第2部 IDI中間評価
第3章 IDIの策定・実施プロセスの適切性・効率性
1.適切な組織・人の策定への関与
IDIは、外務省経済協力局調査計画課が主管し、外務省内関係各課との協議、関係省庁、NGO、国内及びWHO等国際機関からの有識者を交えた意見交換会、九州・沖縄サミット直前の首相によるわが国の感染症分野の専門家からの意見聴取を経て策定された。
IDI策定時の関係各省、実施機関の関与の度合いに関しては、当時、策定に関わった関係省庁や実施機関等の担当者は既に他の部署に異動していたため、現在の担当からは当時の関与の方法、内容に関して明確に確認するに至らなかった。
IDIの策定に関与した感染症専門家からは、外務省、厚生労働省、文部科学省の連携が必ずしも十分でなかったこと、IDIにおいて具体的な目標が示されていないこと、目標達成のために具体的に何をいつまでに実行するかが明確に記述されていないことなどの意見がインタビュー調査で寄せられた。IDIでは5年間で30億ドルを目途とする協力が謳われているが、政策目標やその実施工程は明示されていない。
上述の課題に対応すべく、IDI策定後の九州・沖縄サミットのフォローアップとして、2000年12月に開催された感染症対策沖縄国際会議では、国際機関、NGOが参加し、エイズや結核をはじめとする感染症対策を支援するための世界的な基金の必要性やMDGsの感染症に関係する指標の中間目標の設定等が決定された。そこで有識者、NGOが、IDI戦略形成に関与している。また、外務省、厚生労働省、文部科学省は、連携を強化するため保健医療分野の支援に関する定例会議を開催し、IDIの進捗等を討議している。なお、1997年に発表された橋本イニシアティブは、当初、厚生労働省とJICAが中心となり、わが国に経験豊富な学校保健を用いた寄生虫対策をアジア・アフリカにおける寄生虫対策に応用すべく構想が練られてきた。IDI発表後に、外務省と厚生労働省との協議の結果、橋本イニシアティブはIDIに包含され、具体的な寄生虫対策プロジェクトがタイ、ケニア、ガーナを拠点に開始された。
2.IDIの援助方針・形態への反映
IDI実施過程の適切性を評価するために、本項では、外務省及び実施機関が策定している援助方針、IDIに言及されている各種援助形態においてIDIが反映されているかについて検証する。
2.1 外務省の国別援助計画への反映
わが国のODA重点供与国に対する今後5年程度を目途とした援助計画を示すものとして国別援助計画が策定されており、2003年11月現在、策定済みが15カ国、策定中が5カ国となっている。国別援助計画には、わが国経済協力の目指すべき方向性や重点分野・課題別援助方針等が示されている。15カ国中、保健医療が重点課題となっている国は13カ国であり、そのうち感染症について言及されている国が9カ国、うち、IDIが明記されている国が1カ国である。15カ国のうち、2002年以降に策定された5カ国に対する国別援助計画については、感染症が言及されている国は3カ国でそのうちIDIが明記されている国は1カ国である。なお、国別援助計画の重点分野・課題別援助方針における具体的な言及振りは表2-6に示すとおりである
1
。
表2-6 国別援助計画における感染症(IDIを含む)への言及振り
国名 |
言及振り |
IDIについて言及 |
ザンビア (2002年10月策定) |
「我が国は、九州・沖縄サミットの機会に「沖縄感染症対策イニシアティブ」にて表明したとおり、感染症対策及び関連社会開発分野への取り組みを強化する方針であり、ザンビアに対してもHIV/AIDS、マラリア・寄生虫、結核等の感染症対策にかかる協力を今後も積極的に推進していく。」
(重点課題・分野(ロ)費用対効果の高い保健医療サービスの充実) |
感染症について言及 |
カンボジア (2002年2月策定) |
「感染症対策、特にHIV/AIDS政策、結核対策並びに両者の合併症を含む対策及びマラリア・寄生虫対策への協力に積極的に取り組んでいく」
(重点課題・分野(ロ)社会的弱者支援) |
タイ (2000年3月策定) |
「特に、タイは「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」の重点国(エイズ)であり、エイズ予防等への支援を継続していく。」
