6.3 GIIの官民連携の現場レベルにおける成果
6.3.1 官民をつなぐツール
GIIにおいて官民の連携を実現したツールは、国内においてはGIIに関する外務省/NGO定期懇談会であった。現場レベルにおいては、草の根無償資金協力、開発福祉支援事業、開発パートナー事業等のスキームであり、これらを活用し具体的な形での官民の連携が図られてきた。
(1)草の根無償資金協力
開発途上国の多様な援助ニーズに応えるため、平成元年度に導入された制度であり、開発途上国の地方政府、教育・医療機関、および開発途上国において活動しているNGOなどが実施する比較的小規模なプロジェクトに対し、当該国の諸事情に精通している各国の日本大使館が中心となって資金協力を行っている。草の根レベルに直接手が行き届くきめ細かい援助を目指したもの。
本協力プログラムがスタートして以降2001年3月までの実施案件合計1,523件のうち、22.9%に相当する349件(金額ベースでは24.2%)は保健・医療分野、また基礎生活分野(保健・医療分野、基礎教育分野、民生・環境分野を含むベーシック・ヒューマン・ニーズ案件)に該当するプロジェクトが実績として多数を占めている。
(2)開発福祉支援事業
日本の社会福祉分野での経験を踏まえつつ開発途上国における福祉向上活動を推進するため、現地で活動を展開しているNGOや地域組織の協力を得て、住民参加による福祉向上のモデル事業をJICAを通じて実施するもの。保健衛生改善、高齢者・障害者・児童等支援、女性自立支援および地場産業振興支援など。またその分野に関する短期専門家の派遣を通じ、現地のNGOなどへの技術指導も実施している。平成9年度より技術協力予算の枠内で予算を計上しているもので、平成12年度の実績として14件分(3.97億円)の予算が計上された。
(3)開発パートナー事業
途上国では住民参加型の社会開発や政策形成に関する知的支援など協力ニーズの多様化が進むと共に、現地NGO、住民組織などの市民社会の役割が増大すると同時に、途上国における民営化や民間セクターの活性化の流れが活発化する中で、幅広い知見と機動的なネットワークを有す日本のNGO、大学等が途上国の開発において果たしうる役割も増大した。その背景を踏まえて平成11年度に新規に予算が認められ(JICA)、ODA事業において民間団体、特にNGO、大学、地方自治体などの非営利団体の参画を促進し国民参加の裾野を広げて行くための具体的な枠組みが出来上がりスタートした事業。多彩かつ草の根レベルに届く国際協力、互い(官民)のノウハウと経験の融合、成果を重視した協力(3年以内でプロジェクト実施可能)、受託団体の実施体制強化(管理費等の必要経費が含まれる)等を特徴としている。対象国は25ヶ国、社会開発分野、環境保全分野、知的支援分野が事業対象となっている。社会開発分野には、コミュニティー開発事業、高齢者、障害者、児童等支援事業、保健衛生改善事業、女性自立支援事業、生活環境整備事業、人材育成事業、地場産業振興事業、その他地域住民に対する知識や技術の普及に資する事業が含まれる。
(4)プロジェクト方式技術協力
専門家の派遣、研修員の受入れ、機材の供与という3つの協力形態を組み合わせ、ひとつのプロジェクトとして実施される協力。プロジェクトには数名の長期専門家と、必要に応じて短期専門家が派遣される。プロジェクトの中で専門家から技術を伝えられている現地の技術者は研修員として来日し、関係機関での研修を通してさらに技術を高める。またプロジェクトを運営するために必要な機材も日本から供与され、効果的な技術移転に役立てられる。プロジェクトが行われる建物は、日本の無償資金協力で建設するケースもある。このようにいくつもの援助形態を組み合わせことによって効果的な技術移転ができるという特徴をもっている。プロジェクトの実施機関は通常5年(必要に応じて延長することもある)で、プロジェクト終了後3年以上たった案件についても、必要があればアフターケアを行っている。現在、社会開発、保健医療、農林水産業、産業開発の分野でプロジェクトが実施されており、プロジェクトを基点に国内、さらには周辺国への技術普及に役立っている。
その他にも、NGO(国際NGO、日本のNGO、南のNGOを含む)がGIIとの具体的な接点を現場レベルで持つきっかけとなるものは存在するが(NGO事業補助金、ボランティア貯金など)、本章ではとくに主だったものとして上記の(1)~(3)の3つのスキームに絞っており、(4)のプロジェクト方式技術協力については、NGOとの連携の事例を現地調査した部分にのみ触れることとした。
