7.3 「包括的アプローチ」の分析~インドネシアの事例から~
7.3.1 インドネシアにおける人口直接・間接分野の協力
GIIの戦略の一つである「包括的」アプローチが、実際にどのように行われたかについて、インドネシアの人口直接、間接分野の協力を例に検証してみる。インドネシアは、GII重点国16カ国中、1994年から2000年の7年間に、我が国の人口直接分野の協力の実績額が最も多く、人口間接分野の協力の実績額もフィリピンに次いで二番目に大きい。
図7.15に、1994年から2000年までの7年間に、インドネシアにおいて実施された人口直接、間接分野の有償、無償資金協力及び技術協力を、経年、地域別に整理した。まず、対象地域別に我が国の協力をみると、人口直接、間接分野の協力案件は、主として、(1)ジャワ島、(2)スラウェシ島、(3)複数の地域、または全国レベルの協力、と、三つに分類することができる。同じまたは近い地域で実施された人口直接、間接協力は、「包括的アプローチ」が目指す「リプロダクティブヘルスの向上」の達成に、相互の関連性が高いと考えられるため、協力の対象地域として案件数が多かったジャワ島とスラウェシ島において、我が国の人口直接、間接分野の協力を整理し、「包括的アプローチ」のプログラム性について考察する。
図7.15 インドネシアにおける人口直接・間接分野の協力![]() |
まず、ジャワ島では、1994年にジャカルタ周辺地域を対象に実施された人口直接分野の技術協力(「家族計画・母子保健プロジェクト」)が終了した後は、人口直接分野の有償、無償資金協力、技術協力は行われていない。人口間接分野では、基礎保健医療分野の技術協力がスラバヤ(「ストモ病院救急医療プロジェクト(1995-2000年)」)とバンドン(「生ワクチン製造基盤技術プロジェクト(1999-2001年)」)で1件ずつ実施され、さらに、バンドン、ジョクジャカルタ、マランで教育分野の技術協力(「初中等理数科拡充計画(1998-2003年)」)が実施された。技術協力の他、基礎保健医療分野の有償資金協力案件1件(病院改修)、無償資金協力2件(医療機材供与、施設建設)、基礎教育分野の無償協力が3件実施された(図7.15参照)。面積の比較的広いジャワ島において実施されたこれらの人口直接、間接分野の協力は、実施地域にばらつきがあり、協力の分野も個々の保健医療施設を拠点に実施された協力が多く、各案件間の相互補完関係が強いとは言い難い。従って、対象地域のリプロダクティブヘルスの向上を目指すプログラムとして、すでに7.2.1で説明した「包括的アプローチ」の論理性が充分確保されていたとは言い難い。
7.3.2 スラウェシ島における人口直接・人口間接分野の協力
一方、スラウェシ島においては、1997年まで、人口間接分野の有償資金協力1件(「保健所強化拡充計画(基礎保健分野)」)、無償資金協力2件(「地域保健所強化計画(基礎保健分野)」、「地域医療従事者訓練センター改善計画(基礎保健分野)」)が実施され、比較的広い地域となる南北スラウェシ及びスラウェシ島全域をカバーする協力が行われた。1997年から人口間接分野の技術協力が南スラウェシで2件(基礎保健及び女性のエンパワーメント)、1998年から人口直接分野の技術協力(母子保健)が北スラウェシで1件開始された。スラウェシ島においては、90年代後半に開始された人口直接分野の技術協力(図7.16人口直接分野の協力)と、間接分野の技術協力(図7.16の人口間接分野の左側の2案件)の対象地域の地理的重なりはみられない。しかし、1990年代半ばまでに行われた人口間接分野の有償、無償資金協力による地域保健医療の基盤整備(図7.16の人口間接分野の右側3件)と、90年代後半に開始された人口直接分野の技術協力(図7.16人口直接分野の協力)及び人口間接分野の技術協力(図7.16の人口間接左側2件)との相互補完性を読み取ることができる。
さらにインドネシア国内の複数の地域または全国を対象に行われた人口直接、間接分野の協力は、1994年から2000年の間に、人口間接(基礎保健医療)分野の有償資金協力が2件、無償資金協力が4件、人口直接分野(家族計画)の無償資金協力が1件実施された。今回現地調査で訪問した「母と子の健康手帳プロジェクト」の対象地域(北スラウェシ)では、2000年度の我が国の無償資金協力(「家族計画プログラム」)により供与されたピルが、近く配付される予定とのことであった。
図7.16 スラウェシ島における人口直接・間接分野協力の概念図![]() |
7.3.3 考察
GIIのもと、人口分野の協力をリプロダクティブヘルスの概念で捉えなおし、家族計画等の人口問題に直接資する協力と、基礎保健医療、初等教育、女性のエンパワーメント等の間接的な協力を併せて実施していくという「包括的アプローチ」の考え方は、1994年以降の一連の国際会議(国際人口開発会議、世界女性会議)で確認された人口問題に対する考え方と整合しており、その点で評価できる。
しかし、GII期間中「包括的アプローチ」の実施においては、人口直接、間接分野の協力を、リプロダクティブヘルスの向上を目指した「プログラム」として捉えなおし、「プログラム目標、戦略、プロジェクト」というベクトルで案件形成と協力の実施が行われなかった。また、「プログラム」として捉えられていなかったため、サブ・プログラム分野間の相互関連性の強化が特にはかられたわけではなかった。このため人口分野の協力案件の人口間接分野への偏重や、インドネシア、特にジャワ島の例にみられる人口直接、間接分野の協力の分散が生じたものと推察できる。
表7.1 我が国のインドネシアでの人口直接・間接分野の協力(1994~2000年)
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プロ技:プロジェクト方式技術協力、 無償:無償資金協力、 有償:有償資金協力 |