(1) | 上位政策との整合性に関して 国別援助方針が掲げている重点分野及び留意点は、旧ODA大綱の基本理念及びODA中期政策の重点課題と整合している。2003年にODA大綱が改定されたところ、パキスタンの開発を取り巻く状況も踏まえ、今後策定される国別援助計画は上位政策である新ODA大綱と十分に整合することが求められている。 |
(2) | パキスタンの国家開発計画との整合性に関して 国別援助方針の4重点分野(社会セクター、経済基盤整備、農業、環境保全)は、策定時のパキスタン側の国家開発計画である第8次5ヶ年計画及び社会行動計画に示された開発ニーズに十分適合していたことが判明した。一方、2003年5月に発表された貧困削減戦略文書(PRSP)には国別援助方針の4重点分野が全て含まれているが、PRSPが重視する中小企業振興に対する支援は国別援助方針では取り上げられていない。また、最近、パキスタン側において取り組みが重視されている水分野の開発を統合的に支援していくアプローチが国別援助方針に欠けている。 |
(3) | 主要ドナーの対パキスタン援助政策との比較 主要ドナー(国際機関を含む)は、我が国と同様に、「教育」及び「保健」の分野での支援を重点分野として掲げているが、国別援助方針の重点分野である「経済基盤整備」や「農業」を重点分野としているドナーは少ない。一方、国別援助方針が対応していない「ガバナンス強化」、「村落開発」を重点分野に取り上げているドナーが多く見られる。 |
(1) | 策定プロセスの適切性に関して 国別援助方針の策定時から8年間が経過して資料が保管されていないため、外務省関係各課間の協議を経て策定され、経済協力総合調査団の派遣を通じてパキスタン側と重点分野等について協議が行われたこと以外に、国別援助方針策定に関する詳細を確認することはできなかった。 |
(2) | 実施過程の適切性に関して 本調査対象期間中に採択・実施された案件をスキーム毎に見ると、有償資金協力、一般無償資金協力、技術協力プロジェクト(旧プロジェクト方式技術協力を含む)、開発調査の何れについても、殆どが国別援助方針の重点分野における案件である。また、JICAの国別事業実施計画は、国別援助方針の重点分野と合致していることから、我が国としては、国別援助方針の重点分野を反映した案件の形成・選定を行なってきたことが確認された。さらに、国別援助方針を適切に実施する上での留意点に十分に配慮されてきたことも確認できた。なお、本評価調査において、見直しを含む国別援助方針の検証システムの存在は確認されなかった。 |
(3) | 実施過程の効率性に関して パキスタン側実施機関の案件実施能力の向上に関しては、プロジェクト方式技術協力の実施等を通じて人材育成が行われ、案件実施能力向上につながった事例(保健分野・教育分野)があることが確認された。また、援助スキーム間(特に資金協力と技術協力)の連携に関しては、母子保健分野(無償資金協力と技術協力)や教育分野(有償資金協力と技術協力)における事例が確認された。以上から、パキスタン側実施機関の案件実施能力の向上支援や援助スキーム間の連携を通じて効率的な援助の実施へ向けた努力が行われてきたと言える。 技術協力の活用に関しては、特に保健分野での技術協力がパキスタン側から高く評価されている。国別援助方針の重点分野によっては、技術協力の活用が十分に行われてこなかったが、例えば、環境保全に関しては、パキスタン側において我が国の技術協力を受け入れる素地が形成されてきている。技術協力スキーム毎の傾向を見れば、研修員受入れや青年海外協力隊員派遣が増大傾向にあり、2001年度からはシニア海外ボランティアの派遣が開始されており、分野に偏りが見られるものの、総じて技術協力を活用する努力が行われてきたと判断できる。 ドナー間の連携については、分野別、テーマ別、プロジェクト別に会合が開かれており、我が国も現地ODAタスクフォースが対応している。なお、パキスタン政府は2001年より毎年パキスタン開発フォーラムを開催する等、ドナーとの連携に積極的に取り組んでいるが、地方レベルでのドナーとの連携は十分に系統化されていない。連携の具体例としては、ポリオや新生児破傷風の予防接種におけるUNICEF及びWHOとの連携、水力発電所建設や排水計画におけるADB及び世銀との連携などが見られた。他方、世銀やADBの日本特別基金については、評価対象期間中に約40案件が形成・実施されたが、案件形成の時点において世銀/ADB側から日本側への協議が行なわれてこなかったことから、我が国の対パキスタン援助政策との連携を図ることは困難であった。