4.3 日米連携の方法とレベル
4.3.1 目標、目的およびコミュニケーション
(1)目標と目的
日米コモン・アジェンダとGIIには重点分野が設定されたが、全体的な目的はいずれも不明瞭であったため、成否の判定が難しい。従って、日米連携の成果は、事例に基づく主観的な項目によって測定するしかない。調査団が、現地調査期間中に、開発協力における明確な日米のパートナーシップおよび連携の実態調査を行ったところ、このパートナーシップは、バングラデシュ、ザンビアの両政府からも感謝され、両国のプロジェクトの受益者からも満足が表明された。また、他ドナーは、日米の両国がそのプログラム上の制約から、SWAPに完全には参加できないことに不満を表明していたが、日米の連携については称賛している。
提言: 日米間の将来のパートナーシップ協定には、成果重視の目的の明確化が必要である。これらの目的においては、両ドナーの関係が明確化され、連携による利益に重点が置かれるべきであり、成果測定の手法開発の必要がある。プロジェクトについても、その計画や実施の成果は測定可能なものであるべきであり、そのことによって日米の両国民にも説明責任(アカウンタビリティー)を果たし、将来の連携努力のための教訓として活かされることとなろう。
(2)連携についてのコミュニケーション
日米のODA行政担当者は、ODAの目的やインパクトをどのように両国民に伝えるべきか苦心している。この問題は、米国の開発関係者の間においても認識されており、GIIの中間報告においても指摘された。各国首脳にとって日米コモン・アジェンダにもGIIにも政治的に重要な目的があることは、広く認識されていた。両イニシアティブには、政治的な目的の明確化こそされていなかったが、母国および対象国においては、目に見える形で、イニシアティブが合意され、活動が実施され、成果が得られることが期待されていたと仮定される。
現地調査期間を通して問題と認められたのは、日米コモン・アジェンダとGIIの関連や両イニシアティブの目的が現場レベルで浸透していないことであった。そのため調査団は、インタビューごとに、GIIの背景説明に多大な時間を費やさなければならず、GIIの実施やインパクトに関する議論がすぐには始められなかった。例えば、バングラデシュ、ザンビアでのインタビューのうち、日米コモン・アジェンダに自ら言及したのは、ザンビアの現地NGOの代表のみであった。
提言:今後、日米の合同プロジェクト活動が合意された場合には、広報活動を支援する必要がある。広報活動支援により、日米の合意が確実に、明確に理解され、また母国および対象国において国民の支持を得られるようになる。
4.3.2 政治のための連携か、あるいは開発のための連携か
(1)政治的発端
日米にとって、日米コモン・アジェンダおよびGIIは、保健分野での双方の開発援助哲学を知るうえで有用な手段であったし、双方のODAの計画プロセスに理解が深まり、パートナーとしていかに協力すべきかを模索する良い機会となった。しかしながら、両イニシアティブは開発主導というよりはむしろ、外交政策に基づいたものであったため、官僚やトップダウン・アプローチが制約となることがあった。両イニシアティブは、連携へのインセンティブが明確化されておらず、このことは日米コモン・アジェンダの目標の達成の制約となったのではないかとの意見もあった。
本評価においては、日本、米国、他ドナー間で、戦略策定や意思決定へのアプローチの相違点が明らかとなった。日本のODAの意思決定プロセスは中央集権的であり、このためプロジェクトの計画や実施の各段階で時間を要した。例外は草の根無償資金協力であり、日本の各大使館により運営され、非常に分権化されている。このスキームでは、外務省(本省)の承認を得ることなく、500万円(約5万米ドル)までプロジェクトに無償資金協力できる。しかし、この他においては、対象国政府、他ドナー、NGOやプロジェクト実施主体など協力相手機関とのインタビューにおいて、中央集権的な意思決定方法が重大な制約となることが指摘された。日本のODAの階層的な構造や中央集権的意思決定アプローチは、対象国政府やドナー・コミュニティーには、深い連携促進を進める上で制約となっているとみなされている。
USAIDや他ドナーの意思決定プロセスは、現地プロジェクトの計画や実施の段階で、日本と比べ、より分権化されている。この結果、意思決定プロセスは迅速かつ柔軟であり、対象国政府のニーズにより対応したODAの現地プログラムを提供できている。
提言:将来の合同イニシアティブでは、初めにそれが政治目的なのか、もしくは開発目的なのかを明確にし、またODAの意思決定アプローチの相違点を明確にしておくべきである。これにより、開発の目標達成が強調でき、上述のような様々な制約が克服できるであろう。
