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第6章 総合評価と今後の対インドネシア国別援助政策への提言

 第3~5章における評価結果を踏まえて、わが国のインドネシアに対する援助政策の総合評価を行うと共に、評価を通じて明らかになった改善すべき課題についても言及する。また、今後の対インドネシア国別援助計画の策定・実施へのフィードバックを目的に、効率的・効果的な援助協力の実施に資する提言を取りまとめておく。

6.1 総合評価

 第3章「対インドネシア援助政策の目的に関する評価」では、対インドネシア国別援助方針(重点5分野及び3本柱)の目的が、上位政策にあたる「(旧)ODA大綱」及び「ODA中期政策」に示された指針に合致したものであると確認された。一方、インドネシアの開発ニーズを反映しているかについては、対インドネシア国別援助方針がインドネシア5ヵ年開発計画(REPELITA VI)を踏まえたうえでインドネシア政府との協議を通じて策定されたものであり、その支援内容もREPELITA VIと整合していることから、開発ニーズを適切に反映したものであると評価できる。2000年に策定されたインドネシア新国家開発計画(PROPENAS)については、重点5分野で対応できない新たな開発ニーズ(グッド・ガバナンスや地方分権化に対する支援)に対して3本柱を追加することにより対応している。その他、JICA・JBICによる相手国省庁との対話(派遣専門家やセクター調査など)を通じて開発ニーズの把握に努めており、次に述べる課題はあるものの、総じてインドネシア側の開発ニーズはわが国の援助方針に反映されていると評価できる。

 目的の妥当性に関する課題を何点か指摘しておきたい。第一に、対インドネシア国別援助方針には基本方針は記載されているが、対インドネシア援助の目的が明示されていないことである。つまりわが国が何のためにインドネシアに援助をするのかという点が明確には説明されていない。

 第二は、1994年にインドネシア側と合意された重点5分野と2001年にインドネシア側の開発ニーズの変化に応じて追加された3本柱との関係が明確に位置付けられていないという点である。重点5分野ではカバーできない新たなインドネシアの開発ニーズへの対応のために、3本柱を援助方針に追加したという解釈により本調査では評価を行なった。しかしながら、現在ODA白書や外務省ホームページに掲載されている対インドネシア国別援助方針には3本柱が含まれていない。3本柱が表明された2001年以降も重点5分野が依然として対インドネシア国別援助方針の重点分野であるとされており、3本柱の位置付けが明記されていない。

 第三は、重点5分野に含まれているサブセクターのなかには重点を置いたことの妥当性への疑義を持たざるを得ないサブセクターもあることである。第5章の結果に関する評価で分析しているとおり、通信セクターについてはインドネシア政府が通信自由化政策を進めたこともあり、わが国が実施した援助案件は放送設備の整備に関連した開発調査と無償資金協力の各1件のみであった。インドネシア政府にとって通信網の整備は優先課題であったが、民間主導によって整備を進めたため、結果として通信セクターの援助対象としての重要性は低いものであったと考える。

 第4章「対インドネシア援助政策のプロセスに関する評価」では、対インドネシア国別援助方針は、援助実施機関の国別事業実施計画(JICA)、国別業務実施方針(JBIC)の国別業務実施方針に反映されており、案件形成プロセスの中でも案件採択の基準として同方針が参照されていることが確認された。但し、1994年に合意された重点5分野については、1999年の経済協力政策協議の場においてその妥当性に係わる議論が行われるなど、インドネシアの開発ニーズに対応したものであるか否かの確認がされているものの、いつどのような形で重点分野を見直すのかが定められていなかったことは課題として指摘できる。

 無償資金協力のうち約4割が技術協力との連携がなされているなど援助スキーム間の連携がみられる。但し、計画当初から複数の援助スキームを組み合わせたセクター単位の包括的な援助協力は農業分野以外では行なわれておらず、各スキーム間の連携によって得られるメリットを考慮すると各スキーム間の連携には更に促進される余地があると考えられる。他ドナー・国際機関との調整・協調に関しては、わが国はCGIの場において調整を行なっている。対インドネシア援助政策の基本方針については、わが国と他ドナー・国際機関との間で一定の調整が行われているものと考えられるが、案件実施レベルでの協調については限定的となっている。より効率的・効果的な援助を実施するためには、今後のさらなる調整・協調を他ドナー・国際機関と図っていくことが必要であると考える。

 第5章「対インドネシア援助政策の結果に関する評価」、すなわち、わが国のインドネシアに対する援助政策の効果については、分野ごとに効果を評価するための代表的な開発指標を設定し、その指標の推移から分野ごとに対して供与されたわが国の援助全体の効果を評価することを試みた。インドネシアは1997年に経済危機に直面し、マクロ指標は押なべて急激な悪化をみせたが、その後インドネシア経済の回復に伴ってマクロ経済も改善傾向を示している。対インドネシア国別援助方針(3本柱を含む)に従って供与されたわが国の援助の動向を検討すると、定性的にみればこうしたインドネシア経済の回復及び指標の改善に貢献したものと考えることができる。