以下のセクションで、これらのツールを活用した官民連携によるプロジェクトの実施の具体的事例と、それらがフィールド・レベルで与えたインパクトおよび整合性、妥当性を検証する。
6.3.2 官民連携によるインパクト
ここでは、NGOの調査団員がフィールドの調査に出た3ヶ国(タイ、バングラデシュ、ザンビア)における官民連携の具体的なケースを見ながら、フィールド・レベルでのGIIのインパクトを検証する。
(1)タイ
a. GII全体について
タイのGIIはエイズ関連プログラムが対象となっていた。これはタイでのエイズ問題が社会的に重要であるということに加えて、人口問題に関しては既にタイはある程度解決をしているという認識があったためである。これはGIIの発足当時、2つの援助分野である人口とエイズの実施については、国別の優先度を考慮していたことを示している。日本からのGII関連の援助協力は草の根無償資金協力とプロジェクト方式技術支援のみである。
今回の評価では大きく二つのことを指摘したい。第一は、日本のNGOであるシェア(国際保健協力市民の会)がタイ政府と協力してエイズ対策の一環を担っていること、つまり、政府のエイズ対策政策を理解した上で、政府が出来ない活動またはNGOの方が効率性の面においても効果をあげやすいと思われる活動をシェアが実施しており、しかもそのための活動資金はタイ政府の予算から支出されているという点である。これはNGOが提示するモデルを政府が取り上げて、政府プログラムとして採用し、より多くの住民がその恩恵を受けているということであり、官民の連携としては望ましいあり方を明示していると言えよう。
第二は草の根無償資金協力の資金配分に関して、GIIが始まった1994年以来、保健分野への配分が確実に増えていることである。
b. GIIにおける官民連携
シェアは、タイのエイズ問題解決を目指した活動を推進してきたNGOである。シェアはGII関連では草の根無償資金協力の資金を得て、車両を購入して活動の範囲を拡大させることに成功した。政府との連携が可能になった背景について分析すると以下のことが考えられる。
シェアはタイ東北部のエイズに関する活動を行なっているNGOの連合体エサアン・エイズ・NGO連合(ENCA)のメンバーであり、2001年まではシェアのスタッフが委員になっていた。ENCAはもともとタイのエイズに関する活動を行なっているNGO連盟(Thai NGO Coalition on AIDS: TNCA)の東北タイ支部という位置付けにあったもので、東北タイ(Zone5,6,7)の55団体が加盟。メンバーにはNGOだけでなく、HIV感染者(People Living with HIV/AIDS: PLWHA)グループも含まれている。2002年度、タイ国保健省(正式にはタイ国公衆衛生省=Ministry of Public Health)から助成を受けているプロジェクト数は39プロジェクト。シェアによるアムナチャランのプロジェクトの一部(村レベルでのエイズキャンペーン)もここに含まれている。その内容はHIV患者との共生、彼らへの差別をなくす広報教育活動、感染経路を正しく伝えることなどの予防教育活動、HIV感染者が公的援助を受けられるように申請をする手助けなどである。
このような活動は村の住民のニーズに沿った活動目的が設定されていることによって初めて可能となる。数量的な目的にはなっていないことが今後の改善点になると思われるが1999年4月から2002年3月(第2フェーズ3年間)のシェアタイの活動目標としては、
官民連携に関するより具体的な成果としては、以下の点が上げられる。
c. 草の根無償資金協力
前述のとおり、タイの国別援助計画の中にはエイズが重要分野として挙げられている。草の根無償資金協力を遡ってその実績を見ると、92年度に1件だけであるが、GII導入後、95年度以降は毎年1-3件と増えていることがわかる。これらは、草の根無償資金協力の枠が拡大し全体の件数が増えたこと、タイの社会でのエイズ問題の深刻化などの要因もあるが、GIIが開始された当時、GIIの担当部局であった外務省経済協力局から各大使館の経済協力担当官に対して、GII関連のプロジェクトには優先して支援をするようにという指示がでていたことも忘れてはならないと考えられる。この指示は94年にGIIに関する外務省/NGO定期懇談会での話合いに基づいて公電という形で送られていた。このようなコミットメントは、新しい援助であるGIIを推進していく上で特に重要な点であろう。
