広報・資料 報告書・資料


3.2 対インド国別援助政策の効果に関する評価

本節では、評価期間1997~2001年度における、わが国の援助について、インプット及びアウトプットの有無とその傾向を検証した。また、これらのアウトプットが重点分野毎の主要指標にどのような影響を与えたのかについても可能なかぎり検証した。参考として、インド主要指標、セクター毎の主要指標の州別データを収集し、これらの指標の動向を把握した。

3.2.1 重点分野ごとのインプット実績とアウトプット実績

 評価対象期間にかかわる日本の全援助案件リスト(別添2)4、及び調査団が収集・集計したインプット及びアウトプット実績一覧表(別添3)に基づき、まず図表3-5、図表3-6に重点分野ごとの日本の援助のインプット実績(有償資金協力、草の根を除く無償資金協力、プロジェクト方式技術協力案件)を示した。更に、それらの図表からインプット実績の分野別構成比率を表すと、図表3-7、図表3-8の通りである5。その後に、分野毎にアウトプット実績を見る。

図表3-5 分野別インプット実績(件数)
図表3-5 分野別インプット実績(件数)
出所:調査団作成

図表3-6 分野別インプット実績(金額)
図表3-6 分野別インプット実績(金額)
出所:調査団作成

図表3-7 分野別インプット比率(件数)
図表3-7 分野別インプット比率(件数)
出所:調査団作成

図表3-8 分野別インプット比率(金額)
図表3-8 分野別インプット比率(金額)
出所:調査団作成

 以下に、重点分野ごとに、評価対象期間中に生み出されたアウトプット、及びそれらを生むためになされたインプットの詳細を見る。

経済インフラ整備

 重点分野「経済インフラ整備」は二つの援助施策「重点項目」、即ち、「電力・運輸等インフラ整備」、「その他の経済インフラ整備」から成る。

(1)電力・運輸(港湾、道路・鉄道、観光基盤整備)

1)電力

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

A)評価期間(1997~2001年度)における有償案件の終了に伴い、1,776MW6以上の発電所容量が増加した。1994-95~1999-2000年間の全インドの発電容量増加は16,713 MWである。従って我が国の協力は全インドの発電容量増加の10%以上を占める。

図表3-9 全インドの発電容量・発電量
図表3-9 全インドの発電容量・発電量
出所:Statistical Abstract India 1997-2001, Central Electricity Authority, Ministry of Energy

B)これを州単位にみるとグジャラート州での終了有償案件(ガンダール火力発電所)に伴う発電能力増657 MWは1994-95~1999-2000年間の同州の発電能力増加2,284 MWの29%を占める。同様にカルナータカ州ライチュール火力発電所増設は同州の発電能力増加の21%、タミルナード州ベイスンブリッジ火力発電所は9.1%、西ベンガル州テースタ用水路水力発電では8.3%を占めている。

C)「アンパラ送電システム建設事業(I)(II)」及び「スリサイラム送電線建設事業」により変電所9カ所を建設した。

  これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)発電所建設・増設の有償案件は14件、円借款合計額2778億円

ロ)送電線建設の有償案件は4件、円借款合計額595億円

ハ)開発調査 1件

ニ)研修員受入19人、専門家派遣 6人

図表3-10 電力案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-10 電力案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

2)運輸(港湾)

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 ツチコリン港において、2.5kmの運河延長、水深12.5mへの港の浚渫等を行い、船舶が入渠可能船舶容量が17,268DWT から17,530DWTに増え、桟橋延長が8.24mから10.7mに増加したことである。

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)浚渫の有償案件1件70億円

ロ)浚渫船建造の無償案件1件12億円

ハ)開発調査 1件

ニ)研修員受入5人、専門家派遣 2人

図表3-11 港湾案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-11 港湾案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

3)運輸(道路・鉄道、観光基盤整備)

