニーズが十分把握されていること。
(C) 地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること。
(D) 援助の効果が対象地域の女性にも被益するよう配慮されていること。

上記の4つの基本的な考え方は、目的(1)やODA大綱に整合し妥当であるといえる。

団体の審査基準については、以下の項目を総合的に審査し交付対象事業を決定する。「(1)団体として事業遂行・組織管理能力(団体の実績、財政規模、職員数等を含む)、(2)事業内容、(3)経費積算、(4)従事する要員、(5)総合的評価、とある。前年度の完了実績報告書や事業の内容等、本補助金を受けて実施した過去の事業内容や事務処理状況等も、翌年度以降の補助金審査の参考とする」、としている。これは、補助金の適正支出を確保するためのものであり、妥当であろう。

(3)完了報告書、補助金の支払い

本手続きは、事業完了後に事業完了報告書の提出を義務付けているものである。完了報告書の様式は、次の報告を行うとしている。「1.補助事業の名称、2.補助金の交付決定額およびその精算額(別紙のとおり)、3.補助事業の実施機関、4.補助事業の成果(「備考」として、「必要に応じ図面等を添付してその将来を明らかにすること」)」。現状では会計報告についての様式は別添として細かく定められているが、その他は自由記述となっている。

この評価であるが、完了報告書の様式で、会計報告を重視している点に関しては、会計報告は「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」に基づいて補助金額の確定のために行われる手続きであり、また、これに基づき支払いが行われるため妥当であろう。一方、同法律では、補助金事業の成果が外務省によって承認された事業内容や計画、補助金事業の条件や目的等と照らし合わせて、適合するものであるかどうかを確認した上で、補助金額の確定を行うことと定められている。しかしながら、補助金事業の成果について、現在は各NGO団体の任意な様式による報告になっており、具体的な事業成果の報告を行うための形式を詳しく定めていない。補助金の成果を明確にする報告書を求めていない点、妥当性が低いと考えられる。

また、事業の成果を測るためにも、モニタリング・評価は重要な役割を果たしていると考えられるが、現在の手続きの中には盛り込まれていない。プロジェクトの申請で掲げた成果や目標の達成度合を確認し、成果を確保するためにモニタリング・評価を行うことは必要なことであり、そうすることで、ODA中期政策やODA改革の流れに合致しより上位概念との妥当性が高まるであろう。

(4)情報公開

平成14年度からのNGO事業補助金の募集では、より透明性を高めるために、例えば、申請締め切り時における申請状況の公開、補助金交付決定段階における案件概要の公開等の申請時、採択時の情報公開をすすめ、また、事業完了報告書のNGOのホームページによる公開を推進している。これは、ODA中期政策の「実施・運用上の留意点」の中で、「プロジェクトの入札プロセスに関する情報、個々の案件に関する関連情報の一層の公開に努める」に対応しており妥当であろう。

しかし、事業結果の報告について、完了報告書をNGOがホームページで公開することを義務付けているが、これは外務省の情報公開とは言えず、不十分であろう。外務省側にも情報を電子データで蓄積していく必要性は大きい。関連して、電子データで情報を蓄積することにより、事業担当者以外の者が、事業毎の年度を亘る情報閲覧を行うことが可能となり事務の効率化・透明性の向上にも繋がるであろう。

以上のように、一連のプロセスすなわち、(1)申請手続き、(2)書類審査と採択の通知、(3)完了報告書、補助金の支払い、(4)プロセス全体を通じての関連する情報の公開は、我が国の補助金制度という枠組みに従い、目的(1)「国家レベルの協力では対応が難しいきめこまかな援助を行う」、目的(2)「我が国のNGOの組織能力を強化する」に整合しており、適切であった。しかし一方で、手続き的にも形式的にも補助金金額の確定に重点が置かれ、活動の成果については申請書においても、報告書においても、不十分な様式であると判断された。成果の面についても申請から報告に当たり、一貫して確認するための様式設定が必要であろう。

4-2-2 プロセスの効率性

全体的に、国の補助金事業という枠組みと募集要領で定めたスケジュールの下で、時間的にも、コスト的にも効率的に行われていた。しかし、書類の不備、書き直しという点で多少の無駄も見られたので、より効率的な実施のためには、NGO側の事務能力の強化が必要であろう。

4-3 NGO事業補助金制度の効果の評価

本制度は、「外務省とNGOとの連携」という上位目標の下、2つの目的、(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」、(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」を有していた。NGO事業補助金制度の効果を確認するために、具体的交付先の事業をケーススタディーとして、目的(1)(2)が達成されたのか検討した。目的(1)の達成度については質問票1と現地調査により検討した。目的(2)の達成度については、質問票2と、現地事業において日本のNGOの組織能力の強化が具現されているのかという点に基づき検討を行った。これら目的(1)(2)の達成度をもって、効果を計ることとした。

