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参考1:政府開発援助に関する中期政策

III.地域別援助のあり方


 我が国は、世界の150か国以上の国に対しODAを供与しており、1996年にはそのうち47か国※25において二国間で最大の援助国となるなど、既に世界の多くの国の開発に大きな役割を果たしている。我が国の援助は、地理的・歴史的その他あらゆる面で関係の深いアジア地域を重点地域としており、今後ともアジア地域に重点を置いていく。同時に、経済その他の面での相互依存関係が世界的な拡がりと深化を見せる中、人道的問題、国際社会の安定と繁栄の確保、地球規模問題への対応等国際社会が一致して取り組むべき問題が数多く存在するため、アジア以外の地域への取組も進めていく。

1.東アジア地域

 我が国の援助は、1992年から5年間のDAC加盟国から本地域への援助の6割近くを占めるなど、この地域に重点的な協力を行ってきた。人造りや経済・社会インフラ等への我が国の援助はこの地域の経済成長促進に大きな役割を果たし、また、社会開発や環境面での援助を通じ貧困問題や公害問題の緩和等にも貢献してきた。
 我が国は、経済を含む多くの面でこの地域と特に密接な関係を有しており、今後とも、所得水準や市場経済の段階、更には、社会状況や自然状況の異なる東アジアの多様な状況を踏まえ適切な支援を行う必要がある。東南アジアの中で近年まで高い成長を示していた諸国については、現下の困難な状況を乗り越え順調な経済発展を回復し、政治社会的な安定を維持しうるよう支援することが我が国にとっても重要である。また、依然所得水準の低いインドシナ諸国やモンゴルについては、貧困緩和に取り組むとともに、これら諸国の市場経済への移行及び持続的な成長を引き続き支援していく必要がある。更に、12億を超える人口を抱え、その動向が世界的に大きな影響を与えうる中国については、その改革・開放路線を支援し、国際社会のより一層建設的なパートナーとなるよう促すとともに、国内の地域間格差の是正や環境問題等への取組に重点を置きつつ支援を行っていく必要がある。東アジア地域においては広域的な開発への取組み、地域協力の深化と拡大が進みつつあるほか、他の開発途上国への支援を開始したいわゆる「新興援助国」が登場しており、この様な動きを支援して行く必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)経済構造調整をはじめとした経済危機克服と経済再生のための支援
(2)国民生活及び国内の安定に資するための社会的弱者への積極的支援
(3)裾野産業育成や適切な経済・社会運営のための人材育成と制度造り等の支援
(4)貧困対策、経済・社会インフラ整備、環境保全対策、農業・農村開発における各国の実情に応じた援助の実施
(5)地域における広域的な開発(ASEAN域内協力、APEC地域協力、メコン河流域開発等)の取組み及び「南南協力」※26への支援

2.南西アジア地域

 南西アジア地域は世界最大の貧困人口を抱える地域である※27。我が国は、「新開発戦略」の目標を念頭に置き、今後もこの地域の抱える貧困問題への対応を重視していくとともに、域内各国の経済自由化や経済面を中心とした地域協力等望ましい動きを支援していく必要がある。1998年5月のインド・パキスタン両国による地下核実験の結果、我が国は両国に対する援助政策を根本的に見直さざるを得なかったが、引き続き不拡散分野での両国の取組の成果を求めつつ、対話を進めていく必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)貧困削減と貧困層の生存の確保のための支援(保健医療、初等教育、農業・農村開発等の基礎生活分野)
(2)民間活動の活発化及び海外からの投資促進に資する環境整備のための人材育成、経済・社会インフラ整備等への支援
(3)人口増加や経済成長と関連した環境負荷増大に対応した、環境保全対策のための支援

3.中央アジア・コーカサス地域

 ソ連邦崩壊後、域内の諸国は民主化・市場経済化を進めてきた。しかし、依然として、各国は脆弱な経済構造、失業者の増加等の社会不安、民族紛争や領土問題など、政治経済的不安定要因を抱えている。我が国はこの地域の諸国をDACの援助対象国リストに掲載するため働きかけ、これを実現させる等の積極的支援を行ってきた。我が国はこの地域の地政学上の重要性や、エネルギー資源確保上の重要性を認識し、「シルクロード地域外交」※28の推進により同地域の安定の実現に協力していく必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)自立的な経済開発の基礎となる経済・社会インフラ整備への支援
(2)民主化・市場経済化のための人材育成と制度造りへの支援
(3)旧ソ連時代の負の遺産(環境保全対策、セミパラチンスクの被爆者支援等)の克服や体制移行・改革に伴う社会的困難の緩和