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 国道2号線拡幅・改良事業において、51kmにわたり拡幅が行われた。観光基盤整備計画においては、ビハール州、ウッタル・プラデシュ州において1,227kmにわたる道路拡幅や路面舗装、9カ所の橋梁建設、5カ所の給水施設建設、5カ所の配電施設建設等が実施された。また、ニザムディン橋建設においては、551mにわたる橋梁が建設された。

 また、国道2号(5号線も含む)の拡幅・改良事業は、国道開発プロジェクト(National Highways Development Project 、NHDP)の一環である。NHDPは総延長14,000kmの国道の拡幅・改築事業である。同事業はインドではかつてない規模の事業であり、インドの経済発展に大きく寄与すると期待されている。次の表に示すとおり、NHDPの開通済み区間1,408kmのうち、165km (1408kmの12%)の国道2号線及び5号線の拡幅・改良が我が国の貢献と考えることができる。

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)有償案件は国道2号線拡幅・改良事業49億円と観光基盤整備計画92億円

ロ)無償案件はニザムディン橋建設7億円

ハ)開発調査2件

ニ)研修員受入74人、専門家派遣30人

図表3-12 NHDPの開通済み区間における日本の貢献 単位:km
図表3-12 NHDPの開通済み区間における日本の貢献 単位:km
出所:Ministry of Road transport and Highways

図表3-13 道路・鉄道案件(観光を含む)実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-13 道路・鉄道案件(観光を含む)実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(2)その他の経済インフラ

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 マイソール製紙工場近代化計画において、紙・パルプの総生産量が37%増加した。また、ウドヨガマンダル肥料工場アンモニア・プラント近代化計画においては、アンモニア生産量が1995/96年の38,000トンから2000/01年には299,000トンに拡大した。

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)有償案件2件、268億円

ロ)研修員受入96人、専門家派遣7人

図表3-14 その他の経済インフラ案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-14 その他の経済インフラ案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

貧困対策

 重点分野「貧困対策」は「保健医療」「農業・農村開発」「人口・エイズ対策」「小企業支援」からなる。

(1)保健医療

 保健医療は、「基礎保健医療の改善」、「人材育成」、「安全な飲料水の供給」の3つの重点項目を含む。1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 「ポリオ撲滅計画」4件のうち、ユニセフ経由で行われた3件については、インド政府の予防接種キャンペーン期間に合わせて、1999年に8300万ドース、2000年に8800万ドース、2001年に6800万ドースの合計2億3900万ドースのワクチンが供与された。また、「マドラス小児病院医療機材整備」は超音波検査装置等214の医療機材を供与した。この医療機材供与は、97年と2000年の比較で、手術数増加(97年9,136回、2000年10,349回)、超音波検査実施率41%増加、生化学検査実施率44%増加、外来患者診療数19%増加、死亡急患数半減(144名から74名)に貢献した。

 「カラワティ・サラン国立小児病院改善」では、4階建ての新しい施設をつくり、検査室を7室から15室に、手術室を1室から3室に増やしたことに加え、合計525機の医療機材が設置された。また、同病院が協力している農村部のプライマリーヘルスセンターの施設改善等を行った7。一方、「サンジャイガンジー医科学研究所」では、放射線医学、内分泌学、脳神経外科学分野等における研究、検査、手術用の医療機材が合計1,233機設置された。

 次に、63件の実績があった草の根無償のアウトプットをみる。

 「保健医療」分野の草の根無償は、「X線検査機器」「超音波検査機器」等の医療機械を提供した案件が多い。これらの医療機器提供は地域の医療体制整備に貢献した。たとえば、2001年度の「ジャイプール市内巡回医療車両供与」は、巡回医療車両,車両関係医療器具の整備により、ジャイプール市内の約10箇所のスラム住民約14万人が、定期的に医療を受けられる環境を整備した。 これは1回の訪問で約50人の患者を診察、1ヶ月で約2000人の患者に対応可能である(図表3-15)。

