第1部 沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)の背景
―世界の感染症は今-
第2章 感染症対策
1.国際的に標準となっている感染症対策
債務の急増などの経済的危機に対処しつつ貧困を削減し、国民の福利厚生を改善するために、多くの途上国では、PRSP(貧困削減戦略ペーパー)が策定されている。保健医療分野は、PRSPの重要な要素である。また、保健医療分野においては、保健医療改革(health sector reform)のなかで、重要疾患、疾患群に対する国の計画を作成すると同時に、末端の公的保健医療機能の強化が目指されている。重要疾患、疾患群としては、DALY拡大原因の重要な疾患であり、かつ、比較的コストのかからない介入によってDALYを減らすことができる疾患が選ばれている。IDIが主な対象としている、エイズ、結核、マラリア、ポリオ(あるいはワクチンにより予防可能な疾患)は、いずれもDALY拡大原因として大きく、かつ、適切な介入によって、疾患、死亡を減らすことが可能な疾患として、各途上国が対策計画を作成している。なお、エイズ、マラリア、結核については個別に対策プログラムを作っているところが多いが、ポリオについては、その対策は予防接種強化とサーベイランスであるため、予防接種計画、サーベイランス計画の中で検討されていることが多い。多くのドナー、国際機関は、各政府のこうした対策の作成に関与し、自らの役割をその対策の中に割り当てている。エイズ、結核、マラリア、ポリオ等重要感染症に関しては、世界の英知を集結し(大学、研究所、WHO、学会等)適切な公衆衛生対策が過去において開発されてきた。これらは、世界銀行による医療経済的視点を含む分析を経て、感染症対策上の国際的な標準となっている。以下に具体的な疾患対策について述べる。
1.1 エイズ
<概論>
エイズの発生状況については、推定される毎年のHIVの新規感染(incidence of HIV infection)、HIV陽性者の数(prevalence of HIV infection)、毎年の新規エイズ発病者(incidence of AIDS)、現在エイズを発病している人数(prevalence of AIDS)、に区分して検討する必要がある。HIVの新規感染は年間500万人起こり、2003年末現在、HIV感染者・AIDS患者の人口は4000万人、年間の新規感染者は500万人に至っている。無防備な性行為、注射器の回し打ちによる薬物使用、母子感染、HIVが混入した血液等の輸血等が、新規感染の原因として挙げられる。HIVに感染した者は数年後にエイズを発症する。発症後数年のうちに死亡するが抗レトロウイルス療法(Highly Active Antiretroviral Therapy:HAART)及びエイズに伴う日和見感染症の適切な管理により発症後から死亡までの期間を延長することが可能である。新たな感染が毎年500万人起こっていることから、今後もHIV陽性である人数が急速に減少することは期待できない。
新たな感染を防止するためには、適切な介入により、既感染者からの新規感染を予防する手段を講じる必要がある。ただし、たとえすぐに手段を講じても、既感染者が発病に至るまで数年かかることから、エイズ患者自体は今後増加すると思われる。適切な治療患者管理によりエイズ死亡を減少させることが可能であるため、新規感染の予防のみならず、すでに発病しているエイズ患者への適切な対応も必要である。
<具体的な方法論>
新たな感染の防止のためには、感染リスクの高い人、若者などを対象としたより安全なセックスへの意識向上、コンドームの推奨が挙げられる。母子感染予防も新たな感染の防止の一環として挙げられている。
VCT(voluntary counseling and testing=自発的な検査とカウンセリング)はHIV/AIDS対策の「入口」とされており、その強化が必要であるため、VCTのできる機関(信頼できる検査施設、カウンセリングの研修を受けた人材)の整備が必要とされている。また、感染をしたが、まだ発病していないことがわかった人については、他者への感染を起こさないための行動の変容が求められる。さらに、未感染者については、VCTを介したより安全なセックスへの意識の向上、コンドームの推奨が求められる。VCTが効果的に行われるためには、すでに感染している人への偏見差別の防止のための一般人口への啓発普及が必要である。すでに感染して発病している人については、適切な抗ウイルス薬による治療(ART)、日和見感染症(OI)の治療、身体的精神的なバックアップであるケアを地域医療の枠組みの中で強化する必要がある。
その他、サーベイランス・システムの強化、注射薬剤使用者への注射の交換、輸血の安全性確保のための検査が挙げられる。これらのうち、すでに感染・発病している人への対応については、その地域の疫学状況とその地域で利用可能な資源によって優先度が異なる場合もある。
モニタリング (具体的な方法論に基づく活動の有効性のモニタリング):感染の防止については、特定集団(センチネル・サイト(sentinel site):妊婦、セックス・ワーカー、結核患者、性感染症(STD)クリニック受診者、麻薬使用者)のHIV陽性率の測定(サーベイランス)によって重点的な対策を行なうことができる。サーベイランス・システムの導入は重要な活動の一つである。すでに感染・発病した者への介入のモニタリング指標、身体的な介入の有効性はエイズによる死亡率で測ることができるが、特定疾患の死亡率は途上国では得られないことが多い。エイズを発病した者の致死率は介入によっても変わらないが、死亡までの期間の情報が得られれば有効性の指標となり得るが、その指標は現在のシステムでは得られていない。精神的な介入の有効性の指標は現在のところ存在していない。
1.2 結核
1.2.1 DOTS
<概論>
WHOは、1991年第44回の世界保健総会で結核対策の目標値として「85%の塗抹陽性肺結核患者治癒率、70%の塗抹陽性肺結核患者発見率」を設定した。さらに1993年には、世界の結核蔓延状況の深刻さに鑑みて「世界結核非常事態宣言」を宣言し、全WHO加盟国に対し保健対策の中で結核対策を最重要課題として取り上げるよう勧告した。1995年には、DOTS(包括的結核対策戦略)を世界における結核対策の標準法として推進することとなった。DOTSの5つの基本方針を普及させることは、費用対効果の高い方法として推奨されている。これらの方法論は、技術的に未解決の部分は少ないが、おこり得る問題に対して、オペレーショナル・リサーチによる改善や対応が必要な部分は存在する。1998年にWHOが中心となって組織されたストップ結核イニシアティブ(Stop TB Initiative)は、2001年にストップ結核パートナーシップ(Stop TB Partnership)として発展し、結核対策における国際協力を実施している各国の開発援助団体等が集まって、結核対策に関する情報交換と連携協力を行っている。2001年には、主な先進国の出資金を基金として世界結核薬基金 (Global Drug Facility:GDF)が設立され、結核が蔓延している開発途上国との契約に基づいて抗結核薬の供給を行っている。
<具体的な方法論>
患者発見のための末端の医療機関職員の研修と検査室の整備、患者が治療を続けるための結核患者が内服することを確認するシステム、薬の配布システムの整備、これらのシステムを維持するための記録報告、研修、監督システムの整備がDOTSの重要政策として挙げられる。
モニタリング:結核対策活動の有効性を測る指標として、発見された患者の治療の有効性については治療を開始した患者の治癒率が国際的に用いられている。患者発見については、発見患者数を推定患者数で除す患者発見率をWHOは推奨しているが、推定患者数は不明確のことが多く、DOTSサービスを受けられる人口を全人口(医療圏あるいは郡あるいは公的医療機関単位で計算)で除した普及率、あるいは、患者発見数の傾向から推定する方法なども用いられている。これらの指標のうち、治癒率、DOTS普及率、患者発見数の傾向、はDOTSの記録報告の中に含まれている。推定患者数の計算は、国際的な結核対策専門家が行なうことが多いが、国際的な専門家により信頼できる数値がえられれば、患者発見率も記録報告から計算できる。結核実態調査は、費用がかかるが患者数の傾向を知るために有効な方法であり、現在、わが国はカンボジアの調査に協力しており、韓国、中国、フィリピンなどへの協力と同様、複数回行われれば傾向を知るために有効な調査となる。また、適切な治療が耐性結核の防止に役立つことから、サーベイランスによって捉えられた耐性結核の発生頻度の経時的な変化は、対策の有効性を測る指標として意義がある。実態調査と耐性結核頻度については、定期的な記録報告システムでは確認できないため、そのための調査を新たに行なう必要がある。
1.2.2 DOTS以降の結核対策
耐性結核の多い地域、HIV感染が増加しつつある地域、民間医療機関における結核治療が広く行われている地域において、DOTSのみによって結核を減らすことができるかどうか検討する余地がある。耐性結核の適切な管理を含めたDOTS-plus(多剤耐性結核の多い地域)、HIVの多い地域における患者の積極的発見、HIV陽性者への予防内服の推進、民間医療機関との協力による医療の強化などの方法が提唱されている。これらのモニタリングの方法はまだ未整備である。民間医療機関への介入については、民間医療機関の行動調査、民間医療機関で治療された患者数の調査、が有効である。耐性結核については、耐性結核の頻度の調査も意味があるが、耐性結核の頻度調査は、むしろDOTSの有効性を評価する部分が多く、耐性結核の患者の治癒率などがDOTS-plusの有効性を示し、DOTS plusの記録報告の中で得られる。HIV陽性結核患者への介入については、発見されたHIV陽性患者への新たな介入の割合、予防内服の完了率などが記録報告システムの中で計算可能である。
1.3 マラリア
<概論>
