1.1 評価の背景、目的、範囲
国際緊急援助隊は、1982年設立された「国際救急医療チーム」(JMTDR)を前身とし、1987年「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」の施行により創設された(1992年6月改正)。その目的は、海外の地域、特に開発途上にある海外の地域において大規模な災害が発生した場合、被災国政府または国際機関の要請に応じ、救助活動、医療活動および災害応急対策や災害復旧のための活動を行い、国際協力の推進に寄与することであった。
ODAの評価形態はおもに政策レベル評価、プログラムレベル評価、プロジェクトレベル評価に分類されるが、本件はプログラムレベル評価の一形態であるスキーム別評価として行われるものである。本評価の目的は、国際緊急援助隊制度について、総合的かつ包括的に評価し、今後、より効果的な実施の参考とするための教訓・提言を得るとともに、評価結果を公表することで説明責任を果たすことである。国際緊急援助隊は、「救助チーム」「医療チーム」「専門家チーム」「自衛隊」の4つの派遣形態に分類されるが、本評価の対象範囲からは「自衛隊」は除外した。
1.2 評価の方針
1.2.1 評価の枠組みの策定
「国際緊急援助隊」制度の評価に際し、外務省「ODA評価ガイドライン」に従って、評価の枠組みを策定し、制度の「目的」、「結果」、「実施体制」、の3つの観点から、総合的、包括的に評価を行った。第一の「I. 制度の目的の評価」については「妥当性」を、第二の「II. 制度の結果の評価」については、制度を実施した結果、制度の目的がどの程度達成されていたかを見ることにより「有効性」を、第三の「III. 制度の実施体制の評価」については、手続きやマニュアルの遵守度合いを見ることにより「適切性」を検証することとした。
「II.結果の評価」においては、定量的に制度の介入効果(インターベンション)を制度の実施前と実施後で比較したいと考えた。しかし、定量的データの把握について限界があることから、近年派遣された4つの国と地域(アルジェリア:2003年地震、ベトナム:2003年SARS、トルコ:1999年地震、台湾:1999年地震)をケーススタディとして、評価結果に反映させることとした。上記4事例のうち、アルジェリア地震災害に対する派遣(「救助チーム」「医療チーム」「専門家チーム」)、およびベトナムSARS集団発生に対する派遣(「専門家チーム」)に関しては、直近の事例であり、また事後評価も行われていないため、文献調査に加え、現地調査も含めた詳細調査を実施した。
最後の「IV. 総合評価」では、I~IIIの結果を踏まえて、国際緊急援助隊制度が「最終目標(=国際協力の推進に寄与すること)」の達成にどのように貢献しているのかについて測ることとした(本文の表1-1「評価の枠組み」参照)。
1.2.2 「国際緊急援助隊」制度の目的および実施体制の整理
制度の目的を既存の文献等を参考に以下のとおり整理した(本文の図1-1参照)。
・ 最終目標 | : | 「国際協力の推進に寄与すること」 |
・ 中間目標1 | : | 「人的(肉体的・精神的)被害の軽減」 |
・ 中間目標2 | : | 「国際緊急援助隊の活動を積極的に情報公開し、日本の実施した活動が国際社会・相手国および日本において広く認識される」 |
制度の実施体制は、「通常時」と「派遣時」に分け、国際緊急援助隊の実施に係わる関係機関毎に、実施体制をマニュアルやガイドライン等に定められた手続きや体制を項目立てにした「検証項目」という形で整理した。
1.3 評価の方法
評価の枠組みに従って、文献調査および質問票調査、およびインタビュー調査を実施した。それらの評価結果を受けて、制度が「中間目標」を達成するための適切な制度になっているかを総合的に判断し、さらに、「最終目標」の達成度について可能な範囲で分析を行った。その上で、上記の評価結果から抽出された課題や問題点、また過去の国際緊急援助隊派遣事例より得られたスキームレベルの教訓を参考に、制度改善に資すると思われる提言をまとめた。