(重点課題・分野(イ)社会セクター支援(教育、エイズ対策を中心として)、(b) 保健・衛生面への支援) |
フィリピン (2000年8月策定) |
貧困地域へのプライマリ・ヘルス・ケアを含む協力を重視するとし、その中で、HIV/AIDS協力を今後も行うことを言及。
(重点課題・分野(ロ)格差の是正、(b)基礎的生活条件の改善) |
ベトナム (2000年6月策定) |
「エイズ対策等の地球的規模の視点に立った協力の拡充も必要である。」
(重点課題・分野(ニ)教育、保健・医療) |
ガーナ (2000年6月策定) |
ガーナ大学野口記念医学研究所を活用して、感染症対策及び寄生虫対策の実施を検討することを言及。
(重点課題・分野(ロ)基礎的生活分野、(B)保健・医療) |
タンザニア (2000年6月策定) |
マラリア対策及びポリオ対策に引き続き支援することが重要であると指摘。住民のHIV感染予防に関わる教育・啓蒙活動の実施を支援していくことを言及。
(重点課題・分野(ハ)人口・エイズ及び子供の健康問題への対応) |
ケニア (2000年8月策定) |
人口・エイズ問題を中心に協力することを検討することを言及。
(重点課題・分野(ニ)保健・医療) |
ニカラグア (2002年10月策定) |
貧困削減戦略書(PRSP)の枠組みの中で、その目標達成に向けて感染症対策を支援していくことを言及。
(重点課題・分野(ロ)保健・医療) |
わが国の保健協力分野の協力は40年以上の実績があり、その中で、もともと感染症対策及び保健医療分野が重点課題とされてきた国々が多数あることを鑑みれば、IDIがなくても感染症対策支援案件が取り上げられるという側面もあり、IDIの発表によって感染症対策が国別援助計画に新たに重点課題として取り上げられるようになったというケースはない。重点課題別政策であるIDIが国別援助計画の実施によりよく反映されるためには、今後策定される国別援助計画の重点課題として感染症が取り上げられるのであれば、IDIとの関連について触れられることが望ましい。ただし、現在実施されている全ての感染症対策支援がIDIに包含されるということであれば、感染対策支援=IDIであり、既に国別援助計画の実施にIDIが反映されているといっても差し支えはないであろう。
2.2 JICA・JBICの援助方針への反映
JICAは、感染症対策支援に係るセクター別の援助方針として、HIV/AIDSについて作成しており
2
、その中で、わが国の援助動向として2000年7月にIDIが発表されたことに言及している。また、主なHIV/AIDS対策の協力事例についてまとめており、その中で、中核的検査室などを中心とした検査・診断技術向上のための研究協力では、IDI等の流れを受けて、HIV/AIDSだけではなく、結核や寄生虫症等のその他の感染症と組み合わせた協力を実施する傾向があるとしている。JICAは2002年2月に結核対策における政策及び戦略(Policy and Strategies on Tuberculosis Control)を作成しているが、これにはIDIについての言及はない。JICAの国別事業実施計画におけるIDIの反映ついては、本評価調査ケース・スタディ国に対する計画を検証したところ、ケニア国別事業実施計画において「感染症対策がIDIに則して」という記述があり、IDIを踏まえたHIV/AIDSやマラリア対策への協力の必要性を明記しているが、他3カ国については、重点課題の中で感染症を取り上げているものの、IDIに関する記述はない。聞き取り調査によれば、JICAではIDIを十分意識しながら国別事業実施計画を策定しているとのことだが、それを十分に確認するには至らなかった。
JBICは、「海外経済協力業務実施方針」(2002年4月公表)で、エイズなど感染症を含む地球規模問題への対応を重点分野の一つに挙げている。また、円借款によるHIV/AIDS対策についての基礎調査を実施した。JBICの本評価調査ケース・スタディ国に対する方針を確認したところ、IDI案件の実績があるフィリピンに対する方針には、IDIに係る記述はないものの、「感染症対策を含む医療保健へのアクセスの確保を支援する」と記載されており、貧困削減のための感染症対策の必要性を明記している。
2.3 わが国援助形態への反映