1998年にはWHOが中心となり、UNICEF、UNDP及び世界銀行が加わり、2010年までにマラリア罹患及び死亡を半減することを目標とした「ロールバック・マラリア(Roll Back Malaria :RBM)」が打ち出された1。2001年に設立された世界エイズ・結核・マラリア対策基金(Global Fund to fight AIDS, Tuberculosis and Malaria:GFATM)も、マラリアを早急に征圧すべき世界の3大感染症の一つとして、マラリア蔓延国のマラリア対策に対する必要な資金援助を実施している。柱は、蚊と人間との接触を絶つための薬を浸潤させた蚊帳(Insecticide Treated Net:ITN)及びマラリア患者の診断治療である。
<具体的な方法論>
ITNの使用普及が優先的な課題である。難民など緊急に必要な人々への無料配布、それ以外の人々への安価な販売、普及のための啓発、末端までの入手可能とするための物流体制の整備などが必要である。
マラリアの診断・治療としては、有効な治療が医療機関で行われるために、診断体制の整備(検査室、保健医療従事者の研修)、マラリア薬の耐性のサーベイランス、マラリア薬配布システムの整備(公的な薬剤配布システム、民間セクターによる地方への薬の供給)が必要とされる。
その他、妊婦に対する予防的な内服、室内殺虫剤散布、環境改善(ベクターになる蚊の幼虫を食べる天敵を与える、蚊の幼虫の棲息場所をなくすなど)、診断方法の改善などが挙げられる。ただし、例えばマラリアの蔓延国のエチオピアであっても、妊婦へのケアは否定的に捉えられ、室内への殺虫剤散布を支援する援助機関はないなど、必ずしも標準的な方法が確立されているわけではない。
1.4 ポリオ
<概論>
ポリオは天然痘に次いで世界から撲滅可能な感染症として、WHOが中心となって撲滅運動が推進されてきた。1988年の第41回世界保健総会では、2000年までに地球上からポリオを根絶する旨の決議「世界ポリオ撲滅計画(The Global Polio Eradication Initiative:GPEI)」が採択された。GPEIは、予防接種拡大計画(Expanded Program for Immunization:EPI)の進展を基礎としており、わが国も積極的に支援を行っている。対策の柱は、予防接種とサーベイランスである。
<具体的な方法論>
予防接種の強力な推進が基本である。EPI及び一斉ワクチン投与のために必要なワクチンの入手、搬送、配布が基本となっており、そのために必要な資金の問題が大きい。その他、ポリオ・サーベイランスには、AFP(急性弛緩性麻痺)サーベイランス、検査室の整備があり、これらの分野で国際的な協力が必要である。また、サーベイランスに伴い、ポリオ・サーベイランスで見つかった患者の周囲の小児に対するワクチン投与(mopping up vaccination)が行われる。
モニタリング:モニタリングのためのサーベイランスはポリオ対策の重要な活動である。
1.5 地域医療の整備
エイズ、結核、マラリアのいずれも、患者に対する適切な対応が重要な因子であり、そのためには地域医療の整備が重要である。地域医療の整備として、各地域における医療施設の建設と人員の配置、(特に感染症分野における)適切な診断能力向上のための研修、(特に感染症分野の)薬の適切な配布システムの構築、報告システム、監督活動を通しての疾患別対策システム担当者とのコミュニケーションなどが必要である。
具体的には、世界銀行、アジア開発銀行などが進めている保健センター、保健ポストの建設整備は、VCT、DOTS、マラリア治療の活動の拠点として重要な位置を占めている。また、診断能力向上のための研修の必要性は、エイズ、結核の分野で特に強調されているが、マラリアの診断については、小児の他の熱性疾患との鑑別のため、マラリアに特化するものではないが、小児統合的アプローチ(Integrated Management of Childhood Illness:IMCI) 研修が有用であり、いくつかの国でWHO、UNICEFなどの主導、ドナーの協力の下で始まっている。薬の配布システムは、公的医療システムの弱点であることが多く、ドナーも改善のために協力に力を入れており、薬自体の不足に対しての回転資金(Revolving fund)、薬があっても配布システムが弱く死蔵されることを防止するための情報システムの構築(MSHなどによるLMIS:logistics management information system)の導入や、結核での独自薬配給システムの構築など、さまざまな解決法が試みられている。
2.国際社会による取り組み
- ヴェネチア・サミット(1987年6月)
ヴェネチア・サミットにおいて、「エイズに関する議長声明」を発表、HIV/AIDSが世界で潜在的にもっとも大きな保健問題のひとつであることを確認し、国際協力の重要性、その取り組みにおける人材への配慮の必要性について表明した。具体的には、「WHOと協力し、プログラムを支援することを奨励」、「HIV/AIDSに関する国民教育についての閣僚レベルの国際会議をWHOと共催する英国の提案を歓迎」、「エイズワクチン開発のための研究者の共同行動を歓迎」、「HIV/AIDSの倫理的な問題に関する国際委員会の設置に向けたフランスの提案を歓迎」に関して合意された。
- 第10回国際エイズ会議(1994年8月)
国際エイズ会議は、エイズに関するあらゆる分野の専門家が一堂に会し、発表や討議、交流を行なうことにより、エイズ問題の解決に向けて国際的な共通基盤を作ること、及び患者・感染者やNGO、研究者などの間のネットワークづくりを促進することを目的としている。1985年に米国アトランタで第1回会議が開催され、1993年の第9回会議まで毎年欧米で開催されてきたが、第10回会議は1994年8月に横浜で開催された。
第10回会議の特徴は、(1)アジア地域で開催された初めての国際エイズ会議であったこと、(2)「女性とエイズ」をテーマとして取り上げたこと、(3)患者・感染者の団体やNGOを含む共催団体が積極的に協力して会議を成功に導いたことが挙げられる。成果としては、長期未発症のHIV陽性者に関する知見、母子感染予防に関するAZT(エイズ治療薬のアジドチミジン)の新しい成績など、エイズに関する最新の知見が数多く報告されたこと、そして何よりエイズへの関心が高まり、民間においても積極的にエイズ問題が取り上げられたことなどである。
- デンバー・サミット(1997年6月)
デンバー・サミットでは、感染症の問題として、薬剤耐性結核、マラリア、HIV/AIDSが取り上げられ、その予防、調査、抑制を世界規模で行ない得る公衆衛生に関する能力の養成を支援することや、エイズワクチンの開発の強化、UNAIDSの支援が表明された。
- バーミンガム・サミット(1998年5月)
G8は、感染症及び寄生虫症に関する相互協力の強化を同分野の世界保健機関の努力への支援、具体的にはロールバック・マラリア・イニシアティブの支持やUNAIDSへの支援を表明した。G8外相総括において、感染症及び寄生虫症の被害が引き続き懸念材料であり、世界中の現行発生動向監視システムを見直し、WHOの地球規模の発生動向監視網構築の支援を検討すること、エイズワクチンのために科学的な協力を進めることが表明された。
- ケルン・サミット(1999年6月)
G8コミュニュケは、「X.地球規模の課題への対処」で、エイズ対策として目標、戦略及びイニシアティブを明確に設定することへの協力を要請し、マラリア、ポリオ、結核をはじめとする感染症及び寄生虫症対策への努力の継続、WHOによるロールバック・マラリア、ストップ結核を今後も支持する旨表明した。
- 九州・沖縄サミット(2000年7月)
九州・沖縄サミットは、G8コミュニケ・沖縄2000を発出、感染症の問題に関し、以下の具体的な目標値を示し、パートナーシップの強化等取り組みを強化することを合意した。
- 2010年までに若年HIV/AIDS感染者数を25%削減
- 2010年までに結核による死者と有病率を半減
- 2010年までにマラリアによる病気の負担を半減
また、わが国が発表した「沖縄感染症対策イニシアティブ(IDI)」を歓迎する旨、秋にわが国で開発途上国等の参加を得て会議を開催する旨が表明された。そして、同年12月7-8日に同サミットのフォローアップの一環として、「感染症対策沖縄国際会議」が沖縄県宜野湾市で開催された。G8、非G8諸国、国際機関、NGO及び民間企業等から計58団体、約160人が参加した。この会議は、G8がリーダーシップを発揮して、非G8諸国、国際機関、NGOと民間企業を含めた市民社会の幅広い参加を得て、感染症に対する具体的行動の進め方を検討した初めての機会となった。九州・沖縄サミットでは、2010年までの数値目標への努力が表明されたが、本会議では2005年を中間目標とした優先課題とその目標が示された。具体的には以下の通り。
- HIV/AIDS:15~24歳の男女の少なくとも90%がHIV感染への危険を削減するために必要な情報やスキルへのアクセスが確保される。
- 最も深刻な国の15~24歳のHIV発生率が25%削減される。
- 結核患者の70%が診断を受け85%が完治する。
- 少なくともマラリアに苦しんでいる人の60%が発症後24時間以内に適切な処置が受けられる
- 上記の人々が予防を受けられるようになる
- 少なくともマラリア感染のリスクがある妊婦の60%が信ずるに足る、苦痛を軽減する治療にアクセスできる。
- 国連ミレニアム・サミット(2000年9月)
ニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにおいて、21世紀の国際社会の目標として国連ミレニアム宣言が採択された。このミレニアム宣言と1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、ひとつの共通枠組みとしてミレニアム開発目標(MDGs)がまとめられた。MDGsは2015年までに達成すべき目標を8つ挙げており、そのうち、感染症に関しては、「目標6:HIV/AIDS、マラリア、その他の疾病との闘い」があり、それに対して「ターゲット7:HIV/AIDSの拡大を2015年までに食い止め、その後反転させる」「ターゲット8:マラリア及びその他の主要な疾病の発生を2015年までに食い止め、その後発生率を下げる」が掲げられている。
- ジェノバ・サミット(2001年7月)
九州・沖縄サミットで確認した感染症に対する取り組みを果たすため、また、国連総会からの要請に応えるため、HIV/AIDS、マラリア及び結核と闘うための新たな「世界基金」を立ち上げ、同年中にこの基金が活動を開始することができるようにすることに合意し、13億ドルがコミットされた。わが国は2億ドル貢献した。
