広報・資料 報告書・資料

参考1:政府開発援助に関する中期政策

II.重点課題


 以上の基本的考え方を踏まえ、経済・社会インフラ整備への協力とのバランスに配慮しつつ、従来以上に貧困対策や社会開発の側面及び人材育成や制度、政策等のソフト面での協力を重視する。また、地球規模問題に も引き続き積極的に取り組む。

1.貧困対策や社会開発分野への支援

 貧困問題への対応の重要性は、DACの「新開発戦略」に掲げられた諸目標の中にも反映されており、また、1995年の国連の社会開発サミットでは先進国は援助の20%以上を、開発途上国は国家予算の20%以上を基礎的な社会分野に配分することが、いわゆる「20/20協定」として申し合わされている※4。我が国はまた、我が国が提唱した世界福祉構想※5に基づき、途上国国民の福祉向上にも資するよう、各国との知識や経験の共有を図ってきている。
 貧困対策においては、経済成長の成果が公正に配分されること、貧困層への支援を直接の目的とした協力を実施すること、特に我が国が成長と貧困撲滅の過程で得た経験や知識を各国との間で共有し、開発途上国の開発に活かすことが重要である。
 貧困対策や社会開発分野への支援に際しては、基礎教育、保健医療分野での支援が果たす役割が極めて大きいほか、開発途上国における女性支援(WID)の視点※6も重要である。また、安全な水の供給は、人々の健康を支えるのに不可欠であるが、今後希少な水資源の確保を巡って緊張が高まる事態も予想される。水資源開発や水資源の管理・利用のための支援が重要となっている。更に、地域間格差の是正のため、農村等貧困地域に対する支援が重要である。多くの開発途上国では、多数の国民が農山漁村地域に居住していることから、これら地域の貧困緩和を図ることが重要である。アジアの通貨・経済危機に際しては、農業・農村の持つ重要性が再認識されている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―「新開発戦路」に掲げられた目標を念頭に「20/20協定」の目標達成に努める。
―開発途上国自身が貧困緩和に向け総合的に取組めるよう政策立案・実施能力の強化を支援し、また、経済成長の成果が広く貧困層にも稗益するような制度構築等ソフト面の協力を重視する。
―途上国の女性支援(WID)/ジェンダー、職業訓練・雇用機会の創出、小規模金融(マイクロ・クレジット)の活用等分野を横断する総合的な取り組みや地域社会に密着した住民参加の手法を重視する。
―地域間格差是正のため、農村等の中心産業である農林水産業の振興、就業機会を確保するための地方産業の育成を支援するとともに、地域の生活環境等の整備や住民組織の育成も重視する。

(1)基礎教育
 教育を受けることはそれ自体が基本的人権の一部であると共に、開発途上国においては、貧困、人口、環境等の諸問題に効果的に対処する上でも基礎教育が重要な鍵となっている。
 最貧国をはじめとする多くの開発途上国では、予算や教育施設・教材・教員の不足のため初等教育の普及が阻まれており、世界の非識字者は8億6千万人近くに上る。「新開発戦略」は、初等教育の普及及び初等・中等教育における男女格差の解消を目標として掲げている。我が国は、これまで、基礎教育分野において、校舎建設※7や資機材供与等の支援を行ってきているほか、特に男女格差解消のための支援としてアジア・アフリカ地域における女児教育に関する国連児童基金(UNICEF)の活動などを支援してきている※8
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―校舎・資機材のようなハード面での協力とともに、学校運営等の組織・能力強化への支援、カリキュラム・教材開発、教員教育など、教科教育・教育行政両面にわたるソフト面での協力強化を図る。
―特に女子の基礎教育支援を重視していく。
―開発の主体である住民への啓蒙活動や、協力案件の実施において住民参加を進めるため、青年海外協力隊の活用や民間援助団体(NGO)との積極的な連携を図る。
―基礎教育への支援が各地の実情に応じ職業教育の促進や就業能力の向上に結びつくよう努める。

