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第5章 対インドネシア援助政策の結果に関する評価

 本章では、インドネシア開発予算に占めるわが国資金協力の割合を重点分野ごとに示すことで、重点分野に対する援助投入量の観点から、わが国の援助の貢献を検証する。また、わが国の援助政策である対インドネシア国別援助方針にある重点5分野ごとに指標を設定し、わが国の援助投入のタイミングの妥当性及び援助政策の効果についての検証を行い、わが国の援助政策が課題解決に対して有効であったかを評価する。また、追加的支援方針である3本柱については、2001年に表明されてから日が浅いため、援助政策の効果について評価するには時期尚早と考える。よって、3本柱については、わが国の援助投入のタイミングの妥当性について評価すると共に、今後期待される援助効果について言及することとする。さらに、わが国のアジア経済危機への対応を援助スキーム別に検証し、投入のタイミング、援助政策の効果の観点から評価する。

5.1 重点分野ごとのわが国資金協力のインドネシア開発予算に占める割合

 インドネシアの国家予算(APBN)は通常予算と開発予算に分かれている。通常予算は税収を中心とする国内歳入を財源とし、人件費(公務員の給料等)、債務支払い、各公共施設の運営・維持管理費等に配分される。一方、開発予算は主にODAなどの外国援助及び国内歳入を財源とし、地方政府を含む政府の開発プロジェクト事業費に配分される1

 インドネシアの地方財政については、中央政府からの使途が限定された各種の交付金・補助金により予算配分がなされてきた。しかし、地方分権化の一環として1999年に成立した中央地方財政均衡法(1999年法律第25号)により、2000年以降土地建物税・土地建物移転税ならびに天然資源からの歳入分与の地方政府分配分、使途の限定されていない一般交付金(DAU)、使途の限定された特別交付金(DAK)などにより財政移転がなされるようになった2 。したがって、2000年以降これらの財政移転分が地方政府予算としてインドネシア政府予算に計上されている。図5-1に1996年~2002年のインドネシア政府予算の推移を示す。

 図5-1 インドネシア政府予算の推移(1996~2002年)


 ODAの対象となるインドネシア政府の開発プロジェクト事業は開発予算を財源としている。図5-2にインドネシア開発予算と日本の資金協力3(有償資金協力、無償資金協力の合計)との比較を示す。

 図5-2 インドネシア開発予算と日本の資金協力との比較(1996~2002年)


 1996~2002年度におけるインドネシアの開発予算は34.5~92.7兆ルピアであり、年平均は55.2兆ルピアとなっている。これに対するわが国の資金協力は4.5~20.5兆ルピアで、年平均は7.9兆ルピアとなっている。インドネシア開発予算に占める日本の資金協力の割合を見てみると、7.4%~22.1%となっており、年平均では14.3%である。インドネシアは大国であり、開発予算の規模も非常に大きなものとなっているが、そのうち15%弱を占めるわが国資金協力の援助規模は大きいと言える。

 次に、インドネシア開発予算に占める日本の資金協力の割合を重点5分野別に見てみる(表5-1)。重点5分野別に見たインドネシア開発予算では、公平性の確保及び産業基盤整備(経済インフラ整備)分野が全体予算の57.8%(1996~2002年度の平均)を占めている。これに対して、日本の資金協力は、有償資金協力による産業基盤整備を中心に行われており、インドネシア開発予算に占める割合は31.4%(1996~2002年度の平均)と非常に高いシェアとなっている。産業基盤整備は、電力、水資源・灌漑、運輸を対象に行われており、これらのサブセクター4に対するわが国の資金協力による貢献は大きいと考えられる。

 表5-1 重点5分野別インドネシア開発予算に占める日本の資金協力の割合


 有償資金協力に比べて金額は少ないものの、無償資金協力でも、公平性の確保、人造り・教育分野、環境保全に対する支援を行っている(重点5分野別資金協力案件については、添付資料1を参照)。中でも、1998・99年度における公平性の確保を対象とした無償資金協力による援助額が大きくなっている。これは、アジア経済危機対応として、1998・99年度に緊急無償や食糧援助などの人道的支援が集中的に行われたためである。なお、同期間の当該分野における日本の援助額(有償・無償の合計額)のインドネシア開発予算に占める割合を見てみると、98年度は30.5%、99年度は32.5%となっており、わが国の資金協力による貢献は大きいと考えられる。また、1997~98年の干ばつと経済危機により深刻化していたインドネシアのコメ不足への対応として、貸し付け米並びに無償資金協力による緊急コメ支援が実施され、コメ不足の解消及び貧困者救済に大きな効果を上げた例なども報告されている5

 一方、人造り・教育及び産業構造の再編成に対する資金協力が少なく、1996~2002年度の平均で見たインドネシア開発予算に占める援助額の割合はそれぞれ1.5%及び0.2%となっている。これらの分野に関しては、資金協力の枠組みではなく、技術協力を中心に援助が実施された。

5.2 重点5分野におけるわが国の貢献

 本項では、対インドネシア国別援助方針にある重点5分野ごとのわが国の援助協力を、(1)援助投入のタイミングの妥当性、(2)援助政策の効果、の2つの視点により検証し、援助額では見えないわが国の貢献について分析・評価する。

 援助政策の効果については、わが国の援助政策のもと、対象期間に実施された案件(1996~2002年)を分野ごとに総体的に捉えて、各分野の開発課題の解決に寄与したと思われる効果について評価する。評価に当たっては、分野ごとに妥当と思われる開発指標を設定し、数値の推移を見ることとする6。しかしながら、開発指標の推移とわが国の援助投入との因果関係を示すことは難しく、わが国の援助政策がどの程度効果発現に貢献したのかを定量的に把握することは困難である7。したがって、各分野において実施された案件の内容や進捗状況を考慮し、開発指標の推移と援助投入との関係について、可能な限り定性的な考察をする8

 なお、有償資金協力(円借款事業)のように、実施から完成まで長期間を要する案件については、援助政策実施期間と効果発現の時期との間に時間差が生じることも考えられる。このようなケースでは、今後期待される効果について言及し、インドネシアの開発課題の解決に有効と思われるかについて検証する。なお、わが国援助協力の具体例を把握するために視察した10案件については、本章の貢献度評価に係る参考情報として適宜活用することとする(視察結果については添付資料2を参照)。

5.2.1 公平性の確保

 公平性の確保には、(1)貧困層の生活改善、(2)基礎生活分野に対する支援(住居環境の整備、保健医療)、(3)人口・家族計画及びエイズ対策、(4)東部インドネシアの開発(地域間格差是正)がサブセクターとして認識されている。1996年~2002年度に実施された当該分野を対象としたわが国援助案件の件数は下記のとおりである。

  • 技術協力プロジェクト※: 10件
  • 開発調査: 6件
  • 無償資金協力※: 28件
  • 有償資金協力: 5件

技術協力には、専門家派遣、研修員受入れ、技術協力プロジェクト(旧プロジェクト方式技術協力)、機材供与、開発調査事業、青年海外協力隊、シニアボランティア(インドネシアではシルバーエキスパートと呼ばれる。)が含まれるが、この項では、重点分野別に区分することが可能であった技術協力プロジェクト及び開発調査のみを取り上げる(以下同様)。
無償資金協力は一般無償、食糧援助、食糧増産援助、緊急無償、ノン・プロジェクト無償を含む。


 上記のとおり、公平性の確保においては無償資金協力の投入が中心であったことがわかる。これは97年のアジア経済危機を強く受けた社会的弱者への対応が無償資金協力を中心に実施されたことによる。各サブセクターに対するわが国援助の貢献について下記のとおり検証する。

1)貧困層の生活改善

 貧困層の生活改善に資することを目標とした案件としては、技術協力プロジェクト「スラウェシ貧困対策支援村落開発計画」、開発調査「村落共同組合活性化推進計画」、無償資金協力「食糧援助」、「緊急無償」等、有償資金協力「ソーシャル・セーフティ・ネット借款(2件)」などがある。当該サブセクターへの支援の件数は下記のとおり。

  • 技術協力プロジェクト: 1件
  • 開発調査: 1件
  • 無償資金協力: 12件
  • 有償資金協力: 2件

 調査対象期間中は経済危機対応のための緊急無償援助とソーシャル・セーフティ・ネット借款がこの分野では主要な援助であった。これらの緊急支援は、その素早い実施と柔軟なプロジェクト形成によりインドネシア側からも高く評価されている。

 インドネシアの中央統計局(BPS)は社会経済調査(SUSENAS)のデータに基づき、貧困ライン9の設定をしている。以下にインドネシアの島嶼別の貧困者率を示す(表5-2)。

 表5-2 インドネシア島嶼別貧困人口比率の推移(%)


 貧困人口比率の推移を見ると、インドネシア全国レベルで96年には17.65%であった割合が99年には23.43%と急激に悪化していることが分かる。これは、97年に発生したアジア経済危機の影響を大きく受けたことによる。だが、2000年以降は減少傾向にあり、2002年には18.20%と経済危機前の水準近くまで回復している。わが国の援助は、無償資金協力による社会的弱者支援を中心に1998~99年度に集中的に行われており、上表にある貧困者率の減少に貢献しているものと考えられる。

2)基礎生活分野に対する支援(居住環境の整備、保健医療)

 基礎生活分野への支援としては、技術協力プロジェクトによる「集合住宅適正技術開発計画」など6件、無償資金協力による緊急無償、新生児破傷風対策計画など4件、有償資金協力による病院改善事業と地域保健医療強化事業の2件が実施された。

  • 技術協力プロジェクト: 6件
  • 無償資金協力: 4件
  • 有償資金協力 2件

 当該サブセクターにおいても、緊急的にアジア経済危機への対応として実施された無償資金協力(「医療品等の緊急無償」及び「新生児破傷風対策計画」)によるタイムリーな実施が注目される。加えて、「母と子の健康手帳プロジェクト」等の技術協力プロジェクトによりインドネシア側への技術移転が行なわれた。特に「母と子の健康手帳プロジェクト」によって導入された母子健康手帳は技術協力の対象州を越えて普及している。これは当該プロジェクトの波及効果と考えられよう。

 当該サブセクターのうち「居住環境の整備」に関しては、「集合住宅適正技術開発計画」により都市人口の急増への対応を目指したものであり、インドネシアの第6次5ヵ年計画(REPELITA VI)に沿ったものであり、開発ニーズに合致した投入が行われた。

3)人口・家族計画及びエイズ対策

 人口・家族計画及びエイズ対策分野への支援としては、無償資金協力により2000年度に実施された「家族計画プログラム」がある。本プログラムでは、わが国のODAとして初めて経口避妊薬の供与が行われた。これは経済危機により、家族計画を自力で継続できなくなった家庭への支援であった。一方、エイズ対策を主目的とした援助は実施されていない。当該サブセクターに対するインドネシア側の開発ニーズはあったものの、わが国の援助の投入は乏しかった。

  • 無償資金協力: 1件

4)東部インドネシアの開発(地域間格差是正)

 地域間格差是正のための支援としては、開発調査による「地方分権化・地方自治体における地方政府の実施状況及び支援ニーズ調査」、「サバン地域総合開発調査」10など5件、無償資金協力による「東ヌサテンガラ地域貯水池開発計画」など6件が実施された。当該サブセクターへの援助は下記のとおり。

  • 開発調査 5件
  • 無償資金協力 6件

 地方分権化など新たな課題に対しては、技術協力プロジェクトによる技術移転以前に、開発調査による支援計画づくりが行なわれた他、研究支援無償といった新たなスキームを用いた支援が行われた。

 第2章で述べたとおり、第6次5ヵ年計画(REPELITA VI、1994~1999年)に基づいた開発プロジェクトは、アジア経済危機及びその後の政変により中止、もしくは規模の縮小が行われた。公平性の確保を目的としたわが国の援助は、経済危機による影響を受けた社会的弱者に対する緊急支援(無償資金協力)が中心となった。これらの支援はタイムリーに実行され、雇用の確保にも貢献したと考えられる。表5-2のとおり、2000年以降、インドネシア全体ならびににカリマンタン島、パプア州では貧困者率が低下傾向にある。緊急援助は東部インドネシアの開発に貢献したものと考えられる。