- 世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)(設立2002年1月)
2000年の九州・沖縄サミットにおいて、今まで以上に感染症対策への国際的な取り組みの重要性が認識されるようになった流れを受け、2001年6月の国連エイズ特別総会にて世界エイズ保健基金の必要性が強調され、同年のジェノバ・サミットにてG8間で「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」の設立の合意が成された。そして2002年1月、官民共同で拠出する形で基金が設立された。同基金は、技術的な支援はWHOやUNAIDSから受けているが、独立したスイスの法人格を持ちジュネーブを本部としている。
エイズ、結核、マラリアなどの感染症は、健康問題のみならず、開発途上国の開発を阻害し、人間の安全保障への重大な脅威となっている。同基金は、これらの感染症の予防、治療ケア等の対策資金を支援することを目的としている。また官民(ドナー国、財団、民間企業、NGO等)が結束して対処することとしている。同機構の最高意思決定機関は理事会(議席数18)で日本は副議長を務めていた。
支援メカニズムとしては、開発途上国の政府機関やNGO等からの案件提案に対し、国別調整メカニズム(Country Coordination Mechanism:CCM。政府機関、NGO、民間セクター、国際機関、援助国等で構成)が審査調整し、優良案件を基金事務局に提出、その後、技術審査パネルにおいて審査され、事務局を経由して理事会が承認し、無償資金拠出協定(Grant Agreement:G/A)が締結されることとなる。CCMには、援助国の代表として、わが国も参画している国もあり、また、技術審査パネルにおいてもわが国を含む感染症の専門家が審査に参画している。
わが国は同基金に対して、これまで2億6千5百万ドルの拠出誓約を行い、既に2004年3月現在で約2億3千万ドルを拠出している。
GFATM設立から2004年3月現在までに、第1~3次の支援案件277件(122カ国)、その総額約21億ドルが理事会により承認された。支援案件の割合を地域別で見ると、サブサハラ・アフリカ:60%、アジア・中東・北アフリカ:20%、中南米・カリブ・東欧:20%となっている。また、感染症別で見ると、HIV/AIDS:60%、マラリア:24%、結核:16%となっている。
3.主要ドナー国の活動
近年における世界的な感染症対策は、2000年の国連総会で採択されたミレニアム宣言で掲げられた、2015年までにHIV/AIDS、マラリア、結核の増加を食い止め減少に転じることを目標としている。保健分野では、特にアフリカでセクターワイド・アプローチ(SWAPs)が主流となりつつあり、欧州の援助機関を中心に、援助協調及びコモンバスケットの整備が進みつつある。しかし一枚岩ではなく、例えば、米国は、援助協調は行っているがコモンバスケットには参加していない。また、SWAPsが必ずしも成功していないという調査結果もあり、SWAPsが浸透するか否かは今後の課題であろう。
ドナーの感染症対策への支援方法としては、各被援助国の保健政策の指針策定に介入し、感染症対策として必要な活動のうち、各ドナーが支援できるところを埋めていく、という方法がとられている場合が多い。HIV/AIDSに関しては、保健担当省庁を超えて政府以外も含めたマルチ・セクターの組織(エイズ委員会等)が舵取りをしていることから保健政策を超えて「エイズ対策」として介入し、支援内容を決定している。ただし、ポリオの場合はUNICEFによる調整のもと、各ドナーがポリオ根絶プログラムの一部を担当する場合が多い。
最近は、先進援助国から直接ではなく、開発中進国を通じてその周辺諸国への協力を行なう「広域アプローチ」の協力が実施されつつある。タイなどにおいては、国連機関及び他援助国機関が南南協力により周辺国を支援する広域アプローチを推進している。
以下、主要ドナー国の感染症対策支援の取り組みを概観する。ただし、ホームページや報告書等の公開情報を基にまとめたため、記載内容には多少ばらつきがある。
3.1 米国
米国は、2000年の世界エイズ・結核・救済法(Global AIDS and Tuberculosis Relief Act, Public Law 106-264)と2003年のHIV/AIDS・結核・マラリア対策におけるリーダーシップ法(United States Leadership against HIV/AIDS, Tuberculosis and Malaria Act of 2003, Public Law 108-25 )で、感染症分野の国際協力の基本方針を公表している。これらの法律を基に、ホワイトハウス・イニシアティブ(White House Initiative)を通じて、アフリカ及びカリブ地域に対し2003年から5年間で150億ドルのHIV/AIDS対策を行なうことを表明した。その内訳は、予防が20%、抗エイズ薬が55%、ケアに15%、エイズ孤児等の対策が10%である。
3.1.1 支援実績(拠出金)
米国国際開発庁(USAID)の2002年の年間総予算34億ドルのうち、グローバル・ヘルス(global health)として17億ドル、その内30%の5.1億ドルがHIV/AIDS対策に充てられている。その他の感染症については1.8億ドルで、その40%が結核、40%がマラリアである。ポリオについては、1996年には2,000万ドル充てられていたが、その後減少している。
3.1.2 支援方針と主な支援分野
エイズ分野では、CDC(Centerfor Disease Control and Prevention=米国疾病対策予防センター)を通じた研究活動及びUSAIDのNGOとの契約等を通じた対策の支援を行っており、「若年者のHIV陽性率の半減」、「母子感染予防が1/4のHIV陽性の母親に対して行われる」、「HIV陽性者の1/4がケアとサポートを受ける」等を目標として、VCT、途上国の対策策定、患者へのケアなどの直接的な対策支援やNGOや研究機関への助成によるコニュニティのエンパワーメント活動を行っている。USAIDが支援するプログラムが対象としている人口は2,200万人で、エイズ以外では耐性菌、結核、マラリア、感染症サーベイランスに重点を置き、感染症対策では基本的にこれ以外の分野の援助は行なわない方針である。これらの重点分野では、主に対策活動への支援を行っている。支援目標は、結核では「DOTSの普及率を高める」、「薬剤耐性サーベイランスを実行する」など、マラリアは、ロールバック・マラリアと同様「正しい治療を受ける患者の割合を60%以上とする」、「マラリアのリスクのある地域の60%以上の人がITNなどを利用できるようにする」、「マラリアのリスクのある地域の妊婦の60%が予防内服にアクセスできるようにする」となっている。EPI関係のワクチンなどの供与は別枠で行っており、UNICEF、ロータリー・インターナショナルなどと共同で活動している。なお、USAIDは、優先国、基本国など疾患ごとに特に優先して対策を進める国を定めている。
3.2 英国
3.2.1 支援実績(拠出金)
英国国際開発庁(DFID)の海外援助総額29億ポンド(2001-2002年)のうち、二国間援助が半分強の15億ポンドであり、保健・人口関係は二国間援助が2.0億ポンドであるが、うち感染症がどれくらいの割合を占めるかは公表されていない。1997/98年度総額21億ポンド中、二国間援助が10億ポンドで、そのうち保健人口の二国間援助1.2億ポンドであった。
3.2.2 支援方針と主な支援分野
HIV/AIDS分野においては、被援助国の対策強化として、青年などへの教育、VCT、輸血の安全、治療とケアの分野での協力、予防薬の開発に焦点を置いた活動を行っている。また、GFATMに対して5年間で2億ドルの拠出を約束した。ポリオ根絶への協力は2005年まで継続する予定で、すでに、この分野ではこれまでに3.85億ドルの拠出を行ってきたが、2002年のカナナキス・サミットの結果において、更なるこの分野での活動の継続を約束し、2,500万ドルを今後拠出することを約束した。
3.3 ドイツ
3.3.1 支援実績(拠出金)
2002年度予算は1,000万ユーロで、うちマルチ援助900万ユーロ、二国間援助100万ユーロの配分となった。2002年度の二国間援助における保健医療関連の支出は、援助額の3.3%(うち基礎保健は1.7%)であった
1
。
3.3.2 支援方針と主な支援分野
ドイツ技術協力公社(GTZ)は、パートナー国のHIV/AIDS、結核、マラリア対策を支援するためGTZバックアップ・イニシアティブ(GTZ BACKUP Initiative: Building Alliances - Creating Knowledge - Updating Partners in the fight against HIV/AIDS , Tb and Malaria)
2
を設置し、パートナー国のGFATMをはじめとする世界的イニシアティブによる基金の活用を支援している。具体的な目標は、(1)GFATMの活用に向けた国家調整メカニズム(CCM)やCCM構成機関の強化、(2)合同の計画・立案、実施、評価を通じた、GFATMやその他関連イニシアティブの活用に向けてのパートナーシップの強化、(3)効果的なHIV/AIDS、結核、マラリア対策に向けた実施関係者の技術や知識の向上の支援、(4)GFATMや関連の活動をモニタリング・評価するためのシステムの開発・適用の支援である。
HIV/AIDS対策として、モザンビーク、南アフリカ共和国、ジンバブエ、ギニアでマルチ・セクター、地域毎のプログラム、職場・青年層対象の予防プログラム、STDに関する医療スタッフ研修を実施している。当該事業については、EUから200万ユーロの支援を得ている。また、道路事業におけるエイズ・性感染症拡大阻止活動(Combat Spread of HIV/AIDS and other STDs in Road Component)で200万ユーロ、エイズ制圧プログラム(Health Program/ Fight against AIDS)で700万ユーロが使われている。
