3.1 制度の目的の評価
「目的の妥当性」は、「中間目標」について1)上位政策(政府開発援助大綱)との整合性、2)被災国および被災者のニーズとの整合性、3)国際社会の動向との整合性、の3つについて検証を行った。いずれにおいても、整合性が見られ、妥当であった。
3.2 制度の結果の評価
3.2.1 「中間目標1」の評価
「救助チーム」
過去の派遣実績(2004年1月末まで)は9件であり、総勢386名の救助隊員が派遣された。1996年以降の5件では、271名の隊員派遣に対し、56名を救出・収容し、そのうち2名は生存者の救出であった。この成果の達成度について、一概に救出・収容数の多寡を判断・比較し、結果に結びついた要因の特定を行うことは容易でない。なぜなら、災害の規模、救出活動場所、出動回数、国際チームとの作業分担等の兼ね合い等の条件があり、また、いかに迅速に現場に駆けつけることができ、かつ優れた救助能力を持っていたとしても、生存者救出の機会に遭遇するのは、偶然の要素が大きいと一般的に言われているためである。しかし、いずれのケースにおいても一定の成果をあげたと評価できよう。
・ | アルジェリアのケースでは、「救助チーム」が被災国に派遣されること自体が、国民および被災民を精神的に勇気付けることになったこと、また、日本の震災時における救助技術、医療技術への信頼度は高いことが確認された。 |
「医療チーム」
過去の派遣実績(2004年1月末まで)は27件であり、総勢378名の隊員が派遣された。このうち、1996年以降の派遣14件については、13カ国に対し、247名派遣し、16,572名の被災者の診療を行った。その実績を平均すると、1件あたり平均16.5名を派遣し、約1,100名の患者の診療を行った。患者診療数の実績については、従来「医療チーム」マニュアルの想定している目安を概して達成している。
・ | アルジェリアのケースでは、「医療チーム」派遣が肉体的、精神的苦痛の軽減に役立ったこと、また、日本の医療技術に対する住民からの期待は高く、日本の医療テントに来ることを希望する患者が多かったことが確認された。 |
「専門家チーム」
過去の派遣実績(2004年1月末まで)は21件であり、総勢231名の専門家が派遣された。「専門家チーム」の成果は、専門性等によって異なるが、先方政府および実施機関に対して技術的助言、指導を行うとともに、多くの場合、報告書の提出を行った。場合によっては、帰国後に詳細な報告書や分析結果を先方政府に提出することも行っている。
・ | アルジェリアのケースでは、2003年6月に8日間、被災現場のサイト調査を行い、政府関係者と協力し、建造物の耐震診断や、社会インフラの復興計画策定等の技術的助言活動を行い、報告書を提出したが、活動はアルジェリア人を精神的に勇気づけることに繋がったことが確認された。また、政府関係者・カウンターパートからも「専門家チーム」の提言と技術はアルジェリアの状況に合致したものであり、適切であったとの評価を得た。 |
・ | ベトナムのケースでは、緊急感染症対策のための携行機材とともに、2003年3月16日にハノイ入りし、保健省、WHO等との協議を行う等、第一陣と第二陣が3月25日まで活動を実施した。迅速な「専門家チーム」の派遣と機材供与がSARS感染拡大防止に大きく貢献し、関係者の大きな精神的支えとなったとの評価を得た。 |
3.2.2 「中間目標2」の評価
過去の派遣事例毎の活動報告書の文献調査によると、派遣事業についてのプレスリリースの実施頻度についての確認はできなかったが、国際緊急援助隊についての新聞掲載記事が添付されており、国際緊急援助隊が被災国において注目を集めたことや、一定の報道がなされたことが確認できるものもあった。詳細は、アルジェリアとベトナムの個別のケースにおいて検証した。その結果として、いずれもプレスリリースを積極的に行う等、情報公開の努力がうかがえ、またメディア報道もされており、一定の達成は認められるが、中には情報公開の方法を一層充実すべき課題も見受けられた。