(2)バングラデシュ
バングラデシュの国別援助計画の中では、人口問題、エイズ対策は重要分野となっている。また、タイとは異なり、バングラデシュでは両分野において、NGOに対する支援策についてはほぼ全てのスキームが実施されている。NGO事業補助金、草の根無償資金協力、開発福祉支援事業(1997年~。ただし実際の実施は1999年~)、開発パートナー事業(1999年~)が各々GIIの7年間に実施されている。さらに二国間援助であるプロジェクト方式技術協力(1999年~)もリプロダクティブ・ヘルス分野で展開されている。バングラデシュに対してこの他に、一般無償資金協力、円借款、JOCVなど多くの援助スキームが揃っているのは、援助機関・援助国・NGOにとってバングラデシュが援助対象国のモデルケース・ショーケース的な国であることを物語っている。
そこで、ここではGIIの下で援助が実施されている各種のスキームの中でも、人口直接分野への支援に的を絞りNGOの活動を考察する。
a. GII全体について
GIIに関連する援助を全体的に見ると、二つの特色が分かる。まず、援助の調整に関して、援助国を代表する大使クラスが集まるドナー調整会議(Local Consultative Group: LCG)において日本の「顔」は明確に示される。これは投入される資金量の問題でもあろうが、一方、草の根レベルにおいても、バングラデシュ家族計画協会(Family Planning Association of Bangladesh: FPAB)が草の根無償資金協力や開発福祉支援事業を受け、この経験を草の根NGOへと移転したり、他のNGOの人材養成を引き受けたりしており、日本の存在感は十分にあるように見える。しかし、問題はその中間に位置するプログラムレベルである。英国を初めとしてコモン・バスケット方式が機能し始めているバングラデシュでは、日本はその援助国グループに属さないため、政府が実施している「保健・人口セクタープログラム(Health and Population Sector Programme: HPSP)」との関連が見えにくい。一方、日米協調の観点からは、両国ともコモン・バスケット方式に入っていないという共通の条件があるので、政策協調は取りやすいはずである。
第二は、各援助スキーム間の調整が自然発生的に行われていることである。プロジェクト方式技術協力「リプロダクティブ・ヘルス人材開発プロジェクト」が核になり、草の根無償資金協力・開発パートナー・開発福祉支援・JOCV・円借款(グラミン銀行を通しての女性への支援)などがリプロダクティブ・ヘルス推進という同じ目的に向かって、連携を取り合っているかにさえ見える。残念なことは、このような国レベルでの調整が意図的に行われたのではなく、自然と行われてきたことである。もしこれが計画的に実施されているならば、プログラム・アプローチとしてはかなり効率的かつ効果的であるので、その経験を他国のJICA事務所をはじめとするODA関係者の間でも共有すべき成果である。この種の調整は、そこに関与している日本人専門家たちによる「人の力」に頼った調整なので、人がいなくなると消滅しかねない。
そこで、何らかの人為的はメカニズムを構築する努力が必要となるが、この点では、JICA事務所が定期的な会合を招集するとのことで、今後に期待できそうである。国別援助実施計画の策定、この種の調整会合開催の際には、草の根で活動する日本やバングラデシュのNGOを巻き込んで行くメカニズムが必要であろう。また、このようなアプローチは日本の経験(institutional memory)として記録に残していくべきである。
b. 草の根無償資金協力
1989年から始まった草の根無償資金協力に関しては、2001年3月までに70のNGOが86件の資金協力を受けてきた。大使館が保健・教育・総合農村開発という3分野を供与の優先分野と設定して、このような明確な方針に沿って資金が配分されていることは特筆すべきことであろう。また統計も丁寧に取られているので、GII関連の数字もすぐにわかる。毎年300件を超える申請がある状況の中で、担当官とバングラデシュ人のアシスタントとの連携が効果的に機能している。
1994年度のGII発表以降の動向については、30件の保健分野案件がGII関連として挙げられている(全体の約45%)ものの、HIV/AIDS関連はその中で1件のみである。この傾向はGII中間報告書でも指摘されているが、GII終了後の現在でもエイズ関連のプロジェクト支援は少ない。
