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6.5 教訓と提言

 1994年以来7年間実施されてきたGIIは各所で述べられているように、様々な特徴を持たせ、関係者がお互いに協力をしあって、これまでにはなかった新たな保健政策を思い切って打ち出してきた。 GII発足当初のUSAID東京事務所の代表は、GIIの良かった点として、以下をあげている。

<政策レベル>

  • NGOセクターを実に有効に巻き込んだ、
  • 人材交流をすることで日米のODAに関する事情をお互いに学び合え、より効果的な日米協調の方策が模索された、
  • GIIを通して国際社会における保健協力に関する日本の役割がより広く認知され、プログラムの規模、質とも向上した、また地球規模のリーダーとしての名を馳せた、
  • GII関連の議題による国際会議の開催等を通じて、日本が他のドナー国に対してリーダーシップを発揮することを可能にした、
  • ドナー会議や各種国際会議においてDAC諸国との連携をうまく図ってきた、
  • 南南協力を推進してきた、
  • 日米だけにこだわらない他のドナーとの連携を推進し多くのメリットを生み出した、
  • GIIの成果に基づいてIDIが新たに打ち出され(2000年)、日本が率先してリーダーシップをとった。
<フィールド・レベル>
  • 地元の政府やコミュニティーを巻き込むことで重要な情報やプログラムのサービスを広く行き渡らせた、
  • ローンとグラントの両方にアクセスを持ち、有効に組み合わせた、
  • 資機材の供与やインフラの整備を超え、人材の育成や技術や政策面での支援をしてきた。
と、これだけの利点を指摘している。更にはGIIからアメリカ側が学んだこととして、
  • 保健協力に関する包括的なアプローチによる成果の偉大さ
  • 開発の政策部門(外務省/在外公館)と実施部門(JICA)との強固な連携による効率性
  • 長期にわたるプロジェクトの実施による、その成果の持続性
  • 中央集権的なプロセスをとることの強みおよび弱み
をあげている。
 これらのポイントも参考にしながら、これまでのフィールドおよび日本国内における調査から得た教訓、浮かび上がってきた課題を元に提言を導き出した。提言は、ODAに対するもの、NGOに対するもの、そして日米連携に関するものの3つに分けて以下にまとめられている。

6.5.1 ODAに対する提言

 ODAに対しては、意思決定が迅速に進められるシステム、スムーズな経理システム、それに関連して在外公館/事務所により決定権を持たせるシステム作り(decentralization)、明確な目標設定、意思決定過程の透明性などが必要であり、あげられた提言が組織に反映していくようなシステムが築かれることも求められる。ここでは特に以下のことを提言したい。

(1)国別援助計画・国別援助実施計画へのNGOの参加
 GIIに関する外務省/NGO定期懇談会(現「GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会」)のNGOメンバーの中には保健医療、農村開発、環境など、多方面での専門性を持つNGOも多く、途上国でプロジェクトを実施している。今後、国別援助計画や実施計画を策定する場合には、現場の知見を活かすという視点からも、NGOの参加が必要である。そこで、国別援助計画ならびに実施計画の策定委員会には、GII/IDIのNGOメンバーから参加ができるような体制を提案したい。

(2)個人の努力と成果が組織に反映するODAシステムの構築
 特に日米連携がうまくいっている国に見られたことであるが、担当官・担当者の個人的な努力によって見事なコーディネーションがなされてきたことは高く評価されることであるが、その担当官・担当者が任期を終えて帰国したり転勤したりしてその場を離れると、それでぷっつり切れてしまう危険性を帯びたところも少なくない。
 せっかくその個人によって築き上げられてきたものが、日本の経験(institutional memory)として組織的に引き継がれていくようなシステムを構築していくことが必要であろう。 そのための提案として、

  • 保健セクターであれば、保健パッケージ全体を束ねる専門的知見を備えた人材が配置されること、
  • 現地に赴任してからの前任者からの引継ぎも大切であるが、その前に本省で引継ぎ事項等が整理され、赴任する前の段階でシステマティックナな引継ぎがなされること、
を挙げたい。