 また草の根無償は、ハード機器提供だけでなく、ソフト上の支援も行っている。たとえば1999年度の「首都周辺部における結核治療計画」は、医師、臨床検査技師、健康指導者、X線技師、運転手、ボランティアを投入し、対象人口80万人から 13,770名を対象に結核患者の調査を実施した。その結果、「症状あり」356人、「治療中」158人等を特定した。さらに同様のメンバーが別の対象人口65万人から 38,000人を対象に調査した結果、「喀痰検査陽性」112人、「X線検査陽性」92人、「治癒」64人、「治療中」133人を特定した。

 「安全な飲料水の供給」では、草の根無償により、飲料水用のハンドポンプ設置、飲料水用濾過設備等の供与を行った(図表3-16)。「安全な飲料水の供給」は保健医療の向上と密接な関係がある。たとえば1999年度の「マニプール浄水施設建設」において飲料水用濾過設備の設置に伴い、12村(住民4,532人)において、水が原因と考えられる疾患(下痢症、黄疸、赤痢等)が設置前の50%に減少した。

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)無償の「ポリオ撲滅計画」が4件で32億円、無償「カラワティ・サラン国立小児病院改善」「マドラス小児病院医療機材整備」の2件で12億円

ロ)草の根無償が63件

ハ)プロ技「サンジャイガンジー医科学研究所」

ニ)開発調査1件

ホ)研修員受入54人、専門家派遣41人

図表3-15 「保健医療」分野の草の根無償のアウトプット(一部)(PDF)8

図表3-16 「安全な飲料水の供給」分野の草の根無償のアウトプット(一部)(PDF)8

図表3-17 保健医療案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-17 保健医療案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(2)農業・農村開発

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは次の通りである(除く開発調査)。

 「コラブ上流灌漑事業」は14-42kmの運河等をつくり、「インドラバチ上流灌漑事業」は 37kmの運河等をつくった9。「コラブ上流灌漑事業」により42,500ヘクタール、「インドラバチ上流灌漑事業」により128,000ヘクタールの農地が灌漑された(合計170千ヘクタール)。オリッサ州の97~98年の総灌漑面積が2,090千ヘクタールなので、日本の協力による灌漑面積増加は、同州の総灌漑面積の8%を占めている(2003年9月、Ministry of Water Resourcesからの聞取り調査)。

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)「コラブ上流灌漑事業」「インドラバチ上流灌漑事業」(共にオリッサ州)の有償案件2件、75億円。

ロ)無償1件、3億円

ハ)草の根無償3件

ニ)開発調査1件

ホ)研修員受入33人、専門家派遣4人

図表3-18 農業・農村開発案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-18 農業・農村開発案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(3)人口・エイズ対策

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、確認できなかった。但し、評価対象期間に該当しないが、1996年度に無償援助により、マハラシュトラ州の20輸血センターに血液検査機器20台を供与した例がある。この結果、マハラシュトラ州は輸血によるエイズ感染の終息に向かい、輸血によるB型肝炎感染が激変した。

 参考までに述べると、評価期間のインプットは、以下の通りであった。

イ)草の根無償2件

ロ)研修員受入15人

図表3-19 人口・エイズ対策案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-19 人口・エイズ対策案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(4)小企業支援

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 「小企業育成計画 (V)」「小企業育成計画(VI)」のアウトプットは、融資を受けた企業数が年平均で約3万社にのぼったことである。そのアウトカムとして、115万人の新規雇用数を生んだ。またニ)プロ技「二化性養蚕技術開発」のアウトプットは3000件の農家に対して、蚕育種技術、蚕病防除技術、蚕飼育技術等を技術移転したことである。

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)「小企業育成計画 (V)」「小企業育成計画(VI)」の有償案件2件、600億円。

ハ)草の根無償3件

ニ)プロ技「二化性養蚕技術開発」1件

ホ)開発調査1件

ヘ)研修員受入54人、専門家派遣37人

図表3-20 小企業支援案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-20 小企業支援案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