(2)保健医療
 貧困や開発の程度は途上国の人々の健康状態に端的に現れる。これまでの開発努力により、開発途上国の住民の健康指標は向上してきている。具体的な成果として、例えば、我が国の積極的な貢献により、WHO西太平洋地域からはポリオ(小児麻痺)がほぼ駆逐され、世界全体でもポリオ発生件数が激減している※9。しかし、年間1,200万人近くの5歳未満児が予防可能な病気によって死亡するなど、依然課題は多い。そうした課題に対応するためには、可能な限り多くの人々に基礎的な保健医療サービスを提供することを目指す「プライマリー・ヘルス・ケア」の視点が重要である。また、国境を越えて広がるエイズ、結核、マラリヤをはじめとする寄生虫疾患等の新興・再興感染症が大きな脅威となっており、こうした課題についても世界保健機関(WHO)や他の援助国・機関と連携しつつ取り組んでいく必要がある。
 「新開発戦略」は、乳幼児死亡率や妊産婦死亡率の削減、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関する保健・医療サービスの普及を目標に掲げている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―開発途上国の保健・医療体制の中核となる施設へのハード・ソフト両面での支援を引き続き行う。
―プライマリー・ヘルス・ケアの視点を重視しつつ、可能な限り多くの人々に基礎的な保健医療サービスを提供する保健医療システムの構築を支援する。
―我が国の経験を最大限活かし開発途上国政府の状況に応じた政策立案・実施能力向上を支援し、政策対話を通じ保健医療政策の改善を促していく。
―協力の効果を持続的なものとするため、住民の参加及びNGOとの連携を積極的に進める。
―経済危機等の影響は社会的弱者とその健康面に最も現れやすいことに留意し、健康面でのこれまでの努力の成果が失われないよう努める。

(3)開発途上国における女性支援(WID)/ジェンダー
 全世界で貧困状態にある13億人のうち70%が女性であり、教育、雇用、健康面でも多くの女性が脆弱な立場に置かれていること、また、開発途上国において均衡のとれた持続的な開発を実現していくため、男女の均等な開発への参加とそこからの受益を図る必要があることから、開発途上国における女性支援の視点が重要である。我が国は、1995年に「途上国の女性支援(WID)イニシアティブ」を発表し、開発援助実施に際し女性の教育、健康、経済・社会活動への参加を重視することとしている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―保健・教育面での女性支援や、人口家族計画への支援、女性の経済的自立を促進するための小規模金融、職業訓練、労働環境の改善等への支援を積極的に行うとともに、この分野での途上国の政策立案能力向上を支援する。
―男女住民の参加や事業実施のジェンダー面に与える影響に配慮するとともに、ジェンダーに関するモニタリング・評価結果の活用に努める。

2.経済・インフラへの支援

 開発途上国において貧困対策や社会開発を進め、「新開発戦略」の具体的な目標の達成を図るためには、持続的な経済成長の確保が不可欠である。我が国は従来より、経済成長の下支えとなる経済・社会インフラの整備を円借款などを通じて積極的に支援し、アジア地域を中心に経済成長の基盤整備に大きな役割を果たしてきた※10。経済・社会インフラ整備を促進するにあたっては適切な規模の中長期資金が必要であること、また、十分な自己財源や民間資金の流入を確保しうる開発途上国がまだ一部に限られていることにも留意する必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―開発途上国の実情に応じ、運輸、通信、電力、河川・灌漑施設等や都市・農村の生活環境などの経済・社会インフラの 整備を引き続き支援していく。
―開発途上国にとってのODA以外の資金の重要性に鑑み、民間資金及びODA以外の公的資金(OOF)との役割分担と連携を重視する。
―ODAを通じて民間投資にとり魅力ある事業環境を整備していく。
―開発計画の策定、規格・基準等インフラに関する政策面での協力や、資金協力と技術協力の連携による施設の維持・管理面での協力を進め、持続的な効果が発揮できるよう努める。
―協力の実施に際し、貧困地域や貧困層に利益が及ぶよう配慮するとともに、地域社会・地域住民への影響及び環境保全に十分配慮する。

