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第8章 評価結果およびIDIに向けての提言

8.1 評価結果

8.1.1 GIIの実績と重点アプローチ

(1)実績

a.金額実績
 実績総額の82%を人口間接分野が占めており、16%を人口直接分野、2%をエイズ分野が占めていた。年間実績額ベースで見ると、人口直接分野は1994年から2000年の間に2倍に増加し、エイズ分野は同期間の間に3倍に増加していた。

b.スキーム別実績
 人口直接分野においては、国際機関への拠出の占める割合が高く、約40%であった。次いで、技術協力、無償資金協力の順となっている。エイズ分野の実績においては、国際機関への拠出の占める割合が高く、約65%を占めている。
 人口間接分野では、他の2分野と違い、無償資金協力と有償資金協力の占める割合が高く、合計で約80%に上る。無償資金協力の内訳は、基礎的な保健医療への協力が53.5%、初等教育への協力は32.8%、女性の職業訓練・女子教育への協力は8.6%となっている。

c.地域別実績
 GII案件の実施がもっとも多かったのは、東南アジア地域で全案件数の半数以上がこの地域を対象としていた。金額面で見ても東南アジアが最大であり、60%を越えている。

(2)重点アプローチ

a.他ドナーとの連携
GII全般
 JICAによる二国間ドナーとの連携は、主に人口間接分野で実施され、その連携先主要ドナーは、USAID、AusAID、フランスであった。連携の形態は、日本がいわゆるハード分野を無償資金協力等で担当し、連携相手がソフト分野を担当するものが多かったが、USAIDとの連携においては、同一分野で並行して協力を行うものや、双方がNGO支援を行うという形態もあった。人事交流事業では、人材の受入れと派遣の両方が行われ、受入れの合計人数の内、半数近くの8名はKOICAからであった。
 国連機関の中で、日本の主要な連携先となったのは、UNICEFとUNFPAである。これら2つの国連機関との連携では、日本が物品供与を担当し、国連機関が供与品の配付計画や維持管理のための技術指導を行うという形態が多かった。UNICEFとの連携は人口間接分野に含まれる「ポリオ根絶」やEPIの活動(日本はワクチン等を供与)において、UNFPAとの連携は家族計画や母子保健分野(日本は避妊具/薬や母子保健用の医療器具を供与)において実現した。その他、世界銀行(初等教育分野)とUNDP(エイズ分野)との間にも連携があった。

現地調査対象国(インドネシア、タイ、バングラデシュ、ザンビア)
 現地調査の対象国において、他ドナーとの連携が実施されていたが、連携案件の重要性は国ごとの状況によって異なっていた。他ドナーとの連携は、全体的には援助の効率と効果を高めることに貢献した。特に、日本と連携相手ドナーの比較優位性が相互補完的であり、連携がそれを十分に反映したものであった場合は、効率性や効果が向上した。
個別プロジェクト・レベルでは、「日本=ハード担当」、「他ドナー=ソフト担当」という組み合わせではない連携もあった1
ドナーとの連携の実現には、日本大使館あるいはJICA事務所の保健医療分野担当者の同分野に関する専門性が関係していた。専門性を持った保健医療分野担当者が存在した国/時期の方が、多くの場合、ドナー連携は進展していた。ODA全体として日本がその国において他ドナーを大きく引き離したトップドナーである国では、他ドナーとの連携は積極的には推進されていなかった。

b. NGOとの連携
 GIIにおけるNGO連携に対する評価は、本評価調査においてはNGO代表が実施し、その結果を本報告書の第6章に執筆しているため、詳細評価とその結果については第6章を参照されたい。

GII全般
 NGOとの連携は、草の根無償資金協力と開発パートナーシップ事業、開発福祉支援事業、本邦NGOの事業を支援する目的のNGO事業補助金において実施された。また、個別プロジェクトのレベルにおいて、NGOと継続的あるいは単発で連携実施する事例もあった。

現地調査対象国
 NGOとの連携を通じて、日本の支援が、コミニュティ・レベルにまで届くことが可能となった。また、プロジェクト方式技術協力の対象とはなりにくいハイリスク・グループや少数民族、遠隔地の人々に対しても日本の支援が届くことが可能となった。結果的に、NGOとの連携は、日本の支援の妥当性、効率性の改善に貢献した。他方で、NGOと日本のODAの援助の運営方式(予算の年度制の違い等)から事務手続きに双方の側が時間を要した事例もあった。
 エイズ分野では、NGOとの連携は活発であり、開発福祉支援事業と草の根無償資金協力による連携が実現していた。