また、30件のうち10件が日米協調案件であるが、実態としては米国との協調は一方的であるように見受けられる。米国から草の根無償資金協力への資金協力依頼があるというだけで、その逆は無い。日米協調が進んだ国として名前が出されることが多いバングラデシュであるが、実質的には両国の関係はパラレルでもなく一方通行にとどまっている。
一方、ノルウェーとのドナー協調は興味深い展開を見せている。クルナ文化研究所建設プロジェクト(Khulna Institute of Cultural Research Construction Project)はGII関連ではなく文化交流分野の活動であるが、草の根無償資金協力で多目的ホールを建設し、ノルウェー国際開発庁(Norad)がその管理運営費を提供したものである。文化・演劇分野で活動するNGOであるLOSAUKというバングラデシュのNGOが両国からの資金を受けており、両国の資金協力が補完し合うような形がとられている。このようなドナー協調こそが本来の協調の目指すところであろう。
c. 開発福祉支援事業
ジョソール県では、バングラデッシュ家族計画協会(FPAB)ジョソール支部が「住民参加型家族計画プロジェクト」を実施していて、フェーズIを終了してフェーズIIへ入っている。政府が推進するHPSPの中心的な項目とも言える「基礎保健サービス・パッケージ(ESP: Essential Service Package)」を担当する草の根の保健ワーカーを養成するプロジェクトである。この事例は、日本がコモン・バスケット方式に従って資金をプールするというグループに加わらなくても、一定の条件を満たせば草の根レベルにおいて政府の保健政策を支援することが可能なことを示している。その一定条件とは、活動内容が政府の描く保健政策の青写真の中に入っていて調整可能であるかまたは、政府が必要と認めながらも着手できないような活動であることである。
フェーズIの開始時にはまだHPSPが始動していなかったこと、ESP1の研修モジュール(カリキュラム)が開発されていなかったことなどの条件があった。従って、このNGOによる研修モジュール開発が先行していたため、研修分野で画期的な活動となったのである。開発された17のモジュール2はすでにフェーズIの段階でEUやUNFPAが支援するプロジェクトで活用されている。さらにジョソール県は県職員である保健ワーカーをFPABに送り、このモジュールでの研修を委託している。
更に、バングラデシュ国立調査研修所(National Institute of Population Research and Training: NIPORT)が2001年に上記の17モジュールを正式な研修モジュールとして承認し、NIPORTのトレーニングプログラムとして採用している。このように、政府機関や国際機関が自らの研修プログラムにNGOによって開発された研修モジュールを採用するのは、各機関の研修が草の根レベルでの研修ニーズに相当応えているためであると言える。
フェーズIIでは不足しているモジュールを追加して開発することが予定されており、2002年2月現在で既に21までが開発されている。これはフェーズIでの反省を踏まえたものである。さらに、ESPのサービス提供モデルとして、FPABが全国に持つ20支部に展開することが決まり、また、ジョソール県全県での展開も期待されている(裨益対象人口は220万人)。
開発福祉支援事業の中で第二フェーズへと継続する例は初めてである。GII関連のプロジェクトはその効果(impact)や実施の効率性(efficiency)について2―3年で検証することは難しい点が多い。その理由は人の行動様式の変容を促すものだからである。行動様式の変容を計り、そのプログラムを評価するためには終了後5-10年経過してから再度、評価を試みる必要がありそうである。事後評価の導入とシステム化およびその定着化を考慮するべき時期にきていると思われる。
d. 開発パートナー事業
ナルシンディ県とフェニ県で実施されている「リプロダクティブ・ヘルス地域展開プロジェクト」は前述した開発パートナー事業である。女性のエンパワーメントのモデルプロジェクトとしてベスト・プラクティスとなりうるものである。村の女性たちによって設立されたセンターは、女性の自立にとって必要な法的アドバイス、経済的自立を目指す職業訓練などの活動の拠点となっている。しかも、貧しいながらもセンターの利用料やコースの受講料はすべて有料であり、その収入はセンターの運営のために使われている。