結核分野については、ソ連崩壊後のロシアでは結核が大きな問題となっており、WHO(EURO)のメンバー国が積極的にロシアの結核対策を支援しており、GTZも同様に支援している。
3.4 ノルウェー
3.4.1 支援実績(拠出金)
ノルウェー開発協力庁(NORAD)による2002年度の二国間援助額(マルチ・バイ協力を含む)のうち保健分野の支出は全体額の11.7%である
3。DAC課題で計算した場合、「120 保健(120 Health)」における支出は3億4,753万NOK(二国間援助全体額の8.2%)、このうち「保健一般(Health, General)」1億9,982万NOK(同全体額の4.7%)、「基礎保健(Basic Health)」1億4,772万NOK(同全体額の3.5%)であった。ターゲットエリア別で見ると「HIV/AIDS」分野支出額は1億4887万NOKであった
4。HIV/AIDS分野は1億4886万NOKで全体額の3.5%であった
5。同分野での支出額を地域別に見ると、アフリカ地域に対する支出額が1憶1151万NOKと最も多く、次いで中南米(1,162万NOK)、アジア及びオセアニア(747万NOK)の順となっている
6。
3.4.2 支援方針と主な支援分野
保健分野の協力(感染症分野を含む)は、パートナー国における同分野の国家プログラム支援、NGOへの協力から国際機関への支援・人材派遣、国際的なパートナーシップ(Stop TB Partnership等)への参加と多岐に渡る。NORADは、パートナー国として24カ国を設定し、これらの国々に重点的に援助を実施している。このうち主要パートナー(Main Partner)は、マラウイ、モザンビーク、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、バングラデシュ、ネパールの7カ国である
7。WHOに対しては、アフリカ地域事務所及び中南米地域事務所を支援し、技術諮問委員会やワーキンググループへの参加や、ワクチンと予防接種のための世界的同盟(Global Alliance for Vaccines and Immunization: GAVI)やGFATM関連の技術協力を行っている。なお、ノルウェー政府は、GAVIへ2001年から2010年までの10年間で270億NOK拠出することを表明している。また、2000年からは、支援の整合性を高めるためにNORADがSIDAの支援事業を運営する協力体制がとられている。
1986年より重点分野とされてきたHIV/AIDS分野では、当初はWHOの世界エイズ対策計画(Global Programme on AIDS: GPA)など、マルチ・スキームによる協力が行われた。その後、UNAIDSを通じて各国のエイズ対策プログラムに対して支援が実施された。1992年まではHIV/AIDS分野協力のうち3分の1が二国間援助であった
8。2001年に、事業や活動全体にHIV/AIDSの観点あるいは取り組みを織り込むため、行動計画「Action Plan for Intensified Efforts to Combat HIV/AIDS during 2001」を取りまとめた。これにより、(1)HIV/AIDS蔓延を抑える、(2)感染の危険がある地域の住民、親を亡くした子ども及び若年層グループに対する不利な影響を抑制する、(3)人権や名誉や追放等の社会的に負のインパクトを防ぐ、(4)社会・経済開発を妨げる負の結果を抑制し、また減らすこと、を目指すことになった
9。マラウイでは、HIV/AIDS対策プログラムだけでなく、予防接種、結核対策、衛生教育を含む安全な水関連の支援を実施している。
結核分野では、マラウイなどの国で国家結核対策プログラムを支援し、調査研究プロジェクトを実施している。
3.5 スウェーデン
3.5.1 支援実績(拠出金)
2001年度のスウェーデンODAにおける保健開発協力関連予算は全体の9%、15憶8300万SEKで、このうちSIDA支出分は12億2200万SEK(1億4961万ドル)であった。これはSIDA年間歳出額114億3700万SEKの10%相当である。1億4961万ドルの内訳としては、保健制度開発(Health System Development)分野で3億8100万SEK (4664万ドル)、HIV/AIDS、母子保健、予防接種、疾病対策を含む保健医療サービス(Health Services)分野が最も支出額が大きく2000年度より6%増の5億900万SEK(6232万ドル)、公衆衛生(Public Health)分野で4800万SEK (586万ドル)、その他2億8000万SEK(3423万ドル)。保健医療サービス分野の内訳では、HIV/AIDSを含む性の健康と権利(Sexual Health and Rights including HIV/AIDS)で1億5420万SEK、予防接種を含む子どもの健康(Child Health including immunization)で1憶620万SEK、疾病対策(Diseases Control)で6380万SEKが使われた。さらに、HIV/AIDSを含む性の健康と権利に特化すると、アフリカを中心とした国単位のプロジェクト(他機関との合同事業も含む)や調査(country programme)で4020万SEK、アフリカ、アジア、中央アメリカ地域単位のプログラム(regional programme)で7170万SEK、UNFPA、UNAIDS、WHO、UNICEFなどへの拠出(special programme)で1220万SEK、その他SIDA下部機関で3010万SEKの支出となる
10。なお、SIDAはGFATMに年間6億SEKの拠出を行っている。
3.5.2 支援方針と主な支援分野
スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)の感染症対策支援は、社会部(Social Sector)の健康課(Health Division)で扱われている。保健医療に関する開発協力では、保健制度、保健サービス(性及びリプロダクティブ・ヘルス、HIV/AIDS)、公衆衛生の3分野に重点をおいている。保健サービス分野では、子どもの健康、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、HIV/AIDSを含む性の健康と権利、疾病対策に対する取り組みが行われている。特に、HIV/AIDSについては(1)HIV感染予防、(2)HIV/AIDSに係る政治的関与の促進、(3)HIV感染者・エイズ患者のケアと支援、(4)蔓延の長期的な影響を軽減するための戦略の開発を目指した事業が実施されている。
各事業としては、予防接種ではアンゴラやインドなどで予防接種プログラムを実施、また、WHOの子どもの健康プログラム、GAVIなどに資金を拠出している。HIV/AIDSを含む性の健康と権利ではUNFPA、UNAIDSなどへの拠出のほかに、地域/国別プログラムで国際機関やNGOと共同でコンドーム配布、診断法などの技術協力、性教育などのHIV/AIDS関連事業を実施している。疾病対策では、WHOのマラリア対策への追加支援が行われている。このほか、結核分野では、国別プログラムにおいて、世界銀行を通じたロシア結核対策支援、国境なき医師団(MSF)を通じた中央アジアの結核対策支援が実施されている。
3.6 デンマーク
3.6.1 支援実績(拠出金)
デンマークODA(二国間援助)の保健予算は、1999年度9980万米ドル(全体額の9.7%)、2000年度7340万米ドル(全体額の7.2%)、2001年度は8200万米ドル(全体額の7.9%)であった。HIV/AIDS分野では、2000年度にソフト・ローン(長期低利貸付)として追加予算3億米ドルが認められている。2002年度のGFATMへの拠出予算は1億1000万DKK、UNAIDSへの拠出は2500万DKK、UNICEFへの拠出は1億8000万DKKであった。
3.6.2 支援方針と主な支援分野
デンマーク国際開発機関は、1995年発行の分野別政策(保健医療)(DANIDA Sector Policies: Health)
11で、エイズ、結核、マラリアを開発分野の重要課題として取り上げ、その中で、DANIDAによる保健医療分野の支援に係るガイドラインを示しており、感染症対策に関連するものとしては性とリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights)、予防接種、エイズがある。
エイズ分野については、デンマーク政府は、2001年にデンマークのHIV/AIDS対策に対する国際プログラム(Denmark's International Programme of Action against HIV/AIDS)
12を作成、エイズの蔓延阻止に向けた方針として、(1)政治的動員(political mobilization)、(2)HIV感染の一次予防、(3)ケアとサポート、(4)HIV/AIDSによる長期的影響の軽減を掲げている。そして、主な方策として、二国間援助では、年次協議、HIV/AIDS対策のセクター・プログラムへの統合、市民社会や民間との協力等、マルチ援助として、国際的なパートナーシップ、各国際機関のHIV/AIDS対策方針のモニタリング、分野別基金への拠出を挙げている。また、上記以外に、調査研究や内部の能力強化を行なうとしている。予防接種の推進のため、被援助国の予防接種に係る国家政策の策定・実施に対する支援を行っている。
3.7 EU(欧州連合)
3.7.1 支援実績(拠出金)
ECが1994年度から2002年度の間に拠出したHIV/AIDS、結核、マラリア対策への関連拠出額は6億6000万ユーロである。これは、ECが当該期間に実施した開発関連事業の13%を占める金額に相当する。この支出内訳は、HIV/AIDSが70%、マラリア17%、結核12%であった。EC及びその参加国によるGFATMへの拠出額は、2003年7月までの基金総額(39億3000万ユーロ)の55%に相当する2億2000万ユーロである。ECによる2002年度の拠出は1億2000万ユーロで、2003-2006年度には総額3億4,000万ユーロの拠出を予定している。2003-2006年度にECが行なうHIV/AIDS、結核、マラリア対策への拠出総額は11億1,700万ユーロとなる