5.2.2 人造り・教育分野

 人造り・教育分野では(1)初等・中等教育の充実、(2)教員の質の向上、(3)技能・技術者教育の充実がサブセクターである。1996~2002年度に実施された当該分野を対象としたわが国援助案件は以下の通りである。

  • 技術協力プロジェクト: 8件
  • 開発調査: 2件
  • 無償資金協力: 13件
  • 有償資金協力: 3件

1)初等・中等教育の充実

 初等・中等教育の充実のための支援としては、技術協力プロジェクトが1件、開発調査では地域教育開発支援調査、無償資金協力では初等・中等理数科教育改善計画が行なわれた。

  • 技術協力プロジェクト: 1件
  • 開発調査: 2件
  • 無償資金協力 1件

 初等・中等教育に対する援助件数が少なかった。これは援助を実施する側に、当該サブセクターでの援助の経験・知識が乏しかったことを示唆している。援助をするという意向はあっても援助を実施する体制が整っていなかったと評価することもできよう11。地域教育開発支援調査(フェーズII)及び技術協力プロジェクトの初等・中等理数科教育拡充計画(1998年から実施)は現在も実施中である。また、インドネシア側に教育水準(質)の向上が開発課題として認識されるようになったのは、アジア経済危機後からであったと考えられる。

2)教員の質の向上

 当該サブセクターでは、1)初等・中等教育の充実に分類した「初等・中等理数科教育拡充計画(技術協力プロジェクト)」と「初等・中等理数科教育改善計画(無償資金協力)」が実施された。高等教育段階での教員の質の向上に関しては、技術協力プロジェクトによる「高等教育開発計画」と「ボゴール農家大学大学院計画」の2つの援助が実施された。初等・中等教育の充実同様に、当該サブセクターでの援助の実績は乏しい。援助実施側の体制に課題があったものと考えられるため、サブセクターに分類したが援助の実施は少なかったことを指摘するに留める。

  • 技術協力プロジェクト: 1件
  • 無償資金協力: 1件

3)技能・技術者教育の充実

 初等・中等教育及び教員の質の向上への援助が乏しかったのとは対照的に、調査対象期間中の人造り・教育分野への支援は技能・技術者教育分野の充実に集中していた。

  • 技術協力プロジェクト: 5件
  • 無償資金協力: 12件
  • 有償資金協力 3件

 技能・技術者教育分野は主に技術協力と無償資金協力により実施されている。技術協力ではポリテクニックの教員養成、貿易センター、鉄道職員や砂防技術センターへの協力を行っている。

 無償資金協力では技術協力と連携した案件が多い。現在も実施中のスラバヤ・電気系ポリテクニックは無償資金協力にて建物を建設した後に技術協力プロジェクトが実施されている。建物の建設とその施設を利用しての人材育成はわが国の援助の特徴の一つである。

 他の地域への援助のインパクトとしては、スラバヤ電気系ポリテクニックの例が挙げられる。スラバヤ電気系ポリテクニックは、無償資金協力と技術協力により支援が行なわれた。同ポリテクニックには、他のポリテクニックの教員が教科書やカリキュラムを学びに訪れるなど、スラバヤという地域に限定されないインパクトを与えている。

 従来は経済インフラを中心に有償資金協力が実施されていたが、近年は人材育成分野への協力も行なわれている。上記の初等・中等教育の充実、教員の質の向上、技能・技術者教育の充実という3つのサブセクター以外にも、大学への支援として、有償資金協力による「パティムラ大学整備」、「ガジャマダ大学整備事業」、「海事訓練学校整備事業」が実施されている。

 技能教育・技術者の養成への援助が多かったことは、わが国の側から見て援助を実施する人材が豊富であったことによるものと理解される。また、初等・中等教育に関しては、インドネシア語による援助が求められるため、日本人による直接の指導が困難であった。そこで地域教育開発支援調査に代表される開発調査にて、教育計画づくり、教育行政官への援助が行なわれた。

5.2.3 環境保全

 環境保全分野は、(1)森林等の自然資源・自然環境の保全(生物多様性の保全等)及び持続可能な利用、(2)都市居住環境及び公害面での協力、(3)環境問題全般における体制の整備(環境関連の政策実施能力の向上等)の3サブセクターに分けられる。1996~2002年度に実施された当該分野を対象としたわが国援助案件は以下の通りである。

  • 技術協力プロジェクト: 10件
  • 開発調査: 3件
  • 無償資金協力: 3件
  • 有償資金協力: 2件

 環境保全分野に対するわが国の援助は、技術協力プロジェクトを中心に実施されていることが分かる。以下において、各サブセクターに対するわが国援助の貢献について検証する。

1)森林等の自然資源・自然環境の保全(生物多様性の保全等)及び持続可能な利用

 当該サブセクターを対象としたわが国の援助案件は以下の通りである。

  • 技術協力プロジェクト: 6件
  • 開発調査: 1件
  • 無償資金協力: 3件
  • 有償資金協力: 1件

 環境保全分野を対象としたわが国の援助案件18件のうち、当該サブセクターを対象とした援助案件は11件となっており、最も重点が置かれていたと考えられる。また、上記の援助案件のうち、森林保全に係る案件が5件、自然環境保全に係る案件が6件となっている。

 インドネシアはブラジルに次いで世界で2番目に広大な熱帯林を有する国であり、貴重な森林生態系、世界有数の生物多様性を有するなど、熱帯林の保全上、戦略的な位置を占めている12。インドネシア支援国会合(CGI)においても森林保全は大きく取り上げられており、深刻化する違法伐採や森林火災に対する支援が各ドナー国から表明されている。わが国もこうした流れを受け、大規模森林火災に対処するため、1996年度から技術協力プロジェクトによる「森林火災予防計画」を実施した。また、東カリマンタンの「熱帯降雨林研究計画(3)」において、1998年の森林火災が生態系に与える影響についての研究が進められた他、スマトラ、カリマンタンを対象としたインドネシア初の植林無償である「国立公園森林火災跡地回復計画」が1999年度から実施され、2000年度にはスマトラ、カリマンタンの4国立公園を対象に「森林火災対策機材整備計画」が実施されるなど、総合的な森林火災対策に関する協力が実施されている。このように、CGIでも大きく取り上げられ、各支援国の主要テーマとなっている森林問題に対してわが国が継続して支援を行ったことは、タイムリーかつ妥当性の高い援助内容であったと評価できる。

 生物多様性の保全についても、無償資金協力(1996年)により生物多様性保全に必要な施設の整備、機材の供与を行い、技術協力プロジェクト(フェーズ I:1995~97年、フェーズ II:1998~2003年)により人材の育成、技術移転等の支援を行う「生物多様性保全計画」を始め、「バリ海岸保全事業(1996年)」、「マングローブ情報センター計画(2001年)」など積極的な支援を行っている。1992年に発表された「日米グローバル・パートナーシップ・アクションプラン」の中でも、日米環境共同協力事業として開発途上国における自然資源の管理・保全のための事業がうたわれ、インドネシアが対象国として選定されている。

 次に、上記の援助投入の効果について検証する。森林保全に対するわが国の援助は、スマトラ、カリマンタンを中心に実施されているため、開発指標としてスマトラ、カリマンタンにおける森林面積の推移を見ることにする13(表5-3)。

 表5-3 スマトラ、カリマンタンにおける森林面積の推移


 上表を見ると、1997~98年の大規模森林火災により1998年の森林面積が大幅に減少しているが、それ以降、森林面積はほぼ横ばい14となっている。同表を見る限り、森林保全に対する効果は現れていないように思われるが、森林火災対策や植林による効果が現れるまでには長期間が必要とされていることに注意されたい。例えば、森林火災の被害を受け草地化した森林が自然回復するまでには、数十~数百年が必要といわれている。したがって、森林保全に対する援助政策の効果を評価するには時期尚早だと考える。但し、一部で森林保全に係る効果が確認できたものもある。例えば、1997~1998年に亘りスマトラ島、カリマンタン島で大規模な森林火災が発生した際に、「森林火災予防計画」で導入された衛星情報によるモニタリング・システムが活用された。モニタリング・システムから得られた日々の火災状況が林業省15に提供され、全国的な消火戦略樹立に貢献すると共に、日本を含む各国からの緊急救助隊へ情報面での支援を行ったことは高く評価されている16。また、「国立公園森林火災跡地回復計画」を対象に現地視察を行った結果、ワイカンバス国立公園(ランポン州)において、公園管理者及び地域住民の森林火災に対する意識が大きく向上したことが確認できた。日本人専門家による植林に係る技術移転も進んでおり、地域住民自ら植林を行えるほど、彼らの技術・知識は向上している。植林作業は地域住民と協力して行われており、現在までに約5万人の新規雇用がなされ、地域住民の生活に大きなインパクトを与えていることも確認できた。このように、森林管理者や地域住民の森林保全に対する意識は高まっており、今後の波及効果が期待される。

 生物多様性の保全に係る効果を把握することは困難であるが、環境省(旧環境管理庁)によると、上記「生物多様性保全計画」により整備された自然環境情報センター(NCIC)では、生物多様性施策推進の基礎となる生物分布などの生物情報の集積及び保護地域に関する情報管理システムが構築され、そのデータベースは世界的にも学術面で注目されている。また、同プロジェクトはインドネシア側関係者により非常に高く評価されている案件の一つとなっている。

2)都市居住環境及び公害面での協力

 当該サブセクターを対象としたわが国の援助案件は以下の通りである。

  • 技術協力プロジェクト: 2件
  • 開発調査: 2件
  • 有償資金協力: 1件

 上記案件のうち、都市居住環境に関する案件は3件、公害防止に関する案件は2件となっている。当該サブセクターに対する代表的なプロジェクトとして、有償資金協力による「公害防止支援事業」が挙げられる。同事業では、第1期事業にあたる「小企業育成・公害防止機器設置支援事業(1992年)」に引き続き、ジャカルタ、スラバヤ等の大都市で深刻化する公害問題に対処するため、中小企業の公害防止活動(特に大気汚染に係る対策)を支援する内容となっている。インドネシアでは、都市居住環境においては特に水問題、公害面では都市部における大気汚染や水質汚染が問題となっている。上記「公害防止支援事業」は大気汚染の緩和に有効な支援と思われるが、全体的な援助投入量は少なく、これだけでインドネシアが抱える問題に対処していくには不十分だと思われる。

 援助政策の効果については、ジャカルタ、スラバヤ等の都市部における二酸化炭素排出量を開発指標としてデータ収集を試みたが、インドネシア側の環境モニタリング体制やデータの管理状況が整っておらず、適当なデータを入手することができなかった。また、そもそも上記にあるわが国の援助投入量を考慮すると、明確な効果を把握するのは困難であると考えられる。

3)環境問題全般における体制の整備(環境関連の政策実施能力の向上等)

 当該サブセクターを対象としたわが国の援助案件は以下の通りである。

  • 技術協力プロジェクト: 2件

 当該サブセクターを対象としたわが国の援助協力は技術協力プロジェクト2案件のみとなっている。環境省は、1994年の大統領令77号により大幅な組織改正と機能強化が図られており、その後も1998年と2000年の大統領令により改組されるなど、環境管理能力の向上に力を入れている。わが国の援助投入量は少ないものの、「環境管理センター(EMC)」では、水質汚染、大気汚染、有害物質その他の環境問題における環境研究、モニタリング活動、環境情報システム、人材育成のためのトレーニングを通じた環境管理能力の強化支援を行っている。同プロジェクトは、インドネシア側のニーズと整合した妥当性の高い援助であったと言えるだろう。

 当該サブセクターに対する援助政策の効果については、環境管理能力の向上など定量化が困難な指標であることから、適当と思われるデータを入手することができなかった。しかしながら、環境省によると、上記「環境管理センター(EMC)」による人材育成、及びJICAによる技術協力や研修員受入れは環境省職員の能力向上に大きく貢献したとのことである。また、わが国の援助はインドネシアのCDM17(Clean Development Mechanism)の向上に大きな役割を果たしているとの評価を受けている。したがって、技術協力を中心としたわが国の援助協力により移転された技術・知識、及び環境に対する意識は着実にインドネシア側に根付きつつあるものと考えられる。