既に周辺の村から、同様のプロジェクトを実施して欲しいと言う依頼がある。これは村レベルの発意でプロジェクトが拡大する可能性を示している。この場合、拡大の方向性は日本からの資金的支援により別の村に女性センターが作られるということだけではなく、バングラデシュ国内における「南南協力」の可能性を示している。この二村の経験を他の村へ技術移転することも今後は期待される。
(3)ザンビア
世界で最も貧困人口の割合が高く、また紛争や飢餓、HIV/AIDSなどの感染症、さらには累積債務など、困難な諸問題が凝縮して存在する地域であるアフリカに対する支援として6つの重点項目の一つに、感染症・寄生虫症の蔓延への緊急な対応がかかげられており、その戦略においてGII(およびIDI)が果たしうる役割は大きい。特に世界人口の1割がすむといわれるサブ・サハラ・アフリカにおけるHIV/AIDSの状況は深刻であり、全世界のHIV/AIDS感染者の7割が集中している。中でも南部アフリカでの感染率が高く、ザンビアも成人5人に1人(20%)が感染している(「世界のHIV/AIDS感染状況報告書2000年12月版」)。ザンビアは、GII発足当初には重点国にはなっていなかったが、HIV/AIDSに関わる状況の深刻化に伴い新たに重点国の一つに選定された。1998年12月には日米合同のプロジェクト形成調査団が出され、新たなプロジェクトがスタート、展開されている。
またザンビア政府はHIV/AIDSを政府が直面する開発上の最大の課題と位置付け、2000年3月に国家レベルで同問題に対処する暫定的HIV/AIDS対策協議会および事務局を設置するなど、同問題に対する取り組みを強化してきた。UNAIDSの報告によると、都市部における15-19歳の妊産婦のHIV感染率が過去6年間で半減しており、近年の感染状況が好転していることもザンビアの特徴としてあげられる。近年ではむしろ、マラリアの方が深刻な問題となっている。
a. GII全体について
1998年に日米合同プロジェクト形成調査団がザンビアに入ったころには既にヘルスセクター・リフォームの動きがあったものの、不透明でわかりにくいとの報告がなされていた。その後2000年12月にはザンビア政府(保健省)が2001年―2005年の国家保健政策の5ヵ年計画を発表し、ヘルスセクター・リフォームを通して目指すところについての詳細な対策が明文化されるまでになっていた。特に、過去10年間(1991-2000年)の女性の保健環境が一向に改善されていない現状についても付記されており、その状態を変えていくため、リプロダクティブ・ヘルスをザンビアにおけるヘルスパッケージの主要なコンポーネントとして位置付けていることが明記されている。
首都のLusakaではドナー間の会合が頻繁に行われており、ザンビア政府の示す国家計画へいかに協力し、それぞれのドナーの政策方針にいかにリンクさせるかが念入りに検討されている。ヘルスセクター・リフォームの下に保健行政の地方分権化が進められており、保健サービスの実践はディストリクト・レベル(District Health Management Team: DHMT)であるので、そのレベルとのコミュニケーションは当然のこと、NGOとの連携も保健政策実施における重要な要素として捉えられており、ドナー会合に同席するケースもあるようだ。現地のNGOだけでも300以上あるといわれており、ドナー間の調整よりもむしろNGO間のコーディネーションの方が今後は必要になってくると予想される。
GIIのように、人口直接援助の部分以外のプライマリーヘルスケアや教育、ジェンダーなどの間接的な要素を盛り込んだ包括型の“保健パッケージ”としてのアプローチは、ザンビアの政策になじみやすいものであったと思われる。
b. GIIにおける日米連携
1998年12月に日米合同プロジェクト形成調査団が出され、98年度の無償資金協力枠で「マラリア総合対策計画(Project for Integrated Malaria Control Initiative)」、および開発パートナー事業枠で「HIVハイリスク・グループ対象予防啓発事業(Zambia HIV Prevention Borders Initiative)」(2000年3月スタート)が実施されている。