3.人材育成・知的支援

(1)人材育成
 人造りを国造りの基本と捉え、開発途上国による自助努力への支援を援助の基本理念とする我が国は、引き続き開発途上国の経済・社会開発に必要とされる人材育成を格別に重視し※11、次のような支援を行う。
―開発途上国自らが国造りのために人材育成を行えるよう、専門家の派遣や研修員の受入れを通じて引き続き支援する。
―高等教育を含む教育部門や、職業訓練分野での支援を重視する。
―開発途上国の実情に適した技術の移転と人材の育成に努める。
―青年海外協力隊やシニア・ボランティアの活用も含め、地域レベルや住民の能力向上に直接つながる支援を行う。
―人材育成の支援に当たっては、広域的な効果の期待できる事業形態(第三国研修)※12を積極的に活用する。
 また、開発途上国から我が国への留学及び途上国や我が国における日本語教育の積極的な推進は、人材育成の観点のみならず、我が国と相手国の相互理解増進及び我が国の知的国際貢献の進展に直接資するとの国家戦略上重要な意義を有する。我が国としては、次の諸点を重視して支援を行う。
―今後とも、留学生受入れ10万人計画に基づいて、留学生の受入れ体制(帰国留学生のフォローアップを含む)の充実改善を推進する。
―教員等の人的交流を推進する。
―近年の留学生のニーズの多様化等に対応するため、留学生に対する大学教育の質的充実、留学制度の充実改善や留学生への支援の充実を重視する。
―留学生の受入れにおいては、民間部門の果たしている役割に鑑みこれとの連携に留意する。
―我が国の文化に対する諸外国の理解増進及び留学生受入れの推進にも重要な役割を担う、日本語教育への支援を積極的に行う。

(2)知的支援
 市場経済移行国のみならず、経済の急速なグローバル化が進む中で経済発展を進めてきた開発途上国においては、そのような変化に経済・社会体制を適応させるためソフト面での支援の重要性が高まっている。我が国の経済発展の過程において蓄積されてきた経験やノウハウには開発途上国の発展に有効に活用しうるものがある。具体的には、法制度整備を含め各種制度・政策の形成のための支援などが重要であり、我が国の人材を活用した政策アドバイザー等の派遣を含めた取り組みが有効である。なお、こうしたソフト面での支援は、貿易投資分野での相互依存関係の高まりの中でWTOに基づく多角的貿易体制といった世界経済システムを支えるためにも重要となっている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―以下の分野等に関する法制度整備を含む政策・体制整備への支援を重視する。
 (イ)適切な財政・金融制度、経済制度の構築
 (ロ)開発途上国側の政策実施・運営能力の向上
 (ハ)市場経済化の促進
 (ニ)社会的弱者の保護
 (ホ)公害防止・自然環境保全等

―経済成長からの貧困層の稗益を促進するための制度構築等に関する知的支援を行う。
―政府部門のみならず、大学・シンクタンクを含め広く民間部門の人材の活用を図りつつ、政策アドバイザーの派遣等による支援を行う。

(3)民主化支援
 開発途上国における民主主義の基盤強化は、統治と開発への国民の参画及び人権の擁護と促進につながり、中長期的な安定と開発の促進にとり極めて重要な要素である。特に、冷戦後の世界において、多くの国において市場経済の導入とともに民主化への努力が進められており、そうした努力を支援し、民主主義の定着を促すことが重要である。
 我が国は、民主化支援関連で研修員の受け入れやセミナーの開催、また、開発途上国の国内選挙に人的・資金面での支援を行ってきている※13
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―民主化や市場経済化に向けた改革を進める国に対し、行政運営能力の向上、民主化・市場経済化に関する制度の構築や政策の策定、人材育成、参加型開発、選拳支援等を含め、積極的に支援を行う。
―民主化という政治過程や市場経済化という根本的な制度変革の有する特殊性に鑑み、国ごとの政治体制や社会・経済状況、歴史的経緯等に十分留意する。

4.地球規模問題への取組

(1)環境保全
 地球温暖化等の環境問題は、人類の生存自体にも関わる課題であり、また途上国においては、経済成長に伴う深刻な環境汚染や、人口増加・貧困を背景とした自然環境の劣化も急速に進行するなど、途上国自身の発展基盤を揺るがす問題となっており、国際社会全体での取り組みが不可欠である。DAC「新開発戦略」は、環境保全のための国家戦略の策定や環境資源の減少傾向を反転させるとの具体的目標を掲げている。
 地球環境問題は、我が国外交の最重要課題の一つとして位置付けられている※14。我が国は公害対策のための技術革新を通じて経済成長と環境保全を同時に達成した経験と教訓を有している。こうした経験や技術を開発途上国の経済・社会開発に活かしつつ、途上国の環境分野における取組強化と対処能力向上を促し、持続可能な開発を支援することは大きな意義を有する。また、環境保全関連の支援においては、地方自治体やNGO等との連携・協力が極めて重要である。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―1997年6月の国連環境開発特別総会に際し表明した「2l世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」の基本理念及び行動計画に基づき、(イ)大気汚染・水質汚濁・廃棄物対策、(ロ)地球温暖化、(ハ)自然環境保全、森林の持続可能な経営、(ニ)「水」問題、(ホ)環境意識向上・戦略研究の各分野における施策等につき引き続き積極的に協力を行う。
―地球温暖化対策に関しては、1997年12月の気候変動枠組条約第3回締約国会議に際し発表した「京都イニシアティブ(温暖化対策途上国支援)」※15に基づき、協力を積極的に推進していく。
―環境保全関連案件には優遇された条件の円借款を供与する等特別の配慮を行う。