5.2.4 産業構造の再編成

 産業構造の再構成では、(1)マクロ経済運営に対する支援、(2)サポーティング・インダストリーの支援、(3)農業振興(農産物多様化、付加価値の高い農産物の生産)がサブセクターとして認識されている。1996~2002年度に実施された当該分野を対象としたわが国援助案件の件数は下記のとおりである。

  • 技術協力プロジェクト※: 19件
  • 開発調査: 11件
  • 有償資金協力: 3件

    フォローアップ、アフターケア調査を含む。
1)マクロ経済運営

 マクロ経済運営に対する支援で評価対象期間中に当該分野で実施されたわが国援助案件は、以下の通りである。これらは、経済危機に陥ったインドネシアに対する財政支援型プログラム借款及びノンプロジェクト無償資金協力であった18

プログラム借款
 (1998年度)
  • セクター・プログラム・ローン(第1次): 500億円
  • セクター・プログラム・ローン(第2次): 1,000億円
  • ソーシャル・セーフティ・ネット借款 452億円
(1999年度)
  • ソーシャル・セーフティ・ネット調整借款 719.28億円

ノンプロジェクト無償資金協力
 (1998年度)  30億円
 (2000年度)  25億円
 (2001年度)  30億円
 (2002年度   25億円

 インドネシアのマクロ経済指標は、1997年7月にタイで発生したアジア経済危機がインドネシアに波及し、1998年に大幅な悪化をみた。1998年の実質GDP成長率は、マイナス13.1%を記録した。こうしたマクロ経済環境下で、上記の財政支援型プログラム借款が供与された。第1次セクター・プログラム・ローンは1998年10月に、第2次セクター・プログラム・ローンは1998年12月に借款契約が締結された。保健・栄養セクター開発計画は、1999年3月に、ソーシャル・セーフティ・ネット借款は1999年3月、ソーシャル・セーフティ・ネット調整借款は2000年1月に借款契約が締結された。

 これらプログラム借款の国際収支面での効果をみてみる。インドネシアでは1997年の経済危機までは、経常収支の赤字を資本収支の黒字で賄う構造であった。しかし、この構造は1998年に大きく変化した。経常収支は、1997年には50.0億ドルの赤字であったが、輸入が急減したことから1998年には41.0億ドルの黒字に転じた。一方、資本収支は25.4億ドルの黒字から38.8億ドルの赤字に転じた。特に、直接投資の落ち込みと短期資本の急激な流出のため民間部門の資本収支は、1997年の0.3億ドルの赤字が138.5億ドルの赤字に急拡大した。一方、政府部門の資本収支は、28.8億ドルの黒字が99.7億ドルの黒字に拡大している。これはIMFを含めて援助国・機関の対インドネシア援助が拡大したためである。1999年、2000年も同様に経常収支が57.8億ドル、79.9億ドルの黒字に対して、資本収支の赤字は45.7億ドル、67.7億ドルであった。資本収支の内訳をみると民間部門が99.2億ドル、99.9億ドルの赤字に対して、政府部門は53.5億ドル、32.2億ドルの黒字であった(表5-4)。

 表5-4 国際収支の推移


 わが国が供与したプログラム借款額(年平均為替相場で換算)は、1998年が5.3億ドル、1999年が12.7億ドル、2000年が6.7億ドルとなる。これは資本収支のなかの政府受け取り額の、各々、3.9%、13.5%、8.9%に相当する。インドネシアの主要援助国・機関であるわが国のプログラム借款及びノンプロジェクト無償資金協力は、民間資本の急激な流出により資本収支が急激に悪化するなかでインドネシアの国際収支を支える上で重要な役割を果たしたと言える。また、現地のヒアリングにおいて、経済危機時にわが国が供与したプログラム借款及びノンプロジェクト無償資金協力は、インドネシアのマクロ経済面の課題にマッチしたものであり、タイミングも適切であったとの評価を得た。 以上から、マクロ経済運営に対するわが国の援助は、インドネシアの開発ニーズの変化に柔軟に対応した協力であったとことが確認できた。

2)サポーティング・インダストリーの振興

 サポーティング・インダストリー19の振興の分野に対する援助は、技術協力が中心となっている。1996~2002年度に実施されたサポーティング・インダストリーの振興を対象としたわが国援助案件は以下の通りである20

  • 技術協力プロジェクト: 6件
  • 開発調査: 8件
  • 有償資金協力: 2件

 サポーティング・インダストリーは殆どの産業に存在するが、生産点数や企業数でみると自動車産業、電気電子産業に部品を供給するサポーティング・インダストリーが重要であると考えられることから金属加工及び電気電子分野の中小企業の生産額の推移をみる(表5-5)。サポーティング・インダストリーの業績は、最終製品を製造するための原材料、部品、技術サービス等を提供するという産業の性格上、最終製品の生産動向に大きく依存している。インドネシアにおいては、経済危機の影響で自動車、電気電子製品の生産は1998年に大きく落ち込んだ。この影響を受けてサポーティング・インダストリーの業績も実質ベースでは1998年に落ち込んだ。しかし、2000年からは国内消費の回復、輸出の拡大に伴って回復基調を辿っている。

 表5-5 サポーティング・インダストリーの生産額


 当該分野の主要実施案件である技術協力プロジェクト案件「鋳造技術分野裾野産業育成計画」を視察した。本事業は、金属機械工業研究所(MIDC)の機能を強化し、鋳造技術分野等のサポーティング・インダストリー振興を図ることを目的としている。5年間の協力期間の最終段階に至っているが(2004年3月に終了予定)、インドネシア側カウンターパートへの技術移転は順調に進んでいると評価できる。現在では、MIDCのスタッフが、型の作成から製品作成まで独力で行なえるようになっており、国内企業への技術指導も行なっている。しかしながら、国内企業への技術指導の件数や対象地域が限られていることから、サポーティング・インダストリー振興に対する直接的な効果はこれまでのところ限定的と言える。今後、MIDCが技術指導、技術普及活動を本格化していけば、長期的にはインドネシアのサポーティング・インダストリーの技術レベルの底上げに大きく貢献できるものと期待できる。そのためには、MIDC運営における自立性の確立、技術水準の維持、技術指導体制の強化などにサステナビリティに留意して援助を継続することが重要である。

 その他では、同じく技術協力プロジェクト案件であるCEVEST職業訓練向上計画、貿易センター人材育成計画、電気系ポリテクニック教員養成計画も裾野産業の振興に対して間接的に効果を与えたと考えられる。また、経済危機後のマクロ経済の安定化への貢献も、需要の拡大、輸出環境の改善などを通じてサポーティング・インダストリーの業績向上に与えた間接的な影響は大きいと考えられる。

 但し、他の東南アジア諸国の事例をみてもサポーティング・インダストリーの振興には時間を要することから、技術向上、人材基盤の拡充、金融ななどの面での支援を継続して実施していくことが必要であると考えられる。

3)農業振興

 産業構造の再編成の一つに含まれた農業振興分野に対する支援には、農産物多様化、付加価値の高い農産物の生産が含まれる。わが国はインドネシアの農業開発に対して、評価対象期間以前から有償・無償資金協力、プロジェクト技術協力、開発調査、専門家派遣を通じて支援を行なってきた。特に各種の援助スキームを有機的に連携させるアンブレラ方式による援助が1985年以降実施されている。1996~2002年度に実施された当該分野を対象としたわが国援助案件案件は以下の通りである。

  • 技術協力プロジェクト※: 13件
  • 開発調査: 3件
  • 有償資金協力: 1件

    フォローアップ、アフターケア調査を含む。

 インドネシアは新品種の導入、灌漑拡充等により1960年代以降農業生産を拡大させてきたが、近年、生産性の上昇は鈍化している。1984年には米の自給を達成したが、その後、旱魃などの影響により米を輸入している。1998年には約500万トンの米を輸入した。また、灌漑施設もジャワ島以外の外島地域では整備水準が低い。インドネシア政府は、食糧安全保障の確保を重要課題としている。国家開発計画(PROPENAS)の5つの分野別横断的課題のなかの「経済再建の促進及び国民経済システムに基づく持続的で公正な開発基盤の強化」のなかで農業振興が重要プログラムとして取り上げられている。このなかで、農業振興は国民ニーズの充足及び貧困克服プログラムの一環として位置付けられ、(1)アグリビジネス振興、(2)食糧の安定供給、(3)水資源開発を通じて農業振興を図るものとされている。

 有償・無償資金協力は主に水資源開発を通じた灌漑整備に向けられ、、農産物多様化、農産物の高付加価値化の分野での協力は、技術協力が中心となっている。有償資金協力による「園芸作物開発事業」では、小規模農民を中心に園芸作物の栽培を支援し、農民の所得向上が目標とされた。その他の案件では、農業普及システムの改善、大豆、馬鈴薯といった主要食用作物の優良種子の増殖・検査・配布、酪農技術の改善の分野で技術協力プロジェクトを実施している。技術協力プロジェクトである「大豆種子増殖・研修計画」は、95年度の無償資金協力「大豆優良種子増殖・配布計画」に引き続いて実施された。同プロジェクトにおいては、栽培技術や優良種子に関する採種農家の認識が向上し、周辺農家の良質大豆種子の生産に対する関心を高めるという効果もみられる。こうした成果は、東ジャワにおける今後の大豆生産の増大につながるものと期待されている。

 これら農業振興分野に対する援助案件は、作物の生産性向上、食糧自給の達成、農民の所得向上というインドネシアの開発ニーズにタイムリーに対応したものであったと言える。人口2億人を抱えるインドネシアにとって食糧自給は依然として重要課題であり、大きなシェアを占める農村人口の所得拡大を通じて生活水準の向上と所得格差の是正を図ることも国家目標の重要課題である。さらに農民参加型の協力による農民の自主性を活かした農業振興も望まれる。

5.2.5 産業基盤整備(経済インフラ)

 経済インフラ分野に対する日本の援助は、有償資金協力(プロジェクト借款)を中心に最も多くの案件が行われてきた。金額的に見てもインドネシア開発予算に占める割合は31.4%(1996~2002年度の平均)と非常に高いシェアとなっており、重点5分野の中でも最も重点的に支援を行ってきた分野であると言える。当該分野はさらに、(1)電力、(2)水資源開発、(3)運輸(道路、鉄道、航空、港湾)、(4)通信のサブセクターに分けられているが、5.1で述べたように、わが国の援助は特に電力、水資源開発、運輸のインフラ整備を中心に資金協力面で大きく貢献してきたと考えられる。1996~2002年度に実施された当該分野を対象としたわが国援助案件は以下の通りである。

  • 開発調査: 20件
  • 無償資金協力: 10件
  • 有償資金協力: 44件

 経済インフラ分野に対する日本の援助は、円借款を中心に行われてきたことから、アジア経済危機前後で大きな変化を見せている。経済危機前の1996年度及び1997年度は、中長期的なインドネシア経済発展のための基盤整備を目的に41件中34件の円借款が実施された。1998年度及び1999年度は経済危機の対応として、経済インフラ分野に対するプロジェクト借款は見送られ、セクター・プログラム・ローンを含むプログラム借款21 が供与された。2000年度からプロジェクト借款が再開されたが、費用対効果の高いリハビリ案件、地方開発、灌漑案件などが中心となっており、2002年度までに行われたプロジェクト借款は6件、プログラム借款が1件である。したがって、1996~2002年の当該分野における日本の援助は、その大部分が経済危機前に実施されたという特徴を持っている。また、主に経済危機の影響によるインドネシア政府の内貨準備不足により、全体的に円借款事業の進捗が遅延しているため、2003年現在までに完了した案件は44件中10件のみとなっている。以下において、対象期間中に供与された各サブセクターに対するわが国援助の貢献について検証するが、現時点での評価可能な効果は部分的なものにとどまると考えられる。

1)電力サブセクター

 電力セクターに対する日本の援助は従来から重点的に実施されており、1996年時点でインドネシア国内全設備容量の14%が円借款事業により整備された22。1996~2002年度に実施された電力セクターを対象としたわが国援助案件は以下の通りである。

