第3章の評価結果を受けて、提言事項をまとめる。ちなみに、いずれの提言も現在関係者間で個別に見直されている体制との重複はあるが、制度評価の観点から重要な事項を掲げることとした。
(1) 通常時の体制について(国内体制および国外体制)
国内体制
4)研修・訓練の実施状況
|
通常時 |
3.3.1で指摘され、3.3.2のアルジェリアの派遣事例の中でも指摘されたように、通常時の体制について、研修・訓練への参加者枠を拡大して、派遣される隊員の救助能力、医療能力の向上に努めることが重要である。特に「救助チーム」に関しては、関係3庁からの混成チームが組成され、チームとして救助活動を実施するので、通常時から関係3庁が、国際緊急援助隊の総合訓練や国際機関の訓練に参加し、技術の向上、現地での国際チームとの協力(必要な場合)につき、引き続き検討及び実施する必要がある。
国外体制
1)通常時の準備体制
|
通常時 |
第一に、3.2.2「中間目標2」の結果の評価において、「在外公館・JICA事務所が通常時から築いているマスコミとの良好な関係が緊急時に役立ち、国際緊急援助隊の派遣時に活動がタイミングよく現地のメディアに報道され、一般国民に認識された」ことが確認されたことに関連し、通常時から現地メディアとの連絡体制を整備しておくことが重要である。
第二に、在外公館・JICA事務所では、今後も引き続き、担当者の交替に際し、引継ぎを徹底するとともに、実際の受け入れに当たり何をする必要があるかを想定し、緊急時に十分に備えておく必要がある。また、災害多発国においては相手国関係機関に対して、本制度の目的と支援可能な範囲を説明しておく必要がある。
(2) 派遣時の体制について
1)発災から現地到着までの迅速性
|
派遣時 |
国際緊急援助隊には、発災から活動サイト到着までの迅速性が高く要求される。この要求に対応するために、移動手段の確保に関して未だ改善の余地があることが課題として挙げられた。すなわち、現在は、民間商用飛行機を利用していることから、被災国によっては直行便がなく直行できず、途中乗り継ぎ等をせざるを得ず、時間が掛かり、国際緊急援助隊チームも体力的に消耗するといった、課題が挙げられている。また、一度に運べる派遣人員数にも制限を受け、何度かに分かれて派遣せざるを得ないこと、また、救助機材を運ぶにも同様の制限を受けること等があった。したがって、これらの欠点を改善すべく、政府専用機やチャーター機等の利用への期待も高かった。一方、政府専用機にも、利用のためには様々な制約があり、いつでも利用できる状況にはないのが現状ではある。したがって、引き続き、民間商用飛行機に加え政府専用機やチャーター機その他の手段の利用も検討し、より迅速性の高い移動手段を適宜判断し活用していくことが必要である。
2)活動体制
|
派遣時 |
いずれのチームについても、短い派遣期間の中で効率的な活動を行うことが必要である。従って、災害時に使える資料等があれば事前に準備しておくことが望ましい。特に、「医療チーム」の場合は、先発の「救助チーム」のメンバーないし先遣隊を派遣し、情報収集を行い、チーム本体が到着する前に活動場所を選定しておくことが、活動効率の向上のために重要である。したがって、引き続き、事前に情報収集を行い、適切なサイトの選定に心がけることが必要である。
「専門家チーム」は、派遣期間の中で先方機関のニーズを明確にし、ニーズに合った報告書を作成し、迅速に提出することが必要である。そのため、耐震診断や耐震建築等の汎用性の高い情報は、報告書用添付資料として出発前に派遣専門家に手渡せる体制にしておくことが必要である。
また、活動に際し、災害時にはチームが負うかもしれないリスクが高いという特殊状況があるので、常に、チームが負うべきリスクの範囲について課題があった。チームは一刻一秒を争って活動を行い、適切な判断を瞬時に行う必要があるため、この関連で特に現地の治安状況については、現地および近隣国の在外公館やJICA事務所が適切な助言を与える必要がある。さらに、チームは「リスクが大きい場合は、活動を行わない」ことを遵守する必要がある。また、派遣する以上は、万が一の場合の退避手段や日本国内体制を整備した上で派遣されることが再確認されるべきである。
3)ロジ面および6)チームの能力
|
派遣時 |
現在の国際緊急援助隊チームが、民間商業飛行機を利用して被災国入りすることとも関連が深いが、被災国での活動に際して車の手配、通訳の雇用等、被災国および経由地・近隣国の在外公館JICA事務所の協力が必須である。したがって、引き続き、在外公館、JICA事務所の積極的な支援を得ていくことが国際緊急援助隊の活動の迅速性と効率性を高めるために必要である。
また、現在は通常時において、被災国における活動についてのマニュアルが整備され、派遣時の反省点がフィードバックされる仕組みが整備されているため、その中で、引き続き被災国のニーズにあったチーム能力の見直しが行われていく必要である。
整備されるチームの能力として、たとえば、団長は、語学力に優れ、コミュニケーション能力があり、積極的に現地で広報を行い、現地対策本部や、国際機関との連絡等を行うことが期待される。「救助チーム」に関しては、チーム構成が関係3庁の技術が活かされる形でかつ指揮系統を明確にし、一層整備されることが期待される。「救助チーム」における「医療班」の役割強化について検討することも必要と考えられる。「医療チーム」に関しても、同様にチーム構成の構築が期待される。同時にチームの能力のひとつである、携行機材の整備も引き続き行われていくべきである。
4)情報公開
|
派遣時 |
現在はいずれのチームにおいても団長が中心となって被災国での報道対応を行うことになっている。特に「救助チーム」は、新たに2003年から通信班を同伴させるようになったことからも、情報公開体制が一層強化された。「医療チーム」については、活動期間も2週間と長く、また、診療活動は人と人との交流や人道的支援という観点からも、映像としてテレビ等にも取り上げられやすいため、引き続き団長が情報公開を積極的に行う必要がある。
なお、緊急災害時は、一般的に災害報道が大きく扱われるので、「中間目標2」の達成を効果的に行うためには、いち早く派遣すること、チームに必ず広報担当者を専任で同行させることが重要である。特に、「専門家チーム」については、少人数で派遣されることもあり、情報公開を十分に行えない場合もありうるので、必ず情報公開を専任で行える要員を同行させることが必要である。
5)現地対策本部、国際機関との連携
|
派遣時 |
被災国における活動に当たり、災害に関する情報収集と、国際緊急援助隊の活動サイトの選定を適切かつ迅速に行うことがまず重要である。そのためにも、国際緊急援助隊の派遣隊員のいずれかが、現地対策本部や国際機関との連携を行うことが引き続き、重要である。「救助チーム」の場合は、国際機関の実施する訓練等への参加が促進され、それらが新ガイドラインの整備の中でも反映されている。「医療チーム」においても、医師が3名体制から4名体制へと1名増強され、副団長として、現地対策本部、国際機関、他の援助機関との連携・調整において団長を医療・技術面においてサポートすることになり、現地対策本部、国際機関との連携が強化されている。引き続き、これらを検討・実施していくことが重要である。さらには、被災国で活動しているNGO等との連携を検討することも重要である。