(2)人口・エイズ
 増加の一途にある世界の人口※16は、地球環境や食料・資源エネルギー問題とも関連する地球規模の課題となっている。特に多くの開発途上国においては、人口増加が貧困・失業、飢餓、教育の遅れ、環境悪化等の問題と深く結びついている。また、国境を越えて広がりを見せるHIV/エイズ※17は開発途上国の住民の健康と労働能力に深刻な影響を及ぼし開発の大きな阻害要因となっている。
 これらの問題に対処するため、我が国は、l994年、「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」を発表し積極的な取組みを行ってきた※18。また、我が国は「国連合同エイズ計画(UNAIDS)」を中心とした国際的なエイズ対策を支援している。
 以上を踏まえ、我が国としては次のような支援を行う。
―引き続きGIIに基づき、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の視点を踏まえ、人口・家族計画等直接的対策への協力に加え、女性と子供に対する基礎的保健医療や初等・中等教育の実施、女性の地位向上等への支援を含めた包括的な取組みを行い協力を進めていく。
―きめ細かい対応が不可欠であり、地方政府やNGOとの連携を深めていく。
―エイズ対策については、UNAIDSとの協力をさらに深め、国際的なエイズ対策に貢献していくとともに、二国間協力と国際機関との連携を強化していく。

(3)食 料
 予測される急激な世界人口の増加と食生活の変化に伴い食料需要の大幅な増加が見込まれるのに対し、食料生産の伸びは低下する傾向が見られる。また、土壌劣化、水資源、気候変動や異常気象の問題も加わり、安定的な食料供給の確保には多くの課題がある。
 1996年の世界食料サミットにおいて、世界の食料安全保障の達成と栄養不足人口の2015年までの半減を目指し、各国が協調行動をとることが宣言されたことを踏まえ、我が国としても、途上国自身が国内の食料生産力を高める努力を積極的に支援していく必要がある。また、食料・農業分野や農村開発における協力は、貧困緩和、持続可能な開発の実現のためにも重要である。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―生産資機材の供与や灌漑施設の建設等農業・漁業生産の面での支援に加え、市場へのアクセスに資するインフラ整備や流通管理のための協力を推進する。
―品種改良等農業技術や漁業技術の向上、その効果的な普及のための支援を重視する。
―農業技術等の普及や農業用水・水産資源の管理に関しては、住民の組織化や行政能力向上に配慮する。
―食料支援については、緊急非常時の対処手段として重要であることから、その適切な活用を図っていく。

(4)エネルギー
 世界のエネルギー需要は主としてアジアをはじめとする途上国の経済発展に伴い今後急速に増大することが予想されており、エネルギー問題は、地球環境問題への対応、持続可能な開発の達成とも関連する地球規模の政策課題となっている。また、途上国においては、その経済発展を実現するためにもエネルギー供給を確保することが課題となっている。エネルギー資源や鉱物資源の対外依存度が極めて高い我が国にとっても、本分野の協力はこれら資源の安定供給確保の観点からも重要である。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―開発途上国の原油、天然ガス、電力、石炭液化等のエネルギー関連のインフラ整備案件のうち、民間部門または政府開発援助以外の政府資金(OOF)での対応が難しい案件への支援や、省エネルギーの推進等による持続可能な開発促進への支援を強化していく。
―途上国において温室効果ガスの排出を抑制しつつ、持続可能な開発を実現していくとの観点から、省エネルギーの推進、太陽光、風力などの再生可能エネルギーの利用促進、より環境負荷の小さい石炭技術の導入、薪炭原料ともなる森林の保全・造成などに資する協力を行っていく。
―鉱物資源分野においては、これまでも技術・資金面での協力を通じて主要供給国の鉱山開発を環境に配慮しつつ支援してきており、地域的、国際的な環境問題への関心の高まりを背景に、鉱山の開発による環境影響への調査等を含めた支援・協力を行っていく。