3.3 制度の実施体制の評価
3.3.1 通常時の実施体制の評価
(1) 通常時の国内準備体制のガイドライン等との適切性
通常時の実施体制について、1)通常時の準備体制、2)マニュアルの整備、3)派遣要員の登録状況、4)研修・訓練の実施状況、5)携行機材の整備状況、6)情報公開、7)派遣終了後について、質問票調査により検証した結果、すべて定められたガイドライン等に従って通常時の体制が整備されていた。
(2)通常時の国内準備体制の良い点と課題についての整理
上記7項目の中で、4)研修・訓練については、参加者数の拡充の必要性が見られた。
(3)通常時の国外準備体制(在外公館・JICA事務所)のガイドライン等との適切性
今回の現地調査対象国に限り評価が可能であったが、質問票による検証の結果、ほぼA(=明確に行っている)およびB(=行っている)の回答が得られたが、若干の項目にC(=あまり行っていない)も見られた。
(4) 通常時の国外準備体制の良い点と課題についての整理
在外公館、JICA事務所における通常時の国際緊急援助隊整備体制では、担当者を決めることは確実に行われているが、緊急時に於ける受け入れ体制を常日頃から十分備えておくとともに、担当の交替に際し、引継ぎを徹底することの重要性が確認された。また、災害多発国においては在外公館やJICA事務所が相手国政府に対して、国際緊急援助隊制度の目的と支援可能な範囲を説明しておく必要がある。また、国際緊急援助隊の派遣が迅速に現地で報道されるよう、現地メディアとの連携を通常時から強化しておくことの重要性が確認された。
3.3.2 派遣時の実施体制の評価
(1)派遣体制のガイドライン等との適切性
アルジェリアとベトナムの事例について検証した結果、ほぼガイドライン等のとおりに実施されていた。
(2)派遣体制の良い点と課題についての整理
制度の「結果」の達成との関係から、実施体制の良い点と課題についての以下の6つの観点から分析を行った。
1)発災から現地到着までの迅速性
「救助チーム」については、発災後72時間を過ぎると要救助者の生存の可能性が低くなるとの統計的な目安があり、派遣の迅速性が重要な課題である。過去の事例を見てみると、過去4件の地震に対する「救助チーム」の活動サイト到着までの時間は平均1.4日である。現在、日本から被災国までの移動に民間商用飛行機が使用されているため、「救助チーム」の派遣人数や活動現場への到着に関して制約を受けている実態が明らかになった。したがって、より迅速な移動手段の確保への要望が強かった。その一案として、政府専用機およびチャーター機の利用が指摘されている。
「医療チーム」は、過去6年間の現地到着までのタイミングは平均、5.0日である。このタイミングは、発災の3日間に災害救急医療のニーズが高いことを考慮すると、必ずしも、被災国のサイトに迅速に到着しているとはいえない状況にあるが、被災国側からは、問題は指摘されなかった。国内質問票調査によれば、「医療チーム」についても、政府専用機およびチャーター機等の利用の要望が見られた。
「専門家チーム」(地震後の耐震診断専門家、火山噴火予知専門家、防災専門家等)は、災害後に専門的観点から、長期的な将来のためのアドバイスをするために派遣されるもので、「救助チーム」、「医療チーム」に比べて、現場到着までの迅速性はさほど要求されていない。
2)活動体制