IDIの発表を受け、感染症対策への取り組みを推進すべく、2001年度に「感染症対策無償」という援助スキームが新設され(2001年度予算100億円)、成人の感染症対策にも消耗品を含む資機材等の供与が可能となった。また、IPPFに「HIV/AIDS日本信託基金」を新設し、2002年度に100万ドル拠出することを決定した。草の根レベルでのHIV/AIDS予防、性感染症対策といったHIV/AIDSに関するIPPFの活動を支援するために活用されている。ただし、今回の調査で、HIV/AIDS日本信託基金についてはIPPF本部を経由して日本政府に承認要請があるため、プロジェクト・ドキュメントに特記されている場合を除いては、外務省では、各申請団体がIDIについてどの程度認識を有しているか把握していなかった。「人間の安全保障基金」への反映度については、本評価調査ケース・スタディ国(タイ、ケニア)にて同基金により事業を実施している国際機関現地事務所で聞き取り調査をした結果、わが国の出資であることは認識されていたが、IDIについて担当者は認識していなかった。
3.IDIの援助案件実施サイクルへの反映
本項では、IDI実施過程の適切性の評価の一環として、個々のプロジェクト・サイクル(形成→実施→モニタリング・評価)へのIDIの反映度について検証した。
3.1 案件の計画段階における反映度
案件の計画段階においては、プロジェクトの流れ(添付資料5参照)で示される通り、案件選択に至るまでの最初の段階でIDIなどが考慮されている。プロジェクトの形成段階では、草の根・人間の安全補償無償資金協力については、案件フォーム(在外公館から外務本省に提出する請訓表)にIDI案件か否かを明らかにする項目がある。ただし、IDI案件の基準が明確でなく、結果として各大使館で選定基準が一定していないことが今回の調査で指摘された。
JBICでは、プロジェクト実施前の要請案件の検討/審査の段階(ファクト・ファインディング・ミッション及びアプレイザル・ミッション派遣)で、感染症対策を含む地球規模問題を考慮し、特にエイズに関連する問題があるかを検討資料の一部であるチェックフォームを活用して確認し、エイズ対策が必要と考えられる案件に対しては、事業デザイン段階及び事業実施段階で効果的な支援について検討することとしている。
IDI発表直後、外務本省から在外公館に対して、公電で積極的な案件発掘を指示していたことが判明したが、今回のケース・スタディ国における調査の結果、現地の日本大使館、JICAの各担当官のIDIについての認知度は低く、現場のわが国援助関係者がIDIの内容を意識して事業が実施されていることは少なかった。これは、IDI発表後、既に3年が経ち、当時の担当者が異動しており、当初は認識されていたが、当時の担当から引継ぎが十分に行われていなかったためであり、また、外務本省からの指示が継続的に出されてこなかったためと思われる。
IDIの発表後、積極的に感染症対策に係る案件の形成を行うよう指示が出され、案件数は増加しているが、それがIDIの反映の結果であるかの判断は難しい。なぜなら、案件の要請自体は、IDIの発表以前に行われたケースも少なくないからである。プロセスのフローチャートで示されるとおり、案件形成から実施までには、技術協力では最低1年、無償資金協力(一般プロジェクト無償)では通常2年はかかることから、評価対象時期(特に2000年度)の新規案件の案件増加の要因は、IDIの発表以前にあると考えられる。よって、現時点で実施側への反映が適切であったかを判断するのは困難であり、IDI終了時において確認すべきである。
3.2 案件の実施・事後段階における反映度
外務省、JICAに対する聞き取り調査の結果、案件実施段階や評価段階(中間時、終了時)では、IDI(理念や方針等)が反映されているかの検討は特に行われていなかった。例えばJICAの場合、プロジェクトを評価する際に、プロジェクトの掲げる上位目標との整合性をみることになっているが、IDIは、被援助国のセクター開発目標等と異なり、モニタリング・評価時に配慮すべき上位目標や関連する上位政策として挙げられていない。これは、プロジェクトとIDIのような政策レベルとの関連性が十分勘案されていないためと思われる。