(5)薬 物
 薬物対策は、先進国及び途上国双方が自らの問題として取り組み、関係国際機関も含めて国際的な協力の下に進めていくことが不可欠である。特に、開発途上国における薬物対策は、問題の背景に貧困問題があることに留意し、貧困対策と併せて実施していくことが必要である。こうした認識に基づき、我が国はこれまで、薬物関連の犯罪・乱用防止や取締りについてのセミナー、研修員受入れに加え、麻薬代替作物に対する支援、啓発活動等への支援を進めてきた。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―今後とも、実効的な薬物対策に資するため、国際社会の取組と協調しつつ、犯罪防止や取締り能力向上への支援や代替作物栽培促進、啓発活動等の支援に加え、生産地住民の生活支援に直結する協力を重視していく。

5.アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援

 1997年夏に端を発する東アジア諸国の通貨危機においては、大規模かつ急激な民間資金の移動が開発途上国の経済、更には我が国を含む世界経済にも多大な影響を及ぼした。その後、1998年10月に発表された新宮沢構想をはじめとする公的資金支援によりアジア諸国の緊急の資金ニーズは満たされてきており、経済は底を打ちつつある。実体経済の本格的かつ力強い回復を確実なものとするためには、このような緊急的に必要とされる対応に加え、中期的な経済成長の回復に資する構造改革支援を行っていく必要がある。また、我が国経済との深い相互依存関係にも鑑みれば、そのような協力は我が国経済にも裨益するものとなる。更に、途上国への民間資金の還流を促し、その経済回復を支援することは、世界経済の健全かつ持続的な発展にも寄与する。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―我が国がこれまで取り組んできたインフラ整備協力、技術移転、中小企業振興や裾野産業育成への協力について他の公的資金との役割分担と連携を重視しつつ一層の充実を図る。
―アジア等の開発途上国を経済再建の軌道に乗せていくため、国際金融機関等とも連携しつつ、これら途上国の実体経済回復に向け、社会的セーフティネットの整備等社会的弱者支援を中心とし、更には法制度や金融セクター、経済制度等の制度改革を含めて支援していく。
―産業再生のための協力が喫緊の課題となっており、特別円借款を通じて景気刺激効果・雇用促進効果の高いインフラ整備を行うことにより、民間投資にとって魅力ある事業環境を整備するとともに、生産性を向上させることを通じて経済構造改革を支援する※19
―危機への対処だけではなく、予防のための国内金融システム強化及び中核人材の育成や企業経営・技術力の向上等に資する協力を行っていく。

6.紛争・災害と開発

(1)紛争と開発
 冷戦終結以降も後を絶たない地域紛争は、人道上の問題を引き起こすと同時に、それまでの開発努力の成果 や環境を破壊する。紛争の予防、解決、紛争後の平和構築と復興は開発の観点からも国際社会の大きな課題である。我が国は、例えば中東和平問題への取組に関連しパレスチナ支援※20を行ってきたが、紛争予防・紛争後の復興のため今後も積極的な役割を果たしていく必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―紛争の予防のため、紛争の背景にある貧困や社会的弱者への対応に加え、いわゆる「良い統治」、即ち公正かつ適正な資源配分、人権保障への配慮、政治・経済面での適切な制度・プロセスの確立、行政能力の強化等の実現を重視する。
―紛争に伴う難民問題については、難民流入等により影響を受ける周辺国への支援を含め、緊急対応のための人道的支援を積極的に行う※21。その際NGOの役割の重要性に配慮する。
―紛争後の平和構築及び復興に際し、難民や元兵士等の再定住及び社会復帰のための支援を積極的に行う。
―公正な政治・経済制度の確立、行政能力強化のための支援に加え、国内統合や経済面での復興に不可欠なインフラの整備を支援する。
 地域紛争等の際に埋設され、現在も放置されている対人地雷は、一般市民に対しても無差別に深刻な被害を与える人道上極めて重大な問題であるだけでなく、住民の定住、農村開発などを妨げ、紛争終結後の復興と開発にとっても大きな障害となっている。我が国は、1997年3月に「対人地雷に関する東京会議」を開催し、「犠牲者ゼロ」の目標を含む「東京ガイドライン」をとりまとめた。同年12月には、対人地雷の除去や犠牲者支援の分野における我が国の取組みとして「犠牲者ゼロ・プログラム」を提唱した※22
 以上を踏まえ、我が国としては次のような支援を行う。
―除去作業関連機材の供与等を通じる対人地雷除去を支援する。
―救急医療・リハビリ体制の強化を図る。
―被災者の社会復帰・職業訓練等を通じる地雷被災者の支援を行う。
―他の援助国・国際機関やNGOとの協力を重視する。