活動の効率性 (実質活動日数):「救助チーム」においては、適切な活動サイトにめぐり合うには偶然の要素が高いものの、よりニーズの高い活動サイトの選定を行うためにも、迅速に被災国に乗り込むことは重要であった。「医療チーム」は、比較的時間の余裕を持って活動サイトを選定することが可能であるので、適切なサイトの選定を迅速に行い、限られた派遣日数内で実質活動日数を増やす必要性が認められた。また、サイト選定にあたっては、先発の救助チームの人間が活動サイトを選定することが有効であることが判明した。「専門家チーム」は、先方機関と協力して作業を行うので、自らサイトの選定を行う必要はない。今後の課題として、先方機関のニーズに応える活動を効率的に行うためには、派遣期間の見直しと報告書作成方法の見直し、帰国後における先方政府への報告書の迅速な提出の必要性が見られた。
リスクと国際貢献の課題:通常、国際緊急援助隊は海外での自然災害等に際して、隊員の身に危険が及ぶ可能性が皆無ではない段階で派遣されるので、どこまで国際緊急援助隊員がこのリスクを引き受けるかに関して議論がある。アルジェリア地震「医療チーム」、ベトナム「専門家チーム」派遣の調査結果、現地の治安情勢に最も精通している在外公館の国際緊急援助隊チームの活動方針に対する助言は貴重であり、在外公館が引き続き全面的協力を行うことの必要性が確認された。
3)ロジ面
多くの派遣に際し、国際緊急援助隊は現地や経由地・近隣国の在外公館やJICA事務所から通信面や航空券の確保の面で、多大な支援を受けていることが分かった。このような、近隣国の在外公館やJICA事務所の支援が、国際緊急援助隊の順調な実施のためには制度上必要不可欠であることが確認された。
4)情報公開
「救助チーム」「医療チーム」に比べて、「専門家チーム」は、報道に関して、災害の特殊事情に応じ、制約を受けることも見受けられたが、被災民や国民の混乱を招かないように留意しながら、よりプレゼンスをあげるべく活動の情報公開を行う余地があることが認められた。
5)現地対策本部・国際機関等との関係
過去の派遣事例において、現地対策本部や国際機関等との連携は考慮されてきた。今回現地調査を行ったアルジェリア地震とベトナムSARSの両事例においては、チーム構成もこれらを重視した体制がとられていたため、十分な情報交換ができ、活動も順調に行われた。さらに、現地調査における先方関連機関とのインタビューにおいて、現地対策本部や国際機関等との連携がうまく行った背景には、在外公館が常時から良好な関係を構築しており、緊急時に役立ったという要因があることが明らかになった。
6)チームの能力
チーム別構成員数に関する過去の全派遣実績を見ると、「救助チーム」の構成者数の平均は42.9名、「医療チーム」の平均は11.5名、「専門家チーム」の平均は8.5名となっている。チームの規模と成果(中間目標1および2の達成度)の関係についてはチームの性格に応じて相関しているか否かについては多様であったが、チームの能力としては、隊員の個々人の能力のみだけでなく、チームとしての能力が高いことが要求される。同時にチームの能力の一つである携行機材の整備も引き続き行われるべきである。
(3)派遣時の国外支援体制(在外公館・JICA事務所)のガイドライン等との適切性
今回の現地調査対象国に限り評価が可能であったが、質問票による検証の結果、ほぼガイドライン等のとおりに行われているとの回答が得られた。
(4)派遣時の国外支援体制の良い点と課題についての整理
(i)要請から派遣決定し、現地に到着するまで
外務省本省への第一報、国際緊急援助隊の受け入れ事務とともに、在外公館、またはJICA事務所が中心となり、最大限の支援を行った。
(ii)被災国での活動実施中
いずれの派遣事例においても、在外公館やJICA事務所は、24時間体制で活動中の支援を行っている。国際緊急援助隊の初動の情報収集は在外公館に頼らざるをえず、また、在外公館はチームの活動範囲に関して、治安面を考慮し適切な助言を与えることができるので、引き続き、国際緊急援助隊の受け入れと活動中の支援は、在外公館の重要な役割のひとつとして位置づけられる必要がある。
3.4 総合評価
3.4.1 「中間目標」達成と制度の適切性
「中間目標1」