環境保全

 重点分野「環境保全」は「公害防止対策」「水質改善」「水供給」「植林」「都市環境改善」から成る。

(1)公害防止対策

 1997年~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプット実績は確認されなかった。但し、評価対象期間において有償による「環境保全推進事業(公害対策設備投資部分)」が継続中であった。

 参考までに述べると、評価期間のインプットは、研修員受入18人のみである。

図表3-21 公害対策案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-21 公害対策案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(2)水質改善

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプット実績は確認されなかった。但し、評価対象期間において共に有償による「ヤムナ川流域諸都市下水等整備事業」及び「ボパール湖保全・管理計画」が継続中であった。このうち、「ヤムナ川流域諸都市下水等整備事業」は評価対象期間をこえる2002年度の終了案件であったが、調査団が確認することができたアウトプットを参考までに以下に述べる。

 「ヤムナ川流域諸都市下水道等整備事業」では、首都デリーの中心部を流れるヤムナ川流域のハリヤナ州の6市、ウッタル・プラデシュ州の8市、デリー市の計15都市において、下水処理所が31ヶ所に、改良型火葬場が98ヶ所に建設され、沐浴場の(植林)整備が3ヶ所で実施された。また、2001年11月にNGOと連携して始められた公衆衛生知識の普及・啓蒙活動が行われ、2003年2月までに、1,200箇所以上で公衆トイレが設置された。

 評価対象期間におけるインプットは、研修員受入6人であった。

図表3-22 水質改善案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-22 水質改善案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(3)水供給

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 「地方都市上下水道整備事業」において、マハラシュトラ州ニューボンベイおよびソラプールの2都市に各々、15万m3/日、8万/m3の浄水施設を整備し、人口急増による水需要に対応した10

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)「地方都市上下水道整備事業」「地方都市上下水道・衛生環境整備事業」の有償案件2件、155億円。

ロ)草の根無償4件

ハ)研修員受入3人、専門家派遣1人

図表3-23 水供給案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-23 水供給案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(4)植林

 1997~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプットは、次の通りである(除く開発調査)。

 「アラバリ山地植林事業」において、ラジャスタン州の151,390haの植林を行い、9,500万本の苗木を配付した11

 なお、植林事業は上記ロ)を含め、2003年4月までに7件の有償案件を実施もしくは実施中である。この7件のうちパンジャブ州とラジャスタン州における終了案件のアウトプットは、次の表に示すとおり、合計3,541平方キロメートルの植林である。94-95~00-01年度の全インドの植林面積増加 は、36,659平方キロメートルであるので、円借款による植林面積増加は全インドの植林面積増加の10%を占める。

図表3-24 植林面積の推移
図表3-24 植林面積の推移
出所:Ministry of Environment and Forest

 これらのアウトプットを生むためのインプットは、以下の通りであった。

イ)「アラバリ山地植林事業」「インデラガンジー運河地域植林」の有償案件2件、160億円。

ロ)草の根無償1件

図表3-25 植林案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-25 植林案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

(5)都市環境改善

 1997年~2001年度の評価期間中に生み出されたアウトプット実績は確認されなかった。

 参考までに述べると、評価期間のインプットは、以下の通りである。

イ) 草の根無償4件

ロ) 研修員受入13人、専門家派遣1人

図表3-26 都市環境改善案件実施の開始・終了年度と投入金額
図表3-26 都市環境改善案件実施の開始・終了年度と投入金額
出所:調査団作成

 以上、評価期間において調査団が確認したアウトプット実績を見てきた。このアウトプットを要約すると次の通りである。

(電力)