(3)ドナー会議への積極的な出席
 GIIの中間レビューの際にも提言としてあがっていた項目であり、部分的に実現され、まだ実現されていない地域・国もあるようであるが、再度提言として掲げたい。特にザンビアにおいて“日本の顔”としての役割を果たすべく、あらゆるドナー会議に出席し、日本としてのできること、できないことを説明して回った功績は非常に大きい。また世界の潮流を的確に受け止め、それを日本の関係者にフィードバックする動きも大切なことである。日本はコモン・バスケット方式のグループには入ってはいないもの、会議に出席することは大切である。世界の動き、各ドナーの方針を知るためには、このような絶好の場がないからである。
 足しげく通うことで、目には見えなくても大変な信頼関係を築き上げることに成功している例が存在するので、ぜひ他の国々でも推進していただきたい。
 その実現のために、

  • 大使館とJICA、または大使館内、JICA内で明確な役割分担をすること(プロジェクトのフィールド・レベルの活動とドナー協調のための活動を分け、それに専念できる環境を作るなど)、
  • 役割分担をする場合には、組織が縦割りになってしまわないよう意識的にコミュニケーションを図ることが求められる、
 中間レビューの際にも「十分な人員の配置」が訴えられているものの、なかなかそれが理想的な形での実現に至らないのには何らかの事情があると思われるが、その人員不足のポストに開発の現場を精通しているNGOのスタッフなどを登用する事例を作ることもアイディアである。スキームによっては、外部の人員を専門家派遣の形で受け入れるケースもあり実践もされているので、NGO側にそのキャパシティーがあれば不可能ではない。このことは、NGO(組織およびそのスタッフ)のためのキャパシティー・ビルディングの機会が増えていながら、そのプログラムをこなした人材がプログラム終了後に十分にODAの活動において活用されていないという現実を解消することにもつながる。以上の点を提案したい。

(4)積極的な現場訪問
 特定のプロジェクトの担当者が、現場を訪問しないことはないだろうが、特に草の根無償資金協力の担当官になると、選考することだけが仕事になってしまい、なかなか現場を視察したり、その選考前に事前調査をしたりすることができなかったりする。それらを実現させるためには、やはり上記と同様、役割分担とコミュニケーションの活性化を提案したい。

(5)現場の成果の情報共有
 このことは、敢えて指摘をされなくても十分になされていることであるとは思うがたとえば、日本国内で行われているGII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会において、NGOも調査団員として加わることがあたりまえとなったプロジェクト形成ミッションが出された後にスタートしたプロジェクト現場の話が話題とならないケースが多い。このことは、外務省本省/JICA本部と現場レベルでのコミュニケーションの強化が更に図られることも必要とされることであると思うが、現場からあがってくるプロジェクトの進捗やその国の現状などの情報が、外務省本省やJICA本部を通じて時折NGOグループにも伝えられると、メンバーNGOの意識にもっと変化が見られると予想される。

(6)更なるNGOとの連携;質の向上
 GIIを通して最も成果を残したと思われる内容のひとつは、特に定期懇談会の機会を通して良好な官民の連携が育まれてきたこと、そしてそれが年々強化され具体的な形として日本国内外、政策レベル・フィールドレベルの各方面に現れてきたことであり、そのことはメンバーNGOからのアンケート結果の報告の中でも再三述べられてきたことである。
 NGOの参画の機会という意味においてはこの7年間で大変拡大されてきていることがNGO自身にも認識されている。ただ、その現状に満足しているかどうかになると、必ずしも満足していない現状があることも明らかになった。
 今後は、

  • 懇談会において、より効果的な開発援助・協力の形を模索するための戦略的な対話を持つ(情報交換の次のステップへ)、
  • プロジェクト形成ミッションが出された後のプロジェクトの進捗等について懇談会においても話題とされ、議論されること、
  • 国際会議への政府代表団としてのNGOの参画の機会は確かに増えたが、それらをより長期的なスパンで捉え、その後のプロジェクト運営、政策立案において日本国内だけでなく国際社会のレベルにおいても意見が反映されていく環境をNGOとの共同作業で作り上げていくこと、
  • NGOの人材の積極的な活用(専門調査員制度などの有効活用)
が検討されることを提案したい。