IDI案件の扱いについては、該当案件がIDIの下で実施されているということや、IDI発表以前から実施されている案件がIDIに組み込まれたという認識は現場の担当者の間で十分に共有されていなかった。実際、本評価調査ケース・スタディ国のプロジェクト関係者は、自分の関与しているプロジェクトがIDIの一環で実施されているという認識はなかった。これはIDIに限ったことではなく、技術指導に当たる現場の専門家やボランティア等の各案件の実施者が、当該案件が、どの政策やプログラムの傘の下で実施されているかという説明を十分受けずに従事していることが多いためと思われる。
3.3 イニシアティブ・マネジメント上の課題
案件のいずれに対しても、IDIとしての再位置付けや目標、活動等の修正が行われても良いはずであるが、そのような形跡は見られなかった。感染症に関するイニシアティブのマネジメントを強化するためには、厚生労働省との密な連携も今後は検討する価値があると思われる。
4.IDIのプロセスの適切性:まとめ
IDIは、外務省が中心となり関係省庁、NGO、国内及びWHO等の有識者を交えた意見交換を経て策定されており、適切な組織・人が策定に関与したといえる。しかし、IDIには具体的な目標、工程が示されていないなど、専門家の意見をもっと反映させる余地があったと思われる。しかし、IDIの発表後に、感染症対策支援への取り組みは、HIV/AIDS対策に係る広域専門家の派遣、感染症対策無償やIPPFにおける「HIV/AIDS日本信託基金」の新設等、徐々に具体化されている。つまり、策定過程の適切性は高いとはいえないが、策定後、関係省庁・機関との連携強化等、改善に向けての取り組みが行われている。
実施過程の適切性について、IDIの発表を受けて、感染症対策無償及びIPPF「HIV/AIDS日本信託基金」という新たな援助スキームと基金が設置されたことは、適切性が高いと判断される。ただし、一部援助スキームを除き、案件形成時にIDIの関与が限られていること、案件のモニタリング・評価時にIDIの反映度が十分確認されていないこと、プロジェクトの関係者の間でIDIの認知度が低いことについては、今後改善すべきと思われる。
5.実施過程の効率性
本項では、IDIの実施過程の効率性を評価するため、ODAの実施において一般的に効率性を高めるであろうと思われる以下のアプローチが、IDIの実施においても効率性を高めるか、本評価調査ケース・スタディ国での実情も踏まえ検討した。
(1) |
対象分野に対する支援と関連分野での支援の関係:個別感染症の対策支援に、間接支援(関連する社会開発分野での支援)は効率的に作用するか。 |
(2) |
援助スキーム間の連携:援助スキーム間の連携によるIDIの効率的な運営が可能か。 |
(3) |
他ドナー・国際機関との連携:IDIを効率的に実施するため、他ドナーや国際機関と連携による効率的な運営が可能か。 |
(4) |
NGOとの連携:NGOとの連携によるIDIの効率的な運営が可能か。 |
(5) |
地域間協力:南南協力及び広域アプローチによるIDIの効率的な実施は可能か。
|
5.1 個別感染症対策と間接支援との関係
マラリアのように、蔓延地域が地方に点在している疾病の場合、地域保健の拡充は特に重要である。結核及びHIV/AIDSについても、地域保健システムなくしては対策を立てられない。途上国の地域保健システムはまだ不十分であり、それを改善するためには、感染症対策を実施する以上の費用がかかる。わが国が実施している地域保健のプロジェクトの多くは、母子保健や衛生教育などに重点が置かれ、地域保健システムの確立に重点を置いたプロジェクトは殆ど見られないのが現状である。感染症対策の観点からは、結核、HIV/AIDSを直接的に削減する方向に特化した支援の方がより重要と思われる。支援国としても、直接的な対策への支援を望んでいる。学校保健は、HIV/AIDS予防の啓発を行う上で重要であるが、学校保健に関する取り組みはまだ始まったばかりで、教育分野の支援の大半は、小学校の校舎建設等ハードに偏っている。安全な水の供給は、下痢疾患を減らす上で重要である。
まとめると、マラリアについては、間接支援により個別感染症支援の効率性が上がるが、他の疾患については、現状の間接支援では効率性の向上にあまり影響を与えていないと思われる。