6.2 今後の援助政策への提言

 2003年8月に改定された新ODA大綱では、ODAの目的として国際社会の平和と発展に貢献することを掲げている。目的の達成のためにODAをいっそう戦略的に実施することも明記されている。インドネシアは日本にとって最も重要な援助対象国の一つである。このインドネシアの安定と発展(繁栄)に効率的かつ効果的に貢献していくためには、重点分野を選定し、効率的・効果的に目標が達成できるような最適アプローチによって援助を実施していくことが求められる。

 今回の政策評価を通じて確認された援助政策上の課題を解消するためには、1)開発ニーズの変化に柔軟に対応できるように開発ニーズをくみ上げる体制を強化する、2)援助政策をより体系的なものにし、重要分野ごとの目的を明確にして開発目標・指標を設定する、3)効率的・効果的な援助が可能となる場合には援助スキームの有機的な連携や他ドナー・国際機関との連携によるフレキシブルな形での案件形成・実施を行う、の3点が重要であると考えられる。対インドネシア国別援助方針は何ら目標となる指標を掲げておらず、また、重点分野や課題についてもどのようなアプローチが採られるべきかについては十分に書かれていない。このため政策レベル評価においてその達成度を指標に基づいて評価することにも限界があった。最適アプローチによる援助という点では改善の余地は大きいと考えられる。

 以上の観点から、わが国の対インドネシア援助政策に対して以下の提言を行いたい。

1)真の開発ニーズをくみ上げる体制の強化

 援助政策は、変化するインドネシアの開発ニーズにタイムリーに対応しなければならない。これまでわが国の援助政策は、インドネシア政府が5年毎に改定する開発計画に合わせて策定されてきた。インドネシア政府の開発計画の改定に対応してわが国が対インドネシア援助政策を見直すというかたちを継続するとするならば、その開発計画が真の開発ニーズを的確に反映しているのかを評価する必要がある。また、インドネシア側の計画策定プロセスに対してわが国(JICA専門家などを含む)がどれだけ参画し、真のニーズをくみ上げることに協力できるかも課題となる。

 2000年から実施されている国家開発計画(PROPENAS)ではボトムアップ方式が採られ、地方の開発ニーズが今まで以上に反映される体制となった。この体制の変化は地方政府に政策策定能力を求めると同時に、中央政府に対しては今まで以上の政策調整を求めるものである。わが国としてもこうした計画策定プロセスに積極的に協力していくことが重要であろう。

 現行のPROPENASが終了した後、次の5ヵ年開発計画が策定されるかどうかは現時点で不明である。しかし、いずれにしてもインドネシア政府が打ち出す新たな開発方針及び政策の変化に対して、わが国としてもそれらを評価し、援助内容を適切に対応させていく体制をとる必要がある。わが国は、これまでも経済協力政策協議の場やJICA・JBICのインドネシア事務所、JICA専門家を通じてインドネシアの開発ニーズの把握に努めてきた。しかし、インドネシアの開発ニーズを従来よりもさらにきめ細かくモニターし、かつどのような援助が求められているかを把握する体制を作ることが望まれる。それにより、どのようなニーズに対してわが国援助で協力していくか、どのようなアプローチを採るべきかを見極めることも可能となる。また、援助政策についても定期的なモニタリングと適時に見直しを行なえる体制が整えられれば、例えばアジア経済危機のような緊急事態に対してもより一層適格に対応できる。また、これまで援助の受け入れはBAPPENASが一括して担当していたが、現在では地方に移管されている。今後は、インドネシア側のオーナーシップをどのような形で実現するのかを考えて、開発ニーズを把握していくことが重要となる。

2)具体性のある「目的」と「目標」の設定

 わが国の援助を効率的・効果的に実施するためには、「目的-目標-手段」の体系図を明確に示したうえで目的達成に最適な援助案件を実施することが重要である。したがって、援助政策のなかで各重点分野の援助目的を具体的かつ明確に示す必要があると考える。

 現在の対インドネシア国別援助方針が示している重点分野・課題は具体性に欠けると言わざるをえない。例えば、重点分野で挙げられている「産業基盤整備」のサブセクターの一つに「電力セクター」があるが、電力セクターに対してわが国はどのような援助を行うのかが明示されていない。分野ごとに開発課題を明確にし、達成すべき目標を設定した上で、課題解決に必要な援助アプローチを決定し、開発指標を用いて目標値を設定することにより、援助政策と実施プロセスとの関係を明確にすることが望まれる。これは効率的・効果的な援助の実現にも資すると思料する。

 目的の明確化にあたっては、分野別の方針に基づいて分野別の援助資金配分の目処も検討することが望ましい。この場合、限られた資源をどのような割合で開発目標に配分するのかに関してインドネシア側と政策対話を行い、配分に関して目的の共有化を図ることも必要となろう。