  • 開発調査: 4件
  • 無償資金協力: 2件
  • 有償資金協力: 10件

 電力セクターを対象としたわが国の援助協力は有償資金協力(円借款)が主体となっているが、これら8案件の全てが経済危機前の1996~97年に実施されたものである。1997年の経済危機前までは、インドネシアの経済発展に伴い電力需要は年率10%以上と急増していた。これに対して電力供給体制は依然として未整備であり、特に需要増加の著しいジャワ・バリ系統23 では、ジャワ島東部に発電設備が偏っており、東西を結ぶ高圧送電線(500kV)も1本のみと、ジャワ・バリ送電系統の強化が課題となっていた。これに対してわが国は、1996年に「ジャワ・バリ系統基幹送電線建設事業(II)」、1997年に「ジャワ・バリ系統基幹送電線建設事業(III)」を実施した。両事業はジャワ島東部のパイトン石炭火力発電所と需要地帯である西部ジャワを結ぶ500kV基幹送電線等を建設し、送電線系統の安定性と信頼性の向上を目的としたものであり、インドネシア側の開発ニーズに合ったタイムリーな援助であったと評価できる。

 また、経済危機の影響を受けて発電設備事業が停滞し、1998年以降の設備容量が横ばいとなっているのに対して、同系統におけるピーク時の電力需要は著しく増加しており、2004~2005年には深刻な供給力不足に陥る可能性が高いとされている24 。上記2事業は現在も進行中であるが、両事業の完成により、逼迫するジャワ・バリ系統の供給力不足解消へ貢献することが期待される。また、2002年度には、中期的なジャワ・バリ系統の電力需要逼迫を回避することを目的に、円借款による「ムアラカラン火力発電ガス化事業」及び「ムアラタワル火力発電所ブロック2拡張事業」が締結され、電力不足への対応が図られている。

 その他、現在進行中である電力セクター構造改革への支援を目的に「最適電源開発のための電力セクター開発調査」が2000年から実施されている。同調査は、ジャワ・バリ系統のIPP(独立系電力企業)導入を含む電源開発計画の検討並びに流通設備計画の検討を通じて最適な設備形成計画を策定することによる電力市場開放後の安定した系統運用及び電力の質の向上を目的としており、今後のジャワ・バリ系統における電力安定供給への貢献が期待される。

 ジャワ・バリ系統とは異なり、外島25における電化率は低い状態となっている。1996年時点での村落電化率は外島において56.8%、ジャワ島において90.0%と、地域間格差が大きく、地方電化はインドネシア政府の重点政策の一つとして位置づけられていた。これに対してわが国は、「多目的ダム発電事業」や「タハラン石炭火力発電事業」により外島における発電設備の整備を行うと共に、「地方電化事業(II)」により、全国を対象に未電化村落の電化を行っている。

 これらのわが国が行ってきた援助は、当該分野に対するインドネシア政府の最優先政策である(1)ジャワ・バリ系統の電力不足への対応、(2)地方電化、(3)電力セクター構造改革に対応したものであり、インドネシア側の開発ニーズを的確に反映した妥当性の高いものであったと評価できる。

 援助政策の効果については、既に完了している「地方電化事業(II)26 」を例に、村落電化率を開発指標として見ることにする(表5-6)。

 表5-6 ジャワ島及び外島における村落電化率


 インドネシア政府の話によると、「地方電化事業(II)」では、外島における約700未電化村の電化及び既電化村約200ヵ所の電力供給状態の改善・電化世帯の増加が達成されている。1996~2002年度の間、外島において合計約1万の未電化村が電化されたが、同事業による貢献はそのうちおよそ7%を占めている。外島における村落電化率は、1996年度の56.8%から2001年度には72.6%と大きく改善されており、わが国の協力も地方電化の改善に貢献したと考えられる。

2)水資源開発サブセクター

 水資源開発セクターにはダム建設、河川流域開発、洪水防御、灌漑開発などが含まれる。当該分野に対する日本の援助は、ジャワ島における主要河川の流域総合開発などの大規模な水資源開発事業を始め、洪水防御、灌漑開発等、長年にわたり非常に大きな役割を果たしてきた。過去に実施された日本の支援による主な事業として、5ヵ所のダム建設を含むブランタス川流域総合開発事業や2ヵ所のダム建設を含むソロ川流域総合開発事業等が挙げられる。特にブランタス川流域総合開発事業はインドネシア側から非常に高い評価を受けている。また、1996年までに118件の水資源開発事業が円借款により実施されている27 。1996~2002年度に実施された水資源開発セクターを対象としたわが国援助案件は以下の通りである。

  • 開発調査: 6件
  • 無償資金協力: 6件
  • 有償資金協力: 15件

 水資源開発セクターに対するわが国の援助は円借款によるインフラ整備を中心に行われているため、アジア経済危機の影響を大きく受けている。経済危機前に実施された円借款事業は11件であるのに対して、経済危機後は4件と大幅に減少している。これは、水資源開発分野がコストリカバリーの困難な公共事業という性格を有しており、経済危機後は特に収益性の高い事業がインドネシア政府により優先的に要請されているためである。

 公共事業省水資源総局によると、水資源開発分野におけるインドネシア政府の重点政策として、(1)食糧の増産、(2)自然災害対策、(3)洪水防御、(4)水資源の保全が挙げられる28 。特に食糧の増産については、1984年に米の自給が達成されていたものの、人口・所得の増加による米消費量の増加、ジャワ島における農地の減少などにより、90年代に入り米不足が顕在化していた。1996年1月の大統領予算演説においても、灌漑分野へ重点的に予算を配分し食糧の増産を図ることが強調されていた。これに対してわが国は、1996~2002年において灌漑等の整備による食糧の増産(特に米の増産)を目的とした有償資金協力11件、無償資金協力3件を実施しており、タイムリーな協力であったと評価できる。

 また、経済危機前後におけるインドネシア側の開発ニーズの変化29 に対応し、従来型の特定地域を拠点とした大規模灌漑事業から、一案件あたりの事業規模は小さいが、多数かつ広範囲を対象とした「小規模灌漑事業(III)、(IV)」や「水資源開発セクターローン」などの事業を実施するなど、開発ニーズの変化に柔軟に対応した協力であったことも高く評価できる。

 その他、洪水防御及び自然災害対策を目的とした「メダン洪水防御事業」、「チリウン~チサダネ洪水防御事業(I)」、「チタルム川上流治水事業」などが有償資金協力により実施されている30 。これらはJICAによるF/Sが円借款に結びついた案件である。

 援助政策の効果については、最も重点的に行われた灌漑関連事業の効果を把握するため、地域水田収穫面積の推移を見ることにする(表5-7)。

 表5-7 地域別水田収穫面積の推移


 上表を見ると、1997年度における水田収穫面積が大幅に減少している。これは、1997~98年に発生したエルニーニョによる干ばつの影響を大きく受けた結果である。98年度以降、年度によりばらつきがあるものの、水田収穫面積は増加傾向にあり、わが国の援助も灌漑施設の整備を通じて一定の貢献を果たしているものと推測される31

 わが国の援助政策により実施された灌漑関連事業の一つである南スラウェシ州を対象とした「ビリビリ灌漑事業」を視察した。本事業は第1期~第3期にわたり実施された「ビリビリ多目的ダム建設事業32 」により開発された水資源を有効に活用して灌漑事業を推進することを目的としており、ビリビリ多目的ダム建設事業と併せた事業効果の発現が期待されるものである。同事業は、(1)洪水防御、(2)電力供給、(3)上水供給、(4)灌漑用水供給と4つの大きな目的を有する。関連事業として、有償資金協力による「ジェネベラン川緊急治水事業」、「ウジュンパンダン上水道整備事業」が実施されている。また、ビリビリ多目的ダムの水資源利用による電力供給を目的としたビリビリ水力発電所が現在建設中である。現時点において洪水防御の効果が見られ、事業完成の2001年以降、ジェネベラン川からの覆水は発生しておらず、農産物への被害も減少していることが確認されている33。ビリビリ灌漑事業を含む電力供給、上水供給、灌漑用水供給に関しては現在事業が進行中であるが、ビリビリ灌漑事業が来年には完成する予定であり、新たに約24,000 haの地域へ灌漑用水を供給できるようになる。これら全ての事業が完成することにより、農産物の増産や洪水被害の軽減のみならず、地域経済全体の活性化も期待される。

地方分権化に関する考察(1)
~水資源開発セクター~


 近年のインドネシアにおける地方分権化の流れを受け、水資源分野も大きく変わりつつある。1999年に発布された地方分権法に基づき、水利組合の政府支援体制は、国から州・県へ移行された。また、2001年に灌漑に関する政府規制を改正した省令が発布され、地方政府主導で水利組合の設立を支援する法的枠組みが完成している。但し、各レベルの政府の役割・責任は不明確なままであり、地方政府は人材、組織体制、財政において問題を抱えているため、公共サービスの質の確保が維持できない状態にある。インドネシア政府も地方政府のキャパシティー・ビルディングを目的とした案件に力を入れており、わが国も今後、技術協力を中心とした地方政府のキャパシティー・ビルディングに力を入れる必要があると考える。また、有償資金協力によるインフラ整備においても、地方政府、水利組合、NGO、農民等の地域レベルのステークホルダーと直接対話を重ね、地方主導の案件実施を実現するための体制造りが必要であると考えられる。


3)運輸サブセクター

 運輸セクターは、さらに道路、鉄道、空港、港湾に区分できる。運輸セクターは電力、水資源開発と並び最も重点的に援助が実施されてきたが、その中でも運輸セクターを対象とした円借款事業は最も多く実施されてきた。例えば、1996年までにインドネシアの鉄道総延長の12%の建設・修復が円借款により行われ、全有料高速道路の15%が円借款により建設されている34 。1996~2002年度に実施された運輸セクターを対象としたわが国援助案件は以下の通りである。

  • 開発調査: 9件
  • 無償資金協力: 1件
  • 有償資金協力: 19件

 運輸セクターに対するわが国の援助は円借款によるインフラ整備を中心に行われており、道路案件7件、鉄道案件5件、空港案件4件、港湾案件3件が1996~2002年度の間に実施された。但し、有償資金協力19案件のうち、16件がアジア経済危機前の1996年~97年度に実施されており、経済危機後は道路と鉄道の2案件のみが実施されている。これは、経済危機の影響で税収が大幅に落ち込んだため、十分な国内予算が確保できず、予算配分もソーシャル・セーフティ・ネットや金融再生に重点化したため、インフラ関連の予算が大幅に削減されたためである。したがって、経済危機後は既存インフラの維持・補修に重点を置くようになっている。

 運輸セクターにおける道路基盤整備は居住・地域インフラ省道路総局が、鉄道、空港、港湾の基盤整備は運輸通信省陸運総局、航空総局、海運総局がそれぞれ担当している。運輸セクター全体予算の約70%が陸上交通に割り当てられており、道路基盤整備の優先度が最も高く、続いて鉄道となっている。わが国の有償資金協力も、19件中12件が道路・鉄道案件となっており、インドネシア側の開発ニーズと整合した支援内容となっている。また、開発調査では、道路・鉄道関連が4件、海運・港湾関連が5件と、海運・港湾関連調査の割合が多くなっている。

道路基盤整備

 道路基盤整備に関しては、従来、国道及び州道の整備を中心に行われてきたため、1996年時点で国道の100%、州道の90%が良好な状態なあるとされていた。このため、インドネシア政府も道路新設ではなく、既存道路の維持・補修または改良に重点を置いた開発政策を促進していた。わが国の援助協力も道路事業7件35全てが既存道路の維持・補修・改良に係る案件となっている。また、運輸通信省によると、対象道路区間の選定基準として、IRR(内部収益率)が15%以上(地方道路については10%以上)の道路区間を特定し、IRRの高い順に優先順位をつけており、インドネシア側にも、より効果的に援助を活用しようとする努力が見られる。

 援助政策の効果については、現時点で道路事業7件中3件が完了36しているが、そのうち「地方道路整備事業(III)」の効果を例として挙げることにする。

 地方道路整備事業(III)は、スラウェシ島とカリマンタン島の8州57県を対象に道路の維持・改良を行うもので、地域経済の振興及び地域住民の民生向上を目的としている。また、本事業は東部インドネシアの開発にも資することが期待されている37。本事業により道路2,396km、橋梁4,699mの改良が行われた他、道路の定期補修(6,522km)・日常補修(38,130km)及び橋梁の定期補修(3,241m)・日常補修(1,620m)が実施された。この結果、各州における地方道路総延長の10%~24%(平均約19%)の路面が安定(Stable 38 )している状態へと改善した(表5-8)。