(2)防災と災害復興
 災害は、生活基盤の脆弱な貧困層をはじめ、人々の生活を根底から覆す。近年は、世界的異常気象等により自然災害等が多発し、かつ大規模化する傾向が見られている。我が国は、これまでに災害時の緊急支援のため、23か国に対し国際緊急援助隊を46チーム派遣するなど、災害のもたらす人道問題に対しさまざまな支援を行っている。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―国際緊急援助隊の派遣を含め、今後とも、我が国の治山・治水、地震・津波等の災害対策の経験を活かしつつ、災害時の緊急援助、災害後の復興のための支援及び国土保全・災害防止のための支援を積極的に行っていく

7.債務問題への取組

 サハラ以南アフリカの最貧国等の債務問題は、これら諸国の経済成長を極めて困難にしており、国際社会にとっても看過できない状況となっている。我が国は、これまでも債務繰り延べや債務救済無償資金協力などにより積極的な支援を行ってきた※23
 我が国は、1999年6月のケルン・サミットでの合意※24を踏まえ、重債務貧困国(HIPCs)をはじめとする貧困国の長期的な自立を支援するため、他の援助国及び国際機関と協力しつつ、今後とも債務問題の解決に積極的に取り組んで行く必要がある。
 以上を踏まえ、我が国としては、次のような支援を行う。
―我が国は、債務国自身による債務返済のための努力を重視しつつ、国際的な枠組みに基づき、債務の繰り延べを行うとともに、返済額に対応した無償資金協力を供与することにより実質的な債務削減を行う。
―債務削減により利用可能となる資金は、貧困緩和や教育、保健・医療等の社会的投資や雇用創出等の開発目標に充当されるようにする。
―債務削減が行われた場合は、新たな借款の供与は困難となり、資金協力を行う場合には無償資金が原則となる。
―債務管理能力向上及び適切なマクロ経済運営を可能とするような技術協力(人材育成、知的支援)を積極的に行っていく。
―今後の借款の供与に当たっては、従来以上に個々の開発途上国の発展段階や債務負担能力へ配慮し、途上国の開発計画、我が国の援助理念等を十分斟酌しつつ検討を行う。


【注釈】

1.貧困対策や社会開発分野への支援

※4:社会開発のための「20/20協定」
 人間開発のために優先されるべき社会開発分野(基礎教育、基礎保健、飲料水、家族計画等)に開発途上国は国家予算の20%を、先進諸国はODAの20%を支出することを申し合わせたもの。国連開発計画(UNDP)より提案され、1995年3月の国連主催「世界社会開発サミット」において、その趣旨に賛同できる関係当事国で実施することとされた。我が国二国間援助における社会開発分野の割合は、1993年以降1998年までの各年においていずれも20%を上回り、「20/20協定」の目標は達成されている。

※5:世界福祉構想
 96年6月の主要国首脳会議(リヨン・サミット)において橋本総理(当時)が提唱したもの。「世界福祉構想」は、公衆衛生、医療保険・年金等を含む広義の社会保障政策について、先進国のみならず開発途上国も含め、お互いの知識と経験を共有することにより、それぞれの国が抱える問題を解決していくことを目指すこととしている。
 開発途上国を念頭に置いた事業としては、国際寄生虫対策の推進、社会保障行政の高級実務者等による国際会議を通じた知識と経験の共有、途上国における制度づくりのための専門家の養成・派遣、研修員の受入等を実施している。

※6:開発途上国における女性支援(WID)の視点
 WIDはWomen in Developmentの略。本文における本分野(3)「開発途上国における女性支援(WID)/ジェンダー」の項を参照。

(1)基礎教育

※7:我が国の校舎建設支援
 我が国は、1993年度からの5年間に合計で約16,000の学校の校舎建設を支援した。例えば、ヨルダンにおいては、円借款により全国の小・中学校数の9%の校舎の建設を支援した。また、ネパールにおいては、我が国の無償資金協力により学校建設に必要な資材を提供し、住民が総出で校舎造りに参加した。この間、ネパールの小学校への就学率は1990年の64%から94年には75%に上昇した。