3)包括的援助計画の策定

 より効率的・効果的な援助協力を実施するためには、政策の企画立案と実施の連携が極めて重要となる。そのためには、援助計画は、援助政策から具体的な援助実施手段まで一貫性を持ったものとすることが望ましい。開発課題からそれを解決すべき各スキームまでの「目的-目標-手段」の関係を明確にし、援助政策から具体的援助計画までを取りまとめることが、効率的・効果的な援助の実施、さらには案件採択に関する国民への説明責任を果たすことにもつながるからである。そのためには、重点分野の開発ニーズに対してどのようなアプローチを採るか、どのような援助スキームを対応させるかを検討していく必要がある。

 包括的な援助計画を策定するためには、外務省が中心となり援助実施機関であるJICA、JBICも巻き込んで検討していくプロセスが重要となる。第4章で述べたように有償資金協力についてはJBICが、無償資金協力及び技術協力についてはJICAが援助実施計画の体系を策定している。外務省の援助計画とJICA、JBICによる各々独立した援助実施計画が、いかに論理的一貫性を持ち、政策目標に合致し、目標達成のために有機的に連関したものであるかということが明確にされるべきである。外務省が援助計画策定プロセスにJICA、JBICも巻き込むことで、政策目標の共有、当該目標の実現をモニター・評価する指標の設定と共有化を更に図ることが望ましい。

4)有機的な援助スキームの組み合わせ

 課題解決のために戦略的に援助を実施するためには、スキームの枠にとらわれない包括的な援助アプローチが効率的・効果的となるケースも多いと考えられる。現在、実施にあたって有償資金協力はJBIC、無償資金協力は外務省、技術協力はJICAが実施している。各スキーム間の連携によって得られるメリットを考慮しながら、各種援助スキームを有機的に組み合わせた援助を検討し、さらに促進していくことが望ましい。例えば、マスタープラン策定を開発調査で、パイロット事業を無償資金協力で、同事業の全国展開を有償資金協力で実施するなどのケースが考えられる。また、援助の効率化が可能となる場合には、他ドナー・国際機関との連携も積極的に進めることが必要と考えられる。

5)ロープロファイル解消の必要性(わが国援助のプレゼンスと影響力の確保)

 最後に、現地調査時においてインドネシアの省庁及び援助関係者から、他ドナー・国際機関と比べて「日本はロープロファイル(目立たない、低姿勢等の意。)」であるとの指摘を受けた。これは、インドネシア政府及びインドネシア国民に対するわが国が援助のプレゼンスや影響力が弱いということと解釈される。

 援助の投入額から見れば、わが国はインドネシアにとって最大の援助供与国となっている。それにもかかわらず、わが国の影響力が弱いと評価される理由の一つに、わが国がインドネシア政府に対して明確な援助方針を示しえていないことが考えられる。対インドネシア国別援助方針で示された重点分野・課題では具体的な目的が明示されていないため、何を重点に援助を行っているのか見えにくいことが挙げられる。その結果、各課題の解決に向けてどのような援助アプローチを取るべきか等の戦略性も徹底していない。JICA、JBICは個別案件まで含めた援助実施計画を策定しているが、外務省が策定する援助政策には具体的な援助実施計画等が含まれていない。このためわが国援助のセクター全体への貢献、あるいは援助全体としての貢献がインドネシア側に十分認識されていないのではないかと考えられる。また、CGIなどの場において日本が強力なリーダーシップを取っていないこともわが国が「ロープロファイル」と評価される理由の一つとして考えられる。

 しかし、日本の援助がロープロファイルであるという指摘は、IMF、世銀など他ドナー・国際機関と比較したうえでのものである。経済危機に直面した97年以降、2003年までインドネシアの経済運営は、IMFとの間で趣意書(LOI)のかたちで合意した政策パッケージに従って経済構造改革の実施を支援条件としたが、こうしたIMFの姿勢や政策処方箋の内容については、インドネシア政府内や内外の経済学者による批判もある。従って、ロープロファイルであるということは、わが国が援助実施に際してより柔軟な姿勢で臨んでいる証左であるとも解釈される。

 インドネシアはわが国と密接な相互依存関係を有する重要なパートナーとして位置づけられており、わが国が援助を継続していく意義は大きい。重点課題に対して効率的・効果的に援助を実施するためにわが国の対インドネシア援助に対する考え方やアプローチをインドネシア側に伝え、相互理解をより深めていく姿勢が望まれる。また、インドネシア政府や他ドナー・国際機関についてもわが国の援助方針、アプローチに関する理解を高めていくことが望まれる。これによって、わが国援助がより「顔の見える援助」、つまり、「ロープロファイル」から「ハイプロファイル」へと転換していくことが可能になるものと考えられる。

 また、わが国援助に関する広報活動の拡充もロープロファイルの解消に有効であると考える。わが国の援助が果たしている役割をインドネシア政府関係者だけでなく、広くインドネシア国民に広報していくことも必要である。広報活動においては地方分権化への対応も検討するべきである。これまで援助の受け入れはBAPPENASが担当していたが、現在では地方政府の関与が大きくなっている。今回の現地調査でも中央政府の省庁の一部では、例えば援助条件、実施プロセス等について理解が不十分であるケースがあった。今後は、地方に対してもわが国援助の広報をきちんと行っていくことが重要である。

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