(2)開発アジェンダ
日米コモン・アジェンダとGIIの発足時には、目標供与金額以外に、特定の開発目的が明示されなかった。国レベルやプロジェクトレベルでの合同計画や連携のイニシアティブにおいても、期待されるインパクトや開発の成果には言及されず、言及されていても未だ測定不可能な成果などであった。しかし、本評価調査団の訪れた連携プロジェクトの活動の中には、非常に長期的な開発インパクトの可能性を持つものもあった。
1993年に日米コモン・アジェンダが発足して以来、日米は各々の開発援助アプローチを修正してきた。USAIDは90年代半ばに成果重視のフレームワーク(results framework)を導入し、日本はOECD/DACの新開発戦略を取り入れた。日本のODAは、特に保健分野において、対象国の開発アジェンダを益々尊重するようになっているという点で、日米コモン・アジェンダは日本にとって有益なものであったと思われる。そして、将来のODAパートナーシップにおいては、これらの修正された援助アプローチを用いることで、援助のインパクトで成果指向型の目標が設定・適用されるべきである。
提言:今後、保健セクターにおける日米連携は、開発課題に重点を置くべきであり、このような国際的パートナーシップのインパクトを計測し、記録するためにも、明白な目標および目的を設定する必要がある。
(3)政策の一致
日米コモン・アジェンダとGIIに様々な場面で関わる日米スタッフからのヒアリングにより、二国間のコミュニケーション、連携において、大きな変化や進展があったことがわかった。「人口、保健(HIV/AIDSを含む)、栄養」に関する両国の政策は、1993年当時と比べかなり一致してきている事例もあり、こうした進展は両イニシアティブの大きな成功の一つと言える。これらの変化は、日米コモン・アジェンダの成功面を示すものとして計測され、記録されるべきであった。
提言:今後どのような形で日米の合同開発パートナーシップを行うにせよ、両パートナーはセクター・アプローチや、政策といった広い視野で、より綿密に変化をモニターし、後の評価や計画のために記録すべきである。
日米コモン・アジェンダを通じて、互いの政策や戦略に関する対話と理解が促進されてきたが、これは次官レベルの定期的会合、USAIDとJICA本部間の人事交流などによるところが大きい。USAIDは、数年にわたって保健分野で日本との連携の促進を担当したUSAID本部のスタッフの存在こそ、連携の成功への米国側の貢献であるとみなしている。他方、JICA本部にはこのような担当はいなかった。
提言:将来のパートナーシップ促進のために、今後もJICAとUSAID間の人事交流およびUSAID本部の日米連携の促進担当の配置は、続けられるべきである。また、JICA本部は、USAIDのような保健分野の連携に責任ある立場のスタッフを配置すべきである。
外務省は最近保健分野専門家のポストを設置し、専門家を配置した。この専門家がザンビアでオブザーバーとして調査団に参加した。外務省は、この配置により保健分野での開発協力への対応力を高めたとし、称賛されている。また、この専門家により、外務省は、保健分野のODAに関わる専門的なフォーラムにおいてより情報を得やすくなり、その結果、より優れた代表を参加させることが可能となるであろう。外務省内に専門家を配置することにより、外務省は保健分野における合意やプロジェクトにおいて、目的の設定や成果指標の選定が促進されるだろう。
しかしながら、外務省には本来は外交が使命という認識があり、技術専門家という人材の多用を意図してはいないようであるが、外務省はODAの意思決定プロセスやスタッフの活用への取り組み方を再検討すべきである。これには、外務省がJICAに保健分野の専門技術スタッフの定員を拡充できるよう権限を与える、またJICAが、USAID同様に、保健分野でのODAの開発課題の提案や取り組みにおいてより大きな役割を果たせるよう支援するなどが考えられる。こうした権限に伴い、JICAはUSAIDや他の機関との連携の促進に関する決定権をも今まで以上に与えられるべきである。
4.3.3 国/プログラム3レベルの連携
(1)国レベルの戦略と計画
合同プロジェクトの形成や実施面だけでなく、戦略策定時においても、より密接な連携へ向けて国レベルで進展していることが認められた。今回明白な目的が設定されていなかったにも関わらず、このような進展があったことは日米コモン・アジェンダの成果として認知すべきことである。戦略策定段階での連携は、日米の本部レベルというよりは、将来、より成果が期待されるレベルで実現している。
