6.4 GIIの官民連携による日本国内に与えてきた影響
これまでは主にフィールド・レベルで与えてきたインパクトを見てきたが、このセクションでは、日本の国内にGIIが与えてきた影響について触れる。個別のプロジェクト評価では決して触れられない部分であるが、保健分野にとどまらず広く国際協力・開発協力に与えてきた影響、効果は多大なるものであり、GIIが残してきた成果として強調されるべき部分でもある。GII(およびIDI)に関わってきたメンバーNGOへの影響と、それ以外の部分を含めたNGOコミュニティー全体に与えた影響の二つの側面から検証する。
6.4.1 GII/IDIグループに見られたインパクト
ここでは、GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会のメンバー団体に対して実施したアンケート調査結果を紹介する。
(1)調査概要
調査名称: |
「GII評価調査」における官民連携に関する調査 |
調査目的: |
GIIという政策の元で日本が投入してきたインプットの相手国政府の保健政策に対する整合性・妥当性およびそのインパクトを調査。その中でも、NGOの比較優位性、NGOの果たしてきた役割とNGOとしてのGIIに対する見解を調査することによって、最終的に今後の日本発信の保健政策への提言をまとめる。 |
調査対象: |
平成13年12月27日現在のGII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会メンバー(41団体) |
調査時期: |
平成13年12月27日~平成14年1月22日 |
調査方法: |
アンケート用紙を対象者あてに郵送し、回答用紙に回答。 |
回答方法: |
原則として、選択肢より最もふさわしいと思われるものを一つだけ選択。ただし複数回答可の場合はあてはまると思われるものすべてを回答、自由回答の場合は自由に回答。また「その他」を選択の場合は、具体的な内容を付記。 |
回答用紙回収方法: |
郵便、ファックス、電子メールのいずれかの方法にて担当者あてに期日までに返送。 |
(2)調査結果
有効回答数は20件(48.8%)であった。
a. NGOの参画について
- GIIのプロジェクト形成調査団参加経験のある団体…5団体(25.0%)
- GIIのプロジェクト実施経験のある団体 …3団体(15.0%)
- NGOの参画の機会は7年間(1994年4月―2001年3月)で「大変/まあまあ増えた」と思う…16団体(80.0%)
- 「参加の機会の質が変わった」…2団体(10.0%)
b. 「包括的アプローチ」について
- 包括的なアプローチを取ったことがNGOのGIIのプロジェクトへの参画の機会を増やすのに「大変/まあまあ貢献した」と感じる…15団体(75.0%)
- 「包括的アプローチ」のかぎとなっていたリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(以下、RH/RRと表記)について、
「よく知っている」…12件(60.0%)
「多分分かっていると思う」…4件(20.0%)
「どちらとも言えない」…2件(10.0%)
- 「包括的アプローチ」が、RH/RRの概念を広くコミュニティーに知らしめることに貢献したかどうかについて、
「大変貢献した」と思う…2 件(10.0%)
「まあまあ貢献した」…6件(30.0%)
「どちらとも言えない」…7件(35.0%)
「あまり貢献していたとは思えない」…2件(10.0%)
- 「包括的アプローチ」によって女性のエンパワーメントが促進されたかどうかについて、
「大変促進された」 …3件(15.0%)
「まあまあ促進された」 …8件(40.0%)
「どちらともいえない」 …5件(25.0%)
c. 既存のプロジェクト・スキームの活用について
- 既存のプロジェクト・スキーム(有償資金協力、無償資金協力、技術協力、草の根無償資金協力、NGO事業補助金、開発パートナーなど)を活用することによって、リソースの有効活用につながったかどうかについて、
「大変つながった」 …2件(10.0%)