「救助チーム」と「医療チーム」に関しては、確認できる過去の全事例において、被災者の救出・収容、診療を通じて「中間目標1」を達成していることが定量的に明らかになった。しかし、定量的な把握だけでは拾いきれない、被災国住民の精神的不安の軽減等の効果が大きいことが、現地調査を通じて明らかになった。また、国際緊急援助隊が地震の際に派遣される場合、被災国側は、特に、日本の地震対策技術に対しても高い信頼を抱いており、その期待に応えるためにも日本が国際緊急援助隊制度を通じて、「専門家チーム」を派遣することの意義は大きかった。
「中間目標2」
「情報公開」に関しては、情報公開を重視する形で活動が実施されていること、国際社会、相手国、日本における「認識度」に関しては、世界各地において日本の国際貢献の姿が報道され、認識されていることが、確認された。
また、現地調査を通じ、災害時にマスメディアは、災害関連報道を必ず大きく取り上げており、国際緊急援助隊に対する注目度が高いことが判明した。「救助チーム」については、「迅速性」と「遠い国からの到着」に関して驚きをもって迎えられる、「医療チーム」については、活動期間が長く活動の広報を長期に亘り行うことができる、日本の医療技術への信頼が厚い、「専門家チーム」についても、日本の専門技術に対する期待が高い、等の点から、被災国にて大きな注目を受けることが判明した。したがって、情報公開を効果的に行えば、確実に日本のプレゼンスを向上することが出来ることが確認された。
3.4.2 「最終目標」達成度と制度の適切性
「最終目標」の達成については、「中間目標」の達成を通じてというより、むしろ、国際緊急援助隊制度の実施実績自体が「国際協力の推進」の第一歩の表れであると考えられる。海外の主要な災害に対し、国際緊急援助隊を派遣し、「中間目標」が一定の割合で達成されていることが本評価調査で確認されたことにより、日本と被災国の接触を通じ、日本のイメージの向上、被災国、国際社会との良好な関係構築に寄与しているといえよう。この機会に報道を効果的に行えば、日本の被災国におけるプレゼンスの向上に大いに役立つことが分かった。したがって、本制度は、日本の国際協力の推進に貢献し、日本のイメージの向上を図るには、極めて効果が高い制度であることが判明した。
3.4.3 実施体制改善への課題:結果の有効性を高めるために
(1)通常時の実施体制
1)通常時の準備体制、2)マニュアルの整備、3)人員登録状況・各省庁との連絡体制、4)研修・訓練の実施状況、5)携行機材の整備状況、6)情報公開、7)派遣終了後、の7つの項目で体制を見直し、ガイドライン等との適切度を検証し、課題の整理を行った。いずれもガイドライン等と照合すると適切に実施されており、過去の教訓から学び、改善が行われていた。しかし、7項目のうち次の3点について課題が見られた。国内体制において、前述の通り、4)研修・訓練の実施状況に関し、さらなる拡充の必要性が見られた。また、国外体制(在外公館、JICA事務所における体制)において、1)通常時の準備体制に関し国際緊急援助隊支援業務の引継ぎの徹底や、マスコミとの連携の強化が重要であった。
(2)派遣時における実施体制
1)発災から現地到着までの迅速性、2)活動体制、3)ロジ面、4)情報公開、5)現地対策本部、国際機関等との連携、6)チーム能力の6つの観点から検証した結果、次の課題ないし留意点が見受けられた。1)発災から現地到着までの迅速性については迅速な移動手段の確保、2)活動体制については、被災国における活動の効率化、国際緊急援助隊チームの負うべきリスクと国際貢献の基準の明確化等、3)ロジ面と6)チーム能力については、被災国のニーズにあったチーム能力の一層の強化等、4)情報公開については、各チームによる情報公開の一層の強化、5)現地対策本部・国際機関等との連携については国際緊急援助隊の効率的な活動を支える上で、その強化が引き続き必要であることが確認された。