4.中近東地域

 中近東地域は我が国への原油の主要な供給元として我が国経済の安定にとり極めて重要である。また、中東和平やイラク情勢をめぐる動きは世界の平和と安定に大きな影響を及ぼしうる。我が国は、この地域の社会的安定と和平に向けた環境造りのための支援を積極的に行ってきている。また、水資源の確保は地域の安定にも影響をもたらしうる重要課題である。中近東地域は産油国、LLDCを含み、経済状況は国により様々であり、脱石油の経済多角化に向けた国内技術者の育成等の人材開発が大きな課題となっている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)中東和平プロセス支援のための協力(対パレスチナ支援、周辺アラブ諸国支援、多国間協議関連案件の支援等)
(2)比較的低所得の国における農業、水資源開発等の経済・社会インフラ整備支援
(3)比較的高所得の湾岸諸国における脱石油のための経済多角化に向けた国内技術者層の育成、教育等に資する技術協力による支援及び海外からの投資促進のための環境整備への適切な支援
(4)比較的高所得の国等における環境保全対策への支援

5.アフリカ地域

 アフリカ地域では、近年、民主化へ向けての進展や南部アフリカの安定等好ましい動きが見られ、着実な経済成長を達成する国も増加した。しかしながら、経済のグローバル化から取り残される懸念や、紛争、エイズ等開発を阻害する深刻な問題を抱える国も多い。また、アフリカの過半の国はLLDCであり、多くの重債務貧困国が存在する。アフリカにおける種々の問題解決に向けての努力を支援することは、国際社会が一致して取り組む課題であるとの認識が強まっている。
 我が国は、こうした認識を強化し国際社会によるアフリカの自助努力支援を具体化するため、1998年10月、国連等とともに第2回アフリカ開発会議(TICADII)を本邦で開催した。
 TICADIIにおいては、「新開発戦略」の基本的考え方を具体化するものとして、アフリカ諸国の自主性の発揮、先進国や国際機関との協力・連携の強化、アジア・アフリカ協力の推進等を柱とする「東京行動計画」を策定した。今後は、この行動計画の実施が課題となる。また世銀が中心となって推進されている「アフリカのための特別支援計画(SPA)」等国際的な努力と協調しながら支援を行うことが重要となっている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)貧困対策や社会開発への支援※29及び砂漠化対処等に対する支援
(2)人材育成及び政策立案・実施能力構築への支援
(3)アフリカの経済的自立へ向けた民間セクター・工業・農業等の開発への支援(南南協力によるアジアの開発の成果と経験のアフリカへの移転、農業をはじめとする産業の生産力向上に資する基礎的インフラ整備、域内地域協力の促進等)
(4)アフリカの安定の基盤となる民主化・紛争予防や紛争後の復興に対する支援
(5)債務負担の軽減に資する支援(支援の決定に当たっては、債務国の構造改革に取り組む姿勢を勘案する)

6.中南米地域

 中南米地域は、1990年代に入り、民主化及び経済改革の進展により新興市場の一つとして大きな成長を遂げた。食料や資源エネルギーの豊富な地域は、21世紀における食料・資源エネルギー供給センターとなり、更なる発展が見込まれる。
 また、伝統的に我が国と中南米地域との架け橋になっている多数の日本人移住者・日系人が、地域各国の開発のため重要な役割を果たしていることに鑑み、その努力を支援する意義は大きい。
 更に、近年の環太平洋協力の進展に鑑み太平洋岸地域への支援も重要となっている他、南米共同市場(メルコスール)に加えカリブ諸国や中米においても、地域統合を考慮した効果的な支援が求められている点に十分配慮する必要がある。
 なお、依然として、基礎的な経済・社会インフラの整備が立ち遅れている地域が存在し、貧富の格差が大きいことが、経済発展と民主化への大きな障害となりうることに留意する必要がある。
 加えて、1998年に壊滅的なハリケーン災害を受けた中米諸国においては復旧・復興が急務となっており、これを支援していく必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)民主化及び経済改革努力に対する積極的な支援
(2)豊かな自然環境の保全や経済成長に伴う環境負荷の増大に対応した環境保全のための支援
(3)基礎教育、保健医療、農業・農村開発、地域間格差の是正のための基礎インフラ整備等、貧困問題の緩和のための 支援
(4)比較的低所得の国において民間活動の活発化及び海外からの投資促進に資する環境整備のための経済・社会インフラ整備等への支援
(5)複数国を対象とした人材育成・技術移転等のための広域的な協力の推進