 評価期間(1997~2001年度)における有償案件の終了に伴い、1,776MW以上の発電所容量が増加した。1994-95~1999-2000年間の全インドの発電容量増加は16,713MWである。従って我が国の協力は全インドの発電容量増加の10%以上を占める。これを州単位にみるとグジャラート州での終了有償案件(ガンダール火力発電所)に伴う発電容量増657MWは1994-95~1999-2000年間の同州の発電容量増加2,284MWの29%を占める。同様にカルナータカ州ライチュール火力発電所増設は同州の発電容量増加の21%、タミルナード州ベイスンブリッジ火力発電所は9.1%、西ベンガル州テースタ用水路水力発電では8.3%を占めている。また、送配電プロジェクトでは3有償案件の合計で9カ所の変電所を建設した。

(運輸)

 ツチコリン港において、2.5kmの運河延長や水深12.5mへと港の浚渫等を行い、船舶が入渠可能容量が17,268DWT から17,530DWTに増え、桟橋延長が8.24mから10.7mに増え、港の荷物取扱い能力が増加した。また、国道2号線拡幅・改良事業において51.33kmにわたる拡幅、観光基盤整備計画ではビハール州、ウッタル・プラデシュ州において1,227kmにわたる道路拡張等、ニザムディン橋建設において551.2mにわたる橋梁が建設された。

(その他の経済インフラ)

 マイソール製紙工場近代化計画において、紙・パルプの総生産量が37%増加した。また、ウドヨガマンダル肥料工場アンモニア・プラント近代化計画においては、アンモニア生産量が1995/96年の38,000トンから2000/01年には299,000トンに拡大した。

(保健医療)

 ポリオ撲滅計画(ユニセフ経由)においては、インド政府の予防接種キャンペーン期間に合わせて、合計2億3900万ドースのワクチンが供与された。マドラス小児病院医療機材整備では超音波検査装置等214の医療機材を供与した。また、サンジャイガンジー医科学研究所では、合計1233の医療機材が設置された。草の根無償においても、「X線検査機器」「超音波検査機器」等の医療機械の提供や、医師、臨床検査技師、健康指導者、X線技師の派遣等の支援が行われたことが確認された。

(農業・農村開発)

 コラブ上流灌漑事業では14-42kmの運河等を、インドラバチ上流灌漑事業は 37kmの運河等を建設した12。コラブ上流灌漑事業により42,500ヘクタール、インドラバチ上流灌漑事業により128,000ヘクタール、合計170千ヘクタールの農地が灌漑された。

(人口・エイズ対策)

 評価対象期間におけるアウトプット実績を確認することができなかった。

(小企業支援)

 小企業育成計画(V)(VI)において融資を受けた企業数は、年平均で3万社、新規雇用数は115万人である。「二化性養蚕技術開発」のアウトプットは3000件の農家に対して、蚕育種技術、蚕病防除技術、蚕飼育技術等を技術移転したことである。

(公害防止対策)

 評価対象期間におけるアウトプット実績を確認することができなかった。

(水質改善)

 評価対象期間におけるアウトプット実績を確認することができなかった。

(水供給)

 マハラシュトラ州の地方都市上水道整備事業では、ニューボンベイ及びソラプールにおいて、それぞれ、当初計画通り15万m3/日、8万m3/日の供給能力を持つ上水道施設を建設した。

(植林)

 アラバリ山地植林事業において、ラジャスタン州の151,390haの植林を行い、9,500万本の苗木を配付した。また、94-95~00-01年度の全インドの植林面積増加 36,700ヘクタールのうち、円借款プロジェクトによる植林面積はパンジャブ州とラジャスタン州だけで 3,500平方キロメートルであり、全インドの植林面積増加の10%を占める。

(都市環境改善)