C.包括的アプローチ
 国単位の事例分析からは、「包括的アプローチ」の実施において、人口直接分野の案件と人口直接分野の案件の間に必ずしも相互補完性が十分に確保されていない事例もあることが明らかになった。事例の相互補完性は、各案件の実施の時期や地域、支援内容の面から判断して十分でないと判断された。このような結果となった理由は、人口直接、間接分野の協力が1つのプログラムとして捉えられておらず、このため「プログラム目標、戦略、プロジェクト」というベクトルで案件形成と協力の実施が行われなかったためである(詳細については、本報告書第7章7.2.4を参照されたい。)

(3)その他

a.戦略性
GII全般
 日本がGII分野に公約の30億ドル以上の資金を投入したものの、上述のように実際の金額投入は、人口直接分野やエイズ分野よりも人口間接分野に多かった。かつ人口間接分野の複数のサブ分野に分散していた。結果的に個別案件レベルでは成果があがったものの、リプロダクティブ・ヘルス分野2やエイズ分野において金額面以外に日本としてまとまった形での成果や効果は見えにくかった。これらの状況は、GIIには戦略性が不足していたために起因すると考えられる。戦略性があれば、上記の点に加えて、援助効率も改善したと考えられる。

現地調査対象国
 戦略性が不足していても、現場レベルの担当者がGIIの意義や意図を理解し、それを援助実施に反映する能力と権限があった場合には、当該国における保健分野の協力に一定の方向づけが可能であった。また、GIIの日米連携の推進にあたり強力なトップダウンの指示と現場での推進に対するインセンティブがあった場合には、同様な方向づけが可能であった。しかし、戦略性が不足している中、いずれの場合も現地の担当者が異動してしまうと継続的な方向づけが出来なくなっていた。

b.数値目標
 GIIには、達成目標金額と実施期間のみが数値的な目標であった。このため、GIIによる投入からもたらされた開発課題の改善について、実施中および終了後に、各側面から数値的に評価することが困難であった。

8.1.2評価結果

(1)GII全般

 GIIの実施開始時期の1994年は、10年ぶりに開催される国連の国際的人口会議である「国際人口開発会議」に向けて「人口問題」の重要性が再認識され、HIV/AIDS問題への緊急な対応の必要性が認識された時期であった。「国際人口開発会議」以降、途上国政府および他ドナーもこれまでよりも包括的なリプロダクティブ・ヘルス分野への協力を推進している。HIV/AIDS分野に関しても、途上国政府および他ドナーはその協力規模を拡大してきている。したがって1994年当時にGIIを開始したことは、国際的にも重要と認識されていた開発課題への時宜を得た取り組みとなり、妥当性が高かった。
 GII実施を通じて、日本の保健医療協力のアプローチに変化が副次的にもたらされた。GII期間以前の日本の保健医療協力は、主に国立の総合病院もしくは専門病院等の施設を建設改善したり、それらに対して機材供与を行い、場合によってはプロジェクト方式技術協力による技術移転を実施するというものが中心的な協力アプローチであった。しかし、日本がGIIを打ち上げたことにより、GII分野で重要性の高いコミニュティ・レベルの介入(妊産婦に対するケアの改善、エイズ予防活動等)も日本の協力案件に積極的に取り込まれるようになった。

(2)GII各分野の評価結果
a. 人口直接分野
GII全般
 サブ・プログラムの種別(介入の種類)で見ると、安全な妊娠出産に対する協力案件数がもっとも多かった。この傾向は、地域別(東南アジア、南アジア、アフリカ)で見ても同じである。要請主義の枠で見れば、同分野への日本の協力要請が多かったと理解することもできるし、日本として比較優位性がある分野と理解することもできるため、さらに詳細な調査を要する。安全な妊娠出産分野の協力の中では、妊娠と出産の臨床に携わる各種人材(Health Center のスタッフやTBAも含む)に対する人材育成が行われることが多かった。他方、家族計画分野では、日本のIEC分野の直接的支援は少なかった3

