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地球温暖化対策関連ODA評価
調査報告書



第3章 我が国の地球温暖化対策関連ODAの概要

3-3 地球温暖化対策関連ODA案件の選定現況について

(1) 被援助国政府における地球温暖化対策の優先度
 被援助国である開発途上国においては、地球温暖化問題が持つ以下の特質により、その優先度がかなり低いものとして認識されていることが、今回の現地調査(中国、インドネシア)でも証明された。

○ 緊急性が低い
 一般的に、開発途上国の開発課題を全セクターにおいて概観すると、「貧困問題」、「良い統治」、「経済危機からの復興」等が、最も重要度の高い課題として位置づけられている。しかしながら、多くの国において環境問題への対応は、比較的優先度の高い分野とされている。
 但し、環境問題だけに限定した場合にも(実害が短期間の内に発生するという意味において)より緊急性の高い課題(有害物質による水汚染等)が山積している中、地球温暖化問題の優先度は、相対的に低く留まっているのが実情である。

○ 経済的なインセンティブの欠落
 革新的な代替エネルギーが実用化されない限りにおいては、経済発展の途上、すなわちエネルギー使用量においても増加局面にある開発途上国においては、経済発展の制約にしかならない(経済的なインセンティブが何もない)地球温暖化対策を行うのは、現実的に困難である。
 これは、他の環境対策との比較においても、言えることである。すなわち、一般的に、環境対策を先行して行うことは、後から生じる有害物質で汚染された環境(土壌、水資源、大気等)を浄化するコストを未然に回避するという経済的なインセンティブを持つと言える。しかし、地球温暖化対策の場合には、CDM等の仕組と運用が国際社会で確立され、GHG排出削減量が経済的価値を持つようにならない限りは、このようなインセンティブが存在し得ない。

○ 「責任の所在は先進国」という強い認識
 「地球温暖化を引き起こしているのは、これまで、産業/消費活動を活発に継続し、GHGを排出/蓄積してきた先進国の責任である。従って、温暖化対策に率先して取り組むべきは先進国であり、途上国は、その協力を受ける立場にある」という認識を、かなり強く持っている。

○ 国民の意識の低さ
 街中の大気汚染などの身近な環境問題は、感覚にも訴え、自らが害を被る場合も多い。従って、国民は、その課題に対し相応の関心を持つようになる。しかし、地球環境問題は、全く身近でなく、かつ不確実性も伴う課題であり、一部の環境NGO等を除けば国民の関心は相対的に低い。現地調査においても、特に中国政府環境保護総局において、この点につき指摘があった。


(2) 地球温暖化対策を主目的とするODA案件の要請状況

 前項で述べた通り、被援助国政府における温暖化対策の優先度は低く、従って、温暖化対策を主目的とするODA案件の要請は、現時点ではほとんどないことが予想される。以下の現地調査ヒアリング結果は、これを裏付けている。

1) インドネシア国の在外公館や実施機関事務所におけるヒアリング結果
・ 温暖化対策を主目的とする要請は、現時点では皆無である。
・ インドネシアに係る開発関連ドナー間の会合においても、温暖化対策に係るテーマを話し合ったことは、これまでにない。
・ インドネシア国は、経済危機からの復興途上にあり、環境省以外のカウンターパートの温暖化対策に対する認識はかなり低いと思われる。

2) 中国の在外公館や実施機関事務所におけるヒアリング結果
・ 温暖化対策を主目的とする案件の要請はない。
・ 温暖化対策は、内容的に非常に幅広いため、それそのものが要請として出てくることはないだろう。
・ 中国におけるODA案件は、全て、中国政府が独自に策定している計画の重点課題に沿う案件を選定するようになっているが、温暖化対策というものが、先方の重点課題となっていないため、そのような案件が要請されることはない。

(3) 地球温暖化対策を副次的効果とするODA案件の要請状況
 地球温暖化対策を副次的効果として持つODA案件、具体的には植林/緑化分野およびエネルギー転換/効率改善分野等のODA案件については、比較的、要請が多い傾向にあることが、以下のインドネシア国および中国におけるヒアリング結果では裏付けられた。

1) インドネシア国の在外公館や実施機関事務所におけるヒアリング結果
・ インドネシア国においては、数年後には電力需要量が供給量を上回り、安定的な電力供給が困難になると予測されている。従って、既存の発電所のエネルギー効率改善案件など、電力分野の要請は、引き続き多い。大使館としても、このような案件を積極的に取り上げて行きたいと考えている。
・ 2000年度案件として、植林無償案件を2件採択しており、今後も、このような協力を継続したい。
・ 植林分野においては、JICA個別専門家(政策アドバイザー)が、植林協力等の推進に大きく貢献している。これを踏まえて、植林分野の協力を積極的に推進していくことが考えられる。

2) 中国の在外公館や実施機関事務所におけるヒアリング結果
・ 対中国経済協力計画の基本方針は、「内陸部重視」ということである。環境分野の支援においても、これを基本とし、森林保全や水汚染対策等に重点を置いて協力を展開したいと考えている。
・ 間接的に温暖化に貢献する案件(特に植林分野)については、多くの案件を実施中であり、この分野については、大使館の指導のもと、今後も積極的に協力を展開していきたいと考えている。
・ 環境保全は、対中国経済協力計画の重点課題の一つとして位置づけられている。これを受け、大使館の指導のもと、JBICとしても、今後、環境保全に積極的な支援を行いたいと考えている。
・ 植林/緑化分野においては、中国林業局の6つの重点課題のうち、主に「2.退耕環林」「3.三北長江中下流防護林」の二つを中心として取り組みたいと考えている。
・ 削減タイプの案件としては、これまで、小型ボイラーの改良、都市ガス化、地下鉄建設等の案件において協力実績があるものの、今後は、よりグリーン・イシューに重点を置く方針である。
・ 中国の電力セクターは、最近、発電部門と配電部門の分社化が決定するなど、現在、流動的な状況にあるので、中国側の体制が固まるまでの当面の間は、動向を見極めるに留まる。


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