「まあまあつながった」 …9件(45.0%)
「どちらとも言えない」 …6件(30.0%)
- 既存のプロジェクト・スキームを活用したことによってGIIのスキームを活用しやすくなったかどうかについて、
「大変使いやすくなった」 …0件
「まあまあ使いやすくなった」 …7件(35.0%)
「どちらともいえない」 …8件(40.0%)
- 「どちらともいえない」と感じる理由としては、
―GIIによる取り組みは包括的であるため、ファンドのタイプも包括的であることが望ましい。一部を切り抜いてプロジェクトを立ち上げるなら既存のスキームでもよいが、ひとつの大きな取り組みして捉え、その全体年としてのインパクトを図りたいならスキームも包括的にすべきだと思う。
―GIIだけの資金はなかった。つまり既存のスキームを使っての実施だったから。考え方は新しいがその適用は担当者(NGOも政府も)次第、などが挙げられた。
- 既存のプロジェクト・スキームを活用することによって、NGOのGIIのプロジェクトへの参画の機会を増やしたかどうかについて、
「大変増やした」 …1件(5.0%)、
「まあまあ増やした」 …9件(45.0%)
「どちらともいえない」 …4件(20.0%)
- 既存のプロジェクト・スキームを活用することによって女性のエンパワーメントが促進されたかどうかについて、
「大変促進された」 …0件、
「まあまあ促進された」 …8件(40.0%)、
「どちらともいえない」 …7件(35.0%)
「あまり関係ない」 …1件(5.0%)
d. 二国間・多国間の協力について
- 二国間・多国間協力によって新しいNGOとの出会いがあった。
- その新しい出会いがあったことでGIIの届く範囲が広がった。
- 二国間・多国間協力によってRH/RRの概念が広く伝わったかについて、
「大いに広がった」 …1件(5.0%)、
「まあまあ広がった」 …9件(45.0%)
「どちらともいえない」 …6件(30.0%)
- 二国間・多国間協力によって女性のエンパワーメントが促進されたかどうかについて、
「大変/まあまあ促進された」 …9件(45.0%)、
「どちらともいえない」 …7件(35.0%)
e. NGOとのフィールドにおける連携によるインパクト
- NGOの参画の仕方については十分だったかどうかについては、
「まあまあ満足している」 …7件(35.0%)
「どちらともいえない」 …6件(30.0%)
「あまり満足したとは言えない」 …5件(25.0%)
- GIIの7年間でNGOの参加が可能になったもの、また参加の機会が増えたと思われるものは、
プロジェクト実施への参加 …14件(70.0%)
事前調査への参加 …13件(65.0%)
他ドナー、他機関との意見交換会への出席…11件(55.0%)
評価(終了時・事後)への参加 …10件(50.0%)
モニタリング評価への参加 … 9件(45.0%)
事前調査その他の報告書に関する情報の共有…8件(40.0%)
事前調整委員会への出席 … 7件(35.0%)
報告書の作成 … 4件(20.0%)
- NGOの参画が可能になったことによってNGO自身が変わったかどうかについて、
「大いに変わった」 …4件(20.0%)
「まあまあ変わった」 …7件(35.0%)
「どちらともいえない」 …6件(30.0%)
「あまり変わらない」 …2件(10.0%)
- NGOの参画が地元の人々のプロジェクト・サイクルへの機会を増やしたかどうかについて、
「大変/まあまあ増やした」 …10件(50.0%)
「どちらとも言えない」 …5件(25.0%)
- NGOの参画によってプロジェクト・サイクルの早い段階から現地の人々の参画を可能にしたかどうかについて、
「大いに貢献した」 …4件(20.0%)
「まあまあ貢献した」 …7件(35.0%)
「どちらともいえない」 …5件(25.0%)
- NGOの参画がより現地政府の保健政策に対応しやすくなったかどうかについて、
「大変/まあまあ対応しやすくなった」 …11件(55.0%)
「どちらとも言えない/あまり対応できていない」…4件(25.0%)
