1.1 調査の背景及び目的
1.1.1 背景
我が国のODAは近年総額で世界のトップクラスの規模を維持しているが、国内的にも国際的にもより質の高い、効果的・効率的な援助の実施が求められている。このような要請に基づき、外務省ではODAの評価を種々実施しているが、本評価は、政策レベル評価の一環として実施されるものである。
本評価調査では、パキスタンが我が国ODAの重点供与国であるとともに、同国にとって我が国が主要なドナーであること、また、近く「対パキスタン国別援助計画」の策定が予定されていることから、パキスタンに対する我が国の援助政策を評価の対象とした。
1.1.2 目的
本評価調査は、パキスタンに対する我が国の援助政策全般をレビューし、「対パキスタン国別援助計画」の策定及び今後のより効果的・効率的な援助の実施にとって参考となる教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことを目的とする。
1.2 評価の対象
1.2.1 本評価の対象とする政策
本評価調査では、我が国の対パキスタン援助政策のうち最も代表的な政策である「対パキスタン国別援助方針」(1997年策定)を主な評価対象とした。本評価の実施に際しては、この評価対象を明確化するため、対パキスタン国別援助方針を目標と手段の関係から整理した目標体系図(図1-1)を作成した。
図1-1 対パキスタン国別援助方針の目的体系図(PDF)
1.2.2 本評価の対象とする期間
評価対象である「対パキスタン国別援助方針」は、我が国が1996年2~3月に派遣した経済協力総合調査団及びその後の政策協議等によるパキスタン側との対話を踏まえて1997年に策定された経緯がある。このことを踏まえ、また、可能な限り最近の動向をカバーするため、本評価では、原則として「対パキスタン国別援助方針」の策定が進行していた1996年から2003年6月までを対象期間とした。ただし、有効性の検証では、1997年度から2002年度を対象とし、1996年以前に実施が決定された案件であっても、対象期間内に実施された案件も本評価調査で取り上げた1。
1.3 評価方法
本評価調査は、2003年8月から2004年3月にかけて実施したものであり、評価対象の把握、評価の枠組みの作成、国内・現地調査及び分析を経て報告書をとりまとめた。評価の実施にあたっては、評価の視点、評価項目、評価内容・基準、必要情報及び情報源を設定し、これらをまとめた枠組み表(表1-1、1-2、1-3)を作成した。この枠組みに基づき、以下のとおり、「目的」、「プロセス」、「結果(効果)」の3つの視点から検証した。
1.3.1 目的
対パキスタン国別援助方針と我が国のODA上位政策(旧ODA大綱及びODA中期政策)との整合性、パキスタンの開発ニーズ(パキスタンの国家開発計画、具体的には第8次5ヶ年計画(1993年)及びPRSP(貧困削減戦略文書)等との整合性を検証し、その目的の妥当性を評価した。また、主要ドナーの援助政策との比較も可能な範囲で試みた。その際、第8次5ヶ年計画及びPRSPを中心としたパキスタンの諸国家開発計画、OECD-DACの「新開発戦略」、世銀、アジア開発銀行、国連開発計画等による対パキスタン援助戦略等の文献資料を基に、外務省経済協力局の関係者、パキスタン政府関係者の他、主要ドナーへの聞き取り調査から得た情報を加え、我が国の対パキスタン援助方針を体系的に整理した。
1.3.2 プロセス
対パキスタン国別援助方針の「策定及び実施プロセスの適切性」と「実施過程の効率性」について評価した。
策定及び実施プロセスの適切性については、国別援助方針が十分な情報収集と分析を踏まえ、適切な人員体制、協議体制によって策定されたか、同方針が独立行政法人国際協力機構(JICA)・国際協力銀行(JBIC)の両実施機関の対パキスタン援助実施計画・方針及び実施案件に反映され、政策としての実施機能を果たしてきたか、という観点から検証した。