 表5-8 道路改善(道路改良・定期補修)


 日常補修については、本事業により各州の地方道路総延長の平均8割(40%~110%)がカバーされており、道路の質の向上に貢献している(表5-9)。

 本事業の事後評価報告によると、ある村では道路未舗装当時、バスは一台もなかったが、本事業により道路の改善が行われた現在は一日あたり20~30便のバスが往来するようになり、交通が便利になったと報告されている。また、全体として走行時間の短縮、走行快適性の向上が見られ、貨物・旅客輸送効率が高まったと評価されている。

表5-9 日常補修


 上記のケースのように、道路状態の改善により道路交通の効率化や道路利用者の増加が期待でき、その結果、地域の活性化に繋がることが期待される。表5-10は1996~2002年の地域別自動車登録台数の推移を示したものである。

 表5-10 地域別自動車登録台数注)


 各地域とも、自動車登録台数は着実に増加している。道路整備と自動車登録台数の増加の関係について明確な因果関係を示すことは困難であるが、道路状態の改善により定期バスが運行されるようになった例や、大型輸送トラックのアクセスが可能となった例などもあり、わが国の援助協力も道路利用者の増加に対して一定の貢献を果たしていると考えられる。また、道路総局によると、わが国の貢献は案件実施にとどまらず、案件実施を通じて技術移転が行われており、インドネシア側の人材育成にも大きな影響を与えていると評価されている。

鉄道基盤整備

 鉄道基盤整備に関しては、「ジャボタベック圏鉄道近代化事業(第1期~第10期)」を中心にジャワ島における鉄道のリハビリに重点を置いた援助が実施されてきた。インドネシアにおいて、鉄道で現在も営業しているのはジャワ島とスマトラ島のみであり、その営業区間総延長(約4,000km)の7割程度がジャワ島に集中している。1996~2002年におけるわが国の援助(鉄道案件5件)もジャワ島を対象としている。

 ジャワ島における主要幹線は、北線(ジャカルタ・チレボン・スマラン・スラバヤ)、南線(ジャカルタ・チレボン・ジョグジャカルタ・スラバヤ)、バンドン線(ジャカルタ・バンドン)であり、その他都市鉄道として、ジャカルタ市内を含むジャボタベック圏約160kmと、スラバヤ圏約20kmがある。運輸通信省によると、鉄道基盤整備で特に重点が置かれているのは、ジャカルタ、スラバヤなどの都市間を結ぶ大量交通輸送の整備である。そのため、特にジャカルタ・スラバヤを結ぶ北線、南線の鉄道輸送力の強化が必要であった。

 わが国もこのようなインドネシア側のニーズを踏まえ、「ジャワ南線複々線化事業(I)」、「ジャワ北幹線鉄道複線化事業(II)」、「ジャワ幹線鉄道電化・複々線化事業(第1期)」を円借款により実施している。これらの案件は、幹線及びジャボタベック圏における鉄道輸送力の増強を目的としている。その他、劣化の著しいディーゼル車両のリハビリを行う「ディーゼルリハビリ活性化事業」や車両基地・車両検査設備の建設により車両の維持管理の向上を図る「デポック車庫建設事業」もわが国の援助協力として実施されている。

 援助政策の効果については、鉄道旅客数の推移を見ることにする(表5-11)。

 表5-11 鉄道旅客数


 年により多少のばらつきがあるものの、1996年以降ジャワ島の鉄道旅客数は着実に増加している。運輸通信省によると、1996年以前から継続して実施されている幹線・ジャボタベック圏を対象としたわが国の援助協力により、道路利用者が鉄道交通にシフトするなどの効果が現れており、都市部の交通渋滞の緩和に貢献している。現在、上記5案件中4件が実施中であるが、これらの案件が完成することにより、更なる鉄道輸送力の強化及び鉄道利用者の増加が期待できる。これにより、現在ボトルネックとなっているジャカルタ、スラバヤ等の都市部における交通渋滞の緩和39にも寄与されるものと考えられる。

空港基盤整備

 インドネシアにおける航空輸送は、経済発展と共に著しい成長を続け、1988~97年の10年間で旅客輸送量は約43%、貨物輸送量は約170%の増加を示してきた。特にアジア経済危機前の1996・97年においては、航空輸送需要の増大に対する空港拡充が急務となっていた。わが国も、96年に「スラバヤ空港建設事業」及び「パダン新空港建設事業」、97年に「パレンバン空港開発事業(I)」を実施し、インドネシア側の開発ニーズにタイムリーに対応した援助協力を行っている。

 しかしながら、航空輸送は経済危機の影響を大きく受け、1998年には旅客輸送、貨物輸送とも急激に減少した。特に、国内旅客輸送量は前年の29.5百万人から16.7百万人に減少し、国内貨物輸送量も394,266千トンから278,989千トンに減少するなど、国内輸送が深刻な打撃を受けた(表5-12及び表5-13)。

 表5-12 航空旅客輸送量


 表5-13 航空貨物輸送量


 わが国の援助協力による空港整備プロジェクト3件は、主にインドネシア側の内貨準備不足などにより、いずれも事業の進捗が遅延している。これらの事業は現在も実施中であり、現時点での効果発現は確認できていない。だが、2000年以降旅客・貨物輸送量は増加傾向を示しており、今後も増加が見込まれている。したがって、上記3空港の整備が完成することにより、物流の効率化を図り、インドネシアの投資環境整備に貢献することが期待される。

港湾基盤整備

 インドネシアは17,000を超す島々で構成される世界最大の島嶼国であり、旅客・貨物ともに海上交通が果たす役割は非常に大きい。しかしながら、海上輸送機能を支える港湾の整備水準については質・量とも十分とは言えず、国際輸送のコンテナ化に対応した施設整備や地域間格差の是正を目的とした地方港湾整備など、多くの課題を抱えていた。これに対しわが国の援助協力は、開発調査及び円借款による個別港湾の整備を中心に行ってきた。1996~2002年に実施された開発調査は4件、円借款案件は3件となっている。円借款案件3件のうち「クパン港・ビトゥン港開発事業」及び「東部インドネシア中小港湾開発事業」は、東部インドネシア地域の港湾整備による地方経済の発展を目的とした事業である。

 上記3案件はいずれも経済危機前の1996~97年に開始されたものであるが、主に経済危機の影響によるインドネシア側の内貨準備不足のため、進捗状況が遅れており、現在も進行中である。したがって、現時点におけるこれら3事業の効果発現は確認できていない。表5-14に示すように、経済危機の影響を大きく受け、1998~99年の貨物取扱量は国内・国際とも大幅に減少した。

 表5-14 国内・国際貨物取扱量


 現地でのヒアリングによると、経済危機による需要の減少から、世界銀行やADBなどの機関は、港湾インフラ整備への融資を減らす傾向にある。但し、2000年以降、インドネシア経済の回復に伴い、国内・国際貨物取扱量も経済危機前の水準まで回復しつつある。このため、今後は港湾整備による物流の効率化を図ることが必要となってくると考えられる。現在実施中の3案件による効果を議論するには時期尚早であるが、これら案件の完成により、物流の効率化及びインドネシアの投資環境整備に貢献することが期待される。

地方分権化に関する考察(2)
~港湾セクター~


 港湾セクターでは、1999年に布告された地方自治関連法案に従い、2001年から地方分権・地方への権限委譲が進められている。これまで中央政府(海運総局)及び港湾会社 I~IVを中心に進められてきた港湾運営・管理についても、非商業港については地方自治体が港湾管理を行っていくこととされており、港湾運営・管理に係る中央・地方の役割分担や港湾整備計画の見直し等が必要となっている。わが国の援助協力も、開発調査や専門家派遣などにより、このような開発ニーズの変化に対応している。例えば、1999年に実施された「港湾整備政策調査」では、個別の港湾開発ではなくインドネシアにおける港湾政策のあり方についての提言なども行われており、地方分権化法の施行に向けた体制の見直しの議論に活かされている 。その他、2001年からスマトラ島、カリマンタン島の7つの河川港を対象とした「主要河川港開発計画調査」なども実施されている。しかしながら、このようなソフト面に対する支援は十分行われているとは言い難い。今後は、有償資金協力と技術協力との連携を図ることにより、地方分権化への支援や現在問題となっている海上安全の確保など、ソフト面での協力も充実させる必要があると考える。


 以上から、わが国の援助協力は、道路及び鉄道セクターにおける利用者の増加及び都市部の交通渋滞の緩和に一定の貢献をしていることが確認できた。但し、全体的に案件の進捗が遅れており、その貢献は非常に限定的となっている。

 また、現地ヒアリングにおいて、道路に関しては案件実施を通じた技術移転・人材育成が高く評価されていたが、鉄道、空港、港湾に関しては、現地の人材活用が不十分であるとの声が聞かれた。特にJICA・JBICの連携が弱く、JBICによる人材育成プログラムが少ない分、JICAによる技術協力を増やすなどの柔軟な対応が望まれていた。わが国の援助をより効率的・効果的に実施するためには、このようなインドネシア側の声にも耳を傾け、実施体制の改善に向けて努力していくことも必要と考える。

4)通信サブセクター

 通信セクターに対するわが国の協力は、有償資金協力による通信基盤整備を中心に実施されてきた。但し、1996年以降インドネシア側からの要請がなかったため、有償資金協力は調査対象期間中(1996~2002年)1件も行われていない。この背景として、1991年に国営企業の民営化に関する法律が制定されたのをきっかけとする電気通信サービス市場の自由化の流れが大きく影響していると考えられる。インドネシア政府は通信自由化を促進するため、1999年の新電気通信法において、情報通信基盤整備の基本方針を次のようにとりまとめた:(1)国の電気通信基盤整備は民間企業の自由競争による(政府は規制等の環境整備のみ)。(2)採算性が低く民間企業による対応が難しい地方農村地域における新規設備投資は、1)情報通信網事業に対する無電話地域解消に向けた一定比率の投資義務付け、2)不採算地域等投資のために、全電気通信事業者が公平に資金等を負担、のユニバーサル・サービス義務制度による40

 以上の方針により、通信基盤整備は民間主導で行うことになっている。1996~2002年度に実施されたわが国の当該分野に対する援助案件は以下の通りである。

  • 開発調査: 1件
  • 無償資金協力: 1件

 これら2案件はいずれも放送設備の整備を目的としたものであり、通信基盤整備に係る案件は実施されていない。通信網の整備は現在でもインドネシア政府の最優先課題の一つとなっているが、民間主導による整備の推進を図ってきたため、調査対象期間中からODA供与の対象分野としての重要性は低かったのではないかと推量される。したがって、重点5分野の見直しを含めた通信セクターに対する援助政策の見直しが必要であったと考えられる。

 援助政策の効果については、通信基盤整備に係る援助が実施されていないこと、援助投入量が少ないこと(なお、上記の無償資金協力による案件はインドネシア・テレビ公社に対する放送機材の供与であり、援助対象範囲が限定されている)などの理由から、通信セクターに対する効果発現は確認できなかった。

5.3 3本柱に対するわが国の貢献

 本項では、アジア経済危機後におけるインドネシア側の開発ニーズの変化を踏まえ、2001年9月の政府間政策協議で確認されたわが国の追加的支援方針である3本柱((1)マクロ経済の安定、(2)各種改革の推進、(3)経済ボトルネックの解消)に対するわが国の援助協力を、(1)援助投入のタイミングの妥当性、(2)今後期待される援助政策の効果、の2つの視点により分析・評価する。