- NGOの参画によって広くRH/RRの概念が広がったかどうかについて、
「大変/まあまあ貢献した」 …13件(65.0%)
「どちらともいえない/あまり貢献していない」
…6件(30.0%)
- NGOの参画によって女性のエンパワーメントが促進されたかどうかについて、
「大変/まあまあ貢献した」 …12件(60.0%)
「どちらともいえない/あまり貢献していない」
…5件(25.0%)
- 何らかの形でGIIにかかわりをもつ事によって自分自身のODAへの見方が変わったかどうかについて、
「多少変わった」 …13件(65.0%)
- どのように変わったかについては、
―具体的なことがらについての情報交換の場に参加でき、ODAプログラムについての理解が深まると同時に、官民パートナーシップを構築するさいに双方が努力して乗り越えなければならない壁についてわかるようになった(4件)、
―外務省側にNGOとのパートナーシップを重視する姿勢が少なくともあることがわかった(3件)、
―これまでエイズ対策分野で経験してきた厚生労働省のNGOに対する姿勢とはかなり異なっていると思った/批判の多かったODAが改善される可能性を感じた/ODAの必要性、重要性を再認識することができた。(3件)
―今後ODAとNGOとの“協業”の機会が増加していくべきであるという考え方が浸透してきた(2件)、
―ファンディングのスキームの動向の情報を得やすくなった、
―政府との直接対話によって変革を促進できるから、など。
- NGOが入ること自体で一般の方のODAの見方が変わったと思うかどうかについて、
「大いに変わった」 …2件(10.0%)
「多少変わった」 …7件(35.0%)
「どちらとも言えない」 …5件(25.0%)
「あまり変わらない」 …3件(15.0%)
「まったく変わらない」 …1件(5.0%)
f. NGOとの国内での連携について
- この7年間で、政策立案のプロセスにNGOの意見が含まれたと思うかについて、
「まあまあ反映された」 …13件(65.0%)
- プロジェクト形成調査団にNGOが含まれたことによって、この7年間にNGOの視点がプロジェクトに反映されたかどうかについて、
「まあまあ反映された」 …13件(65.0%)
- プロジェクトの実施にNGOがパートナーまたは実施者として含まれることによって、この7年間にプロジェクトの内容にNGOの視点が反映されかどうかについて
「まあまあ反映された」 …14件(70.0%)
- 国際会議(政府間会議等)へのNGOの参加によって、この7年間で(日本の)NGOの視点が国際社会で受け入れられるようになったかどうか、
「まあまあ受け入れられた」 …10件(50.0%)
「どちらとも言えない」 …6件(30.0%)
「ただ参加・発言させていただいただけで個人的な関心で聞いてくださる方はあった」 …1件(5.0%)
- 国際会議政府代表団へのNGOの参画が認められたことによって、この7年間で日本のNGOの視点が国際社会に影響を与えたかどうか、
「まあまあ影響を与えた」 …12件(60.0%)
「どちらともいえない」 …5件(25.0%)
- 国際会議へのNGO参加、政府代表団のメンバーとしての参加によって、この7年間でNGO自身が影響を受けたと思うかどうか、
「大いに学ぶことが多かった」 …9件(45.0%)
「多少影響を受けた」 …9件(45.0%)
- ODA関係者の研修プログラムへNGOの参加が認められることにより、この7年間でNGOのキャパシティーが向上したかどうかについて、
「非常に/まあまあ向上した」 …15件(75.0%)
「あまり効果が出ていない」 …1件(5.0%)
- NGO主導のNGOのための能力開発プログラム(政府よりの支援)の実施は、NGOのキャパシティーを向上させたかどうかについて、
「非常に有益である」 …4件(20.0%)
「まあまあ有益である」 …11件(55.0%)
「どちらとも言えない」 …2件(10.0%)
研修プログラムを終了したNGOの人材がこの7年間でODAプログラムにうまく活用されたかについて、
「大いに活用された」 …0件
「多少活用された」 …4件(20.0%)