13。
3.7.2 支援方針と主な支援分野
エイズ、結核、マラリア対策の活動計画(Programme for Action)として、2001年に貧困削減におけるHIV/AIDS、マラリア、結核対策への活動計画(Accelerated action on HIV/AIDS, Malaria and Tuberculosis in the Context of Poverty Reduction)
14を策定、(1)2015年までにHIV/AIDSの蔓延を阻止し、その後減少させ、(2)2015年までにマラリア及びその他の主要な疾患の発生率の拡大を阻止し、その後減少させることを目標に、(1)現行の介入策によるインパクトの増大、(2)主要な薬への利便性(affordability)の向上、(3)地球公共財(global public goods)の研究・開発への投資の促進を戦略としている。
3.8 カナダ
3.8.1 支援実績(拠出金)
カナダ国際開発庁(CIDA)による感染症対策分野の支援は、社会開発分野の優先4項目のうち「基礎保健・栄養」、「HIV/AIDS」の2項目で行われており、その目標と指標は、2002年にSDP活動計画として制定された。同庁は、2000年9月に優先事項を制定した際、2005年までの5年間に「基礎保健・栄養」の支出額を2倍、「HIV/AIDS」を含む他3項目については4倍に増加することを目指し、2002年度末には社会開発分野全体で目標を達成している。2000年度から2002年度の3年間の支出額(実績)は、「基礎保健・栄養」は6億8,500万米ドル、「HIV/AIDS」は1億800万米ドルであった。2002年度は「基礎保健・栄養」は2億1700万米ドル、「HIV/AIDS」は4300万円であった
15。
3.8.2 支援方針と主な支援分野
2002年度の事業計画において、社会サービス強化、改革による社会的影響のマネジメント及び男女同権の促進による貧困者の生活の質改善を目的として「社会開発」を成果項目の1つとし、強化すべき優先事項として基礎教育、HIV/AIDS、基礎保健と子どもの保護のためのプログラム強化とすべての開発プログラムにおける男女同権の促進を挙げている
16。
「基礎保健・栄養」では、予防接種、結核対策とマラリア対策を含む感染症対策、安全な出産と家族計画、及び水と衛生に関する事業、保健サービス強化などを扱う。予防接種事業ではGAVIに対する拠出、結核対策では「ストップ結核イニシアティブ」の一員としてのDOTSプログラムへの支援、マラリア対策では「ロールバック・マラリア・キャンペーン」支援が含まれる。当項目で達成されるべき目標は、OECD開発援助委員会(DAC)が1996年に発表した国際開発目標
17に準ずる。「基礎保健・栄養」の代表的な事業例(2002年度)としては、カナダ国際予防接種イニシアティブ(CIII)への資金援助がある。
「HIV/AIDS」では、政治的コミットメントの強化、リプロダクティブ・ヘルス、教育セクターの活用、女性による予防手段の開発、ワクチン開発強化などに関する事業が実施されている。これらの事業により、国際人口特別会議(1999年)で合意された目標((1)2005年までに90%以上、2010年までに95%以上の15-24歳の若い男女が、HIV感染を回避するための技術を得るための情報へのアクセス・教育・サービスなどを獲得することを目指す、(2)15-24歳の男女の罹患率が最も影響ある地域については2005年までに25%減少し、全世界では2010年までに25%減少させる、(3)UNAIDS主催のアフリカのエイズに関する国際パートナーシップについて、CIDAは他機関とともに国レベルに重点をおいた支援を実施し、1国でも新規HIV感染者の発生や罹患率を著しく減少させることを目指す)及びCIDA独自の目標((1)組織内セクター間の情報の共有化とその促進、(2)NGO等との連携推進、(3)現場における対策の浸透を早めるために、革新的で対費用効果が高くかつ知識基盤型のアプローチ法を推奨する、(4)CIDAが助成したエイズ対策手段の質・量・対費用効果の増加)達成を目指す
18。具体的な活動としては、各国政府へのIEC、サーベイランス、人材育成、保健システム強化、政策策定・実施などの直接支援のほか、CIDAが事業資金を拠出する国際エイズワクチン・イニシアティブ(1998年からの5ヶ年事業)を通したエイズワクチン治験、国連機関と民間企業の共同出資による「アフリカのエイズ・未来へのシナリオ」イニシアティブへの出資などがある。
4.国連機関及び国際開発金融機関の活動
4.1 WHO(世界保健機関)
4.1.1 支援実績
各事業の資金額(2002-2003年度)は、それぞれHIV/AIDS:1億2981万2000米ドル、結核:1億465万米ドル、マラリア:1億1821万2000米ドル、ポリオ(Communicable Disease Prevention and Eradication):2509万3000米ドルである。
4.1.2 支援方針と主な支援分野
HIV/AIDS、結核、マラリアは、HIV/AIDS・結核・マラリア局(HIV/AIDS, Tuberculosis and Malaria (HTM) Cluster)のHIV/AIDS課(The HIV/AIDS Department)、ストップ結核イニシアティブ(Stop TB Initiative、同イニシアティブの事務局)、ロールバック・マラリア(Roll Back Malaria、同イニシアティブの事務局)で扱われている。ポリオについては、世界ポリオ撲滅計画(GPEI)のパートナーとして対策に関わっている。また、WHOがUNDP及び世界銀行とともに1975年に発足した熱帯病の研究と教育に対する特別プログラム(The Special Programme for Research and Training in Tropical Diseases:TDR)で、結核、マラリアを含む感染症の調査研究及び人材研修を実施している。
HIV/AIDS分野の戦略は、(1)計画立案、マネジメント能力の強化、ジェンダー別予防策、抗ウイルス薬治療を含めた治療に関する効果的な支援、(2)サーベイランス・システムの導入、(3)コンドームプラス・キャンペーンの導入、(4)各国に責任所在を作り、説明責任の所在を明らかにする、(5)パートナーシップの確立等であり、具体的な数値目標は、(1) 2005年までに300万人の途上国の患者に効果的な治療を施す、(2)15-24歳の若者のHIV有病率を高蔓延国で2005年までに25%削減し、世界レベルでは2010年までに25%削減する、(3)2003年までにHIV/AIDS孤児とHIV/AIDSに罹患した子供を支援するための国の戦略を作成し、2005年までに施行する、(4)政府はUNAIDSやドナーからの協力を得て、2005年までに少なくとも90%、2010年までに95%の15-24歳の若者がHIV感染予防に関する情報を入手できるようにすることである。
結核分野の戦略は、ストップ結核イニシアティブの戦略である、(1)DOTS戦略の拡大、(2)多剤耐性結核・TB-HIVの有効な対応とその拡大、(3)新たな診断法、抗結核薬、予防接種の開発、(4)ストップ結核パートナーシップの強化となっている。具体的な数値目標は、(1)2005年までに結核患者の70%を発見し、その85%を治癒する、(2)2010年までに2000年時点の死亡率から半減させる、(3)2050年までに有病率を10万人中1人に削減することである。
マラリア・寄生虫分野の戦略は、ロールバック・マラリア・イニシアティブに基づき、(1)マラリアの早期発見・治療を行なう、(2)媒介蚊対策(vector control)などの持続的な予防対策計画を策定・実施する、(3)マラリアの早期発見により流行の発生を防ぐ、(4)マラリアによる経済・社会的、環境への影響等の状況を把握するために現地での基礎調査能力を強化することとなっている。さらに、アフリカに対しては、2010年までにマラリアによる死亡率を半分に減らすこととし、具体的な数値目標として、(1)2005年までに少なくとも60%のマラリア患者に対して症状が発生してから24時間以内に治療が受けられるようにする、(2)2005年までに、60%の妊婦や5歳未満の幼児が、殺虫剤を浸潤させた蚊帳(ITN)などでマラリアを予防できるようにすることを挙げている。寄生虫に関しては、2001年3月の第54回世界保健総会において、「2010年までに、世界中の住血吸虫症症と土壌媒介腸管寄生虫症に感染する危険の高い児童の内、少なくとも75%が、それらの寄生虫症に対する定期的な治療を受けられる様にする。」という世界目標を設定して、各加盟国がこれらの寄生虫疾患対策に積極的に取り組むよう勧告している。
ポリオ分野では、GPEIの戦略に基づき、(1)経口ポリオワクチン(OPV:Oral Poliovirus Vaccine)による予防接種を行なう、(2)全国予防接種デー(National Immunization Day:NID)を設ける、(3)Mop upキャンペーンを行なう(ハイリスクエリアでの戸別予防接種)、(4)効果的な急性弛緩性麻痺(AFP)サーベイランスを行なうことが戦略となっており、これにより2005年までにポリオの根絶を目指す。
4.2 UNAIDS(国連合同エイズ計画)
4.2.1 支援実績
UNAIDSと共同スポンサーは、2年毎に統一予算・活動計画(Unified Budget and Workplan:UBW)を策定しており、2002-2003年UBWの中
19で、UNAIDS予算案として、この2年間で共同スポンサー機関とUNAIDS事務局の事業予算総額として約3億7800万米ドルが必要と試算され、その内訳は、共同スポンサー機関の通常予算等におけるHIV/エイズ支援関連予算額が9機関で計6800万米ドル、国レベルのHIV/AIDS対策を使途とするUBWのコア予算が1億9000万ドル、共同スポンサーやその他国連機関のHIV/AIDS対策を行なうためのUBWの補助予算として1億2000万ドルが計上された。
なお、UNAIDSへの最大の拠出国は米国で、次いでオランダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、日本の順である。