1998年代後半より、両国は合同プロジェクト形成調査を行ってきた。ザンビアはその最初のケースであり、その後バングラデシュなど他地域でも行われていった。日米コモン・アジェンダの初期には、合同プロジェクト形成ミッションはJICAが遂行し、USAIDはオブザーバーとしての参加にとどまった。しかし、近年では、両国が完全にパートナーとして合同プロジェクト形成ミッションにあたり、その結果プロジェクトの実施段階ではより十分な連携が実現した。日米連携チームは、USAID本部で、『日本との合同プロジェクト形式ミッションにかかるガイドライン(A Practical Guide to Joint Project Formulation Missions with Japan)』(2001年6月)を作成した。更に、USAIDに派遣されていたJICAスタッフの藤江顕氏がこれに編集を加えたものが、USAIDで利用されている。USAIDの本部スタッフによると、この合同プロジェクト形成ミッションのアプローチとそこから発生した保健分野用のプロジェクト連携マトリックス(project collaboration matrix)は、日米コモン・アジェンダの他の分野への適用モデルとなったということである。
合同プロジェクト形成ミッションとその進捗の評価に対象国政府の参加を求めるかどうかは、大きな議題である。本調査では、対象国の保健省から合同プロジェクト形成ミッションおよびそのフォローアップに参加を強く望む声があった。しかしながら、USAIDミッションには、両ドナーが自分達で合同プロジェクト形成ミッションを遂行し、計画が最終的に固まった段階で対象国政府が参加すべきであると考えているスタッフもいた。
プロジェクトの初期段階に対象国政府の関与を得ることに否定的な外務省の見解の一つとして、日本国内の予算の最終決定以前に、対象国政府が合同プロジェクト形成の概略的な計画を外務省のコミットメントとして受け取るのではないかという懸念がある。また対象国政府の関与により、NGOとのパートナーシップよりも公共セクターの優先課題が重視されるようになりはしないかという懸念もあった。(ザンビアでの国境に跨るHIV/AIDS対策への取り組みにおいて同様のことがあった。)
日米両国は、ODAが対象地域の「国家の保健医療戦略計画」の包括的な枠組みの中で計画されているかを確認することの重要性を表明している。そうすることで、両国がその国家計画を共に支援していくような連携の形ができるのである。また、これにより、JICAとUSAID間で、対象国政府の優先事項を確認し、政治的な制約などに対応できるような連携が可能となるのである。
過去の対象国政府の関与に関係なく、日米両国は、戦略策定および実施のレビューへの対象国政府の参加の重要性を認識している。しかしながら、その参加の時期や度合いは決定されておらず、これは国別に検討する必要がある。
現地レベルでの両ドナーの連携の現状を踏まえた本調査の結論として、日米協力の意思決定及び実施を担当する機関の間には、日米コモン・アジェンダのような公式の合意は必要ないのではないかということが挙げられる。この結論は、日米間に重要な相違点、例えばODAにおける戦略策定手法、資金供与の形態や意思決定プロセスの違い、会計年度期間の6ヶ月の差などからも、妥当であると考えられる。
提言:ここで明らかとなった国レベルでの連携の進展度合に鑑みると、今後はODAにおいて日米連携に関する政治的合意は望ましくなく、また必要ないのではないか。それでもなお、上位レベルでの方向づけ、枠組みの設定や連携へのコミットメントは引き続き有用である。新たな合意如何に関わらず、両国は、今後も本部レベルよりもフィールドレベルでの合同計画や連携を重視していくべきである。
(2)専門家スタッフの重要性
両国の合同プロジェクト形成ミッションでは、日米両ドナーが互いのアプローチや得意分野を尊重し、日米間の機動的なパートナーシップや連携アプローチが形成されたことが明らかとなった。保健分野の現地専門スタッフの存在や、連携に対する業務命令もまた、日米間の意思の伝達や連携の促進に重要であったことが判明した。
保健分野のセクター戦略や成果重視の枠組み(results framework)を構築する上で、USAIDと米国大使館は、現地で技術専門家(technical specialist)をアドバイザーとして雇用している。他方、JICAは本部で保健医療専門家(health specialist)を雇用しており、USAIDのように現地事務所で専門家を配置することには限界がある。現行の日本の中央集権的な意思決定アプローチでは、JICAの専門スタッフの現地配属の意義には疑問があるという情報もあった。