 評価対象期間におけるアウトプット実績を確認することができなかった。

3.2.2 重点分野ごとのアウトカム指標への影響

 本評価では、アウトプット実績が重点分野の主要指標にどの程度影響を与えたのか、可能な限り検証を行った。

 その結果、調査団が文献調査及びヒアリングから得た範囲において、評価対象期間における日本の援助がインドの社会・経済指標に貢献したことを示唆する例があった。

 なお、インド全体の主要指標の推移(州別)については、第2章及び別添4に記述した。

(電力)13

 評価期間に終了した有償案件によるアウトカム(定性的影響も含む)は以下の通りである。

a)グジャラート州のガンダール火力発電所は、インド西部地方の電力需給格差の解消と安定供給に加え、周辺住民の生活水準や利便性の向上に貢献した(ガスタービンと蒸気タービンとを併せて657MW)。

b)ライチュール火力発電所増設はカルナータカ州の水力偏重是正に貢献し(92/93年77%から00/01年54%に減少)、増設施設に118名の雇用を生み出した。

c)タミルナード州ベイスンブリッジ火力発電所は北チェンナイ火力発電所を補完し、朝夕の電力カットを解消した。

d)上記の有償案件は各々の州において、一人当たりの電力使用量の増加に貢献した。

以上をまとめると次の表のとおり。

図表3-27 電力終了案件のアウトカム例
図表3-27 電力終了案件のアウトカム例
出所:国際協力銀行の事後報告書から調査団作成

(港湾)

 ツチコリン港プロジェクトにより、港の荷物取扱い能力が増加した。そのアウトカムを参考までに述べると、1995-96年から2000-01年の海外および沿岸の輸送量の伸び率は全インド1.2倍に対し、ツチコリン港の伸び率は1.5倍である。我が国の有償案件はインド全国平均より高いツチコリン港の伸び率に貢献している可能性がある。

図表3-28 主要港における海外・沿岸の輸送量の伸び
(全インドとツチコリン港との比較)
図表3-28 主要港における海外・沿岸の輸送量の伸び
出所:India Infrastructure report 2003

(保健医療)

 インド全国のポリオ患者数は次の表に示すとおり、1998-99年には1934人が2000-01年には265人、2001-02年には268人に減少した。この内、我が国の「ポリオ撲滅計画」が、この減少にどの程度寄与したかを把握することは難しい。しかし、相当程度寄与したものと推測する。

図表3-29 ポリオ患者数
図表3-29 ポリオ患者数
注: PPI: Pulse Polio Immunization. 対象児童は4-6週の間隔をおいて2回ワクチンを接種する。
出所:GOI, Ministry of Health and Family, Annual Report 2002-2003, p.178

(小企業支援)

 「小企業育成計画 (V)」「小企業育成計画(VI)」において融資を受けた企業数は年平均で約3万社であったが、そのアウトカムとして、115万人の新規雇用数を生んだ。またプロ技「二化性養蚕技術開発」プロジェクトでは、14日本式の衛生管理や均一な繭の生産法を指導した。また、南部3州の養蚕農家のうち、8%にあたる約3万6千軒に「改良カイコ」が広がった。繭の値段は改良型がキロ単価200ルピー前後と、在来種より6~8割高い。インド政府は現状で年400トンの改良型による生糸生産量を2007年に6700トンまで増産する計画である。

3.2.3 結果の有効性に関する評価結果

 総合評価として、いくつかの重点分野(人口・エイズ、公害防止対策、水質改善、都市環境改善)を除いた大半の分野において、評価対象期間中に生み出されたアウトプット実績を確認すると共に、全ての重点分野においてインプット実績があったことが確認された。但し、これらのアウトプットが各重点分野の主要指標にどの程度の影響を与えたのかの検証は技術的に困難であり、アウトカム実績に対する結果の有効性の判断はできなかった。

 インプットの詳細を見ると、全ての重点分野において実績があることを確認したものの、分野間の投入金額、人数、件数を比較すると、明確な傾向が見られる15。「経済インフラ整備」、特に「電力」、「運輸」の規模が大きく、「人口・エイズ」、「公害防止対策」、「水質改善」、「都市環境改善」への投入は小さい。「電力」には、5,870億円、研修員受入19人、専門家派遣6人、実施案件36件、「運輸」への投入に関しては、1,290億円、研修員受入79人、専門家派遣32人であった。一方、「人口・エイズ」分野は、研修員受入15人と草の根無償2件(0.04億円)、「公害防止対策」分野では、30億円、研修員受入18人、「水質改善」分野では、178億円、研修員受入6人、「都市環境改善」分野では、研修員受入13人、専門家派遣1人、草の根無償4件(0.39億円)のみであった。