「どちらともいえない」 …6件(30.0%)
「あまり活用されていない」 …3件(15.0%)
「実態を知らない」 …5件
- この7年間にNGO間での協調プログラム・プロジェクトが生まれた団体…7団体(35.0%)
実例) 世銀の北ヴェトナムの貧困削減案件、
グアテマラでのコンサベーション・インターナショナル (CI)とジョイセフとの連携による現地NGO支援、
パプア・ニューギニアでのオイスカとCIとの連携による現地NGO支援、
今後アフガンで生まれる可能性がある、など。
- GIIの7年間によって、保健部門の政策に基づくプログラムがNGOの参画しやすいものとなったかどうかは、
「大変/多少参画しやすくなった」…14件(70.0%)、
- 保健部門の政策に基づくプログラムが日本のNGOの強みが生かされるものとなったかどうかについて、
「まあまあなった」 …9件(45.0%)、
「どちらとも言えない」 …5件(25.0%)
- 日本のNGOの強みが生かされるものとなったと思う理由として、
― ジョイセフのフィールドでの活動(3件)、
― ソフト面での支援も日本のODA政策に含まれるようになり、その部分をNGOが担えるようになった(3件)、
― エイズ予防プロジェクト、
― プロジェクトの種類は増えたためNGOの大小にあわせて申請できる、
― 現場のNGOと日本のNGOの連携により両国での政策提言が可能になった、
― タイでのシェアのようにタイ政府の保健政策の一端を担うようにもなっている、など。
g. GIIの7年間が新スキームに与えたインパクトについて
- GIIが終了し、NGOの参画がこれまでと同様、もしくはそれ以上考慮されているかについて、
「大変考慮されている」 …5件(25.0%)
「まあまあ考慮されている」 …10件(50.0%)
- 上記の「大変/まあまあNGOの参画が考慮されている」と思う理由として、
―GIIからGII/IDIになっても外務省/NGOの定例会が続いており、その内容も変わっていないから(3件)、
―国連エイズ特別総会/感染症対策沖縄国際会議/TICADⅢなどではNGOからも政府代表団に参加した。少しずつ成果は積み上げられていると思う(3件)、
―外務省との連絡が密になった/懇談会でのインターアクション(2件)、
―IDIに移行してもNGOの参加に引き続き力点をおいていただいてきた。ただし外務省の担当者が入れ替わってもコミットメントの度合いについても引き継がれるよう、お願いしたい、
など、NGOは欠かせない存在となっていることが明らかであることがNGO自身によって認識されていることが浮き彫りになった。
- GIIが終了し、RH/RRの視点がこれまで以上に強化されているかについては、
「大いに強化されている」 …2件(10.0%)
「多少強化されている」 …7件(35.0%)
「どちらとも言えない」 …6件(30.0%)
「あまり強化されているとは思えない」…2件(10.0%)
- 上記の「どちらともいえない/あまり強化されていると思えない」理由としては、
―性感染症のウェイトが大きくなっている気がする(3件)、
―IDIは包括的アプローチではないから(2件)、
―終了してそれほど時間がたっていないので不明、など。
- GIIが終了し、NGOの提言、調査内容が反映される仕組みが十分に確立しているかどうかについては
「十分に確立されている」 …0件
「まあまあ確立されている」 …13件(65.0%)
「どちらとも言えない/あまり確立されたものがない」…6件(30.0%)
以上のアンケート結果の内容は8つのポイントにまとめられる。前半の4点は、この7年間の成果として今後も継続していきたいこと、また後半の4点は今後の課題点として分類できる。
<GIIの7年間の成果として今後も継続していきたい点>
- 政策対話から始まりODA案件のプロジェクト・サイクルの全てのプロセス(政策立案・計画、プロジェクト形成、実施、モニタリング、最終評価など)においてNGOの参画が可能となった。その他、国際会議においてNGOも政府代表団の一員として参画、またODA関係者を対象としていた人材養成の研修プログラムへの参加だけではなく企画の段階へもNGOが参画可能となった。
