4.4 連携の課題
日米連携においては、いくつか課題があることが全体的に表明された。新たなパートナーシップの取り決めでは、初めからこうした課題を認識し、それを克服するような条件を設定すべきである。以下にいくつかの課題を述べる。
4.4.1 官僚機構
保健分野に関するODAの担当機関は、外務省、厚生労働省、財務省、JICA, JBIC等である。各機関の意思決定プロセスは、非常に中央集権的である。日本では、これらの援助機関が、技術協力、無償資金協力、草の根無償資金協力、専門家やボランティア派遣など、様々な形態で開発援助に携わっており、これらは多くの場合、長期的コミットメントではなく、単年度契約である。しかしながら、いくつかの複数年次プロジェクト方式援助協力もあり、これらは将来ODAが長期的計画とならざるを得なくなることに対応するための変化であろう。
対照的に、米国のODA計画決定は、政治的考慮や方向性を前提とするが、主にUSAIDの現地ミッションが責任を担っている。米国の意思決定プロセスは非常に分権化されており、プロジェクトは、通常複数年に渡って資金供与される。USAIDの援助形態もまた、二国間プロジェクト、USAID本部の運営プロジェクト(USAIDミッションにより評価される)、PVO (Private Voluntary Organization)への無償資金協力など、様々である。しかし、これらすべてがUSAIDのミッションにより現地で実施されている。日米両国の会計年度には、半年のずれもあり、こういったアプローチの違いは、連携努力や活動の合同計画や実施への制約となる。
日米コモン・アジェンダは、日米が互いのODAシステムがどのように動いているかについて理解を深めるきっかけとなったが、互いに更なる理解向上の余地がある。バングラデシュでは、USAIDから「日本の国別プログラムの責任者が誰であるのか」という疑問が表明された。つまり、日米コモン・アジェンダおよびGIIの活動に際し、日本大使館と連携をとるべきであるのか、あるいはJICAととるべきであるのかがわからないとのことであった。ザンビアでも同様に、特定の活動やプロジェクト・ニーズに対し、両ドナーのどのようなスキームが適切かつ利用可能かについて対象国政府やNGOの間から質問が出た。しかしながら、過去においては、ザンビアでもバングラデシュでも保健分野の連携活動の担当者がJICAおよびUSAIDにおり、こうした問題に対処していた。
4.4.2 効率性
保健分野における日米コモン・アジェンダのプロジェクトを合同で計画し、実施することにより、両パートナーの努力と投入の重複が避けられ、効率性が生じる。データの共有から計画、実施、モニターに至るまで共同作業を行うことで、非常に高い効率性や連携へのインセンティブが生じるであろう。(インセンティブについては、次項を参照。)手続きを簡略化し、計画やモニタリングのための両ドナーのサイト訪問数を減らすこと、またより多くのプロジェクトを共同で計画、実施、モニタリングすることが、今後の合同プロジェクトの目標となるべきである。
合同プロジェクトの計画および実施における課題は、片方が活動を始めても、もう片方を待っている間に、すべてが滞ってしまうという状況をいかに克服するかである。例外はあるし、これが一般的ではないものの、ザンビアである例があった。ここではUSAIDが、リプロダクティブ・ヘルスの必需品の経費見積もりに資金提供し、その見積もりでJICAが供給するはずであった。USAIDが自身の担当を実行したところで、JICAが供給の一時保留を決めたことがわかった。JICAとしては、保健省の能力から考えると、プログラムの対費用効果や持続可能性といった面で、USAIDの見積もりに疑問があったのである。このような行き違いは両者間の不満や資源の浪費につながるものであり、コミュニケーションの向上、意見交換、資料の共有などが一層必要となろう。
バングラデシュの事例では、日本と米国のヘルス・ワーカーの研修プログラムにおいて、合同計画や定期的な交流があり、重複を避けるのに役立っていた。その他効率性の好例としては、バングラデシュでは、草の根無償資金イニシアティブへの申請用に定型フォームを作成し、利用する試みがあった。ザンビアでは、HIV/AIDS合同プロジェクトで、両ドナー共通の報告フォームを利用することについて、現在交渉が行われている。(4.7を参照。)
しかしながら、上記のような官僚的な制約や、両ドナーのODAの事務システムの違いにより、短期的には、連携の効率性の実現や重複部分の回避は完全とまではなっていない。日本の時間がかる中央集権的意思決定プロセスもまた、合同プロジェクト活動の効率性や時宜に適った実施の制約となっている。
4.4.3 連携へのインセンティブ
日米コモン・アジェンダの目標や目的には、成果の測定について触れられておらず、目標達成へのインセンティブが働くようになってはいなかった。今後の合同イニシアティブでは、成果の測定可能な目的を設定することが、連携へのインセンティブを高める上で重要となってくるであろう。一つの提案としては、重点対象国の日米のミッションが、合同計画を推進するための一定の資金を互いに拠出することを約束するということが考えられる。すなわち、各ドナーが合同イニシアティブの予算面で同等額を約束することで、成果や効果に倍の貢献をなし得るのである。また、各ミッションが互いのパートナーとの連携担当者を配置し、連携の構築を職務内容や評価に組み入れていくということももう1つの提案としてあげられる。