4-3-1 目的(1)「被援助国に対して、ODAでは対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」の達成度

ここでは、補助金の交付先の4団体の事業を事例1に、目的(1)が達成されたかを検討した。検証に際しての、評価の項目は、募集要領の審査方法の「基本的考え方」で掲げられるきめ細かい援助を可能にするための4つの項目に分けて考察した。すなわち、(A)政府レベルでは対応が困難な草の根レベルの事業であり、途上国住民に対する人道的配慮及び環境保全の観点から配慮がなされており、かつ経済・社会・地域開発、民生の安定につながること、(B)地域社会のニーズが十分把握されていること、(C)地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること、(D)援助効果が対象地域の女性にも裨益するように配慮されていること、という4項目について、検証を行った。その際、(A)については、「草の根レベルの成果が出ているか」、(B)については「地域住民のニーズにかなった事業であったか」(C)は、「地域住民の参加が得られ、自立発展性があったか」(D)は、「女性の裨益効果があったか」という基準で、それぞれ評価を行った(事業の概要は参考情報1(NGO事業補助金事業の事例)を参照。また上記4項目に基づく評価は、本文第4章P4-21~22の表4-1にもまとめた)。

(1)草の根レベルの成果がでているか?

第一に、「草の根レベルの成果が出ているか」についての評価方法は、利益が直接的に指導者や意思決定者でなく地域の一般住民レベルに結びついているかという視点で評価を行った。その結果、評価を行った4事業とも、国レベルでは支援が行われにくい事業であったり、地域住民に直接支援を行うものであり、草の根レベルで事業の成果が達成されていた(具体的事例は本文第4章P4-15~4-16参照)。

(2)地域住民のニーズにかなった事業であったか?

第二に、「地域住民のニーズが十分把握されていたのか」という点については、プロジェクトが住民のニーズを反映するものであったか、現在もニーズがあるか、という点で、評価を行った。 その結果、計画当初地域住民のニーズが把握されていたといえるが、継続事業の場合、現在のニーズについての検討が不十分である事例が見られた(具体的事例は本文第4章P4-17参照)。

(3)地域住民の参加が得られ、自立発展性があったか?

第三に「地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること」については、住民が事業に参加し、我が国のNGOや、現地カウンターパートが住民の自立を促す事業を行っているか、検討した。その結果、住民の参加がいずれの事業においても見られたが、住民の主体的な自立発展的な活動につながったかという点においては、団体により差異が見られた(具体的事例は本文第4章P4-18~4-19参照)。

(4)女性の裨益効果があったか?

第四に、「援助の効果が対象地域の女性にも裨益するように配慮されていること」については、女性がプロジェクトの便益を受けているかという点で評価を行った。その結果、女性が事業へ参加し、便益を享受していたといえる(具体的事例は本文第4章P4-19~4-20参照)。

以上のように、NGO事業補助金制度の開発事業に関しての「基本的考え方」の4つの基準が4事業において確実に達成されていた。すなわち、一般の住民が直接の対象となり、便益を受けており、地域のニーズのあるところで活動し、住民の参加や自立発展性が見られ、女性も裨益していた。従って、目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しい、きめ細かな援助を可能にする」は達成されていたといえる。

しかし、「地域住民のニーズにかなった事業であったか」「地域住民の参加が得られ、自立発展性があったか」の達成度については、NGOの事業により差異が見られた。従って、事業の審査に当たり、事業の成果を高めるために、この2項目について重点を置くことが重要であろう。

4-3-2 目的(2)「本邦NGOの組織能力の強化」の達成度

ここでは、目的(2)が達成されたかについて、補助金交付先の9団体2(対象9団体については別添6を参照)に対して、アンケート調査(9団体のうち7団体から回答有り)及びインタビュー等を通じて、実際にNGO事業補助金がNGOの組織強化に役立っているかを検討することとした。ちなみに、NGOの組織能力の強化は、NGO事業補助金のみにより達成されるわけはなく、組織能力の強化をNGO事業補助金のみの成果として判断することは難しいが、「NGO事業補助金の交付を受けている間に組織能力の強化につながったか」というレベルで評価を行った。最後に、ケーススタディとしてそのNGOの行う具体的な現地の開発事業4事業3の組織能力、財政能力についても検証した。

具体的に、NGO 9団体への質問票による調査(別添10参照)を中心に行った。実際に組織能力・財政能力が強化されたかとの問いに対して、NGO事業補助金を受け取った結果として、約半数のNGOが達成されたと評価している。