4.2.2 支援方針と主な支援分野
UNAIDSは、HIV/AIDSの蔓延とそれに伴う社会・経済的な影響に対し、UNシステムのプログラム及び機関が調整の取れた取り組みを行なうため、1994年に国連経済社会理事会で設置が承認され、1996年に正式に発足した。2003年時点で9機関が共同スポンサーとなっている(UNDP(国連開発計画)、UNESCO、UNFPA、UNICEF、WHO、UNDCP(国連薬物統制計画)、ILO(国際労働機関)、WFP(世界食糧計画)、世界銀行)。資金提供やプロジェクトを直接実施するのではなく、UNシステムによるHIV/エイズ対策の調整を行っている。HIV/AIDSの感染防止、ケアとサポートの提供、個人やコミュニティのHIV/AIDSに対する脆弱性の軽減、HIV/AIDS流行禍による負のインパクト軽減のための対策を主導し、支援し、強化することを組織の使命としている。
UNAIDSは、既に85カ国以上で設置されている政府主導の国家エイズ委員会の支援、ドナーへの援助申請の作成、エイズ戦略の貧困削減戦略等のより大きな開発イニシアティブへの統合、プログラムのレビューの実施支援を通じて、効果的な国家戦略の実施を支援している。また、UNAIDSは、2001年に開催された国連エイズ特別総会の事務局を努めた。
4.3 UNICEF(ユニセフ: 国連児童基金)
4.3.1 支援実績
2002年度の事業資金額は、HIV/AIDS分野で107万ドル(全体の9%)、2001年度は67万ドル(全体の7%)であった。UNICEFがGAVIのために調達した予防接種用ワクチンは、2001年度2億6100万米ドル、2000年度は1億2100万米ドルであった。また、ポリオ分野については、プログラム実施のための資金として2002年に世界ポリオ・イニシアティブ(Global Polio Initiative)から、1億6700万ドル、2001年に国際ロータリークラブより1,000万ドルが寄付されている。
4.3.2 支援方針と主な支援分野
UNICEFの2002-2005年中期戦略(UNICEF's Medium-term strategic plan (MTSP) for the period 2002-2005)の5つの優先課題のうち、感染症対策に関するものとして「予防接種『プラス』(Immunization 'plus')」(マラリア・結核・ポリオ)」と「HIV/AIDS対策」がある。
HIV/AIDS対策についてUNICEFは、中期的には「個人、家族、コミュニティと国家をHIV感染から守るために支援するとともに能力を強化し、HIV/AIDSに感染または影響を受けた子どもや若者が確実に保護とケアを受けられるようにする」ことを目指している
20。主な支援内容として、(1)若者の新規感染予防、(2)母子感染予防、(3)HIV/AIDSと共に生きる子供とその家族のケアとサポートへのアクセスの拡大、(4)エイズ孤児やエイズによりなんらかの影響を受けている子供に対するケア、保護、サポートの確保を挙げている。なお、UNICEFはUNAIDSの共同スポンサーの中で、エイズ孤児支援を主導している機関である。また、母子感染予防薬の供与、HIV/AIDS治療薬に関する情報交換にも参加している。
マラリア・寄生虫及びポリオ関連対策を行なう「予防接種『プラス』」は、2010年までに「世界の90%の国で各地域の80%の子どもが予防接種を受けること」を目指している。活動内容は、僻地を含む予防接種の拡大、ポリオ根絶、妊婦と新生児の破傷風(MNT:Maternal and Neonatal Tetanus)撲滅、ワクチン供給の保証、住民参加促進、麻疹による死亡の減少である。
マラリア分野について、UNICEFは、1998年にWHO、UNDP、世界銀行とともにロールバック・マラリア・イニシアティブを立ち上げた。同イニシアティブは、2010年までにマラリア患者を半減させることを目指している。UNICEFは、ロールバック・マラリア・イニシアティブのパートナーとして、特に2005年までに、(1)マラリア患者の60%が、発症24時間以内に迅速・入手可能かつ適切な治療を受けることができること、(2)マラリア罹患の危険性がある、特に妊婦と5歳未満の子どもの60%がコミュニティあるいは個人レベルで入手可能な予防のための手段をとることができること、(3)マラリア罹患の危険性がある妊婦の60%が化学予防や予防治療にアクセスできること、を目指している。
ポリオ分野について、UNICEFはGPEIのコア・パートナーであり、2005年までに、野生ポリオウイルスの伝播を防ぎ、全世界でポリオ根絶が達成あるいはそれが確認されることを目指している。UNICEFは、ワクチンの供給・輸送、ロジスティクス支援、コールドチェーンの確保、ヘルスワーカーの教育を実施している。2002年度に5億5000万の子どもたちが経口ポリオワクチンを投与されたが、UNICEF調達部が当該年度に80カ国を対象として実施したキャンペーンのために購入したワクチンは130億回分、1億700万米ドルであった。
結核分野では、結核高蔓延国での抗結核薬へのアクセス改善を目指し、WHOをはじめとしてストップ結核イニシアティブに参加する世界抗結核薬機関(Global Drug Facility:GDF)、UNICEF、UNAIDS、UNFPAとWHOの承認委員会(Green Light Committee)とともに抗結核薬の入手について製薬会社に協力を求めている。
4.4 UNESCO(ユネスコ:国連教育科学文化機関)
4.4.1 支援実績
UNAIDSの共同スポンサーとして、他の国連機関と協力して各国でエイズ対策の活動計画策定と実施を支援している。2002-2003年度の事業予算額は5億4437万米ドル、この他、特別予算額は3億3419万米ドルであった。このうち、「HIV/AIDS蔓延に対応するための予防教育」事業には活動費90万米ドル、人件費224万米ドル(計314万米ドル)、さらに特別予算として600万米ドルが計上された
21。なお、活動費の内訳はHIV/AIDS予防教育政策、戦略、教材に50万米ドル、意識及び知識向上のための活動費として40万米ドル、活動としてはエイズ予防教育関連研修・セミナーの実施、調査研究、冊子の出版などが含まれる
22。
4.4.2 支援方針と主な支援分野
2010年までに世界のHIV感染者を25%減少させることを目指し、UNESCOは国連システムのHIV/AIDS対策支援の枠組みにおいて予防教育分野を担当している。予防教育を国際的な開発課題や各国の政策に統合し、そして、多様なニーズや状況に適用させ、また、人々に責任のある行動をとることを働きかけつつ脆弱性を減らしていくことに焦点をあてている。UNESCOの予防教育における5つの重点分野は、(1)あらゆるレベルに対するアドボカシーの推進、(2)年齢・性別・文化に配慮した知識の普及、(3)感染リスク回避のための行動変容、(4)感染あるいは影響を受けた人々に対するケア、(5)HIV/AIDSが教育に与える影響への対処である
23。HIV/AIDSに係る予防教育は、主にUNESCOの主要プログラムの一つである教育分野での教育の質向上と教育制度の改革を目的としているが、他の主要プログラムすなわち自然科学分野、社会・人間科学分野、文化分野、コミュニケーション・情報分野の各分野を動員しながら事業を実施している。例えば、自然科学分野では、治療と調査研究の推進に向けたHIV/AIDSに関する科学的知識へのアクセス改善を目的とした支援事業が実施されている。これらの戦略の成果として、アフリカと南アジアの15-24歳の若者に対する包括的なHIV/AIDS教育と予防キャンペーンの実施、深刻な影響を受けている国・地域における学校内外での効果的な予防教育の立案・実施、明確かつ文化的に配慮された予防教育法・教材の開発、教育へのHIV/AIDSの影響評価の実施等が目指される。
4.5 UNFPA(国連人口基金)
4.5.1 支援実績
UNFPAの2002年度歳入額は、通常収入2億6010万米ドル、特別収入1億1300万米ドル、計3億7310万米ドルで、歳出額は2億360万米ドルであった
24。このうち、HIV感染予防事業に使われた経費の総額は約4900万米ドルであった
25。
4.5.2 支援方針と主な支援分野
UNAIDSの共同スポンサーであるUNFPAは、コンドームを供給する単独の機関としては世界最大である。UNFPAは1992年に設立された「リプロダクティブ・ヘルス関連物資とその管理に関する世界イニシアティブ」の参加機関として、コンドーム供給のドナー調整、ロジスティクス、価格調整などを担当している。2001-2005年の国連システムのHIV/AIDS支援戦略に対するUNFPAの重点支援分野として、(1)若者のHIV感染予防、(2)性感染症及びHIV予防のためのコンドーム・プログラミング、(3)妊婦のHIV感染予防の3点を掲げている
26。具体的な活動内容は、若者のHIV感染予防については政策策定支援、学校内外における性教育の強化、若者に対する性とリプロダクティブ・ヘルスに関する情報提供等である。UNFPAは国連システム内においてコンドーム及びリプロダクティブ・ヘルス関連機材の調達では主導的な機関であり、コンドーム・プログラミングでは、高品質なコンドームの安定供給とそれへのアクセスを確保し、適切にかつ継続的に使用されることを目指している。妊婦のHIV感染予防については、母子保健サービスにHIV感染予防を組み込むための研修開催や資材作成を支援している。緊急支援分野でもHIV感染予防への取り組みが行われており、2002年には22カ国に対しコンドームを含む支援キットが供与された。
また、UNIFEMと共にジェンダーとHIV/AIDSに関する関連機関タスク・チームの議長も務めており、特にHIV感染予防に焦点を置いて、世界中のリプロダクティブ・ヘルスの計画にHIV/AIDS対策が盛り込まれるよう活動を支援している。このプログラムでは、(1)政治的関与を強化するためのアドボカシー、(2)IEC(Information, Education and Communication=情報・教育・コミュニケーション)と若者の行動変容のための活動、(3)コンドームの入手及び使用改善のためのコンドーム・プログラミング、(4)リプロダクティブ・ヘルスに関する情報・サービス提供機関への研修などに関する活動を展開している。