(7)プログラム・アプローチ/SWAPの拡充
 GIIにおいては「包括的アプローチ」がコンセプトとして盛り込まれ、それに基づく政策が実践されてきた。既存のスキームを組み合わせるなどの工夫を凝らしてプログラム・アプローチ、保健政策のパッケージ化を模索し続けてきた。今後は、そのプログラム・アプローチに対応するファンドのタイプが作られていくことが求められる。
 IDIは、感染症に特化させ、その分野への集中的な活動を実践する環境を配慮したものであって、IDIそのものには包括的アプローチの概念は含まれてはいない。そのため、GII実施時以上に、あらゆるリソースを駆使して、その地域その地域にオリジナルの保健政策のパッケージを作り上げていく努力が求められる。これもぜひNGOとの連携によって実現させていくべき分野であると指摘したい。
 そのプロセスにおいては、保健分野だけの話に終わらせず、せっかく他の開発関連分野(農業、環境、教育など)のNGOもメンバーとなっているので、他の分野との連携も検討していく必要がある。

6.5.2 NGOに対する提言

 上記のODAに対する提言内容が少しでも実現されていくためには、これだけ官民の連携と言われる中で、NGO側の努力が求められることも多分にある。そういう意味で、NGOに対する提言もここに含めることとした。

(1)NGOコーディネーション
 各国のフィールド・レベルにおいて、ドナー・コーディネーションは強く叫ばれ、その国の状況・環境に応じた形で進められていることがうかがえる。そのドナー・コーディネーションとあわせ、NGO側のコーディネーションも必要であることを指摘したい。1-2のNGOが事務的な負担を背負わなければならないようなフォーマルなネットワークではなく、声をかければいつでも集まれる適度な柔軟性を持った緩やかなネットワークが現状に適していると思われる。
 日本国内においてもネットワーク化が進み、NGOコミュニティーとして動くことが可能となり、NGOを取り巻く環境が大きく変わる過渡期にある。この波を生み出す原動力はコーディネーションにあり、そのことによって官民連携は益々促進された現状がある。
 NGOのコーディネーションが進むことにより期待されることは、

  • NGOには様々な異質のものを結びつける能力がある。柔軟性である。IDIはGIIのような包括的なアプローチの性格を持たないので、別の“ボンド”が必要となる。NGOとの連携はGIIの包括的アプローチの考え方をGIIが終了した今後も、IDIを機軸として側面的にサポートし実践していくという点で益々重要になる。
  • ODAのスキームでは困難な、分野(保健、農業、環境、教育など)の違うものを結びつける、分野を超えた活動を実現する役割もNGOであれば担える。日本国内のGII/IDIのNGOネットワークには多種多様な分野のNGOが参画している。その連携が現場レベルでも実現されるには,NGO側が積極的に動くことが期待される。
 以上のことから、NGOのコーディネーションを提案したい。

(2)各分野別NGOネットワークとの連携促進
 各NGOとODAの連携に加えて、GIIに関するNGO連絡会の経験は、1994年以来保健分野(その他の分野を含む)ネットワークの在り方を示していると考える。ODA実施上の政策提言のみならず実施面に南のNGOの視点を紹介したり、橋渡しをしたりしたことは、ネットワークに広い守備範囲を持たせることを可能にした。日本の参加NGOが補完しあう形で様々な活動が実施されてきた。たとえば、調査(GIIの中間報告、GO/NGOの協調、今回の最終評価など)が挙げられる。
 今後、コンソーシアムを組んでいくつかのNGOが共同してプロジェクトを南のNGOを含めて実施するような形へ動いている。今後は、そのコンソーシアムから発展させ、NGOネットワーク同士の連携、分野を超えた連携が求められる。このことは先の1)と同様、NGOコミュニティーへの提案であると同時に、ODAに対しても、ODA予算削減の中でもこのような動きを支援する方向を促進する支援を求めたい。

(3)国の政策を意識した活動の実践
 その国の国家開発計画、方針等にNGO自身がより敏感になり、大きなフレームワークにおける自分たち自身の位置、役割を認識しながら活動に望む発想を持つことが求められる。このことは、上記1)および2)のNGO側のコーディネーション化が進みNGOの専門性が寄せ集められれば、より実現されやすくなるものと期待される。