※8:女児教育における国連児童基金(UNICEF)に対する我が国の拠出
 我が国は、1993年度よりUNICEFの関連活動に対し毎年100万ドルを拠出している。 

(2)保健医療

※9:ポリオ発生件数
 全世界のポリオ発生件数は、1988年の約35,000件から1998年には約3,200件に激減した。我が国は、東アジア及び西太平洋地域を重点援助地域とし、ポリオ・ワクチン及びワクチン冷蔵庫運搬機材(コールド・チェーン)の供与や調査・監視用機材の供与のため、93年度以降これまで約28億円の支援を行った(これは同地域でのポリオ根絶のための協力額全体の約35%に相当)。こうした取り組みの結果、同地域においては、ポリオの根絶にほぼ成功したと言える。

2.経済・インフラへの支援

※10:アジアにおける我が国支援による貢献例
 我が国は、円借款により、例えば、運輸・通信関係では、中国の鉄道電化総延長の38%を電化、バンコック市内の高速道路の約32%に相当する路線を建設、フィリピンでは全電話回線の約15%の建設に協力、スリランカでは全国の貨物取扱量の約89%を占めるコロンボ港の建設・拡張を支援している。エネルギー関係では、マレーシアでは全発電設備容量の約24%、インドネシアでは18%、タイでは15%、ヴィトナムでは44%、バングラデシュでは18%、エジプトでは20%の発電設備の建設に協力している。その他、ジャカルタ市内の上水供給能力の60%に相当する上水道施設の建設、韓国では全国の56%に相当する下水処理施設の建設を支援した。

3.人材育成・知的支援

(1)人材育成

※11
 我が国は、1954年以来これまでに16万人以上の研修員を受け入れてきた。97年度実績(152ヶ国・地域、12,283人)は、地域別ではアジア6,214人(全体の50.6%)、中南米2,381人(同19.4%)、中近東1,046人(同8.5%)、アフリカ1,602人(同13%)、分野別では人的資源2,440人(全体の19.9%)、計画・行政2,340人(同19.1%)、公共・公益事業2,049人(同16.7%)、農林水産1,971人(同16%)、保健・医療1,398人(同11.4%)、鉱工業991人(同8.1%)となっている。

※12:第三国研修
 第三国研修とは、開発途上国において、社会的あるいは文化的環境を同じくする近隣諸国から研修員を受け入れて行われる研修を我が国が資金的・技術的に支援する手法を指す。例えば、タイに対して我が国が実施した技術移転をベースとして、ヴィトナム、ラオス等の第三国より研修員をタイに招き、第三国への技術移転を行う事業を我が国が支援する。97年度には、タイ、シンガポールなどアジア諸国やブラジル、チリ、エジプトなど23ヶ国において第三国研修が行われ、1,836人が研修を受けた。

(3)民営化支援

※13:民主化支援の実績
 我が国は、96年のリヨン・サミットに際し、途上国の民主化支援のための取組みとして、「民主的発展のためのパートナーシップ(PDD)」イニシアティブをまとめ発表した。具体的協力案件の形として、民主化に向けての各種制度作り支援、選挙支援、市民社会の強化・人造りがある。1994年度から5年間に民主化支援関連で765人の研修員を受け入れ、27ヶ国・地域の国内選挙に資金面での支援を行っている。

4.地球規模問題への取組

(1)環境保全

※14:環境分野における政府開発援助
 これまで我が国は、1992年の国連環境開発会議(リオデジャネイロで開催されたいわゆる地球環境サミット)に際し、環境分野における政府開発援助を1992~96年度に9,000億円から1兆円を目途として拡充するとの目標を表明し、この期間に約1兆4,400億円の支援を行った。最近では、例えば、経済成長に伴い環境悪化が著しい中国に対して、第4次円借款「後2年(1999―2000年度)」の対象28案件中16案件を環境案件としており、また日中間で大気汚染対策などで成功例をつくり中国全土に波及させることを目的とする「日中環境開発モデル都市構想」(重慶、貴陽、大連の3都市が対象)を推進している。