他機関との協力も活発であり、UNFPAは2002年にOPECの国際開発基金(Fund for International Development)と新しいイニシアティブを立ち上げ、3年間に13カ国で研修、調査、NGOのキャパシティ・ビルディング、国家プログラム支援を展開している。国際ロータリー・クラブなどNGOとの連携事業も実施されている。また、UNFPAでは本部(ニューヨーク)にHIV/AIDS部門を設置し、人財部に職場におけるHIV/AIDSに関する専門家を配置している。
4.6 World Bank(世界銀行)
世界銀行は、各国の保健医療行政への資金援助(供与又は融資)による支援を行っている。感染症分野では、2002年7月-2003年6月の1年間で4億4200万ドルを行った。HIV/AIDS分野では主に複数国HIV/AIDSプログラム(MAP:Multi Country HIV/AIDS Program)を通して、過去5年間に15億ドルの資金援助を行った。各国のエイズ対策プログラムの強化、ワクチン開発への資金援助を行っている。結核分野ではこれまでに総計5.6億ドルの資金援助を行ってきた。国への援助活動の対象国数は30カ国に上り、現在の最大の対象国は中国とインドであるが、2002/2003年度には、ロシアへ1.5億ドル、ウクライナへ0.6億ドルの融資を決定した。これらの各国への援助に加えて、国際的な機関であるストップ結核パートナーシップ、抗結核薬の供給(logistics)システムをサポートしているGDFなどを含むストップ結核信託基金(Stop TB Trust Fund)等国際的な活動へも資金協力を行っている。マラリア対策分野では、35カ国で40のマラリア対策プログラムに対する資金援助を行っており、また、ロールバック・マラリアの設立者のひとつである。資金援助の総額は3億ドルにのぼる。各途上国への対策としては、国のマラリア対策への資金援助を主にサブサハラ・アフリカで行っているほか、マラリアワクチン開発、新しいマラリア薬の開発、マラリア分野におけるリソースの流れについての分析等を行っている。ポリオ分野については、2005年の根絶にむけて、2003年4月、ゲイツ財団、国際ロータリークラブ、UNICEFとともに融資の強化を開始し、無利子でナイジェリアへ2800万ドル、パキスタンに2000万ドルの資金供与を行っている。また、新興感染症への対応も行っており、例えば、SARSに対しては2003年7月に1150万ドルの融資を中国のSARSの診断、治療、対策の促進のために行った。その他の感染症予防では、予防接種(EPI)の強化にむけた資金協力を推進している。
5.その他の組織
5.1 Gates Foundation(ゲイツ財団)
ゲイツ財団は1994年より現在までに保健医療、教育、図書館整備やITアクセスの充実などのプロジェクトに62億4800万米ドル以上を拠出している、世界最大の慈善団体である。感染症分野の協力はグローバル・ヘルス・プログラム(Global Health Program)と特別事業(Special Projects)の2プログラムで実施されている。
グローバル・ヘルス・プログラムの助成優先事項(Grant making Priorities)によれば、助成重点分野は「先進国と途上国の健康格差のもととなり、かつ、対策の需要に拘らず注目されていない途上国の最大の負荷となる疾病及び健康障害」であり、HIV/AIDS、結核、マラリア、その他の感染症が含まれる。途上国の公衆衛生に対し長期的な効用があることが見込まれる次の戦略的アプローチに則った革新的なプロジェクトが望まれる。
(1) |
つくる(build:医療新技術の開発・調査など) |
(2) |
立証する(prove:途上国におけるヘルス・インターベンションのオペレーショナル・リサーチ、パイロット事業など) |
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維持する(sustain:世界の保健問題に関するアドボカシー、効果が立証されたヘルス・インターベンションを実施するための、人材・組織・財源を動員するメカニズムなど)。
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2002年度の助成総額(全分野)は11億5747万米ドルで、このうち保健分野は5億698万米ドルと最大である。なお、2001年度の助成総額は11億4,696万米ドル、保健分野は8億5557万米ドルであった。助成を受けたプロジェクトには、ICASO(International Council on AIDS Service Organization)のHIV/AIDS関連アドボカシーとNGOネットワーク強化事業に75万米ドル、UNDPの国連ミレニアム目標(MDGs)達成事業支援に281万米ドル、UNAIDSのUNAIDS政策展開・アドボカシー・通信事業に265万米ドルなどである。なかでもWHOの申請が多く、子どもの健康分野の疫学事業(99万米ドル)、セネガル黄熱病キャンペーン(63万米ドル)、アフリカ・エイズ・ワクチン・プログラム(5万米ドル)、麻疹予防接種・ワクチン評価事業(686万米ドル)、住血吸虫・腸内寄生虫対策の世界パートナーシップ構築(200万米ドル)などが含まれている。
5.2 NGOの活動
5.2.1 エイズ対策にかかわるNGO
HIV/AIDS対策は多岐にわたるが、そのほとんどはコミュニティ開発の要素を含みこんだものであり、したがって、草の根の人々とともに働き、また、その主張を政策に反映させるNGOの役割は重要であるということがいえる。
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対策の各分野におけるNGOの活動
予防啓発は、特定の地域や人口集団を対象としたものと、それ以外の一般の人口全般を対象としたものに分かれるが、地域や人口集団の特性を把握し、有効な介入を図る上で、当該地域や人口集団で構成される、もしくは、共に働くNGOの活動は重要である。NGOをおいて他にないからである。東南アジア・南アジア地域では、HIV感染の多くは、感染の可能性に特に曝されている集団(MSM:men who have sex with men=男性と性行為をする男性、セックス・ワーカー、ドラッグ・ユーザー、移民労働者など)で生じており、HIV/AIDS対策のうち、特に予防啓発は、コミュニティを基盤とするNGOが担うケースが多い。また、アフリカでは、女性が構成するNGOが同様の役割を果たしている。
一般人口を対象とした予防啓発は、不特定多数への広報機能を持つマス・メディアなどが主力になるが、ここにおいても効果のあるメッセージを作り出していくためには、NGOが大きく貢献している。「レッドリボン」や、エイズで亡くなった人の名前を織り込んで作る「メモリアル・キルト」など、エイズをめぐる表象の多くは患者・感染者やNGOによって作り出されたものである。
予防と治療をつなぐ対策として母子感染予防があるが、国際家族計画連盟(IPPF)傘下のNGOなど、人口/リプロダクティブ・ヘルスに取り組むNGOが大きな役割を果たしている。
VCTに関して、NGOは大きな役割を果たしている。VCTの取り組みはアフリカを中心に大きく広がっており、欧米に基盤を有する大規模な国際NGOから、コミュニティの小さなNGOまで、VCTサービスに乗り出している。現地政府機関や病院、海外の援助機関等がVCTを行なう場合にも、NGOとの連携は重要である。VCTを成功させるためには、単に検査体制を整えるだけでなく、地域や人口集団に対する意識付け、カウンセラーの養成と実践、HIV陰性者に対する行動変容の意識付け、陽性者のケア・サポートや治療との連携を実現しなければならず、そのためには、NGOによるコミュニティの意識付けが重要になるからである。
ケア・サポートに関しては、患者・感染者の在宅ケア、及び末期のエイズ患者の終末医療などが行われているが、多くの途上国では、HIV感染者・AIDS患者(HIV/AIDSとともに生きる人々=people living with HIV/AIDS:PLWHA)自身の組織やキリスト教などの宗教系の組織(Faith Based Organization:FBO)に依存する状況が続いている。社会保障制度が不十分で、差別とスティグマが蔓延する中で、PLWHAにとってケア・サポートを行なう組織の存在は必須であるが、ケア・サポートに関しては、VCTや母子感染予防に比べ国際社会の支援が焦点化されていない。ケア・サポートを担うNGOに対するキャパシティ・ビルディングや、財政的な支援の強化が必要とされている。
エイズ治療に関して、「国境なき医師団」は途上国で抗レトロウイルス治療(ART)のパイロット・プロジェクトを実施しており、また、各種FBOが運営する病院なども、治療を廉価で実現する上で大きな力を果たしてきた。一方、ARTでも日和見感染症治療でも、PLWHA自身が治療について学ぶことで、適切な服薬行動へのインセンティブを高める「治療リテラシー」の取り組みが必須であり、NGOによる取り組みが開始されている。
エイズによる孤児のサポートなど、エイズによる社会的インパクトの低減についても、孤児院を経営するNGOやFBO、エイズ孤児を引き取った家族の所得向上プロジェクトなどを担うNGOなどの役割は非常に大きいと言える。
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NGOネットワークと国際NGOの役割
欧米や日本等に拠点を置く国際NGOや、国別・地域別のNGOネットワークは、各地域や人口集団において実際に活動を担うローカルNGOや地域に基盤を置く団体(CBO)などに対する技術的・財政的な支援を行ったり、人材を派遣して活動を強化したり、また、国際機関や援助国の援助機関等とこれらのローカルNGOやCBOとのパイプ役になることによって、非常に大きな役割を果たしている。また、こうしたローカルNGOやCBOと協力しながら、現地で自らプロジェクトを実施するといった役割も果たしている。