ただし、UNICEF等国際機関や被援助国の関係者の間では、保健インフラの整備を目指す地域保健の強化は、患者の早期発見、早期治療、予防の促進等、感染症を削減する上でも重要であり、教育の普及・充実による女性のエンパワーメントがHIV感染の危険行動抑制等エイズ予防に効果的であるとし、間接的な支援を高く評価する声もある。他方、直接的にベクター・コントロールを通じた感染症対策につながる安全な水の供給や、感染症対策を含む地域保健などは戦略的に感染症対策として位置付けられるが、基礎教育はもともとエイズ予防のために行われているものは少ないので感染症対策として考えるべきではないという意見もあり、間接支援と感染症対策の関係が効率的であるかについての見解はまとまっているわけではない。
5.2 援助スキーム間の連携
一般的に無償資金協力(草の根無償資金協力を含む)と技術協力プロジェクト、研修の組み合わせ等は多くの案件で行われている。例えば、結核分野においては、無償資金協力で建設された結核センターや検査センターを拠点に、結核対策の技術協力ないし専門家派遣が効果的に実施され、また、結核研究所における国際研修への参加を通じて人材育成がなされるといった具合である。
ケース・スタディ国では、無償資金協力による研究センターの建設と技術協力プロジェクトによる感染症研究の支援、第三国研修を通じた周辺諸国への支援等の組み合わせ(タイ及びケニア)、ポリオの研究センター(Polio Laboratory)の建設時に、現地業者に委託し、現地の資材及び人材をもって建設などが行われている。また、有償資金協力の場合、本体の借款業務と技術協力にて実施する開発調査の連携以外に、案件形成促進調査(SAPROF)や案件実施支援調査(SAPI)などを用いて案件実施の効率化を行っている。しかし、案件形成から実施までにかかる凡その期間は、一般プロジェクト無償は2年間、技術協力プロジェクトは1年間、草の根無償資金協力は4半期毎と、スキーム毎に案件形成に要する時間が異なるので、連携案件を同一時期に実施することが容易ではないという課題がある。聞き取り調査では、JICA及びJBICは、案件形成時の調査で他スキームとの連携の可能性について調整するようにしているが、現状では、要請段階から具体的な連携案件となっているものは少ないとのことだった。
それぞれの援助スキームは独自の事前調査、案件形成・設計、実施の採択、実施(機材供与、施設建設、技術協力)の過程を経ること、援助の実施に際しては被援助国側の責任事項との調整が必要であることから、スキーム間の理想的な連携を効率的かつ効果的に実現するのは困難である場合が多いが、連携が奏功すれば高い成果が上げられるので、今後、有償資金協力と技術協力プロジェクトとの連携等についても、可能性を検討していくことが期待される。
5.3 他ドナー・国際機関との連携
わが国は、UNFPAやUNAIDS等への拠出やマルチ・バイ協力を通じて国際機関と連携し、また、人間の安全保障基金やGFATMへの拠出を行っており、例えば、わが国が供与したワクチンやコールドチェーン等の資機材をUNICEFが配布したり、わが国の援助形態ではなかなか届きにくい被援助国の現地NGOへの支援をわが国が国際機関に設置した基金を通じてUNIFEMが実施する等、互いの長所を活かし効果的・効率的な支援に貢献している。また、外務省は、UNFPA、UNICEF、USAIDの保健部局と定期協議を実施して情報交換を行っており、2003年5月にオタワにて、WHO、WB、CIDA、DFIDと保健医療分野での援助協調の会合を開催している。ケース・スタディ国の全てにおいて、ドナー会合への出席等を通じ、他ドナーとの情報の共有を図っている。このように、わが国に欠如しているロジスティックスやチャネルを有する国際機関や他ドナーと連携することにより、費用対効果の高い支援が行われている。
5.4 NGOとの連携
第1部第3章で述べた通り、外務省とNGOは、GII/IDIに関する外務省・NGO懇談会を通じて定期的に協議を行っている。しかし、NGO側、外務省側とも、スキームの活用等互いに連携における問題点を挙げることに終始して、建設的な議論がなされない場合も多い。現段階では、NGOとの連携を通じた効率的な支援の実施には課題を残しており、保健医療分野の支援においてNGOと連携するためには、更なる対話や双方の意見のすり合わせが必要と思われる。