日米連携のフィールド・レベルでのポイントは後述するとして、政策レベルのポイントについては、ザンビアにおける日本のプレゼンスが実に高く、今後の日本に対するアメリカ側の期待も大きい。それは、前任のJICAの専門員の個人的な努力に拠る部分が非常に大きく、今回の調査で訪問した国際機関(WHO、UNICEF、UNAIDS、UNDP)やザンビアの保健省、そしてもちろんUSAIDザンビア事務所において、その方の名前を聞かない場所はなかった。「日本の顔」としてあらゆるドナー会議に出席し、保健分野を含む開発の世界の潮流をつかみ、それを日本側にフィードバックすると同時に、日本政府の持つ支援の枠組みを通してできること、できないことをしっかりと他のドナーや現地政府に伝えてきたことが、日本に対する絶大なる信頼を生んでおり、その方が任期を終え帰国した後もなお、その足跡があらゆる場所に残されていた。
日本大使館の経済協力担当官は、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念やその重要性についてはその方個人から学んだところが大きいとコメントしておられ、ザンビアでの日本のODA関係者の意識を高める内部広報においても重要な役割を果たしてきた。
1997年に実施されたGIIの中間レビューから上げられた提言の中に、特に日米連携の項目において、1)日米間の定期的な人事交流の促進、2)国際会議(ドナー会議)への担当官の出席、3)地域レベルでの政策を意識した戦略に基づく立案が提案されていたが、ザンビアにおいてはこの3点がカバーされる動きが積極的になされていた。
今後の課題としては、いかにその個人レベルの努力とその努力から生み出された成果を組織的につなげるシステムや環境を整えていくかである。これまでは担当者の個人的な意識の高さ、ボランタリーベースで意欲的に活動された行動力があって、日米および他のドナーとの信頼関係の基礎が築かれてきた。その担当者が任期を終え帰国した今、これまでその方が実施してきたことの全てを現在のスタッフ(大使館、JICA)で継続して行うことは物理的に困難であり、せっかく築かれた基礎がここでとまってしまう可能性も皆無ではない。後任の早期の人選と派遣が特にUSAID側から出されていたが、それと同時に、組織的なシステムとして、求められる人材の登用とその個人が活動しやすい環境の確保をしていくことが必須であり、さらにはそれが個人のレベルで終わってしまわないよう、その個人を通して得られる情報、知識、技術が組織として共有され、後任の方に円滑に引き継がれる仕組みが作られていくことが望まれる。
またドナー間会合の場で必ず話題となるのは、ヘルスセクター・リフォームの絡みでSWAPならびにコモン・バスケット方式である。日米(またザンビアにおいてはUNICEFも)はそのグループには参加していないが、参加しなくても別の形で十分に代替可能、もしくはその方がより効果的なプログラムが実施できるというものを提示していく上で、日米の連携が図られることが望まれる。
c. 草の根無償資金協力
GII関連では、95年度1件(「孤児技術訓練支援計画」)、96年度1件(「HIV/AIDSカウンセリング推進計画」)であったものが、重点国と選定されて以降、97年度3件(12件中)、98年度4件(12件中)、99年度5件(17件中)、2000年度6件(19件中)、2001年度2件(4件中;まだ2001年度は終了していない)が実施され、97年度以降だけのデータを取ると全体で31.25%を占めるに至った。うちUSAID支援のNGOへは97年度に1件、99年度に1件、2000年度に1件の合計3件をこのスキームで支援しているが、そのうち2件は日米協調案件(「エイズ予防・塩素処理飲料水使用等普及啓発活動支援」および「ザンビア国境におけるHIV感染予防活動支援」)である。
草の根無償資金協力のスキームを活用し、官民がタイアップした形で日米協調案件に結びつける発想は、その国の保健政策全体をかんがみ、日本政府や個々のNGOがどのようにその戦略に即した活動を実践できるかを考え、より大きなフレームワークを意識した中で個々の役割を見つめなおす機会を与えることにつながるので、このような形が促進されることを期待する。
