5-1-1 教訓と提言
(1)全体評価
いくつかの課題は指摘されるものの、本案件について評価5項目の観点からは、全体的に高い評価を与えることができる。
目標達成度の観点からは、法改正、ガイドラインその他の制度の確立など、ほぼ全ての分野で目標は達成された。マクロ経済指標についても、概して改善の方向にあり、本融資の貢献度は大きかったものと評価される。
効率性の観点からは、コンディショナリティ達成のために最終トランシェのリリースは遅れたが、資機材の調達、見返り資金の活用が適切に行われ、資金のディスバースも適切な時期に行われた。
インパクトとしては、フィリピンが本融資を用いた輸入決済により直接生産部門の拡大を達成し、輸出を通じた経済成長を達成するとともに、それを支える国内基盤として金融セクターの信用拡大を達成していった点が特筆される。すなわち、本融資が銀行の預金残高の拡大、収益率の改善を通じ、フィリピンの内需部門の効率性改善に貢献したことが評価される。また、日比両国間の貿易面における相互関係の深まりや、1998年のAPECでの日本よりの比外相の発言からも読み取れるように、日本との二国間関係に対する良い影響をも与えたことが評価される。
計画の妥当性については、フィリピン政府の行政能力(institutional capability)に対する期待が大きすぎ、これが融資スケジュールを遅らせる要因になったものと考えられるが、時間は要したものの、最終的にはコンディショナリティはほぼ達成されており、妥当性の観点からも大きな問題はなかったものと判断される。
自立発展性については、フィリピン政府は本融資案件の終了後も主体的に金融セクターの信用拡大を達成していった点が特筆される。すなわち、本融資が銀行の預金残高の拡大、収益率の改善を通じ、フィリピンの内需部門の効率性改善に貢献したことが評価される。また、日比両国間の貿易面における相互関係の深まりや、1998年のAPECでの日本よりの比外相の発言からも読み取れるように、日本との二国間関係に対する良い影響をも与えたことが評価される。
計画の妥当性については、フィリピン政府の行政能力(institutional capability
)に対する期待が大きすぎ、これが融資スケジュールを遅らせる要因になったものと考えられるが、時間は要したものの、最終的にはコンディショナリティはほぼ達成されており、妥当性の観点からも大きな問題はなかったものと判断される。自立発展性については、フィリピン政府は本融資案件の終了後も主体的に金融セクターの構造改善に取り組んでおり、自立性の観点からも大きな前進があったものと評価される。依然残された課題が存在するため、さらに支援の必要はあるものの、これは自立性の欠如を意味するものではなく、さらなる自立性獲得のための新たなステップであると判断される。
(2)特に言及される評価点
本部門調整融資のみにその原因を特定することはできないが、フィリピンがアジア通貨危機の影響を他のアジア諸国と比較して軽微に抑えることが可能となったのは(図表5-1)、1990年代の早い時期に金融セクターの構造調整を行っていたからであると考えることができる。90年代前半において、他のアジア諸国が高成長を続ける中、フィリピンは構造調整に伴い成長が限定的なものにとどまったが、この時期に銀行監督権限の強化、中間コストの削減、プルデンシャル規制の導入など、一連の改革を行っていたことは評価に値する。
実質GDP成長率 | 消費者物価指数 | 経常収支 | 外貨準備高 | 為替レート切下げ率 (1996→98年) |
|
インドネシア | 4.9% | 6.6% | -50.0 | 175.9 | 431% |
マレーシア | 7.8% | 2.7% | -47.6 | 217.0 | 157% |
フィリピン | 5.2% | 6.0% | -43.0 | 86.4 | 156% |
タイ | -1.3% | 5.6% | -31.1 | 270.0 | 163% |
(3)全体的な提言
(長期的視点に立った評価の必要性)
構造調整融資の実施を行ったとしても、必ずしもそのプロジェクト期間内に被援助国が抱える問題点が全て解決されるわけではない。その意味では、構造調整融資には終わりが存在していない。しかし上述のように、構造調整の成果は、一定の期間が経過した後、新たな外的ショックが加わったときに始めて顕在化されてくる。それゆえ、構造調整融資の評価にあたっては、一定期間を経ることが必要となってくる。
また、終わりが存在しないという観点からは、当該構造調整プログラム内において着実な成果を上げるとともに、いかに次の支援に効率的に引き継ぐかが課題となっている。
(モニタリングシステムの構築)
その際に重要となってくるのが、モニタリングシステムの構築である。構造調整プログラムの成果を確認するには、融資案件が終了してから後も一定期間の継続したモニタリングが必要となる。特に、コンディショナリティとされた項目のモニタリングに加え、その後の環境変化を通じて表出した新たな課題についても、モニタリング項目に含めていく必要がある。
本案件の場合、1997年半ばに発生したアジア通貨危機に対して、フィリピンの金融セクターがどのように対応したか、中央銀行をはじめとする監督機関がどのような指導力を発揮できたかということが、間接的に融資プログラムのモニタリングにつながるのである。
また、将来においては、本融資に関連して実施されたIMF融資を通じたマクロ経済政策、国際金融政策、財政政策を含めた、一連の融資に関する分析や、多部門/市場に関する包括的な分析も必要であろう。
(アジア通貨危機による支援の必要性)
フィリピンの金融セクターは、アジア通貨危機に対して、他のアジア諸国と比較して良好なパフォーマンスを見せたことは既に述べた。しかし、軽微とはいえ、フィリピンも通貨危機の影響を受けていることには違いがない。特に通貨危機後のパフォーマンスを通じて、フィリピン金融セクターがさらに改革を必要としている部分が浮き彫りにされている。
【残された課題1】
<プルデンシャル規制の強化> ・プルデンシャル・スタンダードの導入 ・監督権限の効率性確保 <金融セクターへの介入戦略の再構築> ・特定銀行の集中監視プログラム ・資本不足に対するルール作りのための明示的な手続き ・不良銀行の解決 <政府系金融機関の強化> <裁定取引への規制と中間コストの削減> <立法上・規制上のアジェンダ> ・監督機関職員の訴訟からの保護 ・中央銀行及びPDICの監督・実行力の拡大 |
既に世界銀行は、こうした残された改革点について、新たな金融セクター調整融資の実施を表明した。我が国も、既に新宮沢構想に基づき、世界銀行と協調して金融セクター構造調整に対する資金拠出を表明しているが、これは時宜にかなったものであり、積極的な貢献が求められるところである。特に本融資における教訓を活かし、さらに部門調整融資が効率的に実施されることが期待される。
5-1-2 総合評価
上述の諸点から総合的に判断して、本融資案件は「A.成功した案件」と位置付けることができる。