4.7 日米コモン・アジェンダパートナーシップ:ザンビアのケース
4.7.1 パートナーシップの概要
ザンビアは、日米コモン・アジェンダパートナーシップにおける最初のケースであり、初めてのことばかりであった。1998年に日米の最初の合同プロジェクト形成ミッションが実施され、マトリックスを利用した最初の詳細な合同実施計画が作成された。ザンビアでのパートナーシップでは、毎年定期的にレビューや実施計画の更新が行われ、チーム意識を持って取り組めるという生産的なアプローチがとられた。ザンビアは、JICAが日米コモン・アジェンダおよびGIIの活動の調整のための専門スタッフを配置した最初のケースでもあり、国レベルのこうした活動は、日米コモン・アジェンダパートナーシップを成功へ導いた過程を示しており、世界中にインパクトを与えた。
USAIDと日本は、HIV/AIDS対策で重要な合同イニシアティブを実施したが、それは、ハイ・リスクグループ向けのサービス、ラボラトリー・サービスを通じたHIVと結核の同時感染対策、地域に根ざした活動などを実施することであった。共同で実施中の活動には、マラリア対策、ポリオの免疫や調査の拡大プログラム、2002年人口・保健調査(the 2002 Demographic and Health Survey)の計画および資金供与に関する他ドナーとの共同参加がある。家族計画やリプロダクティブ・ヘルスでは、日本の活動の大部分が間接的な支援であったのに対し、USAIDは主要な二国間援助イニシアティブを実施し、さらに現地ミッションを通じ、USAIDの世界中のプロジェクトと協調している。両ドナーは、学校保健、栄養や下痢の低減につながるプライマリー・ヘルス・ケア・イニシアティブをも実施している。
4.7.2 チルンドゥ等の国境地域におけるHIVハイリスク・グループに対する活動(Chirundu Cross Border Initiative)
ザンビアは、8カ国と国境を接し、主に長距離のトラック輸送によりこれらの国々と物資を取引きしている。日米が合同で実施した画期的な活動の一つが、「HIVハイリスク・グループに対する活動」である。これは性感染症を減らし、コンドームの使用を普及し、HIV/AIDSについての誤解を解くことを目的としている。このプロジェクトは、交通量の最も多いザンビアの国境6ヶ所で行われたが、チルンドゥはその一つで、日に200台のトラックが往復するという、アフリカでも最も賑やかな地域の一つである。
同活動は、性産業従事者、長距離トラックの運転手等、また一般人を対象としている。活動内容は、6つのプロジェクトの各サイトで、同じ立場のボランティア教育者により、上記対象者に個人やグループ単位で保健教育が提供されている。また、同活動は性感染症のテストや治療、予防用コンドーム、教材も提供している。調査団が訪れたチルンドゥでは、同活動によってできた施設があり、そこではトラック運転手や性産業従事者、コミュニティーの人々にHIV/AIDS教育や予防に関する情報、テスト、治療などのサービスを提供している。同施設には、ビデオ鑑賞、ゲーム、ボクシングや空手クラブ、図書館などの娯楽の場が設けられており、これらは、トラック運転手が積荷の通関手続きを待っている間、リスクの高い行動ではなく、こうした娯楽に関心を向けるようデザインされている。同センターはコミュニティーの若者、特にエイズ孤児にも解放されており、また性産業従事者やエイズで夫を失った寡婦のグループを対象としたマイクロ・クレジットも提供している。
同活動は、1990年代初めに、長距離のトラック輸送ルートに沿ってリスクの高い性的な接触が起こっていることを懸念した地域研究から生まれたものであった。同活動に対する資金援助は、1999年8月に、JICA、日本大使館、USAIDザンビア事務所、そしてUSAIDの地域資金プールから始まった。同活動の全体は包括的にデザインされている一方で、6つのサイト毎には、異なった資金提供者の組み合わせが行われた。日本は、性感染症の治療薬や、開発福祉支援事業を提供し、草の根無償資金協力の一部では自転車や車を提供し、USAIDは、運営支援、BCC/IECイニシアティブや製品を提供した。
プロジェクトの実施には、JICAやUSAID、ファミリー・ヘルス・インターナショナル(米国NGO)、ソサエティー・フォー・ファミリー・ヘルス、ワールド・ビジョン・ザンビア/ジャパンといった様々な団体が関与している。資金提供者の現地代表は、実施の中心となるマネージメントチームと毎月会合を開き、進歩状況の報告、見直しを行ったり、今後の計画を策定している。各サイトでは、サイト・マネージャーがプロジェクトでボランティア教育者やヘルス・ワーカーを監督している。
同活動では、コミュニティーの参加が非常にうまくいっており、警察署長補佐や校長が現地のプロジェクト委員会に参加している。国境にある税関の職員も活動に協力的で、ジンバブエで行われる教育活動のプレゼンテーションや、計画策定のための会合、その他のイベントのために、プロジェクトスタッフが自由に国境を行き来することを許可している。地域保健管理チームの本部はプロジェクトサイトから約90キロ離れていたが、チームにはプロジェクト活動やその参加者の情報が行き届いている。
プロジェクトが目的を達成している一方、合同の資金提供や実施には事務レベルでの課題が残されている。JICAとUSAIDは、現在プロジェクトに必要な物資の報告を連携して行っている。これが成功すれば、JICAとUSAIDとの初めての合同報告書の作成に合意することとなる。こうしたプロセスが確立されれば、今後の合同イニシアティブのモデルとして称賛を受けるであろう。
ワールド・ビジョン・ジャパンからプロジェクトの専門家を毎年3ヶ月間派遣するということが、課題の一つとして調査団に報告された。これはワールド・ビジョンの開発福祉支援事業の必要条件であるが、ワールド・ビジョン・ジャパンへのグラントとは別であり、ザンビアの国レベル支援の一部でもない。ワールド・ビジョン・ザンビアのスタッフは、これらの専門家の投入が効果的だとは考えておらず、この条件は今後再検討されるべきである。こうした専門家が、プロジェクトに合った知識や専門技術を持っているか、充分に検討すべきである。
同活動に参加した各団体からの以下のコメントは、活動の評価や事務面での制約を反映したものである。
ソサエティ・フォー・ファミリー・ヘルス: 日米コモン・アジェンダは、同活動では、資金供与面と連携面とで差があったようである。
保健省: この成功したプロジェクトは、他の多くの国が訪れるほどのモデルケースとなった。しかし、更にプロジェクトの規模を拡大した計画をも考えている。
JICA: 同活動のような複雑なプロジェクトにおいては、連携のためのコストによって、連携の乗数効果が損なわれることはない。
ワールド・ビジョン・ザンビア: 日本の中央集権的意思決定が、タイムリーに資金を受け取るという点で制約となっていた。日本からの資金協力を受けているスタッフよりも、米国から資金供与を受けているスタッフの方が、職が保障されるなど、不和が生じている。
ファミリー・ヘルス・インターナショナル: 本プロジェクトの重要性を認識しているザンビア政府から委託された施設やスタッフの管理や利用の点から見ると、良い連携である。