- プロジェクトの形成/実施において、および国際会議を通した国際的な行動計画の規範づくりの過程において、NGOの視点が反映されるようになった。
- GIIを土台として2000年7月にIDI(=沖縄感染症対策イニシアティブ)が日本政府によって発表されたこと、またGIIが終了しIDIが新たに発足した後も、「GII/IDIに関する外務省/NGO定期懇談会」として、懇談会が継続して実施されることとなった。
- 懇談会のNGOメンバーのイニシアティブにより「GII国内広報キャンペーン」が2000年に開催されたほか、九州・沖縄サミットのフォローアップ会議として開催された感染症対策沖縄国際会議(2000年12月;メンバーNGOの参画・発言が認められた)の前には、世界エイズ・デーである12月1日にプレス・カンファレンスをNGOグループのイニシアティブで実施、また会議後には会議に参加できなかった方々へのフィードバックを目的としたシンポジウムを開催した。官民だけではなく、NGO同士の連携も深まったことが形として現れてきた。
<今後の課題点>
- GIIはリプロダクティブ・ヘルス/ライツを貴重とした包括的なアプローチをとることを基本精神としたイニシアティブであったものの、それに対応するGII独自のファンドがあったわけではなく、既存のものを工夫して寄せあわせ、組み合わせる必要があった。在外の担当官でもGIIの存在を認識しておられないケースが時々見られたが、その原因の一つとも考えられる。
- GIIでの体験を活かし、IDIが新たに発表にはなったものの、感染症に特化したイニシアティブであり、包括的なアプローチをうたったものではない。GII以上に工夫して既存のものをうまく組み合わせることによって、包括的なアプローチを意図的に作り上げることが求められる。
- GII国内広報キャンペーンをGIIにかかわってきたNGOグループのイニシアティブで外務省の協力を得て実施されたこと、また感染症対策沖縄会議前後プレス・カンファレンスおよびシンポジウムについては、外務省および厚生労働省の協力のもと、やはりNGOが中心となって実施されたが、これらの活動資金は日本政府のものではなかった。パブリック・サポートを得ることの重要性をお互いがよく認識し、今後はひとつのプログラムをデザインする段階から広報活動を組み込んでいくことが求められる。
- 政策レベルにおいてはNGO自身が「NGOも参画している」、「NGOの声が多少なりとも反映されている」との認識がなされているものの、フィールド・レベルの話になると、必ずしもその認識が感じられない。これは、定期懇談会の中でプロジェクト形成調査団派遣の事前の打診・相談がなされ、NGOの参画があたりまえにはなってきたものの、その後の経過に関する報告があまりなされていないことが原因していると思われる。今後の懇談会においては、より効果的な日本発信の国際協力・開発協力・保健戦略を実現させるための場としていくことが望まれる中で、せっかく開始に至ったプロジェクトの進捗、成果、課題点などが議論されることが望まれる。
6.4.2 NGOコミュニティー全体に与えた影響
(1)NGO/NPOネットワーク
GII/IDIを機軸とする保健分野のNGOネットワークが、他のNGOの分野へも波及効果をもたらしている。定期懇談会を通じて接触する機会が増えることで、お互いがお互いの事情がわかるようになり、単に良い/悪いの評価的な議論ではなく、それがなぜ良いのか、また例え悪いと判断されても、どうすればそれが良くなるのかという分析に議論がシフトしてきている。
こういった両者の姿勢によって、政策を組み立てていく段階においてNGOの意見が求められたり、またNGO側から自発的に提案したことが考慮されたりする雰囲気が作り上げられてきた。「保健グループでできたのだから、他のグループでも大丈夫だろう」という安心感が漂いはじめたのもそのためである。