NGOとの連携については、可能な範囲で図られてきたと言える。 パキスタンの援助受け入れ体制の整備は十分とは言い難い。我が国の援助スキームに対する理解度については、連邦政府の実施機関レベルから州政府にいくに従って低下する。パキスタン側の問題点として、実務レベルにおけるキャパシティ・ビルディングの必要性が他ドナー及びパキスタン政府(州政府も含む)から指摘された。ADBがパキスタン側の案件実施能力とオーナーシップに関して連邦政府に働き掛けた結果、パキスタン政府内に「コアPMU」(個別案件実施管理組織の中核となる運営ユニット)が設置されたように、パキスタン側には援助受け入れ体制の整備に向けた努力も見られている。 日本側の現地での実施体制については、2003年4月に現地ODAタスクフォースが立ち上がる以前から、日本大使館、JBIC事務所、JICA事務所の間で情報の共有等の連携が行われてきており、日本側の全ての関係者が連携をとって、より効率的な援助受入れ体制が整備されてきている。総合的には、現地援助実施体制の効率化を図る積極的な努力がなされてきたと判断できる。 |
(1) | 教育 教育分野における我が国の援助は地理的に限定されていること、一部の案件が実施中であり効果発現のために十分な時間を経ていないこと等から、本評価対象期間の我が国援助の成果と全国レベルでの教育水準向上との関連性を見いだすことは困難であった。但し、「北西辺境州初等教育改善計画」は、1997/1998~2001/2002年度の同州(NWFP)における初等教育施設数及び小学校入学者数の伸びが同時期のパキスタン全体のそれを上回っており、我が国援助がNWFPの基礎教育分野の改善及び女子教育の奨励・促進にある程度貢献していると推察できる。 |
(2) | 保健 我が国は、1996年から毎年無償資金協力により全国的な「ポリオ撲滅計画」に協力し、パキスタンにおけるポリオの発症数の減少に大いに貢献してきたと推定されるが、本評価対象期間のパキスタンの乳児死亡率及び5歳未満児の死亡率に大きな変化がないことから、「ポリオ撲滅計画」の成果が乳幼児死亡率に与えた影響は限定されていると言える。技術協力プロジェクトの「母子保健プロジェクト」については、プロジェクトの対象地域であるイスラマバード首都圏農村地域の妊産婦の死亡率が1998年の334人/10万人から、2000年には246人に低下したことに一定の貢献を果たしたと推察できる。このように、保健分野に対する我が国の協力は一定の成果を上げたと考えられるが、ポリオワクチンの供与以外では、全国的な協力は実施されていないことからも、有効性を総体的に測定することは困難であった。 |
(3) | 居住環境改善 我が国有償資金協力により実施された「首都圏給水事業(シムリ)」により、イスラマバード市内の給水状況は大幅に改善されたことから、我が国の援助の成果が本評価対象期間中のパキスタンにおける安全な水を利用できる人口数の増加に寄与したと推定し得る。他方、パキスタンにおいては、政府による上水道整備の実施は限られており、多くの場合、生活用水の確保は個人の努力によるものであることから、我が国の草の根・人間の安全保障無償資金協力により実施された小規模の給水事業や衛生施設の整備は、パキスタンにとってある程度有効であったものと推察できる。 |
(4) | 電力 我が国は評価対象期間中にガジ・バロータ水力発電所の建設、グドゥ~シビ~クエッタ220kV第2送電線の建設、ビンカシム火力発電所6号機増設の実績(いずれも有償資金協力)を残しながらも、水力発電については、2000年から続いた干ばつによる水位低下のため全国的な発電量低下が生じたことから、我が国援助の効果を定量的に計ることは困難であった。しかしながら、我が国の援助が行われなかったとすれば、発電量の低下は一層深刻であったであろう。他方、農村電化については、我が国の有償資金協力により5,977村が電化されており、1995/96年度から2001/02年度間に全国で電化された村落数が9,434村であることから、パキスタンの農村電化において我が国の援助は大きな比重を占めてきたと言える。 |
(5) | 運輸 運輸分野では、道路の総延長及び舗装率に開発の成果が表れており、我が国の有償資金協力で行われたインダス・ハイウェイ建設計画やコハット・トンネル建設計画がこれに寄与しているものと考えられる。鉄道に関しては、全国レベルで総延長の短縮、機関車や貨物車の減少を招いているが、これは輸送手段が鉄道から道路輸送へシフトしているパキスタンの傾向を反映したものであり、我が国の鉄道分野における援助が仮になかったならば、その減少はさらに大きかったであろう。実際、日本のODAの信号プロジェクトにより、鉄道の安全性・信頼性が向上したという効果が現地サイドより指摘されている。パキスタン政府は鉄道を今後も重要な運輸手段として位置づけているため、今後、鉄道分野における我が国有償資金協力の成果が発現することが期待される。 |