5.3.1 産業構造の再編成

 「マクロ経済の安定」は、公的対外債務問題への対応など健全なマクロ経済運営に対する支援を目的としている。重点5分野のなかの「産業構造の再編成」に「マクロ経済運営に対する支援」が含まれていたが、3本柱では一つの重点として取り上げられている。2001年時点ではインドネシア経済は穏やかな回復基調をみせているものの、財政健全化、銀行部門再建など構造的問題を抱えていた。経済回復の本格化と持続的な経済成長基盤を確立するためにはその前提として経済の安定が重要と判断されたものである。 こうした課題に対してわが国は経済政策運営に対する政策支援を実施している。マクロ経済政策運営、経済モデル分析、開発経済分析、対外債務管理、国債管理、金融政策ツールの整備・拡充などの分野で専門家が派遣されている。特にわが国は、2001年9月のメガワティ大統領からの要請を受け、政府ハイレベルに対する政策支援を実施しており、日本人有識者とインドネシアのドロジャトン経済調整大臣やブディオノ財務大臣等主要閣僚との政策対話を通じてインドネシアの経済政策運営に対して一定の影響を与えていると考えられる。例えば、2003年9月15日に経済調整大臣がIMF支援卒業後の2004年以降の経済政策パッケージである「ポストIMFプログラムの経済政策」を発表した。同政策は、1)マクロ経済の安定、2)金融セクターの再編・改革、3)投資・輸出促進と雇用創出を3本柱としており、それぞれアクション・プラン、実施・施行方法と目標期限が示されている。日本側有識者チームに対するインドネシア側のカウンターパートはラクサマナ国有企業担当大臣が率いており、通称、ラクサマナ・ワーキング・チームと呼ばれている。日本側有識者はラクサマナ・ワーキング・チームのポストIMFプログラムの経済政策の策定への貢献をしている。

 インドネシアの対外債務の累積と公的対外債務の返済は、インドネシア政府のマクロ経済上の大きな課題となっている。経済危機を契機に新規借入れが増加し、対外債務残高は再び増加した。さらに、銀行に対する資本注入資金を調達するために、500兆ルピアを超える政府債を発行したため、公的債務残高は一時的にGDPの約100%に相当する規模まで拡大した。2002年以降はルピア相場の上昇もあり、公的債務の対GDP比率は低下しているものの、依然として非常に高い水準にある。2001年以降、政府の対外債務返済額は新規受取額を超えている。わが国は、パリクラブにおける公的債務繰り延べ合意を受けて1999年8月の約21億ドルの新規借款を供与し、2000年4月の約29億ドルに引き続き、2002年4月にも約27億ドルのリスケジュール(債務繰延)に合意した。インドネシアの公的債務返済の資金繰りが困難になっていた状況での債務救済措置は、インドネシアのマクロ経済安定に貢献したと言える。

 短期的なマクロ経済政策は比較的安定的に運営されており、マクロ経済指標も安定に向かっている。しかし、マクロ経済面では財政赤字、多額の公的債務など構造的問題を依然抱えている。今後も政策支援等を通じてインドネシアのマクロ経済政策運営に対する支援を継続すると同時に、マクロ経済動向の変化によって新たな支援が必要になった場合、タイムリーに支援を実施できる体制を整えておく必要がある。

5.3.2 各種改革の推進

(1)グッド・ガバナンスへの支援

 グッド・ガバナンスの実現とは、民主的で公正かつ透明性のある社会システム(行政・経済・社会制度)の構築等を指す41 。グッド・ガバナンスの実現は社会の安定及び持続的な経済発展の基盤整備のために不可欠である。わが国では調査対象期間中にインドネシア国家警察の支援と地方分権化への支援を実施している。国家警察支援と地方分権化支援は下記のとおり実施されている。

1)民主化・法の支配への支援(国家警察支援)

 国家警察支援としては、西部ジャワ州ブカシにて、技術協力プロジェクト「市民警察活動促進プロジェクト」を2002年度より開始した。このプロジェクトに先立ち、長期専門家(国家警察長官アドバイザー)の派遣を行っていた。支援の内容は国家警察の組織改革や人材育成への助言である。

2)地方分権化への支援

 わが国は、分権化の担い手となる地方政府の人材育成や、地方主導による地域開発計画の策定能力の向上に焦点をおいた協力を行っている。

 技術協力プロジェクトとして、「地方政府の開発政策支援」と「地方行政人材育成」が実施されている。ジャカルタに派遣された専門家が調整役となって2つのプロジェクトをプログラム化して運営している。両プロジェクトはスラウェシ島のマカッサルとスマトラ島のメダンをパイロットサイトとして実施されている。

 「地方分権化研究計画」が研究支援無償として実施されている。この研究計画は地方財政の問題及び中央政府と地方政府間の調整問題に焦点をあて、インドネシアの主要大学の関係者を対象に一橋大学の浅沼信爾教授らが実施している。

 国家警察支援及び地方分権化支援も現在実施中の支援であり、その効果の最終的な発現度合いを評価する段階ではない。国家警察支援及び地方分権化支援プロジェクトはパイロットサイトにおける技術移転である。したがって2つの支援が直接、短期的にインドネシア全土の警察及び地方政府に与える効果は限定(カウンターパートの数も限定)されたものである。したがって、今後検証すべきは、両プロジェクトの他の地域・地方政府に与えるインパクトである。中部ジャワ州、スマトラ島メダン、スラウェシ島マカッサルでの日本の専門家による技術移転がベスト・プラクティスと評価されていることから、他の地域における同様の成功を期していかねばならない。他地域での事業の反復可能性(レプリカビリティ)を確保する、あるいは促す仕組みをプロジェクトのなかで築くことが今後のプロジェクト運営には期待される。

 ガバナンス分野では、国家警察支援と地方分権化支援に加えて司法制度改革への支援が計画されている。支援内容は裁判官等の人材育成、判例拘束性の確立、和解・調停の促進、判例情報へのアクセス改善等への協力である。

 国家警察支援と地方分権化支援は、インドシナ諸国で実施されている法制度支援と共に、援助対象国(インドネシア)への内政干渉ととも取られかねない分野への支援である。このような分野への援助を双方が重要視するということは、これまでの日本の対インドネシア援助に対するインドネシア側の信頼の高さを示すものと評価される。

(2)財政・金融部門改革、産業構造改革

1)財政・金融部門改革への支援

 財政・金融部門改革への支援は、インドネシアの抱えるマクロ経済面での構造的課題に対応したものであり、マクロ経済の安定と経済の持続的発展にとって重要な課題であると考えられる。財政・金融部門改革では、経済政策・実施支援に対する技術協力により主に専門家派遣及び研修員受け入れにより援助を行っている。これらは、専門家の派遣、研修員受入による支援であり、財政管理、国債管理、税務行政、税務調査、国際課税、税務行政関連法令等整備、税関業務改善などの分野で支援が行なわれている。

 財政改革については、インドネシアでは、政府及びドナー間でその必要性に関してはコンセンサスができている。そのなかで、わが国はインドネシア政府が必要とする専門家を派遣しており、インドネシアが財政改革を進めるうえで必要な知識やノウハウの移転を通じて、インドネシアの財政政策及び税収基盤の拡大に貢献している。

 金融部門改革の分野においてわが国は、経済政策・実施支援に対する技術協力により主に専門家派遣及び研修生受け入れのかたちで援助を行っている。主な分野は、財政・金融分野人材開発、経済・通貨政策分野の人材育成、貿易金融管理、貿易金融管理、国際貿易実務などである。

 経済危機により大量の不良債権を抱えたインドネシアの銀行部門は機能不全に陥った。インドネシア政策支援プログラムの一つとして銀行セクター改革が取り上げられ、知的支援を行なっている。「インドネシアの経済回復と銀行セクターの役割」に関する研究が行なわれ、2003年6月に政策提言がなされた。しかし、まだ援助の効果が実現する段階には至ってはいないと言える。表5-15に示したように、インドネシアの銀行部門は金融機能を十分に果たすまでは回復しておらず、持続的経済成長を実現するにあたってのボトルネックになっている。提言には、資本市場、ベンチャーキャピタル等の金融仲介機能の強化、新たな銀行形態の検討、銀行のパフォーマンスを評価するための指標の見直し、中小企業向け金融のための地方事務所の設置、信用保証機関の拡充など多くの内容が盛り込まれている。これらが実施されれば、インドネシアの長期的な成長を支える金融メカニズムが確立されるものと期待される。

 表5-15 商業銀行の主要指標


2)産業構造改革への支援(中小企業振興)

 重点5分野のなかの「産業構造の再編成」では「サポーティング・インダストリーの振興」が含まれていた。サポーティング・インダストリー振興でも対象は中小企業が中心となるが、3本柱ではより幅広く中小企業振興が産業構造改革の対象として取り上げられている。

 インドネシアの産業構造は、少数の大企業と多数の小・零細企業を中心に構成され、両者の間に産業リンケージが形成されていないという特徴を有している。したがって、インドネシアが自立的な経済発展を実現するためには経済の活力源となるべき中小企業の育成をはかることが必要である。また、雇用創出の面でも中小企業が果たす役割は大きい。中小企業振興は、経済危機からの復興のためにインドネシア政府が最も力を入れている経済政策の一つである。経済危機直後に策定された国家開発計画(PROPENAS)も中小企業振興が経済分野の開発プログラムの一つとして取り上げている。

 中小企業分野に対してわが国は、専門家派遣による政策支援と特定のテーマ、あるいは特定の産業に焦点をあてた技術協力プロジェクト、開発調査、専門家派遣を中心に援助を実施している。

 中小企業部門に対する政策支援として、浦田ミッションによる中小企業政策の提言が行なわれた。99年11月、ワヒド大統領からわが国に対して中小企業政策に関するハイレベル・アドバイザーの派遣要請があり、早稲田大学の浦田秀次郎教授がクイック・キアン・ギー経済担当調整大臣の中小企業振興政策アドバーザーに就任した。浦田教授及び支援チームは、(1)中小企業金融、(2)中小企業振興、(3)行政組織のあり方といった観点から、中小企業政策の立案、基本的方向の策定に関する政策提言を作成し、2000年7月、クイック・キアン・ギー経済担当調整大臣に政策提言を提出すると共にワヒド大統領に報告を行なった。

 浦田ミッションによる提言がインドネシアの中小企業振興に与えた直接的な効果を測定することは困難である42 。しかし、インドネシアの中小企業政策の改善あるいは効率化、ドナー間の中小企業支援における協調を通じて間接的な効果を与えたと考えることができる。浦田ミッションによる提言は、その内容がインドネシアの中小企業政策に取り入れられると共に、他ドナーからも評価されている。浦田ミッションはインドネシアにおいて関連省庁との協議や現地視察に加えて、世界銀行、ADB、欧米援助機関、NGO関係者との協議や関連セミナーを実施し、その過程を通じてインドネシアにおける中小企業政策に関するコンセンサス作りに貢献した。浦田ミッションの後、日本はCGIワーキンググループのなかの中小企業育成ワーキンググループにおいて、リードドナーとしての役割を果たすこととなった。現在、わが国のインドネシアに対する中小企業向け援助は、浦田提言の枠組みに沿って実施されている。

 中小企業支援に関連する技術協力プロジェクト案件として「地方貿易研修・振興センター計画」を視察した。「地方貿易研修・振興センター計画」は、インドネシア貿易研修センター(IETC)に対する支援である。IETCは、1989年に無償資金協力を受けて建設され、これまで継続的にわが国の支援が行われてきた。その結果、IETCの貿易研修実施能力は向上し、企業からも高く評価されている。受講者数は毎年2,000人を超えており、中小企業の輸出拡大に対しても大きな貢献を果たしたと考えられる。IETCの収入(受講料収入が中心)は2002年度には支出額とほぼ同額に達しており、財務面での自立性を確立している。現在、インドネシア政府は地方都市数ヵ所に地方貿易研修・振興センター(RETPC)を設立し、これまでのIETCでの成果を地方に展開しようとしている。「地方貿易研修・振興センター計画」は、REPTPCの開設、運営を支援するプロジェクトである。2002年9月にスラバヤの東ジャワ州商工部貿易研修・振興センターが、2003年1月にメダンの北スマトラ州商工部貿易研修・振興センターが、2003年3月にマカッサルの南スラウェシ州商工部貿易研修・振興センターがオープンしている。2004年にはパンジャルマシンの南カリマンタン州商工部貿易研修・振興センターが来年度オープンする予定である。RETPCに対する支援は、今後、中小企業も含めた地方企業の輸出促進への効果が期待される。

 中小企業振興は対象とする企業数も多く、地域も分散しており、また、全般的にこれら企業の経営基盤も弱い。したがって、中小企業に対する支援はカバーする対象も広くなり、中小企業振興には息の長い支援が必要となる。浦田提言のフォローアップを行なうと同時に、他ドナー・国際機関との協力し、効果的な支援体制を築いていく必要があると考えられる。