実施プロセスの効率性については、国別援助方針がその実施過程において我が国の援助実施機関や他ドナーと連携を取りながら効率的に実施されたか、という観点から検証した。
プロセスの検証を行うに際しては、外務省経済協力局関係者、在パキスタン日本大使館、JICA及びJBICの本部及び現地事務所、パキスタン政府(連邦及び州)関係者、主要ドナー現地事務所等に対する聞き取り調査を行った他、JICA事業実施計画の目標体系図を作成した。また、参考文献として、外務省経済協力局発行のODA国別データブック、国際協力事業団年報等を活用した。
1.3.3 結果(効果)
対パキスタン国別援助方針の有効性及びインパクトを評価した。具体的には、対パキスタン国別援助方針の下で実施された我が国の援助実績を重点分野(サブセクター)毎に明らかにした上で、評価対象期間中の案件の成果及び主要経済指標の動向に加え、可能な範囲で他ドナーの実績やパキスタン政府開発予算の動向も踏まえ、総体的な検証を試みた。また、我が国の援助が行われている州における代表的な社会・経済指標の動向を把握し、可能であれば全国的な動向との比較を行った。なお、比較に際しては、表1-4に表した重点分野別の主要社会・経済指標を可能な限り収集し、これを活用した。
結果の検証に際しては、在パキスタン日本大使館、JICA及びJBICの現地事務所、パキスタン政府(連邦及び州)関係者、主要ドナー現地事務所、NGO関係者に対する聞き取り調査を行った他、パキスタン連邦政府財務省の発行する統計(Economic Survey)、連邦統計局発行の年鑑(Pakistan Statistical Yearbook)、同州政府の発行による統計、ドナーの活動報告書等の文献資料を参照した。
1.4 評価の制約
1.4.1 成果指標の未設定等による制約
本評価における「結果」の検証では、評価の対象となる「対パキスタン国別援助方針」等の援助政策の「結果の有効性」を判断するために、同政策が反映されたと仮定する個別案件の実績及び成果、主要な社会・経済指標の動向を重点分野別に可能な限り計測・集計した。しかしながら、援助政策の策定段階において、重点分野別の成果指標、すなわち目標値の設定を行っていないため、目標値の達成度測定が不可能であった。また、パキスタンでは、必ずしも主要な社会・経済指標が整備されておらず、今回の評価は入手できた限られたデータに基づいて行われたものである。さらに、各分野における我が国による具体的援助活動の長期的効果については、投入から効果の発現に至るまでに様々な外部要因があり、因果関係の証明が困難であるため、十分な検証ができなかった。
1.4.2 経済措置による特殊事情
1998年5月の核実験を受けた経済措置の発動によって、2001年10月まで緊急・人道的性格の援助、技術協力及び草の根無償資金協力を除く我が国による新規ODAプロジェクトの実施が停止されたことは、対パキスタン国別援助方針の実施に大きな影響を与え、評価対象期間中に実施された案件数及び実績額も伸び悩む結果となったと推定される。このことがパキスタン側の開発ニーズを反映して対パキスタン国別援助方針を実施する上で制約となったことに留意する必要がある。
1.5 評価者等
1.5.1 監修
川上 照男 あずさ監査法人 公認会計士
黒崎 卓 一橋大学経済研究所 助教授
1.5.2 評価者
田中 浩一郎 (財)国際開発センター 主任研究員
木村 友香 (財)国際開発センター 研究員
奥村 一郎 アイ・シー・ネット(株) マネージャー
1.5.3 協力者
外務省 | : | アジア大洋州局南西アジア課、経済協力局関係各課・室(調査計画課、国際機構課、国別開発協力課、技術協力課、有償資金協力課、無償資金協力課、民間援助室) |
JICA | : | アジア第二部南西アジア・大洋州課、企画・評価部評価監理室 |
JBIC | : | プロジェクト開発部開発事業評価室、開発第3部第3班 |
1 援助効果の発現に、5年程度の時間を要する有償資金協力やプロジェクト方式技術協力等のような案件もある。また、有償資金協力案件は実施に長期間を要する場合もある。