(6) | 灌漑 無償資金協力案件「パンジャーブ州地下水開発計画」は、対象地域への灌漑農業に成果を及ぼしたと認められるが、旱魃の影響により全国レベルでの灌漑農地総面積や農業生産の推移には反映されていない。これに加え、灌漑分野における我が国の援助が地理的に限定されていることから、当該分野における我が国援助の有効性を総合的に判断することは困難であった。 |
(7) | 農業研究 無償資金協力による研究所の建設及び機材の供与に引き続いて実施された技術協力「植物遺伝資源保存研究所」及びそのアフターケアは、即時の効果測定が難しい案件であり、旱魃が生じたことも相まって、その成果は全国レベルでの農業生産の推移には反映されていない。しかしながら、こうした技術協力は長期的にはパキスタンの今後の作物改良に寄与し、将来の農業生産性向上に貢献するものと期待される。 |
(8) | 環境保全 都市環境の整備において、無償資金協力による「クエッタ市環境改善計画」の実施により導入された移動コンテナー式の都市ゴミ収集設備が都市ゴミ収集の一助となっていることが現地調査により確認された。専門家の派遣や研修員受入れによる技術移転もある程度行われたが、我が国の実施案件は限られており、さらに、パキスタンの環境保全分野に係る指標が入手できなかったことから、環境保全分野における我が国支援の成果を定量的に測定することは困難であった。 |
(1) | 新ODA大綱の理念に沿った国別援助計画の策定 新ODA大綱の記述(一貫性のある援助政策の立案)に従い、パキスタン国別援助計画の策定に際しては、その内容が新ODA大綱の理念に則していることが必要である。南アジア地域の安定にとって重要なパキスタンの開発を支援する上で、新大綱の基本方針である「開発途上国の自助努力支援」、「公平性の確保」及び「『人間の安全保障』の視点」、並びに、重点課題の各項目(「貧困削減」、「持続的成長」、「地球的規模の問題への取組」、「平和の構築」)は重要な要素であるので、こうした項目が近く策定される国別援助計画に十分に反映されることが望ましい。 |
(2) | 体系化された国別援助計画の策定 我が国の予算上の制約を理解しつつも、パキスタン政府は、対外援助の規模や範囲を中期的に見通した上で自国の開発計画を策定することを欲している。パキスタンだけでなく国際社会に対しても、ODAを通じた南アジア地域の安定に向けた我が国の中期的なコミットメントを示すことが外交的に求められているが、対パキスタン国別援助方針は、かかる要請に応えていない。国別援助計画が総花的になるのを避けるためにも、近く策定される国別援助計画では、我が国援助によって達成を目指す中期的な目標を「主柱」(pillar)として明確にし、この目標達成のために「主柱」を周囲から支える関連性の高い分野を「重点分野」または「重点課題」と位置づけ、さらには分野間にまたがる「横断的テーマ」を設定し、これらを目標体系図として整理し、目標の達成状況を測る指標(定性的な指標を含む)を導入することが望ましい。 |
(3) | 重点分野(課題)と横断的テーマの設定 対パキスタン国別援助方針の重点4分野(社会セクター:教育・保健・上下水道、経済基盤整備:電力・運輸、農業:灌漑・農業研究、環境保全)は現在もパキスタン側の開発ニーズに適合していることから、これらの重点分野を継承・維持することが望ましい。ただし、環境については、横断的なテーマとして扱うことが適当であろう。なお、水分野への支援については、対パキスタン国別援助方針では社会セクター及び農業の一環として扱われてきたが、昨今のパキスタン開発フォーラム等を通じてパキスタン側の我が国に対する高い期待が繰り返し表明されていることを踏まえれば、「水分野」を独立した重点分野の一つとすることも検討に値する。また、中小企業振興はパキスタンの重点政策の一つであることから、経済成長促進の観点から、中小企業振興を重点分野とすることも一案であるが、技術及びノウハウの提供という我が国のアプローチとマイクロ・ファイナンシングを求めるパキスタン側の期待と要望に乖離が認められることから、二国間で更なる調整が必要であろう。横断的なテーマについては、環境に加えて、「ジェンダー」及び「地方分権化に対応したガバナンス向上と能力開発」(対パキスタン国別援助方針の留意点を継承・発展させたテーマ)を掲げることが適当であると考える。 |