7.大洋州地域

 大洋州地域は我が国との関係も深く、また、漁業、林業等の資源供給先として重要である。これらの国々は国家規模が極めて小さいこと、一次産品に大きく依存していることから、天災や一次産品の国際市況といった外的要因に対して脆弱である。また、国土が広大な地域に散らばり、国内市場が狭く、国際市場から地理的に遠い等、開発上の困難を抱えている。更に、住民への適正な保健医療サービスの提供も課題となっている。一方で、広大な排他的経済水域を有していることから、漁業及び海底鉱物資源に対する期待は大きい。
 このため、経済改革及び民間部門の育成による経済的自立達成の必要性が域内各国の共通認識となっており、各国は行財政改革に自ら努力している。
 以上を踏まえ、我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
(1)経済・社会活動の基盤となり、島嶼国の抱える拡散性・地理的隔絶性を克服するための経済・社会インフラの整備 (保健医療を含む)
(2)経済構造改革への支援
(3)民間部門の振興に資する人材育成
(4)環境保全対策への支援
(5)遠隔教育を通ずる人材育成・技術移転等複数の域内国を対象とする広域的な協力の推進

8.欧州地域

 中・東欧地域及び欧州地域の旧ソ連邦諸国は、その多くが市場経済への移行期にあり、これら諸国の努力を支援していくことが必要である。特に、旧ユーゴースラヴィア地域においては紛争後の復旧・復興を通じた和平の実現・定着が国際的な課題となっており、我が国としても応分の支援を行う必要がある。
 以上を踏まえ、次の諸点を重視し支援を行う。
(1)市場経済移行、環境保全対策、及びインフラ復旧・開発への支援
(2)旧ユーゴースラヴィア地域及び周辺国における難民支援等の人道支援、復旧・復興等のための経済・社会インフラ整備、基礎生活分野支援及び選挙実施に関する協力


【注釈】

※25:我が国が二国間で最大の援助国となっている国(96年)
 アジア17か国、中近東5か国、アフリカ6か国、中南米14か国及び大洋州5か国。

1.東アジア地域

※26:南南協力
 経済開発のより進んだ途上国(南)が、他の途上国(南)に対して支援を行うもの。詳細は本文の「4.援助手法 5.南南協力への支援」の項参照。前出の※11の第三国研修への支援は、南南協力への支援の代表的な手法。

2.南西アジア地域

※27:南西アジア地域の貧困人口
 南西アジア地域の貧困人口は5億人を超え、サハラ以南アフリカ(以下アフリカ)の貧困人口(約2億2千万人)よりも大きく、域内7か国のうち4か国がLLDCである。

3.中央アジア・コーカサス地域

※28:「シルクロード地域外交」
 「シルクロード地域」とは、中央アジア5か国及びコーカサス3か国を指し、97年橋本総理(当時)が提唱した「ユーラシア外交」の中で、同地域との関係を積極的に展開するとの方針が明らかにされ、[1]信頼と相互理解の強化のための政治対話、[2]繁栄に協力するための経済協力や資源開発協力、[3]核不拡散や民主化、安定化による平和のための協力の重視を唱えている。

5.アフリカ地域

※29:アフリカにおける貧困対策・社会開発のための支援
 我が国は、今後5年間で教育・保健医療・水供給分野で900億円相当の無償資金協力を供与する旨、98年10月のTICADIIに際し発表した。

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