しかしながら、バングラデシュ、ザンビアでの合同プロジェクト形成ミッションを受け、JICAは、ドナー間の調整を担当する専門家(technical staff/specialist)を配置した。これは、USAID側や他ドナー、対象国政府から高い評価を受けた。例えば、豊吉直美氏は、JICAの「合同プロジェクト形成アドバイザー」としてザンビアのODA援助調整を担当し、ザンビアでの保健医療における日本のODAイニシアティブの重要な功労者として一様に称賛を得た。豊吉氏のポジションはJICA事務所に代わって、保健省に所属する中央保健局(Central Board of Health)のアドバイザーに引き継がれることになっている。しかし、これについて、この新しい担当者が保健省に所属しているという立場では、豊吉氏のようにセクター・ワイドの連携やドナー間の調整を機能的に進めるのが難しいのではないかという懸念がドナー関係者から表明された。JICAは、二名の保健分野の専門スタッフを(一名は保健省に、もう一名はJICA事務所の連携促進の能力を高めるために)配置するようザンビア側へ要請することを検討すべきである。
ザンビアでは、本調査の前にJICAの現地事務所の連携担当者が代わってしまったため、調査団は面会できなかった。まもなく新たなスタッフが配属される予定である。バングラデシュでも、本調査の前にJICAとUSAIDの連携担当者が同時期に去ってしまった。JICAとUSAIDのスタッフの交替の結果、連携の制度的な側面(institutional memory)が失われた状況では、連携における重要な要素もまた失われてしまう。
提言:保健分野での密接な連携を今後も確実なものとしていくために、USAIDの国別の現地ミッションは、日本のカウンターパートとの定期的な交流を担当する保健分野の専門スタッフを配置すべきである。同様に、日本は、JICAの現地事務所に保健医療の専門知識のある個人の配置を続けていくべきである。こうしたスタッフの委任事項(TOR)には、日本のODAの国レベルにおける調整も行うこと、また日本、USAID、他ドナーおよび対象国政府間のつなぎ役となることなどを含めるべきである。こうしたスタッフは、プロジェクトの運営を任されるJICAの専門家ではなく、連携アドバイザーとなるべきであり、現地のJICA事務所に常駐させるべきである。
(3)シナジー(相乗効果)の達成
日米コモン・アジェンダにより、二国間援助において多くの特筆すべき相乗効果が生まれた。例えば、公共セクターのプログラムを進めていく上で、日本が相手国政府と協同できるような場面では、USAIDはNGOセクターと協調していくことに力を入れている。このように、両ドナーが別々のセクターと協調することで対象範囲が広がり、これらの連携の力によって、国レベルにおける両ドナーの保健イニシアティブのインパクトはより大きなものとなった。
USAIDでは購入が制限されているが、日本には供給可能なプログラムの必需品がある。例えばザンビアでは、近隣諸国との間で、国境を越えたHIV/AIDS感染の拡散を抑えることを目的とした日米合同イニシアティブ用に、日本は性感染症の治療薬を提供した。日本はまた、マラリア予防のための蚊帳や、資機材、ビデオカメラなどを提供し、USAIDや他ドナーが資金提供するザンビアのソーシャル・マーケティングプロジェクトの拡充に貢献した。更に、JICAもこのプロジェクトを支援しており、家庭用飲料水の消毒用塩素を米国NGOのポピュレーション・サービス・インターナショナルのザンビア支部であるソサエティ・フォー・ファミリー・ヘルスより購入し、ルサカのPHCプロジェクト地域の一つに配布した。
本評価では、日米両国が連携して互いの資源を活用したことが、日米コモン・アジェンダ・イニシアティブの成功につながったと考えられる。日本はまた、日米両国で資金提供した保健分野の協力で、海外青年協力隊をうまく活用している。協力隊は、貢献度が高いこと、相手文化へ配慮していることから、バングラデシュ政府やザンビアの現地NGOから高い評価と委任を受けていた。またUSAIDのポリオ根絶プログラムでは、米国の平和部隊との間接的な連携も見受けられた。このプログラムは、今後の日米の合同プロジェクトに向けた研究対象とされるべきである。
提言:日米両国は、各々の長所に注目し、今後の合同プロジェクト活動では補完性や相乗効果を確保すべきである。将来の保健分野における共同プロジェクトのインパクトを確保するためにも、引きつづき協力隊を活用したり、米国平和部隊との協力の可能性を探るべきである。
4.3.4 プロセスと手続き
