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第3章 国際緊急援助隊制度の評価

3.4  総合評価

第3章では、3.1において目的の妥当性が確認された。3.2において、「中間目標」の達成度合いの評価、3.3において、制度の実施体制の評価を行い、成果の達成が実施体制の運用とどのように関連していたか整理された。その結果として、現在の制度は、適切な制度(制度の見直しもマニュアルの整備等の形で実施している)となっていたことが判明し、その上で、実施体制の点検項目ごとに、課題が整理された。ちなみに、3章までで、分析してきた結果は、過去の派遣ごとの個別報告書の中で行われてきた提言とも合致していることも、過去の報告書の文献調査行う中で整理された。(添付資料14)。

本節では、3章の評価結果を受けて、制度が、「中間目標を達成するための適切な制度になっているか」を総合的に判断したうえで、「最終目標」の達成度について可能な範囲で分析を行った。

3.4.1   「中間目標」達成度と制度の適切性

「中間目標1:人的(肉体的・精神的)苦痛の軽減」の達成度と制度の適切性

「救助チーム」と「医療チーム」に関しては、確認できる過去の前事例において、被災者の救出・収容、診療を通じて「中間目標1」を達成していることが定量的に明らかになった。しかし、定量的な把握に加え、それだけでは拾いきれない成果が大きいことが、現地調査を通じて明らかになった。具体的には、国際緊急援助隊を派遣すること自体が、震災時の混乱の中にいる被災者や被災するかもしれない人々、ひいては被災国の一般市民の精神的不安を軽減し、勇気付けることに貢献しているということである。そして、被災者等においては、そのような混乱時に差し伸べられる支援が何よりもありがたく、彼らの記憶にいつまでも残っていることが判明した。また、国際緊急援助隊が地震の際に派遣される場合、被災国側は、特に、日本の地震対策技術に対しても高い信頼を抱いており、その期待に応えるためにも日本が国際緊急援助隊制度を通じて、「専門家チーム」を派遣することの意義はとても大きかった。

「中間目標2:国際緊急援助隊の活動を積極的に情報公開し、日本の実施した活動が国際社会・相手国・および日本において認識される。」の達成度と制度の適切性

「情報公開」に関しては、1999年のトルコ西部地震の際の派遣経験等を通じて、情報公開の重要性が認識され体制が強化され、2003年のアルジェリア地震で、情報公開を重視する形で活動が実施され、成果も挙げた。国際社会、相手国、日本における「認識度」に関しては、必ずしも、日本の国際緊急援助隊の活動が正確に認識されているわけではないが、少なくとも、日本人の姿が報道され、世界各地において日本の国際貢献の姿が報道され、認識されていることが、ケーススタディー対象国において確認された。

特に現地調査を通じ、災害時にマスメディアは、災害関連報道を必ず大きく取り上げていることにさらに注目する必要が高いことが判明した。たとえば、地震を例に見ると、被災国および各国からの「救助チーム」の活動は、かならず大きく報道されていた。したがって、その機会に国際緊急援助隊を派遣し、積極的に情報公開を行うことは、日本の国際貢献をPRするには絶好のチャンスであった。さらに、いずれの被災国においても、「救助チーム」の到着については、「迅速性」と「遠い国からの到着」に関して驚きをもって迎えられ、大きな波及効果を持つことが明らかになった。「医療チーム」については、活動期間が長いこと、日本の医療技術への信頼が厚いことから被災国にて注目を受けることが多いので、情報公開を効果的に行えば、確実に日本のプレゼンスを向上することが出来ることがアルジェリアの事例においても確認された。「専門家チーム」についても、「救助チーム」「医療チーム」に引き続き派遣されることも多く、また、日本の専門技術に対する期待も高いため、日本を印象付けるためにまず、派遣され、そして、積極的に国際緊急援助隊の活動について情報公開する価値が高いことも判明した。

3.4.2   「最終目標」達成度と制度の適切性

「最終目標:国際協力の推進に寄与すること」の達成度と制度の適切性

「最終目標」の達成については、「中間目標」の達成を通じてというより、むしろ、国際緊急援助隊制度の実施実績自体が「国際協力の推進」の第一歩の表れであると考えられる。すなわち、まずは「中間目標」達成の有無を検討する以前に、制度を通じた派遣実施回数が「国際協力の推進」の一面をはかるものである。海外の主要な災害に対し、要請に応じて国際緊急援助隊を派遣し、さらに、「中間目標」が一定の割合で達成されていることが本評価調査で確認されたことにより、日本と被災国の接触を通じ、日本のイメージの向上、被災国、国際社会との良好な関係構築に寄与しているといえよう。

先にも見たように、国際緊急援助隊の派遣は、被災国において災害報道の一環として報道され人々の注目を集めることは確実であり、その機会を効果的に利用すれば、日本の被災国におけるプレゼンスの向上に大いに役立つことが分かった。したがって、本制度は、日本の国際協力の推進に貢献し、日本のイメージの向上を図るには、極めて効果が高いスキームであることが判明した。

3.4.3   実施体制改善への課題:結果の有効性を高めるために

前節でみたように、中間目標、最終目標の達成については、現行のスキームの結果として、一定の達成がみられたが、実施体制を詳細に検討すると、結果の有効性をさらに高める上で、実施体制について以下の課題があることが判明した。

通常時の体制

1)通常時の準備体制、2)マニュアルの整備、3)人員登録状況・各省庁との連絡体制、4)研修・訓練の実施状況、5)携行機材の整備状況、6)情報公開、7)派遣終了後、の7つの項目で体制を見直し、ガイドライン等との適切度を検証し、課題の整理を行った。いずれもガイドラインと照らすと適切に実施されており、過去の教訓から学び、改善を行ってきていた。

しかし、7項目のうち以下の3点について課題が見られた。国内準備体制に関しては、④研修・訓練の実施状況についてはさらなる拡充が必要な状況が見られた。国外準備体制(在外公館、JICA事務所における体制)に関しては、1)通常時の準備体制において国際緊急援助隊支援業務の引継ぎの徹底や、マスコミとの連携の強化が重要であった。

派遣時における実施体制

(i)発災から派遣まで、(ii)被災国における活動の体制、について、4つのケーススタディーに関して、1)発災から現地到着までの迅速性、2)活動体制、3)ロジ面、4)情報公開、5)現地対策本部、国際機関等との連携、6)チーム能力の6つの観点から検証し、以下のような課題ないし留意点が見受けられた。

1)発災から現地到着までの迅速性については、迅速な移動手段の確保、2)活動体制については、被災国における活動の効率化、国際緊急援助隊チームの負うべきリスクと国際貢献の基準の明確化、3)ロジ面6)チーム能力については、その一層の強化、4)情報公開については、各チームによる情報公開の一層の強化、5)現地対策本部・国際機関等との連携については、国際緊急援助隊の効率的な活動を可能にする上で、その強化が引き続き必要であることが確認された。

以上の項目を実施可能なものから、あるいは、理想的には同時に強化することによって、「中間目標」と同時に最終目標に対し、より有効性の高い結果が期待できる。

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