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地球温暖化対策関連ODA評価
調査報告書



第5章 総合評価

5-4 持続性

(1) 維持・管理への配慮
 そもそもODAは、被援助国の自立を究極的な目的としている。従って、各ODA案件は、一定期間に限定して実施されるのが常であり、資金協力の場合は、いわゆる初期投資に該当する費用への協力である場合が多い。特にインフラ建設や機材供与の資金協力事業を計画、実施する際には、維持管理費計画を策定するなど、その事業の持続性につき、十分な配慮を行わなければならない。
 このような発想に基づき、以下、現地調査を実施した2つの無償資金協力事業につき、維持管理に対する配慮に係る、個別の評価結果を述べる。

<「インドネシア国グレシック火力発電所1・2号機建設計画(無償資金協力)」の評価>
1) 基本設計調査報告書中の維持管理計画に係る記述

 グレシック火力発電所の無償資金協力を供与する準備段階で作成された、基本設計調査報告書より、維持管理に関わる記述の主要な部分を抜粋した結果は、以下の通りである。
・ PLN(電力公社)は、売電収入の約10%の十分な金額を補修費用に充当するなど、ほぼ良好な維持管理体制を備えている。
・ 発電所に配置されている補修要員の技術レベルは、比較的高い。発電所補修要員としての実務経験を長年にわたり蓄積している。
・ 特殊な作業技術や特殊器具を必要とする補修については、外注している。

2) 維持管理の状況
 グレシック火力発電所において、施設維持管理の状況につき、現地ヒアリング調査等を行った結果は、以下の通りである。
・ 5年間契約で、日本のメーカーと維持管理契約を締結している。定期的に、メーカーからの技術者が発電所を訪れ、必要な補修を実施している。
・ 同発電所より入手した施設運転データを参照した結果、効率良い運転を持続できていることが判明し、このことから維持管理についても問題なく実施できていることが推測できる。

3) 評価結果
 以上を踏まえ、本案件における維持管理費用の考慮については、以下のようなことが言える。
・ 基本設計調査時点で、維持管理の体制や費用について十分な調査が行われており、実際の維持管理状況も良好に保たれている。

<「中華人民共和国漢江上流水土保持機材整備計画」の評価>
1) 基本設計調査報告書中の維持管理計画に係る記述

 漢江上流水土保持機材の無償資金協力を供与する準備段階で作成された、基本設計調査報告書より、維持管理に関わる記述の主要な部分を抜粋した結果は、以下の通りである。
・ 機材ごとに、「設置場所、管理責任者、維持管理方法(点検頻度等を含む)」の3項目から構成される維持管理計画が策定されている。
・ 湖北省林業庁の下部実施機関である十堰市林業局の年度予算総額に占める修繕費の割合は、2-3%程度である。

2) 維持管理の状況
 漢江上流水土保持機材の供与先である湖北省林業庁において、施設維持管理の状況につき、現地ヒアリング調査等を行った結果は、以下の通りである。
・ 供与を受けた機材のうちの一部が、スペアパーツが入手できず、故障したまま放置されている状態にある。
・ 維持管理計画を策定して機材を運用していたものの、掘り起こす土壌の硬度が、当初の予測を超えるものであったため、壊れた鋤の調達予算の手当てが間に合わない状況となった。

3) 評価結果
 以上を踏まえ、本案件における維持管理費用の考慮については、以下のようなことが言える。
・ 基本設計調査時点で、維持管理の体制については十分な調査が行われていた。
・ 部品の補填頻度については、耕作対象となる土壌の硬度が予測を超えるものであった結果、過少な見積もりとなってしまい、結果的に有効活用されずに放置されている機材が存在している。しかし、これは不可抗力の範囲と見なせるであろう。

<総括評価>
 以上の結果より、事業レベルでの維持管理費用の考慮は、かなり実施されていることが分かった。しかし、予測範囲を超えるような維持管理費用の支出が生じた場合、有効活用されずに放置される機材が出てきてしまうことも明らかになった。
 「ODA案件における維持管理配慮」は、かなり以前より議論されてきたテーマであり、案件選定、計画策定、詳細設計、建設、運営等のさまざまな段階において、事業の継続性につき配慮を行うシステムが組み込まれてきた結果といえる。


(2) キャパシティー・ビルディング(能力開発)を通した持続性への配慮
 我が国の温暖化対策ODAは、温暖化対策としての側面が副次的(すなわち持続可能な開発が主目的)である事業がほとんどを占めていることから、地球温暖化対策としての効果・成果を持続させていくためには、長期的には被援助国における温暖化対策ODA事業のカウンターパートの温暖化に対する理解・知識・ノウハウを高めていくことが重要であるといえる。この観点からみれば、京都イニシアティブの3本柱のひとつでは「人づくり」を掲げて1998-2001年の3年間に約4,600名の途上国の人材を育成しており、我が国の温暖化対策ODA全体の温暖化対策効果を持続させるための配慮がなされていると評価できる。

図表 地球温暖化対策を主目的とする技術協力案件リスト(再掲)
地球温暖化対策を主目的とする技術協力案件リスト
出所)JICA環境女性課集成の環境分野技術協力案件リスト1998-2000年度より野村総合研究所作成


図表 「地球温暖化対策コース」の概要
目的 ・ 気候変動枠組条約の義務として、途上国に課せられているGHGインベントリの作成および温暖化対策戦略の策定に必要な情報を提供し、技術の習得を図る
到達目標 ・ GHGインベントリを自ら作成し得るような技能の要請および温暖化対策戦略の策定に必要な情報の提供および技能の養成
カリキュラムの概要 ・ UNFCCC、および京都議定書の概要
・ UNFCCC国別報告書およびGHGインベントリの作成方法
・ 地球温暖化に関する最新科学
・ 温暖化対策のための法・制度および対策技術
・ 日本の温暖化対策・GHG対策技術・プラント等の見学 など
期間 ・ 約3ヶ月
受入れ人数 ・ 毎年15名
対象者 ・ 途上国の行政機関において、地球温暖化問題を担当している職員
出所) JICA資料より野村総合研究所作成


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