また、PLWHA組織やローカルNGOやCBOなどが、自らのニーズを国家政策や世界レベルのHIV/AIDS対策に反映する上で、国別・地域別・コミュニティ別等のネットワークが果たしている役割は大きい。アフリカを始め、主要な途上国においては、PLWHAやエイズ・サービスNGOの国別のネットワークが存在し、政府のエイズ政策に影響を与えている。また、アジア・太平洋地域では、南・東南アジアを中心に、PLWHAを始め、性産業従事者(commercial sex worker)、薬物使用者及び薬物使用経験のある人々(drug user)、移民、同性愛者・MSMなど、HIV感染の可能性に特にさらされている人口集団(ヴァルネラブル・コミュニティ)の広域のネットワークが、アフリカではPLWHAと支援者などによるアドボカシー・ネットワークが存在しており、国境を越えた地域単位のエイズ対策のポリシー形成に大きな影響を与えている。
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5.2.2 結核対策に関わるNGO
国の結核対策を補助してきた先進国の結核予防会は、国内においては結核の減少とともに胸部疾患全般を扱うことになったが、途上国で結核対策の支援活動行なっている団体が多くみられる(以下に述べるKNCV、FILHA、LHLなど)。また、途上国では、各国の結核予防会で結核対策の支援活動が残っているところが多く存在し、インド、パキスタン、ネパール、マレーシア、タイ、フィリピン、韓国などアジアの各国での活動が活発である。カンボジアでは、最近(2003年)結核予防会が設立された。また、アフリカではSouth African National TB Associationなどで活動がみられる。
また、以前、ハンセン病(Leprosy)を対象としていた組織が、ハンセン病とともに結核対策の援助を行っているところも見られる(German Leprosy Relief Association:GLRAなど)。そのほか、結核蔓延国の一部の地域の結核の診断治療に従事している国際的なNGOは多い。アフガニスタンにおけるGLRA、バングラデシュにおけるDFB (Damian Foundation, Belgium)、中国におけるKNCV (Royal Netherlands TB Association)、エチオピアにおけるMSF Belgium、 インドネシアにおけるKNCV、日本の結核予防会、ナイジェリアにおけるGLRA、パキスタンにおけるGLRA、ロシアにおけるFILHA (Finish Lung and Health Association)、LHL (Norwegian Heart Association)や、その他現地のNGOとして、バングラデシュではBRAC (Bangladesh Rural Advancement Committee)が活動を行っている。
また、二国間ドナー、国際機関が資金を出す場合でも、結核対策のこれまでの経験などから、現地責任者がNGOのメンバーを用いることなども多い(特にKNCV)。結核対策におけるNGOの役割は、資金源としてよりも人材源として重要である。
5.2.3 寄生虫対策に関わるNGO
カーター財団(Carter Center)は福祉の向上のために様々な活動を行っているが、感染症関係では、主要感染症以外の疾患に対する対策を進めている。ギニアウォーム(メジナ虫)対策では98%の減少を達成した。オンコセルカ症対策では、駆虫薬イベルメクチン(Ivermectin)をアフリカ、南アメリカの5000万人に配布するのを援助した。その他、トラコーマ、フィラリア症、住血吸虫症などの対策を援助している。
5.2.4 ポリオ対策に関わるNGO
国際ロータリー・クラブは、これまで、ポリオワクチンの購入費用など総額3.78億ドルの資金供与、ワクチン配布ボランティアの派遣、アドボカシー活動など、ポリオ対策分野で活動を行ってきた。
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Roll Back Malaria Initiative (RBM)の主な戦略は、1) 早期診断と早期治療、2) 殺虫剤処理蚊帳及び殺虫剤等によるマラリア媒介蚊との接触予防、3) マラリア突発流行の予想とその拡大防止、4) 治療薬、殺虫剤、予防接種等の開発、5) 現存する保健医療サービスの強化及び技術的支援、6) 科学的証拠に基づく対策、7) あらゆる分野からの支援を得るための連携・協力等である。
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2003 Development Cooperation Report, OECD, 2004
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http://www.gtz.de/backup-initiative/
3
Annual Report 2003
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ノルウェー国全体同年度のニ国間、マルチ・バイ、マルチ援助全てにおけるHIV/AIDS関連分野事業(HIV/AIDSが主目的あるいは副目的の事業)総額は9億771万NOKで、二国間援助は6億6976万NOK、UNAIDS及びGFATMへの拠出を含むマルチ援助は2億3795万NOKであった。二国間援助では、アフリカに対する拠出が最も大きい(4億9750万NOK)(Norway Development Cooperation 2002 Following up the Millennium Development Goals))。
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ノルウェー国全体同年度のニ国間、マルチ・バイ、マルチ援助全てにおけるHIV/AIDS関連分野事業(HIV/AIDSが主目的あるいは副目的の事業)総額は9億771万NOKで、二国間援助は6億6976万NOK、UNAIDS及びGFATMへの拠出を含むマルチ援助は2億3795万NOKであった。二国間援助では、アフリカに対する拠出が最も大きい(4億9750万NOK)(Norway Development Cooperation 2002 Following up the Millennium Development Goals))。
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NORAD Annual Report 2002
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モザンビーク、ウガンダ、マラウイ、ニカラグアではヘルスセクター・プログラムの計画・財務管理の支援を行っている。
8
Internal Action Plan for NORAD's Intensified Efforts to Combat HIV/AIDS during 2001
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Internal Action Plan for NORAD's Intensified Efforts to Combat HIV/AIDS during 2001
10
Facts and Figures 2001: Health Sector
11 http://www.um.dk/danida/sektorpolitikker/health/index.asp
12
http://amg.dynamicweb.dk/Files/Filer/Policies%20and%20Strategies/Priority%20Themes/11446_IndholdGB.pdf
13
The European Union confronts HIV/AIDS, malaria and tuberculosis: a comprehensive strategy for the new millennium, November 2003
14
Communication from the Commisiion to the Council and the European Parliament, Programme for Action: Accelerated action on HIV/AIDS, Malaria and Tuberculosis in the Context of Poverty Reduction (Brussels, 21.2.2001 COM (2001) 96 final)
15
Canadian International Development Agency Department Performance Report 2003, Minister for International Cooperation
16
2002-2003 Report on Plan and Priorities
17
"Shaping the 21st Century: the Contribution of Development Co-operation"
18
CIDA's HIV/AIDS Action Plan, Second Edition, July 2000
19
UNAIDS Unified Budget and Workplan 2002-2003, UNAIDS/PCB(11)01.4
20
Fighting HIV/AIDS: Strategies for Success 2002-2005
21
UNESCO General Conference Approved Programme and Budget 2002-2003 31C/5, UNESCO, March 2002
22
31C/5 Draft Programme and Budget, 2002-2003
23
UNESCO's Strategy for HIV/AIDS Preventive Education
24
UNFPA Annual Report 2002
25
Preventing HIV Infection, Promoting Reproductive Health, UNFPA Response 2003
26
Strategic Guidance on HIV Prevention, 2001