現地調査対象国
a) 妥当性
 日本の協力は、当該国の人口直接分野の開発課題と政府政策から見て妥当性が高かった。
b) 効率性

(i)現在、実施中の案件は、計画どおりに効率的に進捗していた。
(ii)1980年代後半に開始されたプロジェクトから継続的に支援が実施され、それによって成果の積み上げが行われており、プログラム目標を達成するという観点からは効率性が改善された。
(iii)特定領域(安全な妊娠出産に関わるサービス提供者の人材育成面)に対して異なるスキーム(無償資金協力、プロジェクト方式技術協力、開発福祉支援事業)のプロジェクトが集中的に投入され、開発課題が効率的に改善された。
(iv)各種スキームの組み合わせは、プロジェクトの効率性を高めていた。
(v)NGOとの連携は、草の根無償資金協力も含めて効率性の改善に貢献した。
c) 効果
 リプロダクティブ・ヘルス分野の主要な保健指標の変化は、短期間に改善されるものではなく、保健分野の投入以外からも影響を受けやすい。インパクトを測るためには詳細な調査が必要であるが、今回の評価調査では時間的、調査の規模からの制約により詳細調査は実施できなかった。なお、バングラデシュにおけるこの分野の投入は、比較的最近開始されたため現時点でインパクトを測ることは時期尚早でもある。
d) 自立発展性
 プロジェクト方式技術協力が実施されている国においては、日本の協力が移転を目指した技術やノウハウ面の自立発展性は確保されていた。供与された医療機材や改善された建物の維持管理に関しては、財政面および技術面からの自立発展性は十分に確保されているとは言えない。

b. 人口間接分野
GII全般
 人口間接分野は、基礎的な保健医療、初等教育、女性の職業訓練・女子教育のサブ・プログラムから構成されるが、基礎的な保健医療分野への協力案件数が最も多かった。
初等教育分野では、小学校校舎の建設や改修案件が数の上では多い。金額面での大型案件としては無償資金協力による小学校校舎建設があり、その他はほとんどの案件が草の根無償資金協力による小学校校舎建設や改修であった。女性の職業訓練・女子教育に関しては、職業訓練施設の建設や改修が、初等教育分野と同様に無償資金協力もしくは草の根無償資金協力で実施された。案件数で見ると初等教育分野に比べて無償資金協力は約半数である。

現地調査対象国
a) 妥当性
 日本の協力は、当該国の人口間接分野の開発課題と政府政策から見て妥当性が高かった。ポリオ根絶活動への支援は、グローバルに実施されているポリオ根絶活動の推進に対しても妥当性が高かった。
b) 効率性
 人口間接分野で効率性について比較的明確に評価が可能であったのは、子どもの健康改善に対する支援としてバングラデシュやザンビアで実施されたEPIやポリオ根絶活動への日本の支援(主にワクチン等の物品の供与)であった。これらの支援においては、UNICEFとマルチ・バイ連携として密接に連携して行われ、UNICEFのノウハウを活用することで相互補完性のある連携を通して高い効率性が得られた。
 また、NGOとの連携や各種スキームの有機的連携からも効率性が向上し、一定の効率性は確保できた。
c) 効果
EPIやポリオ根絶活動において、日本の協力は金額が活動全体に占める割合が高く、協力期間も比較的長期にわたるため、当該国のEPIやポリオ根絶活動に対して大きく貢献した。しかし、現地調査の対象国では、疾病によっては予防接種の接種率は近年伸び悩み傾向もあり、物品供与が主体である日本の協力には対処が難しい点もあったが、状況改善のために人材の派遣も開始された。
 バングラデシュにおいては、日本の連携相手であったUNICEFがその広報ノウハウを活用したことから、日本の協力が当該国政府、国民、他ドナーに広く知られるところとなった。
d) 自立発展性
 EPIやポリオ根絶活動では、日本からの供与品はほとんど消耗品であるため自立発展性についての問題は生じない。
 プロジェクト方式技術協力が実施されている国においては、日本の協力が移転をめざした技術やノウハウの面の自立発展性は確保されていた。供与された医療機材や改善された建物の維持管理に関しては、財政面および技術面からの自立発展性は十分に確保されているとは言えない。