※15:「京都イニシアティブ(温暖化対策途上国支援)」
 97年12月に気候変動枠組条約第3回締約国会議が京都で開催されるにあたり、我が国は、環境分野におけるODAのうち特に温暖化対策について、[1]温暖化関連分野の人造り、[2]温暖化対策を目的とした事業への最も優遇された借款の供与、[3]日本の技術・経験(ノウハウ)の活用等を内容とする施策として表明した。98年度の最優遇条件による円借款供与のうち温暖化対策関連プロジェクトは、20件2,433億円、関連分野でのJICA技術協力による人材育成は約1,000名にのぼる。

※16:世界の人口の推移
 国連人口基金(UNFPA)によれば、世界の人口は98年の約60億人から2025年には80億人を上回ると予測されている。この人口増加は大半が開発途上国におけるものと推定される。

※17 :HIV/エイズ感染者・患者数
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)及び世界保健機関(WHO)によれば、HIV/エイズ感染者・患者が1998年末時点で世界で約3,340万人にも上り、98年だけでも約250万人がエイズで死亡している。

※18:「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブ(GII)」
 我が国が、94年2月に独自の行動計画として発表。94年度からの7年間で30億ドルを目途に開発途上国の人口・エイズ分野に対する援助を積極的に推進していくもの。GIIにおいては、リプロダクティブ・ヘルスの視点を踏まえ、人口・家族計画への直接的協力に加え、女性と子供の健康に関わる基礎的保健医療、初等教育、女性の地位向上等を含めた包括的なアプローチをとっている。代表的な協力例として、インドネシアにおける母子保健手帳普及のためのプロジェクトなどがあり、妊産婦死亡率、乳幼児死亡率の低下に成果をあげつつある。GII関連案件の実績は、98年度末時点で既に上記目標額を超える約37億ドルに達した。

5.アジア通貨・経済危機の克服等経済構造改革支援

※19:経済構造改革支援のための特別円借款
 98年12月のASEAN及び日中韓首脳会議の際に表明。アジア諸国における景気刺激・雇用促進及び経済構造改革に資するインフラ整備への支援等を目的とし、3年間で6,000億円を限度とする特別枠を創設。当面、金利1%、償還期間40年の優遇条件を設定。

6.紛争・災害と開発

(1)紛争と開発

※20:我が国の対パレスチナ支援
 我が国は、1993年以降の5年半で、4億3,600万ドル以上の対パレスチナ支援を行っている。具体的には、行政組織の強化、上下水道、学校などのインフラ整備、教育・基礎的保健サービスの充実のための国際機関を通じた支援に加え、96年からはパレスチナ暫定自治区への直接協力が開始され、民生向上に向けた幅広い支援が行われている。97年10月及び98年6月には、ガザ地域における計10校の小中学校建設への協力を決定した。

※21:我が国の人道的支援の最近の具体例:対コソボ支援
 我が国は、99年4月に、コソボ難民・避難民に対する人道支援をはじめとして、周辺国支援、コソボの復興支援のため、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)等への拠出を含め、約2億ドルのコソボ貢献策を発表した。

※22:対人地雷除去、犠牲者支援
 現在も世界で毎月約2,000人の一般市民が対人地雷により死傷していると見られる。97年9月に「対人地雷禁止条約」が採択された。97年3月の「対人地雷に関する東京会議」では「犠牲者ゼロ」を目標とする国際協力の指針として「東京ガイドライン」が策定された。我が国は、このガイドラインを実現する一環として、同年11月、この分野で98年から5年間を目途に100億円程度の支援を行うことを発表した。

7.債務問題への取組

※23:債務救済無償
 1978年に開催された国連貿易開発会議(UNCTAD)第9回特別貿易開発理事会(TDB)の決議に基づき、貧困開発途上国の債務救済を目的として実施している。円借款取極を締結したLLDC及び石油危機で最も深刻な影響を受けた国(MSAC)が対象となる。このうちLLDCの場合、円借款(87年度以前締約分)債務の返済が行われた際には、返済された元利合計額相当額の無償資金を供与する。我が国は、1978年度~1998年度約3,400億円の債務救済無償資金協力を行った。

※24:ケルン・サミットにおける重債務貧困国への支援に関する合意
 重債務貧困国(HIPCs)に対する既存の国際的な債務救済の枠組み(いわゆるHIPCsイニシアティブ)の下で、二国間ODA債権の削減率を100%に拡大することをはじめ債務救済措置を改善・拡充することが合意された。

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