(4)NGOの参加意識の強化
 日本国内においては、GIIならではの動きがGIIの最終年であった2000年度に見られた。それはNGOグループ主催によるGII国内広報キャンペーンの実施である。ジョイセフ/オイスカが共同でアメリカの民間財団にあててプロポーザルを提出し、NGOグループの協力体制によって実施が可能となった。このような広報活動の実践は、ぜひNGO側も積極的に参画して実践されることを提案したい。
 GIIの成功は、NGO自身の努力によるところも大きい。ODAに対する要望だけではなく、逆にNGO自身にできることは何かを常にネットワーク全体で考え、情報交流への積極的な参加、ネットワーク強化の努力等を実践してきたことが、成功のかぎであった。
 本当に官民の連携を実現させ、維持していくためには、それに耐えうるNGO側の力量が求められる。そのプロセスの中で、NGO間の格差が生まれてきているのではないか、いわば日本のNGO間での“南北問題”が生じつつあることも指摘されており、NGO自身によるNGOコミュニティーへの更なる貢献がもとめられていることも付記しておきたい。

6.5.3 日米連携に関する提言

 最後に、日米連携に関して以下の点を提言したい。

(1)現場レベルでの日米連携の推進
 日米コモン・アジェンダ(およびそれに続くブッシュ政権下の日米協調の枠組み)やCSO連絡会(アメリカ側、「日米官民パートナーシップ:P3)など、本国同士の連携は様々な形で官民、それぞれのレベルで実践されているが、現場における日米の連携がより進められることを提案したい。日米である必要はなくても、日米連携が必要のない国もない。
 日米のスキーム、アプローチの仕方、順番などに違いがあるため、実際の日米連携を推進するには事務レベルでの混乱は避けられず試行錯誤の段階ではあるが、よりダイナミックで、より大きなインパクトを与えうるプロジェクトが日米連携によって将来的に実現されることが期待される現場も出てきている(例:ザンビアのケース)。日米によるプロジェクトの共同実施を実現するためには、プロジェクトの形成の段階からもっと近い距離で共に作業をする必要がある。具体的なポイントとして以下の点を提案したい。

  • 日米では合同のプロジェクト形成調査団は出すものの、その後のフォローが個別になりがちで、二国間の相乗効果が生み出せない。打開策が必要。
  • GIIはグラス・ルートを中心に実践してきたが、そのグラス・ルートの活動は継続しつつも、それを国レベル、地域レベルに引き上げていく必要がある場合には、現場レベルでの日米連携は有効である。これまでの成功した事例に、よりインパクトを持たせる努力をする。
  • JOCVと平和部隊との連携が可能になれば、より現場レベルの連携を実現可能にする。
(2)コモン・バスケット方式に参加しない国同士の新たな連携の模索
 上記の現場レベルの日米連携の推進とも関係するが、日本もアメリカもコモン・バスケット方式には参加しないスタンスをとっているので、コモン・バスケット方式に参加しなくてもやっていける代替的なモデルが日米の協調によって築かれていくことが今後は必要である。

(3)日米協調によるコントラセプティブ・セキュリティーの強化
 日米協調案件の具体的なテーマとして、コントラセプティブ・セキュリティーの強化を提案したい。最近のUNFPAの報告によると、世界中でいまだ3億人・カップルが"unmet needs"人口であるといわれており、需要の高さに対応が追いついていないのが現状である。最近の日本のODAではこの分野においても実践の可能性が確実になってきたが、枠組みとして持ちにくい環境がまだあるならば、この分野で日米の両者が補完しあい、効果的な活動を展開することが望まれる。

(4)日米と南のNGO
 日米の連携は、日本がアメリカだけを、アメリカが日本だけを見ていては実現しない。開発のパートナーとして手を結ぶには、視点は常に途上国自身になければならない。現地の政府やNGOも巻き込みながら、同等のパートナーとしての三者による連携が今後は益々重要になる。
 また、一国を対象にしたものよりも大きなインパクトを持たせるためには地域を対象としたプロジェクトの実施が期待されるが、南々協力などの三者協力の形をとるとその実現が可能になる。
 GIIの7年間で築かれてきたものは実に大きい。日本国内で共に培われてきたものが、フィールドにおいても生きている。GIIは終わりすでにIDIがスタートしているが、そのIDIにおいてもGIIで培われてきたものが確かに息づいている。今後はそのGII/IDIの分野で基礎を他の分野にも反映させていくような働きかけが求められる。より効果的な開発協力の実現のために、必要なことは時間がかかっても実践し続ける努力が求められる。
 それぞれの当事者が当事国の一人一人にとって良きパートナーとしてお互いの役割を担い、補完しあい、相乗効果をもたせながらともに歩んでいくことで、地球規模問題の解決の一端を担いたいとNGOは希望している。

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