c. エイズ分野
GII全般
 すでに述べたように、GIIにおいてエイズ分野の協力への投入は、GII全体の投入の金額にして2%に過ぎなかった。GII重点対象の16か国においても、エイズ分野の活動が本格化していない国が複数あり、現地NGOに対する草の根無償資金協力のみを若干実施している国もあった。エイズ分野の案件として技術協力が実施された主要国はタイ、フィリピン、ケニアであった。
 NGOとの連携案件(草の根無償資金協力や開発福祉支援/開発パートナー事業)を除いて、GII重点対象の16か国における日本のエイズ分野での協力は、i) 安全な血液の供給支援、ii) 研究開発支援、もしくはiii) 検査診断技術の向上支援、のいずれかに大別される。途上国において輸血用血液供給が政府の役割となっている場合、日本による安全な血液の供給確立を目的とした血液スクリーニング用の物品供与は、妥当な支援であり、輸血によるHIV感染予防の効果が高かった。
 i)とii)、iii)に関しては、GII実施時期前から国のトップ・レベルの研究所もしくはトップ・レファラルの検査機関に対する感染症分野支援という幅広な取組みで実施されていたプロジェクト方式技術協力の活動の一つとしてHIV/AIDSに関する活動が含まれていた場合が多い。日本で行うよりも検体が多い中、個別の活動レベルでは成果が得られている。
 日本による研究開発支援は、投入金額と投入期間を比較的多く要するものである。また、ODAによる研究開発支援としては、支援対象国の研究能力の構築、研究者の人材育成などは目指されるべきである。一方、日本の支援によりもたらされた研究の成果自体はどうあるべきか、議論が十分に行われていない。論点としては、短期間で支援対象国の国民の優先順位の高い健康問題の改善のために還元可能であるべきか、それとも国民のごくわずかな人々に裨益すればよいのか、あるいは長時間かかって臨床に応用可能となればいいのか等である。また、どのレベルまで研究能力の構築と研究者の育成をめざすべきか明確になってはいない。
 一方、エイズ分野においては、ワクチン開発等の研究・開発について、世界的に製薬会社等の民間セクターも含めたドナー政府や途上国政府というアクター間の役割分担やリソースの配分についてその効率性や公正性という観点からの議論がここ数年盛んである。日本のこれまでの研究開発支援のアプローチは、長期にわたり大規模な投入を行うことを前提に実施されてきたため、この議論からは距離があったことは否めない。
 NGOとの連携は、開発福祉支援事業と草の根無償資金協力による連携が実現していた。連携を通じて、コミニュティ・レベルにまで日本の支援が届いた。また、日本のプロジェクト方式技術協力の対象とはなりにくいハイリスク・グループや少数民族等をカバーし、対象グループの特性に合わせたアプローチを採用することができた。

現地調査対象国
a) 妥当性
 タイとザンビアにおける日本のエイズ分野の協力は、プログラムとして見た場合、当該国のエイズ分野の課題および政府対策に対しておおむね妥当性が高かった。インドネシアとバングラデシュにおいては、エイズ対策の緊急性が未だ低いという認識が当該国政府にあるため、今後、両国政府の取り組みも強化されると見込まれるが、現時点では、日本は本格的な協力を開始していない。
b) 効率性
 NGOとの連携を通じて、HIV感染予防とエイズ患者のケアの両面で重要なコミニュティ・レベルで活動が実施され、コミニュティ・レベルでの活動の重要性が高いため、その意味では効率性が高かった。また、感染予防教育におけるターゲット・グループとして重要性が高いハイリスク・グループに対してのエイズ教育活動が実施されており、効率性が高かった。
c) 効果
 タイにおける研究協力の直接的な目的が、薬剤耐性やワクチン開発等であることを考えると、研究協力のインパクトが出現するまでには時間がかかる。地域レベルの活動を行う「エイズ予防・地域ケアネットワークプロジェクト」では、協力開始から数年が経過したのみであり、現段階では、タイの国全体に及ぼすインパクト言及するには時期尚早である。ザンビアにおけるエイズ分野のプロジェクトも開始後まだ間もないため、エイズ分野の協力全体をプログラムとして見た場合の効果を評価することは、時期尚早である。


1 インドネシアの「母と子の健康手帳プロジェクト」では、プロジェクトのカウンターパートであるインドネシア保健省を通じて世界銀行やADB、UNICEFとの連携が進み、これらのドナーが日本が導入した母子保健手帳とそのシステム(ソフト)を担当地域において普及させるために、母子保健手帳の印刷費を拠出している。詳細は、本報告書第3章参照。

2 エイズ分野での投入は、金額面ではGII全体の約2%であるため、その投入に対する全体としての効はこの論議に含めない

3 しかし、ケニアにおいては、プロジェクト方式技術協力で「ケニア人口教育促進プロジェクトII」が1993年から1998年まで実施された。




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