事務的なレベルにおいては、日本大使館の経済協力担当者は4人、そのうちの一人が草の根無償資金協力の案件を含め保健分野全般を担当している上、ザンビアとマラウイの2ヶ国をカバーしていて負担が大きい。これまではJICAの専門員がドナー間会合に頻繁に出席する形で、大使館とJICAザンビア事務所、またJICAザンビア事務所内でも役割分担がなされていた。その形が可能となるような人事を今後も望むことに加え、役割分担をする場合は相互の密なコミュニケーションが求められるので、それが可能な環境を整える必要がある。間もなくJICAの事務所が大使館の近くに移る予定なので、地理的にも出入りがしやすい環境になるのであれば、これまで以上に綿密なコミュニケーションが大使館とJICAザンビア事務所の間で持たれることを期待したい。
d. 開発福祉支援事業
「HIVハイリスク・グループ(国境における長距離トラック運転手・性産業従事者)対象予防啓発事業(=Zambia HIV Prevention Cross Borders Initiative)」が2000年3月より実施されている(2003年2月までの3ヵ年)。98年12月の日米合同プロジェクト形成調査団で発掘された案件の一つで、日本側はワールドビジョン・ザンビアに資金協力を行い、モニタリング・評価のための日本人専門家派遣を通して、指導員の研修、ピア・エデュケーター(長距離トラック運転手・性産業従事者)の訓練、トラック運送会社の教育・啓発、ピア・エデュケーターによる啓発活動、クリニックにおけるSTI治療能力向上のための訓練・医薬品供与、コミュニティーリーダー・学校教師等の訓練に支援する一方、アメリカ側はUSAIDが資金援助する国際NGO(ソサエティー・フォー・ファミリー・ヘルスおよびフード・フォー・ハングリー・インターナショナル・インパクト)を通じ、プロジェクト・サイトのマッピング(効果的な実施方法の計画)、基礎調査(ベースラインサーベイ)、コンドーム等避妊具のソーシャルマーケティング活動、IEC・メディアによる啓発活動(サインボード、ラジオ、テレビ等)、プログラム全体のモニタリング・評価を支援する、日米連携案件である。
プロジェクトを開始した当初は、トラック運転手から追っかけられ危険な目にあったこともあるそうだが、開始から約一年経ちようやく地元の学校の校長や教育委員会から理解と指示を得られるに至っている。また、啓発・普及活動のために配布されるグッズ(トラック運転手がよく使用するもの。栓抜き、水筒、Tシャツ、キャップ、音楽テープなど)にも、広報活動のためのサインボードにも啓発のためのメッセージやキャッチコピーとあわせてUSAIDとJICAのロゴが並んで入れられており、この案件が日米両政府の支援であることが一般の方にもわかるように工夫されていた。始まったばかりのプロジェクトではあるが、ザンビア国内で育成されたピア・エデュケーターの技術も向上している。またプロジェクト・サイトの教育活動の拠点としているホールに住民が関心を持って集まってきており、それだけ地元の人々に受け入れられている様子を見る限りでは、今後の成果に期待が寄せられるプロジェクトである。
事務的な側面においては、資金を受けるNGO側にドナーの経理的な仕組みや管理に対する認識が不十分である面があり、NGO側がよく研究する必要があると同時にドナー側もNGOに対し事前によく説明する必要がある。計画立案、実施、見直しおよび事業管理全般についても、実施にあたるNGOがその精度をあげる努力をする必要がある。そのプロジェクトを何のために実施するのかを常に意識しながら、確実な成果をあげる方向で臨む必要がある。また、JICAとUSAIDの両方からの資金を受ける形でプロジェクトの流れが組まれているが、両者の経理サイクルが違うため、それを受けるNGOが混乱している場面もある。
日米連携を進める上での事務的な業務についてはまだまだ試行錯誤の段階であり、定期的に関係者の間で開催されているミーティングにおいて、当事者にとって本プロジェクトを運営しやすいシステムを考え出す過程にある。今後の成果に期待されるプロジェクトであるだけに、運営を円滑にするようなシステムが早急に求められると同時に、地元政府がこの案件からヒントを得て、彼ら自身の政策実施に生かしていけるような方向に働きかけていくことが日米の連携で推進されることを期待したい。
e. プロジェクト方式技術協力
(i)「感染症対策プロジェクト(Infectious Diseases Project)」