財政基盤の強化については、7団体中4団体が財政基盤の強化に繋がったと応えており、一定のNGOに対しては、財政基盤の強化に貢献したといえる。例えば、AMDAは、「NGO事業補助金は開発事業の2分の1以下しか交付されないので、自己資金を集める必要があり、それを通じて自らの資金獲得能力が向上し、財政基盤が整備された。」と回答している。つまり、NGO事業補助金を通じて、補助金の補助率が2分の1であるというプロセスを経ることによって、自らの組織能力を向上することができたと評価している。従って、目的(2)は、4団体においては、達成されていた。また、組織能力の強化についても、7団体中、4団体が強化されたと回答している。一方、2団体が無し、1団体が「今後の課題:中長期的視点で組織能力の強化を図っていきたい」と回答している。

以上のことから、NGO事業補助金の目的(2)「本邦NGOの組織能力を強化する」は一定NGOにおいて達成されていた。

さらにケーススタディとして、NGO事業補助金交付4事業を取り上げ、当該4事業のプロジェクト現場の現地調査、及び事業実施NGO、現地カウンターパート、受益者等のプロジェクト関係者へのインタビュー等を実施し、現地での開発協力事業に組織能力及び財政能力の強化がどのように具現化されているのかを検証した。検証に当たっては、開発協力事業を行うことで、NGOの中に「人、資金、情報をより上手くマネージする能力」を蓄積することが出来たかという点につき、以下の4つの視点に基づいて見極めを行った。

(1) 良い効果を生むプロジェクトを実施するプロジェクト運営能力の強化、スタッフの育成・経験の蓄積を積む。また、それらを「組織体制の強化」として体現する。
(2) 資金調達力、社会に活動をアピールする力をみがくことができたか?→会員・支援者の獲得。相手側の視点から日本社会のあり方・協力の仕方を考えてもらう。社会にNGOを国際協力の必須のアクターとして認知させる→ODA、国際機関、あらゆる助成団体と対等で双方向の関係作り。
(3) 現地との草の根レベルのネットワークの強化をはかり、現地の本当のニーズや問題点、問題解決能力を持った主体を把握し、国際協力・連携の中味を深めることができたか。
(4) 活動を通じて得た経験、教訓、情報を通じて、ODAなど他の援助活動や国際協力のあり方への提言活動をより豊富にさせることができたか。

調査結果は、ほぼこれらのことが今回の調査対象の4つのNGO事業において達成されていたことが確認された(具体的事例は本文第4章P4-25~4-26参照)。

第5章 提言

本章では、第4章の評価の結果に基づき以下の提案を行う。

提言1: 手続きの適切性を向上させるための提案 =申請書と報告書の様式の改善

NGO事業補助金事業の申請と報告書においては、事業の会計面に関する申請と報告が中心であり、事業の「期待する成果」や「その達成度」の確認が十分でなく、申請から報告まで一貫した把握が可能な様式となっていなかった。さらに、事業審査における「基本的考え方」の4つの基準4 により審査ができうる申請書の様式ではなかった。従って、申請から報告に亘り一貫性を持たせ、事業の「成果」にも重点を置いた、書類様式にする必要がある。具体的には、申請書と報告書の様式について、次の改善を提案する。

「申請書」の改善

案件概要(1)の「事業の目的及び内容」を400字程度で記載するよう文字数の例示を行う。さらに、「期待する成果」、「成果達成をはかるための指標」(定量的・定性的)もその中で記述するものとする。
案件概要(2)に、審査に際し重要となる「基本的考え方」の4つの視点を盛り込む。すなわち、「草の根レベルの事業としての特徴、プロジェクトの選定理由」「地域社会のニーズ(地域・地区の開発計画を添付する)」「計画段階、実施段階、実施後の住民参加の度合い」「女性の裨益」をその記載項目に追加する。また、「プロジェクトの背景と必要性」に、継続案件である事業の場合は本年度の位置づけを明確に記入するものとする(別添8:申請書の案件概要フォーマット改善案を参照)。

「事業完了報告書」の改善

「成果」の達成度を明らかにするために、報告書のフォーマットについて、現在の但し書きに、以下を追加する。
「地域ごとの成果(申請書に記載した「期待する成果」とその達成度)」、「プロジェクトの自己評価(計画の妥当性、効率性(時間、費用)、有効性、インパクト、自立発展性)(定量的+定性的)」、「今後の方針」を記述すること。

提言2: 目的(1)の効果を高めるための提言 =事業の審査基準の4項目の中で、「地域社会のニーズが十分把握されていること。」「地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること。」への優先順位付け。

申請事業の審査の際の4つの基準は適切なものであったが、4つの基準に優先順位は無かった。ケーススタディとして取り上げた4事業(4団体)においては、「地域社会のニーズが十分把握されていること」「地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること」の2項目の達成度は、各事業によって差異が見られた。従って次ぎのことを提案したい。