5.3.3 経済ボトルネックの解消

 2001年に追加されたわが国の援助政策(3本柱)の一つである経済ボトルネックの解消は、インドネシアの開発課題の一つである持続的経済成長に対応したものであり、投資環境の整備に資する最も重要な課題であると考えられる。実施機関であるJBICでも、2001年度及び2002年度の対インドネシア国別業務実施方針に経済ボトルネックの解消を挙げ、主に円借款事業の実施により対応していく方針としている。

 現在、特にボトルネックとして認識されているインドネシアの開発分野は、電力・エネルギー分野、運輸分野(道路、鉄道、海運等)、都市環境分野(上下水道、廃棄物処理等)などである。わが国は、円借款事業を中心にこれら分野への支援を行ってきたが、経済危機後の財政状況悪化により新規投資及び既存インフラの維持管理に十分な予算配分がなされなかったことなどから、問題がさらに悪化している。例えば、電力分野ではジャワ・バリ系統で今後1~2年のうちに深刻な供給力不足に陥る可能性が高く、また、道路、上水道等では既存インフラの傷みが激しい。こうした問題を抱えているため、公共サービス関連セクターは、高いニーズにもかかわらず、新規の投資及び維持管理費の確保が十分にできない状態にある43

 これらの課題に対して、わが国が2001年度以降に実施した円借款事業は、「小規模灌漑管理事業(IV)」「リハビリ・維持管理改善事業(水資源セクター)」「南スマトラ-西ジャワガスパイプライン建設事業」の計3件である。なお、2002年度には「ムアラカラン火力発電ガス化事業」及び「ムアラタワル火力発電所ブロック2拡張事業」に対する借款契約が締結されている。これら借款契約済み2案件を含む5案件のうち、経済ボトルネックの解消を目的としたものは4案件となっており、3本柱が大きく反映されていると言えよう(図5-3)。

 図5-3 2001年度以降実施・借款契約された案件の事業目的体系図


 インドネシア各省庁からのヒアリングによると、インドネシア側の経済ボトルネックの解消に係る開発ニーズとして、投資(特に外国からの直接投資)の促進が最優先課題であるとの認識が確認できた。投資環境の改善は、インドネシアの政治情勢や各種規制状況など様々な要因が影響してくるが、インフラ整備の遅れが大きく影響しているとの認識をインドネシア側はもっている。具体的には、投資促進のための現在ボトルネックとなっているジャワ・バリ系統における電力供給力不足への対応、都市部での交通渋滞の緩和、地方道路など既存インフラ施設のリハビリが優先課題と位置づけられている。図5-3にある事業目的の内容から、5案件のうち「小規模灌漑管理事業(IV)」を除く4案件は経済ボトルネックの解消に係る開発ニーズに対応したものである。また、JICAによる電力セクターを対象とした専門家派遣「電力エネルギー政策」や、開発調査「最適電源開発のための電力セクター調査」、「ジャカルタ首都圏総合交通計画調査」なども行われており、経済ボトルネックの解消に向けた取り組みがなされていることは評価できる。但し、全体的に経済ボトルネックの解消を目的とした援助協力は少なく、インドネシア側の開発ニーズへの対応としては不十分であると考えられる。

 経済ボトルネックの解消に対する援助政策の効果を評価するには時期尚早であるが、2001年度以前から実施されている未完成円借款案件の中には、経済ボトルネックの解消に資すると思われる案件も多数見られる。例えば、電力セクターを対象としたジャワ・バリ系統基幹送電線建設事業(II)・(III)や、運輸セクターを対象とした地方道路整備関連事業を初めとする、鉄道・空港・港湾整備事業はいずれも経済ボトルネックの解消に資する効果が期待されるものである44 。これらの案件を含めた現在実施中の案件が完成することにより、インドネシアに対する投資環境の改善が期待されるところである。

 以上のように、わが国及びインドネシア側は、経済ボトルネックの解消には、投資環境の改善が重要であり、そのためには、現在ボトルネックとなっているインフラ整備が優先課題であるとの共通認識を持っていることが確認できた。わが国も今後、有償資金協力を中心に経済ボトルネックの解消を目的とした援助協力を今まで以上に重点的に行っていく必要があるだろう。但し、先述したように、経済ボトルネックの解消に係るインドネシア側の開発ニーズは多岐にわたっており、厳しい国内財政事情を抱えるわが国が、これらインドネシア側の開発ニーズの全てに対応していくことは困難となっている。経済ボトルネックの解消による投資環境の整備はインドネシア側の最優先課題となっていることから、世界銀行を始めとする他ドナー・国際機関も投資環境の整備に対する支援を重視している。今後はこれら他ドナー・国際機関と協力し、少ない投入で大きな効果を上げるような支援体制も考えるべきであろう。

5.4 結論と考察

 わが国の援助は、資金投入額の観点からは産業基盤整備を中心に実施されてきたことが確認できた。インドネシア開発予算に占めるわが国資金協力の同分野に対する割合は31.4%と非常に高いシェアとなっている。これは、1件当りの援助額が大きい有償資金協力(円借款事業)の約7割が産業基盤整備分野を対象に実施されたことによる。その他、わが国の資金投入で目立ったものは、1998~99年度にかけて公平性の確保を対象に実施された協力であり、インドネシア開発予算に占めるわが国資金協力の割合は1998年度には30.5%、1999年度は32.5%となっている。これは、アジア経済危機対応として雇用創出、社会的弱者支援など公平性の確保に係る支援が有償資金協力及び無償資金協力を通じて重点的に行われたことによる。

 「重点5分野」別にわが国の援助を見てみると、「公平性の確保」に関しては、無償資金協力を中心とした人道的支援が行われてきたが、1件当りの投入額が少ないこと等の要因による影響があることから、この援助の効果を個別案件毎に貧困人口率、一人当たりGDP等の統計数値の向上として把握するには至らなかった。サブセクターの一つである「人口・家族計画及びエイズ対策」分野に対しては、無償資金協力による「家族計画プログラム」が実施されているものの、当該サブセクターへの援助は特に少なかった。但し、セクター・プログラム・ローンやソーシャル・セーフティ・ネット借款などの迅速かつ柔軟な資金供与は、地方における雇用創出に貢献したものと考えられる。また、産業基盤整備に分類した有償資金協力(円借款事業)には、公平性の確保(特に東部インドネシアの開発)を上位目標とした案件(地方インフラ整備事業、小規模灌漑事業など)も含まれており、特に経済危機以降東部インドネシアの開発に重点を置いた援助が実施されたことにも留意する必要がある。

 「人造り・教育分野」に関しては、技術協力及び無償資金協力を中心とした人材育成支援が行われてきたが、全体的な効果発現には時間を要するため、明確な効果を把握することはできなかった。当該サブセクターでは技術教育を中心とする「人造り」への援助は多いものの、「教育」分野への援助は少なかった。人造り・技能教育の分野では、無償資金協力と技術協力により実施された「スラバヤ電子系ポリテクニック」がスラバヤという地域を越えて教員の研修、教科書の普及に貢献している点が注目に値する。教育分野では、「地域教育開発支援調査」が2000年度から実施されている。教育分野で行政レベルに対する援助が開始されたことは、この分野でのインドネシア政府の日本の援助に対する評価が高いということを示していると思料される。

 「環境保全」に関しては、技術協力プロジェクト及び無償資金協力によって森林火災問題に対して一定の貢献をしていることが確認できた。その他では自然環境保全や公害防止などに対する支援も実施されている。しかし、全体としては当該分野に対する援助投入は減少傾向を示している。当該分野に関しては、環境改善に係る効果発現には長時間を要すること、及び環境には様々な要因が影響することなどから、わが国の貢献度を定量的に把握することはできなかった。

 「産業構造の再編成」に関しては、技術協力(技術協力プロジェクト及び開発調査)を中心に農業振興に対する支援が重点的に実施された。これらの支援は、農産物の多様化や高付加価値化に係るものが多く、灌漑事業などのインフラ整備(ハード面)による食糧増産とは異なるソフト面でのアプローチにより、食糧の安定供給に貢献したと考えられる。また、マクロ経済運営に対する支援の一環として行われたセクター・プログラム・ローンやソーシャル・セーフティ・ネット借款などの供与は、急速に悪化したインドネシアの国際収支の改善に一定の効果があったものと考えられる。しかしながら、全体として産業構造の再編成に対するわが国の貢献度を確認することはできなかった。

 「産業基盤整備」に関しては、有償資金協力(円借款事業)を中心にわが国が最も重点的に援助を行った分野である。しかしながら、経済危機の影響から全体的に円借款事業の進捗が遅延しており、調査対象期間中に完了していた案件は41件中10件のみであった。このため、現時点におけるわが国の援助協力の効果の発現は非常に限定的となっている。そのなかで具体的には、電力セクターにおける地方電化率の増加や、運輸セクターにおける自動車登録台数の増加及びジャカルタ首都圏における交通渋滞の緩和に一定の貢献を果たしていることが確認できた。

 「3本柱」については、2001年9月の政府間政策協議にて追加された援助政策であるため、同政策のもと挙げられた開発課題の解決に対するわが国の貢献度を評価するには時期尚早だと考える。但し、「マクロ経済の安定」や「経済ボトルネックの解消」については、3本柱以前から実施している援助政策と重複する課題であり、重点5分野及び3本柱で実施してきた援助協力を併せた効果発現が期待されるところである。

 グッド・ガバナンス、地方分権化など、インドネシアの新しい開発課題を含む各種改革の推進に対する支援については、市民警察活動促進プロジェクト、地方政府の開発政策支援プロジェクト、地方行政人材育成プロジェクトなどの技術協力を中心に、無償資金協力でも支援が行われている。中小企業振興の一環として派遣された政策アドバイザー(浦田ミッション)による政策提言が、インドネシア政府の中小企業政策に取り入れられるなどの効果が発現しているケースも一部で確認できた。改革支援の分野の援助は高度な政策レベルでの援助になる性格を有しており、当該分野での支援拡大は、わが国援助がより「顔の見える援助」となることにも貢献すると考えられる。

 最後に、わが国の実施した援助協力の貢献度をより効率的・効果的に評価するためには、援助政策策定時に目標値を設定する必要があったと思料する。今回の評価では援助の効果を評価するために指標を選定したが、本来、達成すべき目標がどの位の値であるかが不明であったため、目標達成度を測ることは不可能であった。したがって、援助政策作成時に重点分野ごとに援助目的を明確にした上で、評価のための開発指標を選定し、そのうえで目標値を設定することが望ましいと考える。開発指標が推移するなかでわが国の支援がどのように、そして、どれだけ貢献したかを評価することは、技術的な困難さを伴うが、少なくとも政策目標を達成できたかどうかの目安としての目標値の設定は有効であると考える45 。また、目標値を設定しておけば、案件採択の際にその案件がどのように目標値の達成に貢献するかという観点からの評価も可能となる。

わが国のアジア経済危機への対応


 1997年に始まったアジア経済危機はインドネシア経済に大きく影響し、その後、経済困難、社会危機、政治的混乱などが同時に発生した。このような経済危機による混乱への対応として、わが国の支援はインドネシア経済の安定を図ることに重点が置かれた。具体的には、雇用創出、社会的弱者支援、国際収支の改善を含めた経済構造改革支援、経済の持続的発展に資する人材育成支援等が実施された。本項では、アジア通貨危機に際しての対インドネシア援助をスキーム別に検証し、わが国の援助協力を、・援助投入のタイミングの妥当性、・援助政策の効果、の2つの視点により分析・評価してみた。