ODAでは、本邦及び現地NGOに対し、NGO事業補助金、開発支援福祉事業、草の根無償資金協力等を通じてNGOに対する資金援助を実施しており、2000年度及び2001年度実績は、NGO事業補助金では5,200万円→6,900万円、開発支援福祉事業では1.99億円→2.00億円、草の根無償資金協力では37.8億円→50.0億円となっている。また、2002年度には日本NGO支援無償を新たに設置する等、NGOとの連携を進めている。また、ケース・スタディ国のケニアでは、NGOと連携した案件が実施されている。例えば、有償資金協力におけるフィリピンのカトゥビック農業総合計画では、住血吸虫病対策のための住民への保健教育等において、ローカルNGOとの連携を行っている。CIDAやUSAIDが行っているような、NGOに対する大規模な資金援助は行われていないが、NGOがODAを通じてプロジェクトを形成・実施すること(提案型技術協力プロジェクト)が開始されている。
5.5 地域間協力
南南協力として、第三国研修及び第三国専門家派遣、エイズ分野の広域専門家の派遣が実施されている(南南協力の実績については第一部第3章2「感染症対策疾患別援助実績」参照)。ケース・スタディ国であるタイ、フィリピンからそれぞれの国の専門家がケニアに派遣されているが、わが国が当該国にて長年支援してきている機関には、さらに派遣可能な人材が育成されているという意見が聞かれた。ケース・スタディ国での調査では、広域専門家など派遣可能な人材の確保が検討課題として挙げられた。周辺諸国の感染症対策を効率的に進めるため、これまでにタイ、南アフリカへの広域企画運営アドバイザーやケニアへの広域企画調査員等のいわゆる広域専門家が派遣されており、広域案件の形成のための活動を実施している。国境がない感染症に対し、効率的にその対策に取り組んでいくために、広域専門家として派遣可能な人材の確保が課題であることがインタビュー調査で聞かれた。広域専門家及び第三国専門家の登用は、国際的な流れとも合致しており、また、人材の効率的な活用という面からも有効である。今後の課題としては、円滑にこれらの人材が広域に活動を展開できるように、各在外公館間で適切な実施体制を作り上げることであろう。
6.IDIのプロセスの効率性:まとめ
上述のとおり、ケース・スタディ国においても、(1)個別感染症と間接支援の関係、(2)援助スキーム間の連携、(3)他ドナー・国際機関との連携、(4)NGOとの連携、(5)地域間協力が行われていることは確認できたが、このことから効率性について判断することは困難である。効率的であると判断するためには、効率性を明確にするための判断基準、過去のケースや想定し得る代替案との比較検討が必要であるが、こうした基準や代替案の選択が困難であり、他ドナーとの連携を通じた重複の回避やコストの削減、協調案件による外的リスクの軽減などを理論的に説明する情報の蓄積が十分でないことからも、効率性を論理的に明確に検証することは出来なかった。むしろ、ケース・スタディ国における現状を見る限り、現地調達時の手続きの遅延なども散見されたことから、実施プロセスにおいては効率性に改善の余地があるケースもあると考えられる。現在のところ、上記のような連携は効率性を意識して実施しているというよりは、公衆衛生の要素を取り込んだ間接的な支援や、幾つかの案件を同時に実施することの相乗効果や単体の実施によるリスクの逓減など案件実施の効果を高める方に活用されているように思われる(案件の重複を回避することやより安価な方法を追求するということは行われていない)。
他ドナーやわが国の援助実施機関間の情報の共有をはじめとする援助の調和化、NGOの活用による迅速な支援の実施、第三国専門家の活用による経費の節減などの取り組みが徐々に開始されていることから、現段階では効率性が十分に確保されているとはいい難いが、改善の方向にある。
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1990年代後半に25ケ国に対して策定された国別援助方針(国別援助計画策定国と重複している国もある)については、感染症に言及されているケースは9ヶ国である。
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「開発課題に対する効果的アプローチ」<HIV/AIDS対策>、2002年5月