第3章において調査団が検証した、インドに対する我が国援助政策の内容の妥当性、結果の有効性、及びプロセスの適切性に関する評価結果をまとめると、以下の通りである。
第一に、我が国のインドに対する援助政策の内容は、概ね妥当であった。すなわち、対インド国別援助方針は、ODA大綱、ODA中期政策等の上位政策の「基本理念」、「重点項目」にほぼ合致しており、同方針で重点分野とされているインフラ、農業・農村開発、 保健医療、環境保全は第9次5カ年計画の優先度とほぼ一致している。但し、要請案件による日本に対するインドの開発ニーズの検証からは、重点分野に掲げられているセクター間でも、要請案件数の多い分野と少ない(あるいは全くない)分野があることが分かった。
第二に、我が国のインドに対する援助政策の結果も、概ね有効であった。対インド国別援助方針の中で設定された重点分野のうちいくつかについては、評価対象期間中に生み出されたアウトプットを確認することができなかったが、大半についてはアウトプット実績があった。インプットについては、全ての重点分野においてその実績が確認された。他方、アウトプットが各重点分野の主要指標にどの程度の影響を与えたのかの検証は技術的に困難であり、アウトカム実績に対する結果の有効性の判断はできなかった。
全ての重点分野において実績が確認されたインプットの詳細を見ると、分野間の投入金額、人数、件数の比較において明確な傾向が見られる。「経済インフラ整備」、特に「電力」、「運輸」の規模が大きく、「人口・エイズ」、「公害防止対策」、「水質改善」、「都市環境改善」への投入は小さい。このような重点分野間の傾向は、日本に対するインド側のニーズと他ドナーの活動等によって生じていると考えられる。すなわち、「電力」分野ではわが国がリーディングドナーなので、インド側もそれを認識した上で要請を上げてくる場合には実績が多い。一方、「人口・エイズ」分野では、他ドナーがリーディングドナーなので、わが国への要請・実績が小さくなる。但し、評価対象期間の5年間のうち3年半の間実施されていた、新規円借款の停止等の経済措置により、これらインプット及びアウトプットが影響を受けた可能性は排除することができない。
第三に、我が国のインドに対する援助政策のプロセスも概ね適切であったが、検証システムは強化の必要がある。評価対象期間に関わる対インド国別援助方針の策定・実施プロセスにおいて、日本政府内、また政府とJICA/JBIC両実施機関の間で、また日本側とインド政府との間でも、十分な協議が行われていたものと判断される。また、実施プロセスにおいて、NGOを含む民間、他ドナーと積極的な連携がとられていた。他方、対インド国別援助方針という政策の実行を定期的に評価する仕組みは存在しない、ということが明らかになった。