有償資金協力
 有償資金協力では経済危機対応として、1998~99年度にわたりセクター・プログラム・ローン、ソーシャル・セーフティ・ネット借款、保健・栄養セクター開発借款(総額3,024億円)が実施された。セクター・プログラム・ローンは、即効性のある支援形態として、借款資金を一般輸入決済に充当することにより悪化しているインドネシアの国際収支改善に寄与すると共に、見返り資金1 を活用することにより、政府による労働集約型公共事業を支援し、短期的な雇用創出に寄与することを目的としている。また、ソーシャル・セーフティ・ネット借款及び保健・栄養セクター開発借款は、インドネシアの国際収支上の困難を緩和すると共に、見返り資金を活用することにより、経済危機が及ぼす社会的弱者層への影響を緩和することを目的としている。これらノン・プロジェクト(プログラム)借款により供与された資金は、インドネシア政府の実施する労働集約プログラム、ソーシャル・セーフティ・ネット・プログラム(食糧の確保、教育、保健医療等)に充てられている。
 有償資金協力による経済刺激のための雇用創出、社会的弱者支援は、いかに迅速にプロジェクトを形成し、それを実施するかが重要であった。わが国は、借款契約から貸付金の支出まで時間のかかる通常円借款の供与を1998~99年度に亘り見合わせ、足の速い資金供与及び資金の使い道が柔軟であるノン・プロジェクト借款により対応している。このような迅速かつ柔軟性の高い援助は、当時のインドネシアのニーズにあったタイムリーで妥当性の高いものと評価できる。
 ノン・プロジェクト借款による資金供与は、経済構造改革過程の短期資金需要に対する資金支援としても、タイミング・規模においてインドネシア側のニーズに合った妥当なものであったと考えられる。その他、1998年度に新規融資による債務返済支援 、2000年度、2002年度と2度にわたりリスケジューリング(債務返済繰り延べ)が行われ、二国間・民間からの借入が半分以上を占めるインドネシア政府の対外債務支払い負担の軽減を図っている。

無償資金協力
 無償資金協力では経済危機対応として、緊急無償(医療品等)、食糧援助、ノン・プロジェクト無償2 などが1997~99年度にかけて集中的に実施された。緊急無償の目的は、ルピアの下落により価格が高騰した輸入品の調達に係る資金援助をすることであり、特に緊急性の高い医療器材、医療品原材料、粉ミルク等が支援対象とされた。食糧援助では、干ばつと経済危機により深刻化していたインドネシアのコメ不足への対応として、緊急コメ支援及びコメ輸送費支援等が実施されている(総額約110億円)。また、98年のノン・プロジェクト無償により供与された資金(30億円)は、経済構造調整の枠組みの中で、とりわけ社会的弱者を支援する施策の実施に必要な物資の購入のために使用されている。これら無償資金協力による支援は、主に社会的弱者支援に重点を置いた内容となっており、インドネシア側の緊急ニーズに合致した妥当性の高いものと評価できる。
 また、1997~99年度に実施された無償資金協力(総額357.4億円)のうち、上記の緊急無償(医療品等)、食糧援助、ノン・プロジェクト無償の占める割合は50.4%となっており、経済危機への対応が重点的に行われたものと考えられる。

技術協力
 技術協力では経済危機対応として、人材育成を中心とした支援を実施した。わが国は、中長期的な経済発展のためには、人材育成や経済運営・制度改革などの能力強化に対する支援が重要であるとの認識から、経済の持続的発展に資する分野に焦点を当て、5年間で2万人の人材育成支援を目標とする「日・ASEAN総合人材育成プログラム」を1997年12月に表明した3 。わが国の実施した研修員受入れ数を見てみると、97年度の721人から98年度には2,522人、99年には3,771人と大幅に増加している(表2-3を参照)。JICAによると、これらの研修員受入れは輸出振興及び中小企業振興を目的とした人材育成が主であり、インドネシア国内で研修を行うことにより大規模研修員の受入れを可能にしたとのことであった。また、98~99年度には経済構造改革支援(マクロ経済政策支援)の一環として、経済計画策定や財政金融分野の改革・人材育成に係る専門家派遣を行っている。
 また、技術協力では、有償・無償資金協力により実施された雇用創出、社会的弱者支援に対する補完的な支援も行っている。例えば、雇用については、失業の現状とその対策についての調査を行うと共に、中堅技術者に対する現地研修や南スラウェシ州の貧困生活者のエンパワーメントについてのNGOとの連携事業を行っている。また、保健医療については、経済危機後の栄養状況、医療品状況、病院経営の状況とその対策についての調査を行った他、医療品支援のモニタリングの専門家派遣や栄養不良対策、地域助産婦の能力向上、保健・医療サービス危機管理等の現地研修を行っている 。
 有償・無償資金協力が雇用の確保や社会的弱者の救済など緊急性の高いニーズに対する支援を行ったのに対し、技術協力は中長期的な経済発展を目的とした人材育成や経済構造改革支援、及び有償・無償資金協力ではカバーすることが困難である地域に密接したソフト面での支援を行ったことに大きな特色が現れている。

  1. 一般物資の輸入資金としてセクター・プログラム・ローンで供与された円資金は中央銀行に売却され、その代金として政府は内貨(ルピア)を得る。この得られた内貨のことを見返り資金という(「OECF年次報告書」 1999年、JBIC)。
  2. 経済構造調整政策を推進する上で、緊急に輸入を必要とする物資を確保し得るよう調達先国を限定しない無償資金を供与するもの。最近では、2000~2002年度の3年にわたりノン・プロジェクト無償が実施されている。
  3. 「アジア通貨危機支援評価」 2002年3月(株)パシフィックコンサルタンツインターナショナルを参照。


1 財団法人 国際協力推進協会「インドネシア 開発途上国国別経済協力シリーズ(第7版)」を参照。

2 JICA「インドネシア共和国 セクター・イシュー別基礎資料」を参照。

3 日本の資金協力としては、有償資金協力と無償資金協力がある。技術協力は資金協力ではなく、人材育成を目的とした援助であるため、ここでは除いている。

4 これらの主要サブセクターを対象とした案件の目的には、インフラ整備だけではなく、地域格差の是正や貧困削減等の公平性の確保に係るものも含まれる。

5 日本の援助米の内訳は、政府米貸借契約による70万トン及び無償資金協力による5万トンの合計75万トンである。また、貸付け米の海上輸送費及び港湾諸経費は緊急無償資金協力によりカバーされた(JBIC「インドネシア コメ流通の現状と課題」を参照)。

6 開発指標については、世界銀行で用いられているミレニアム開発指標や、個別案件事後評価で用いられているセクターレベルの指標を参考に、分野ごとの代表的な指標と思われるものを設定した。但し、指標の推移による効果の読みとり方は調査団の見解であり、絶対的なものではないことに留意が必要。

7 現在、世界銀行やADBなどでも、プロジェクト評価を始め、国・セクターレベルの評価が行われているが、援助の効果を定量的に評価する手法は未だ確立していない。但し、援助効果の目安として指標を設定することは、国民への説明責任の観点からも有益であると考える。

8 定性的な考察の他、各分野において実施された具体的な案件名や内容についても簡単に参照し、開発指標の推移と援助投入との関係が明確に分かるように努める。また、本評価は政策レベル評価であり、基本的に個別案件評価は行わないが、完了案件で具体的な効果が見られる個別案件については、効果の例として取り上げることにする。

9 BPSでは「貧困ライン」を「一人一日2,100カロリーの相当の食糧と、それ以外に必需品(衣服・住居・教育・保健・交通等の25-27非食品項目)を得るのに最低限必要な支出水準」と定義している。

10 但し、本開発調査は調査開始後、サバン地域の治安の悪化により中断された。

11 例えば、教育分野を対象とした開発調査については、1999年に開始された「インドネシア地域教育開発支援計画」が最初のケースとなっている。

12 JICA「インドネシア共和国 セクター・イシュー別基礎資料」より。

13 生物多様性の保全に係る適当な開発指標を設定することが困難であったため、ここでは、生物多様性の保全にも大きく影響する森林面積の推移を見ることにする。

14 2000年における森林面積はスマトラで減少し、カリマンタンで増加しているが、林業省の話によると、最近5年間のスマトラ、カリマンタンにおける森林面積は減少傾向にあるとのこと。

15 当時は林業農園省

16 JICA「インドネシア共和国 セクター・イシュー別基礎資料」を参照。

17 クリーン開発メカニズム(CDM)とは、先進国が、途上国において実施された温室効果ガスの排出削減事業により生じた認証排出削減量(CER)を獲得することを認める制度(環境省ホームページ「京都メカニズムについて」を参照)。

18 重点5分野ごとの区分けでは、便宜上ソーシャル・セーフティ・ネットは公平性の確保、セクター・プログラム・ローンは多分野にまたがるためその他に分類しているが、これらのプログラム借款は国際収支の改善を目的としているため、本項で取り扱うことにした。

19 基盤技術産業。裾野産業とも呼ばれる。

20 直接にサポーティング・インダストリーの振興を目的とはしていないが、産業構造の再編成を通じてサポーティング・インダストリー振興につながると考えられるものを含む。

21 プログラム借款(ノン・プロジェクト借款)とは、借款の対象を一定のプロジェクトに特定するのではなく、当該国の経済開発計画や構造調整計画を遂行する上で必要な資金と、被援助国が自ら調達しうる資金との差額を対象として、一般的な援助資金として供与する方法(「経済協力用語辞典」 海外経済協力基金・開発援助研究会)。但し、プログラム借款の対象は複数分野にまたがるため、経済インフラ分野には含めていない。

22 JBICプレスリリース(1996年12月)を参照。

23 ジャワ島全体をカバーする電力系統のこと。

24 JBIC「インドネシアの開発課題」2002年度を参照。

25 外島とは、ジャワ島以外の地域を指す。

26 同事業は「地方電化事業」(1993年11月借款契約締結、1997年12月貸付完了)の後続案件として1996年に実施され、1999年に完了している。

27 「List of OECF/JBIC Assisted Projects 1968-2003」 BAPPENASを参照。

28 但し、食糧の確保や自然災害対策などは、農業分野や環境分野と共通した政策となっている。

29 経済危機以前は、中央政府主導の中長期的な大型インフラ整備が主要政策であったが、経済危機後は地方分権化、貧困対策に沿った地方主導の小規模事業や既存施設のリハビリに重点をシフトさせている。

30 これらの3案件は現在実施中であり、今後の洪水防御への寄与が期待される。

31 但し、1996~2002年度に実施された円借款による灌漑関連事業11件のうち、現時点で完了しているものは3件のみであり、その効果は限定的なものとなっている。

32 同事業は1990年に第1期事業が開始され、2001年に第3期事業が完了している。多目的ダム本体は1998年に完成・供用開始している。

33 「2003年度円借款案件事後評価報告」 JBICを参照。

34 JBICプレスリリース(1996年12月)を参照。

35 道路事業7件中5件が既存道路の維持・補修・改良に係る案件の後続案件(第2期、第3期)であり、わが国の援助が既存道路の維持・補修・改良に重点を置いてきたことが分かる。

36 現時点(2003年)において完了している案件は、「道路維持整備事業(II)」、「地方道路整備事業(III)」、「地方インフラ整備事業(II)」の3件である。

37 本事業の他、「地方インフラ整備事業(II)」及び「地方インフラ整備事業(III)」も貧困削減、東部インドネシアの開発を上位目標としている。

38 各県とも毎年路面状態のモニタリングを実施している。その結果、道路区間ごとに路面状態は、Baik(良好)、Sedang(比較的良好)、Sedang Rusak(不良)、Rusak(損傷)、Rusak Barat(重傷)の5段階に評価分類される。ここで、BaikとSedang が「Stableな状態」に相当する。

39 現在、ジャカルタ市内の道路交通、渋滞緩和、環境改善等を目的としたMRT(大量高速鉄道)の導入計画が検討されている。わが国もこのようなニーズに対応し、JICAの「ジャカルタ首都圏総合交通計画調査」などにより、MRTのフィージビリティ等について調査を実施している。

40 JICA「インドネシア共和国 セクター・イシュー別基礎資料」を参照。

41 JICA 2002年(平成14年)版国別業務実施方針を参照した。

42 2000年9月の経済協力政策協議にて、BAPPENASからは「浦田教授の政策提言はすでに政府のアクション・プランに反映されている。」との発言があった。

43 JBIC「インドネシアの開発課題」2002年度を参照。

44 これらのインフラ事業は、経済危機(1997年)以前から実施されているものであるが、その基本的方針は変わっていない。例えば、97年度のODA白書では、産業基盤整備の基本方針を、「インドネシアの持続的経済発展のためには外国直接投資の継続的な導入が必要であり、このための投資環境の整備を行う」としている。但し、3本柱では、よりボトルネックとなっているインフラ整備に焦点を絞った援助方針となっていることが伺える。

45 例えば、ADBでは都市開発やエネルギーなどセクターごとに5年~10年程度先の目標値を示した指標を設定したセクターロードマップをCSP(Country Strategy and Program)に含めている。



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