(1)内部的な調整と意思伝達
保健イニシアティブのための資金元は多岐に渡っているが、これらが日米の援助機関(JICAとUSAID)や両国大使館によって管理されている場面では、対象国政府などの資金の受け手の混乱を招き、国別プログラムの策定において調整不足が生じるおそれがある。調査団が訪れた国々においても、日本の援助形態が多種多様であること、そしてそれらの様々な援助形態に対して、支援の受け手がどのように申請し、どのように選定されているのかについて、混乱があったことが明らかにされた。日米の担当官とも、自国の提供している保健セクター支援または他ドナーによる間接的支援の全体像について把握していないようであった。対象国政府など資金の受け手からは、日米両国の包括的ビジョンが有効なのかについても疑問が投げかけられた。
これらの件について、ザンビアとバングラデシュの両国で興味深い例があった。ザンビアでは、米国大使館が担当する米軍の資金が、日本の無償資金協力のプロジェクト地域にあるルサカ地域保健委員会(Lusaka District Board of Health)のヘルス・センターの建設に利用されていた。いくつかの米国の大学もまた、医療情報科学の国際研修プロジェクト(International Training in Medical Informatics project)の下で行われている日本のプロジェクトの中で、診療所のスタッフに情報技術の研修を提供していた。USAIDのスタッフはこうした米国のイニシアティブには精通しておらず、ザンビアの日米合同プロジェクト活動マトリックスにも載っていなかった。バングラデシュでは、USAIDの資金による地域的(community-based)保健イニシアティブのプロジェクトが終了したことを受けて、同イニシアティブを継続させるため、保健省は、日本の債務救済無償資金協力(debt relief grant aid)のカウンターパートファンドを利用することを推奨した。関係者は、これを保健省と日本政府とのパートナーシップの重要な部分であり、バングラデシュ国家保健医療計画に大きく貢献するものとしてみなしていたが、日本大使館もJICAスタッフも、これを日米コモン・アジェンダおよびGIIの一部とは認識していなかった。
(2)スタッフの活用
本章ですでに指摘しているように、日本は、ODAの計画や実施に関し、米国に比べより中央集権的な意思決定プロセスをとっている。このようなアプローチの結果、現地でドナー間の調整を担当する日本人専門スタッフの人員が限られ、日本のODAプロジェクトの開始や資金の流れに時間を要してしまう。人員不足によって、一人の日本人保健アドバイザーが多用されすぎているといった、連携上の課題が明らかになっており、JICAや大使館の日本人スタッフにも影響が及んでいる。また、他のスタッフが他の分野とともに保健分野をもカバーするために配属されるかもしれないが、そのスタッフは保健分野の専門知識がないかもしれない。特にバングラデシュでは、対象国政府およびNGOコミュニティーのメンバーの間では、保健分野の問題や計画において日本側の中心となる担当者が誰であるのかが不明瞭であったようだ。
提言:日米両国は、保健に関する全ての援助についてセクター支援の包括的な視点を持ち、それを共有すべきであり、このことによって各々のスタッフ、対象国政府および有権者、また自国の利害関係者に情報を提供できるのである。日本は、国レベルのセクタープロジェクトの日本側の担当者、また様々な援助スキームのうち利用可能な支援の形態などについて明示すべきである。
(3)利益と負担
日米コモン・アジェンダとGIIはあらゆるレベルでの対話や連携が始まる発端であった。保健分野では連携は成功したが、これを達成するために用いられた手段はしばしば非効率で時間を要するものであったという認識が全体的に認められた。このことは特に、両パートナーが相互理解を進める段階から、密接なパートナーシップとしての作業段階へ移った終盤の方に見受けられた。利害の一致や地域の重複があるところでの協調、特に対象国の保健セクター計画に対応しており、連携パートナー、対象国政府、他ドナーの負担が最小限となるような場面では協調が重要であるということについて広く合意がある。保健分野ODAにおける日米の連携は連携に適した場面において継続されるべきである。
提言:今後のパートナーシップ活動では、可能性のある負担を示し、付加価値の高い方向性、インセンティブ、連携の拡大のための支援を提供するような連携のアレンジを計画することが重要であろう。
3 訳者注:日本の保健分野のODA では、GII 実施期間中に明確にプログラムとして位置づけられ、実施されたものはない。