審査基準における優先付け

申請事業の審査に当たり、4つの基準のなかでも「地域社会のニーズが十分把握されていること」「地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること」の2項目に優先順位をおき、審査することを提案する。これにより、目的(1)「被援助国に対して、国家レベルの協力では対応が難しいきめこまかな援助を可能にする」ことの達成度が高まると思われる。

提言3: プロセスの適切性の向上のための提言 =事業結果の報告と公開

近年ODAの透明性が求められていく中で、応募要領等の公開、申請団体の状況や、採択状況等のプロセスの進捗情報に関する情報は、外務省のホームページでの情報公開が行われるなど改善されつつはあるものの、事業の成果報告に関してはNGOのホームページで公開することしか義務付けられておらず、外務省の情報公開としては不十分である。事業の成果の公開も重要であり、次のことを提案する。

事業結果の報告と公開

ODA大綱の「内外の支持を得る方法」でも述べられており、国民に対するNGO事業補助金制度のPRのために、簡単にPRできる配布資料を用意し外務省の関連機関に置いたり、国際協力フェスティバル等の場を利用して、広報を充実させる。
ODA中期政策の「情報公開の推進」の項にも「情報公開の幅を広げるだけでなく、より分かり易く、使いやすい形での情報提供に努め、また、インターネット等の積極的な活用により情報へのアクセスを改善する」とあるように、提出される報告書等の情報をより有効に活用するために、情報の電子化、データベース化を進め、自由に検索、閲覧が可能なシステムつくりを開始する。

提言4: 効率的・効果的な事業実施のための体制強化 =モニタリング・評価の導入

モニタリング・評価はNGO事業補助金の一連のプロセスの中には、含まれていなかった。また現在外務省で実施されているNGO事業補助金事業に対するモニタリング・評価活動は、規模及び実効性の面で限定的であり、その費用と効果の面から非効率であると思われる。 一方、事業実施者であるNGO側もプロジェクトの公開性を担保するためにも、ドナーからのチェックが重要になってきており、また公的資金のあり方を見なおすためにも、NGO自身によるモニタリング・評価が重要である。従って、以下のことを提案したい。

NGOによる自己評価の義務づけ

事業完了報告の際にNGO自身による評価を義務付ける。そこでは申請時に明記された「期待される成果」とその達成度、及び事業によるインパクトについての評価は必ず含むこととする。この活動は、ドナーに対するアカウンタビリティ(説明責任)の強化、情報公開の促進のみならず、この活動を通じてのNGO組織能力の強化にも貢献すると思われる。

現地大使館におけるモニタリング・評価の実施

現地大使館においてモニタリング・評価を行う。具体的には、現地大使館にてNGO担当のローカルスタッフを採用し、そのスタッフがプロジェクトを半年に一度は訪問し、事業進捗確認、情報交換を行い事業の改善を支援することが、より効果的かつ効率的な方法であろう。また現地大使館のスタッフに限りがある場合は、評価専門のコンサルタントや、ローカルコンサルタントなどの外部専門家を活用することにより、現地大使館のモニタリング・評価機能の強化を進めることも可能である。


1 対象4団体は、(1)(特非)金光教平和活動センター、(2)(社)銀鈴会、(3)(特非)地球ボランティア協会(GVS)、(4)(特非)日本フィリピンボランティア協会。4団体中、銀鈴会を除く3団体は、1997年から継続して事業を行っていたため、評価の際は複数年にまたがる事業についても1事業として取り扱った。

2 対象範囲をフィリピン保健分野における開発協力事業(1997~2001年度)とし、その条件をもとに絞込みを行った結果、次ぎの9団体が調査対象として候補に上った。その9団体は、(1)(特非)金光教平和活動センター、(2)(社)銀鈴会、(3)(特非)国際ボランティアセンター山形(IVY)、(4)(特非)ICA文化事業協会、(5)(特非)地球ボランティア協会(GVS)、(6)(特非)日本フィリピンボランティア協会、(7)(特非)AMDA(アジア医師連絡協議会)、(8)神奈川海外ボランティア歯科医療団(KADVO)、(9)南太平洋に歯科医療を育てる会、であった。

3 4事業とは前述の(特非)金光教平和活動センター、(社)銀鈴会、(特非)地球ボランティア協会(GVS)、(特非)日本フィリピンボランティア協会によるプロジェクトである

4 すなわち、(A)政府レベルでは対応が困難な草の根レベルの事業であり、途上国住民に対する人道的配慮及び環境保全の観点から配慮がなされており、かつ経済・社会・地域開発、民生の安定につながること、(B)地域社会のニーズが十分把握されていること、(C)地域住民の自助努力による自立を促し、地域住民の参加があること、(D)援助効果が対象地域の女性にも裨益するように配慮されていること。



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