 アウトプット実績は、インプットの傾向を反映し、「電力」、「運輸」で相対的に大きくなっている。特に電力では、インドの電力供給量の伸び率の10%以上を日本の援助が占めている。

 このような傾向は、日本に対するインド側のニーズと他ドナーの活動等によって生じていると考えられる。すなわち、「電力」分野ではわが国がリーディングドナーなので、インド側もそれを認識した上で要請を上げてくる場合には実績が多い。一方、「人口・エイズ」分野では、他ドナーがリーディングドナーなので、わが国への要請・実績が小さくなる。

 2003年9月の調査団による他ドナーへのヒアリングでは、電力分野においては、ドイツ及び世銀も支援を行っているものの、日本がリーディングドナーであるとの認識が示された。実際に、ドイツ(KfW)との案件数の比較では、第9次5カ年計画期間(1997~2002年)における電力分野での貸付案件数は、日本が6件に対してドイツが2件であった。他方、基礎保健医療分野においては、マルチドナーがコミュニティーレベルの大規模プログラムを実施し、日本は小児病院や研究分野などへの資金援助を行っている。また日本の支援実績が極めて少なかった「人口・エイズ」分野では、他ドナーの多くが活動を行っている。


4 全援助案件リスト作成のために調査対象期間における案件を各重点分野に分類するにあたっては、いくつかの案件に関して調査団案とは異なる分野に分類すべきであるとの関係者の意見もあった。調査団は、これらの意見や、各種文献調査、関係組織からのヒアリング等を総合的に検討した上で、最終的に最も妥当であると考えられる分類を示した。

5 インプット及びアウトプット実績のレベル(案件数及び金額)については、インドの地下核実験実施に対応して実施された新規円借款の停止等の経済措置(1998年5月~2001年10月)により大きな影響を受けたものと考えられる。

6 この1,776 MWの増加は、ガンダール火力発電所(657 MW)、ライチュール火力発電所(210MW)、ベイスンブリッジ火力発電所(120MW)、テースタ用水路水力発電(67.5MW)、ファリダバード火力発電所(430MW)、アッサム・ガスタービン発電所(291MW)のみの合計である。これらで建設された発電機数は合計30基である。

7 Embassy of Japan in India, Press Releases, 6th March, 2000を参照した。

8 本表に示した草の根無償プロジェクトのうち、案件によってはファイナルレポート執筆時点でアウトプット及びアウトカムの両者もしくはどちらかの実績が既に判明しているものがある一方で、その予定のみの記述とならざるを得ないものや、アウトカムの言及がないものがあった。また、それらのアウトプット及びアウトカムも、案件によりレポート執筆者の記述の仕方が異なるため、本表において統一的な記述振りを行うことは困難であった。

9 国際協力銀行、「コラブ上流灌漑事業」「インドラバチ上流灌漑事業」Project Completion Report, 2000 年

10 国際協力銀行、「地方都市上下水道整備事業」事後報告書、2003年

11 国際協力銀行、「アラバリ山地植林事業」事後報告書、2001年

12 国際協力銀行、「コラブ上流灌漑事業」「インドラバチ上流灌漑事業」Project Completion Report, 2000 年

13 この効果は、国際協力銀行の事後評価報告書から抜粋した。

14 この段落は朝日新聞、2003年9月20日の記事を参照、一部抜粋した。

15 但し、重点分野間の比較についても、インプット実績のレベル(案件数及び金額)の場合と同様に、インドの地下核実験実施に対応して実施された新規円借款の停止等の経済措置(1998年5月~2001年10月)による影響は排除することができない。

このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る