(4) | 国別援助計画のモニタリング・評価システムの構築 近く策定される国別援助計画の実施期間(5年程度)中、同援助計画に基づき効果的かつ効率的な援助を実施するためには、同援助計画のモニタリング・評価システムを構築することが重要である。例えば、毎年、現地ODAタスクフォース(TF)が重点分野毎の案件形成・実施状況や援助実施上の留意点を巡る状況を中心として、国別援助計画の実施状況を検証し、この検証結果を受け東京において、パキスタン国別援助計画策定TF、外務省、JICA、JBICの関係者が参集する対パキスタン援助検討会(仮称)が国別援助計画の実施状況を検討し、その検討結果を外務省JICA、JBICに報告する。さらに、国別援助計画が策定から4年目を迎えた時点で、国別援助計画を対象として総合的な視点からの国別評価(第三者評価)を行い、その結果と提言を国別援助計画の改定に役立てることとする。こうしたモニタリング・評価システムが近く策定される国別援助計画に明記されることが望ましい。 |
(5) | 地方行政のキャパシティ・ビルディング支援 現在、パキスタン側の中心的な開発計画としてPRSPが位置づけられているが、その実施に当たって、SAPの失敗を繰返さないためにも、パキスタン側の案件形成及び実施体制能力の開発支援が必要である。地方分権化が進行する中、特に県以下のレベルでは行政能力が不十分であり、財務運営は言うに及ばず、開発プロジェクトの策定・実施に関する能力不足が問題となっている。地方分権化は県以下のレベルへの権限委譲をもたらすものであるが、我が国の有償・無償資金協力は規模的に実態上2県以上に跨ることが多く、この場合は州が案件形成・実施を担うことから、必然的に州レベルでの能力開発に着目する必要がある。したがって、我が国としても、州レベルを中心として、必要であれば県以下のレベルにおいてもパキスタン側の案件形成手続きにおいて必要な書類であるPC-1やPC-2の作成支援を含め、地方当局の案件形成・実施能力の向上を支援することが肝要である。 地方展開への効果的なアプローチとしては、対象地域の開発ニーズを十分に踏まえた上でPRSPが意図する貧困削減に資する地域開発の促進を目指した包括的でセクター横断的なプログラムをパキスタン側のオーナーシップを尊重して試行的に形成し、同プログラムの中に位置づけられる各案件の形成・実施を通じて、州政府や県関係者に対する能力向上支援を行うことが検討され得よう。かかる取り組みを進めるツールとして、企画調査員の新規派遣、国別特設研修「地方行政サービス」を受講した研修員、見返り資金、援助効率促進費を複合的に活用することが検討し得る。なお、能力向上支援を行う上で、案件実施能力の向上を目指してパキスタン側が予算措置を講じたプロジェクト運営ユニット(PMU)の活用も検討に値する。 |
(6) | 世銀及びADBとの連携強化 世銀及びADBに設けられた日本特別基金(世銀の開発政策・人材育成基金(PHRD)、日本社会開発基金(JSDF)、ADBの日本特別基金(JSF)、貧困削減日本基金(JFPR)等)によるパキスタンでの案件の取り扱いについては改善の余地があると考える。今後は、我が国からの拠出であることを世銀及びADBを通じてパキスタン側関係者に周知させるとともに、我が国の援助政策との整合性を確保する上で、両国際金融機関に対し、日本側(現地ODAタスクフォース)との連携を案件形成の段階から執り行うよう求めることが望ましい。 |
(7) | 援助手続きの調和化の促進 我が国のODAの仕組みや手続きに関しては、外国援助の折衝窓口であるEADでは周知されているようであるが、関係省庁、実施機関、州政府に至っては必ずしも十分な知識が行き渡っていないことから、効果的かつ効率的に援助を実施する上で、現地ODAタスクフォースとEAD等との共催によるワークショップ開催などを通じてパキスタン側での情報の共有を促進することが望ましい。こうしたワークショップを開催する際には、他ドナーの関与も得て、ドナー間における援助手続きの調和化に向けた取り組みを進める機会とすることも一案である。また、地方展開という新たな課題を含め、現地でのODA業務量の増加に対応するためには、日本側における援助手続きの一層の調和化、JBIC及びJICAの人員の拡充等、現地ODAタスクフォースの体制強化に向けた取り組みが必要であろう。 |
1 本報告書第2章の要約は省略した。