NGO/NPOが主流メンバーとなっているネットワークが現在日本国内に35はリスト化されている。最大のものとしては、JANIC(NGO活動推進センター)というNGOのアンブレラ組織がある。GII/IDIのNGOグループもその35のネットワークの一つとカウントされている。また、日米コモン・アジェンダの流れを受け、民間組織(NGO/NPO,企業財団等)だけで自発的に発足したCSO連絡会(2000年1月発足)もその一つである。年に1回のペースで“CSOフォーラム”を開催し、日米のNGO/NPOが一同に会する場所に日米のODA関係者、マルチ・バイの諸機関等が集まり、民間レベルのジョイントによる具体的な案件形成やNGO/NPOの支援策について議論されている。
また、緊急援助のより効果的な活動を目指すため、外務省、経団連、NGOがメンバーとなった新たな形のネットワークとして2000年8月に結成されたジャパン・プラットフォームの発足は話題を呼んだ。
その後、保健医療分野のNGOネットワークであるGII/IDIグループに倣う形で、2000年には農業分野の農業・農村開発NGO協議会(JANARD)、同様に2001年には教育分野の教育協力NGOネットワーク(JNNE)が相次いで発足した。その他あげていくとまだまだあるが、同じ団体がいくつものネットワークに所属するケースも増えてきており、そのことで、特に都心のNGO同士の横のつながりが急激に強化され、情報の行き交いが活発になってきた。
にわかに日本のNGOが脚光を浴び始めた状況も手伝い、NGOコミュニティー全体としてバイ/マルチの関係諸機関との接触を持ち、NGOコミュニティー全体の支援策や連携のあり方を模索する動きがにわかに増えてきた。個々のNGOが個別に動くよりも、ネットワークとして発する言葉、メッセージの方が数倍の効果を持つことは明白である。また、各NGOグループとの対話の機会、情報交換の機会も激増し、益々NGOコミュニティーを活気付けている。
こういった世の中の現象を生み出した要因は様々であるし特定する必要もないものであるが、GIIの7年間が少なからず影響したことは確かである。ODA関係者の間にも、「保健グループでやってこれたのだから、ほかも大丈夫だ」という安心感があったことは事実であろう。
(2)人材養成/能力開発プログラム
もう一つ、新たに近年起こってきた現象として、日本のNGOに対する人材養成/能力開発のプログラムが激増したことがあげられる。
2000年7月の九州・沖縄サミットの直前の5月、通貨危機の後遺症からまだ完全に立ち直りきれないアジア地域の貧困削減の手助けをすることを目的として、日本政府は世界銀行とアジア開発銀行にそれぞれ100億円規模のファンドを出資した。日本政府の出資した資金であるからという理由で、GIIのNGOグループの姿をよく知っていたことも手伝い、日本のNGOがそれを活用して貧困削減を目的とした開発プロジェクトの実施にかかわることが奨励された。
しかし現実の問題として、国際社会における競争力という観点から見ると、日本のNGOの環境整備は不十分であるとの指摘が日本内外から聞こえており、日本のNGO自身からも出されていた。そこで、世界銀行が日本およびアジアのNGOを対象にしたキャパシティー・ビルディングのプログラムを実施した。それが呼び水となって、外務省自身が日本のNGOに対し、キャパシティー・ビルディングのプログラムを実施する運びとなり、保健医療のGII/IDIグループ、農業のJANARD、教育のJNNEの3分野のネットワークに委託し、自主企画によるNGO研究会(アンケート調査の回答の中にも出ていた“GII/IDIの勉強会”とはこのことを指す)と、USAIDとの連携によって外務省主催で実施された短期研修との二つのプログラムが2001年度には開催された。これらは、NGOに対するニーズ・アセスメントを実施した結果、組織・事業運営能力向上に関する支援を要望する声が高かったことを受けてのことでもある。
GIIを通して人材養成に対する要望は出され続けており、FASIDとの連携によって様々な道が日本のNGOにも開かれてきたことは一つの大きな成果でもあるが、それ以上に人材養成/能力開発の機会が増え、日本政府が日本のNGOの環境整備へ力を注いでいることはありがたいことである。今後は、これらの機会を通して学んだことを具体的な形で成果として出していくことも求められる。