5.4 他ドナーとの連携の「ベスト・プラクティス」
以下では、今回のGII評価調査の文献調査と現地調査を通じて各側面において成功のレベルが高かったと分析された日本のODAとUNICEFダッカ事務所との連携について内容や効果、インパクト7、「ベスト・プラクティス」の実現に貢献した要因を示す。
5.4.1 主要な連携内容
(1)EPI分野
EPIに関して、日本大使館、JICA事務所、UNICEFダッカ事務所、さらにはバングラデシュのEPI担当部局を中心に連携が過去数年で拡大、進展した。日本は、1995年にバングラデシュに対してUNICEFを通じ、EPI用の麻疹のワクチンの供与を開始した。1999年からは、ワクチンのコールド・チェーン機材への支援を開始した。連携は、単に日本が物品供与をする、もしくは物品購入のための資金提供をするというレベルに留まらず、計画段階から供与物品の調達、供与品の税関手続までをカバーしていた。
(2)ポリオ根絶
1995年から2000年の間にバングラデシュのポリオ根絶の国家予防接種デーに関する活動への日本の支援は、資金面から見ると48%に達した。その内容は、ワクチンの供与、ワクチンの利用を進めるためのトレーニングや社会的動員(social mobilization)のための活動への支援である。
(3)ヨード欠乏症対策
EPIとポリオに関する連携の成功の経験から、日本は2000年2月にヨード添加塩の普及のために、バングラデシュ政府に対してUNICEFを通じてヨード添加塩製造に必要なヨウ素酸カリウムを供与した。
UNICEFダッカ事務所によれば、ヨード欠乏症対策は、公衆衛生分野の保健改善のための各種活動の中でもっともコストがかからないものでありながら8、一方で社会セクター開発のための各種活動の中では、もっとも高い便益(教育効果や生産性の向上)の得られるものである。
5.4.2 連携の効果
(1)EPI
日本がマルチバイ協力により供与したワクチンとコールド・チェーン機材は、UNICEFを通じて地方レベルに配付され、配付の監督もUNICEFが行った。さらにコミュニュティ・レベルには日本のJOCVがグループ派遣されて接種活動をサポートした9。この時の接種率には、それ以前に比較して向上がみられた。
日本からのコールド・チェーン機材の供与によって、バングラデシュ国内でもっとも厳しい状況にある地域においても予防接種が可能となっている。
(2)ポリオ根絶
日本による支援の効果のみを全体的な効果から抽出することは困難であるが、1995年には2,300例がバングラデシュではポリオと疑われ、その内の196症例が臨床的にポリオであると診断されていたが、2000年にはウイルス学的にポリオであると診断された症例は、1例のみとなった10。1997年から現在までにポリオ根絶活動の結果、120万人の子どもの死亡が回避されたこととなる11。
(3)ヨード添加の成果
バングラデシュはヨード欠乏症が世界でもっとも深刻な国の1つである。UNICEFは全食塩に対するヨード添加を推進しているが、1994年に全家庭の20%しかヨード添加塩を使用していなかったが、2000年には70%が使用するまでになっている12。
5.4.3 ポジティブなインパクト
UNICEFダッカ事務所との連携は、以下のポジティブなインパクトをもたらした。
1) | 日本の各種支援によりプライマリー・ヘルス・ケアのシステムが強化された(ロジステックス面、社会的動員面(social mobilization)、サーベイランス機能)。 |
2) | ポリオ根絶やEPIの活動における連携の好実績が、ヨード欠乏症対策分野での日本政府とUNICEFの連携の開始をもたらした。 |
3) | 日本の対バングラデシュODAに対するバングラデシュ国内とドナーからの認知が向上した。テレビや新聞等の現地のメディアによる報道やポリオとEPI関連のイベントにおいて「日本の顔」が見えた。例えば、日本がポリオ分野の支援を行うことに対するUNICEFとの覚書の交換がバングラデシュ政府高官の列席の下に行われ、その様子が日本の支援内容とともにバングラデシュの新聞、テレビ等を通じて報道された。また、日本政府からバングラデシュ政府に対するポリオ・ワクチンの供与が、他ドナー等の開発パートナーが参加している国家一斉予防接種デーの開始式において供与された。結果的に、同国政府、国民、他ドナーという広範なグループに日本の貢献の重要性が認知された。 |
5.4.4 「ベスト・プラクティス」の実現に貢献した要因
以下のファクターが、「ベスト・プラクティス」の実現に貢献したと分析できる。
1) | 日本およびUNICEFの双方に連携を進めるインセンティブがあった。日本側としては、UNICEFとの連携を通じて援助の効果や日本の可視性やプレゼンスが高まることが経験的に理解されていた。UNICEF側としては、日本の支援は規模が大きいためもっとも重要な資金源の1つとして認識し、またこれまでの日本との連携から得た日本側に関する分析13に基づき、日本との連携を推進しようしていた。 |
2) | 日本の方針が明確であった(EPI、ポリオ根絶に対して注力することは、明文化はされていないものの、日本側関係者の共通の理解であった)。 |
3) | 日本側とUNICEFの連絡が緊密にとられていた。UNICEFバングラデシュ事務所には、バングラデシュ以外においても日本との連携協力の経験の豊富な日本人上級スタッフが勤務しており、連携進展のコアとなった。なお、バングラデシュにおける日本とUNICEFの連携に関しては、外務省とUNICEF東京事務所との連携も活発に行われている。 |
4) | 日本大使館とJICA事務所、UNICEFダッカ事務所、バングラデシュ政府の間で、計画段階からの連携が実現した。GII評価調査訪問時点には、バングラデシュにおける「日本・UNICEF合同学習調査」の実施が予定されていた(2001年11月)。 |
5) | 日本側で、日本大使館とJICA事務所の連携がよく取れていた。 |
6) | 連携においては、UNICEFが自らの協力のソフト面を中心としたノウハウを生かし、日本側は機材供与や無償資金協力によるハード面を生かす等、相互補完性があった。 |
7 ここでは、明示された意図(成果、プロジェクト目標)以外に引き起こされる正の効果、影響、期待される効果、予想される影響、時間の経過を加えた影響等(財団法人国際開発高等教育機構、『PCM手法に基づくモニタリング・評価』)を指す。
8 ヨード欠乏症対策の介入のコストは、生涯あたりUS3.6セントである。これに対して、ビタミンA供与のコストは、年間US4.0セントで、1人当たりの実施期間は5年である。鉄剤供与では、年間US1ドルで、1人当たりの実施期間は30年となる。EPIでは年間あたりUS10ドルであり、これが1人当たり1セット(回)必要となる。UNICEFダッカ事務所の情報。
9 UNICEFバングラデシュ事務所からのヒアリングによる。
10 UNICEFバングラデシュ事務所の資料より。
11 同上。
12 同上。ヨード欠乏症の有病率は、1993年には調査対象の人口の47.1%であったが、2000年には17.8%に減った(UNICEFバングラデシュ事務所の資料)。
13 UNICEFダッカ事務所側の日本との連携に対する分析(本項は、GII評価調査団によるUNICEFダッカ事務所とのインタビュー及び同事務所提供の資料に基づく)
1)日本側が子どもの健康の改善に強い関心を示している、2)日本側が連携案件の細部の管理まで把握している、3)日本側が連携案件の計画を緻密に策定している、4)日本側が連携案件を計画どおりに実施する、5)日本からの資金が遅滞なくUNICEFダッカ事務所に供与されるため、同事務所が計画どおりに事業を実施できる。