我が国の国際貢献の主要な柱の一つであるODAは、総額で世界のトップクラスの規模を維持しているが、国際的にも国内的にもより質の高い、効果的・効率的な援助の実施が求められており、そのため外務省ではODAの評価活動に力を入れている。外務省の評価形態は主に政策レベル評価、プログラムレベル評価、プロジェクトレベル評価に分類されるが、本評価調査はプログラムレベル評価の一形態であるセクター別評価の一つとして実施されたものである。
我が国は、有償資金協力及び無償資金協力並びに技術協力の各スキームにより、積極的にモロッコに対し援助を実施してきており、モロッコは、2001年の我が国二国間ODAの受け取り国の第14位であった。1999年7月に行われた日・モロッコ経済協力政策協議では、農業用水、飲料用水確保のための水資源開発を重点分野の一つとした。今後、当該分野の支援をより効果的かつ効率的に実施するためにも、これまでの取り組み及び実績をレビューすることが求められていた。
本評価調査の目的は、我が国がモロッコに対し実施した農業用水、飲料用水確保のための水資源開発分野に係る一連の協力を、総合的かつ包括的に評価し、今後のより効果的・効率的な協力の実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことである。
本評価調査ではモロッコに対する農業用水、飲料用水確保のための水資源開発分野の支援に係る我が国の一連の協力を一つのプログラムとみなして評価対象とした。評価対象期間は1999年度から2001年度迄とし、同期間に実施された有償資金協力、無償資金協力、技術協力の援助案件を対象とした。
同期間における一連の協力は、当初から設定されたプログラムとして実施されたわけではなく、基本的にはそれぞれの案件についてモロッコからの要請を検討の上、採択・審査・実施されたものであった。しかしながら「農業用水、飲料水確保のための水資源開発」は1998年の経済協力政策協議以降、我が国が対モロッコ支援にあたり優先的に実施する重点分野とされてきている。そこで本評価調査ではこの期間に実施された協力案件が全体としていかなる共通目的をもって実施されたかを、対モロッコ経済協力政策協議に係る文書を手懸りに本調査の時点で推定し、一連の案件がその目的のもとに実施されたものと見做すこととした。
1999年度の対モロッコ経済協力政策協議において我が国は、水資源開発に関し以下の通り述べている。
給水網整備については、飲料水供給が地方部住民の生活向上に資する重要課題であり、今後も引き続き協力意義があると認識しているところ、これまでの資金協力による施設建設に加えて、99年度は専門家派遣により、施設運営管理及び協力計画策定を支援していく計画である。
上記に基づき、一連の協力の目的を以下のごとく想定した。
最終目標: | 農業生産性の向上、飲料水の供給を通じての住民(零細農民や地方部住民)の生活向上 |
中間目標: | (1)灌漑施設の整備、(2)水源の確保(中規模ダムの建設)、(3)給水施設の整備((3)-1 中規模都市の給水施設の整備、(3)-2 地方村落部の給水施設の整備)、(4)施設の運営管理 |
上記の最終目標、中間目標及び各案件を目的と手段という観点から結び、相互の関係を目的体系図として図1.2.1のようにまとめた。
本評価調査を行うにあたり、評価対象のどの部分に焦点を当てて、どのような評価項目で、何を指標として評価を行うのか、また評価を行うにあたって必要な情報は何であって、どこから入手するのかを予め明確にし、評価の枠組みとして表1.3.1のように整理した。同枠組みに沿い、本評価調査は実施された。
(1) 評価視点
わが国の対モロッコ水資源開発分野支援を、その目的及び実施によって生じた結果の側面から評価し、その結果実績がなかった場合やサブセクターレベルでのグッドプラクティスが確認された場合には当該支援の政策策定及び実施プロセスを検証する。
(2) 評価項目
評価対象を、目的については妥当性、結果については有効性、プロセスについては適切性の項目でそれぞれ評価する。
(3) 評価内容・基準