1989年4月から実施してきた技術協力を通じ、ザンビア大学付属教育病院(UTH)内にウィルス検査室および結核菌検査室が整備された。これを基礎として、1995-99年度にかけて「感染症対策プロジェクト」が実施され、HIVを含むウィルスラボの機能強化によりウィルス性および細菌性感染症の検査・診断体制の強化が図られてきた。現在、UTHに細菌学(結核)およびHIV/AIDSのそれぞれの専門家が派遣されており、今後その結果を踏まえて「エイズおよび結核対策プロジェクト」をスタートさせる準備段階に入っている(2001年3月~2006年3月)。研究色が強いため、多くのリソースを持ちながらもなかなかコミュニティーには馴染みにくい性格を帯びていたが、今後はIPPFとの連携としてザンビア家族計画協会(Planned Parenthood Association of Zambia: PPAZ)との協力関係構築も検討されており、よりコミュニティー開発の拠点として活用できる形が促進されることを期待したい。
(ii)「ルサカ市プライマリーヘルスケア・プロジェクト(Lusaka District Primary Health Care Project in Zambia)」
ザンビア政府は医療行政の地方分権化や基本的医療の強化などを軸とする保健医療改革を推進しているが、増大する住民のニーズに対応しきれなくなってきている。それに伴い、コミュニティーに根ざした“自立的”プライマリーヘルスケアを推進することが、ザンビア国における保健セクター再生のカギを握るものとして期待され、本プロジェクトがスタートした(1997年3月~2002年3月)。ザンビア側の実施機関はルサカ地区保険管理局であり、日本側協力期間は東京大学、アジア医師連絡協議会(The Association of Medical Doctors of Asia: AMDA)、新潟大学である。
協力内容は、
(1) | 住民による栄養摂取状況や水の使用方法改善などの保健教育への支援(日本の草の根無償資金協力によって建設された給水施設との連携協力) |
(2) | 患者紹介転送制度(レファレルシステム)の構築、および |
(3) | 学校保健活動の実践。 |
6.3.3 官民連携によるプロジェクトの整合性・妥当性および教訓
特にNGOの調査団員が参加した3ヶ国(タイ、バングラデシュ、ザンビア)におけるGII分野の官民連携の事例を見てきたが、特にアジアの二ヶ国においてはNGOの実践してきた活動が中央政府および地方行政の活動に反映されていることはもちろんのこと、その度合いが中間レビュー実施時よりも増大し、国の政策を実践に移す過程で主流の部分においてNGOの手法が取り入れられるケースが以前にもまして増えていることが、具体的な事例からもうかがえる。タイの場合は、特定のNGOの仕事が政府から認められ資金的な部分をタイ政府が支援する形で、タイ国保健省の仕事を担うケースであるが、バングラデシュの場合はより継続性に焦点が絞られ、NGOにより開発された研修モジュールを政府職員の研修に取り入れ(17モジュール)、220万人を裨益対象人口とするプログラムにも応用している。ザンビアはGIIにおいては比較的新しい国であるので今後期待される部分が多いが、現段階においてもすでに、特に人材養成における分野でのNGOとの連携は欠かせないものとなっており、バングラデシュで見られるようなスタイルが模索されている。政府機構や機能的な面においてまだ発展の余地があるので、その方面においてNGOの知見が求められる。
これらのことは、人口の間接分野を包含しNGOとの連携を重視した“パッケージ”としてとられたGIIのアプローチが、相手国政府の政策に合致したことによる結果であると言え、特に包括的アプローチを枠組みとして持たないIDIにおいては、必要に応じてリソースやスキームの組み合わせおよび調整を意図的に図り、効果的なプログラムを組み立てる工夫が、今後はますます重要になってくる。
1 ESPとは妊産婦の健康、思春期保健と家族計画、生殖器系感染症・性感染症・HIV/AIDSの予防、子供の健康がパッケージになっている村の簡易保健所における保健サービス・パッケージのことである。
2 17モジュールは政府が作成した郡レベルの保健ワーカーを対象にした"Reference Manual for Health Service"に則っている。また、17モジュールの内容は、1)保健サービスの基本、2)リプロダクティブ・ヘルスと家族計画、3)プライマリーヘルスケア、4)5)人体解剖学と生理学、6)食物と栄養、7)生殖器官異常と疾患、8)母子保健と性感染症、9)10)妊娠と安全な出産、11)子供の健康、12)患者への接し方、13)-16)各種疾病とその症状および対処法、17)簡単な病理検査である。