妥当性については、わが国のこの分野における対モロッコ支援の目的がわが国のODA上位政策やモロッコの水分野のニーズ、当該分野の世界的な援助動向と整合していたか否かを検証する。わが国のODA上位政策としてはODA大綱(1992年閣議決定)及びODA中期政策を参照する。モロッコの開発ニーズとの合致については同国の国家開発5カ年計画で水資源開発の位置づけを確認の上、わが国の対モロッコ支援方針と同国の水資源開発政策との整合性を検証する。国際的な援助動向は、世界銀行他の主要な国際機関の水分野政策、水分野でイニシアチブを発揮している関連機関による文書を参照し、わが国支援との整合性を検証する。
有効性については、1999年度から2001年度までに当該支援によりどのような実績があったのかインプット及びアウトプットベースで検証する。更にモロッコにおける当該分野の主要指標の推移、及び他ドナーの対モロッコ水資源開発分野支援の方針と実績を参考情報として調査する。
適切性については、わが国が対モロッコの水資源開発分野の支援を実施するにあたり、モロッコ側のニーズを適切に把握し、立案・実施が適切に行われたか否かを検証する。具体的には、モロッコ政府との協議や、JICA・JBIC、NGO等の民間、他ドナーとの連携・協議の実施状況を確認する。
(4) 情報源と情報収集先
在モロッコ日本国大使館、外務省本省の関係部署、国際協力銀行の本部関係部署、国際協力機構の本部関係部署・モロッコ事務所、及び派遣専門家、さらには関係するモロッコ政府機関(外務協力省、ONEP、水利庁、農業・農村開発省、ドゥカラ地域農業開発公社、統計局、財務・民営化省)、現地の他ドナー(EU代表部、世界銀行、UNDP、フランス開発庁)等に聞き取り調査を行うとともに、これらの機関を通じて必要な文献資料を収集する。また我が国のODA上位政策や、水資源開発分野での国際的援助動向等については、インターネットのホームページ上で一般公開されている文書等を参照する。
モロッコの国家開発計画は5ヵ年計画 (2000-2004)1を、また水資源開発政策については上記5ヵ年計画の他、その基礎となる水資源法2、流域別水資源総合開発計画3、地方給水計画 (PAGER)、「水と気候に関する最高協議会」関連資料等を参照し、現地での聞き取り調査結果を加味の上分析を加える。
国際的な水資源開発に関する援助動向については、世界銀行、アフリカ開発銀行、EU、UNDPの水分野政策文書の他、世界水フォーラムや世界ダム委員会の議事録等を参照する。 インプット・アウトプット実績についてはODA年次報告、案件毎の完了・進捗報告書等を参照して整理する。主要指標推移については、統計局編纂の資料4の他、モロッコ各関係機関からデータを収集・整理し、また他ドナーの対モロッコ水資源開発分野支援の方針と実績については、現地の聞き取り調査で資料を収集する。
プロセスについては、本邦及びモロッコの政府関係機関や他ドナーに幅広くヒアリングするとともに、経済協力政策協議の議事録・関連資料の他、JICA国別事業実施計画、JBIC国別業務実施方針を参照する。
本評価調査は以下の手順・工程で実施された。
(1) 国内準備
2003年8月から9月上旬にかけて、調査方針の検討、評価の枠組み・目的体系図の策定、情報の収集・分析、現地調査の準備を実施した。
(2) 現地調査
2003年9月14日から同月28日にかけて、評価調査メンバーである日本工営株式会社の和田、財団法人国際開発高等教育機構の藤田、並びに有識者である広島市立大学教授の中島氏の3名による現地調査が実施された。
現地では主として首都ラバトにてモロッコ政府、他ドナー、及び日本大使館・JICAモロッコ事務所等で聞き取り調査・資料収集を実施した。現地調査日程表を巻末の添付-1に、また収集資料リストを添付-2に示す。
(3) 国内調査
2003年10月上旬から12月中旬にかけて、現地調査結果の分析とともに、国内関係機関(外務省本省の関係部署、国際協力銀行・国際協力機構の本部関係部署)への聞き取り調査を実施した。
(4) 報告書作成
上記調査結果を受け、2003年12月中旬より翌年2月にかけて教訓・提言のとりまとめ、及び報告書の作成を行った。
1 Le Plan de Developpement Economique et Social 2000-2004
2 Loi No 10-95 sur l'Eau
3 Plan Directerur de Developpement des Ressources en Eau
4 Annuaire Statistique du Maroc