1.経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)は、1996年、過去50年の先進国による開発援助の経験と、国際社会に果たした役割を分析した上で今後の開発援助のあり方をまとめた「新開発戦略」を策定した。そこでは人々の生活の質の向上を開発の目的として設定し、2015年までに貧困人口の割合を半減させることなど社会開発上の具体的な目標※2を掲げている。我が国は、「新開発戦略」の策定に主導的な役割を果 たし、国際社会におけるそうした取組みの普及にも努力してきた。その結果、国際社会において「新開発戦略は開発途上国の開発に関する共通のガイドラインとして定着しつつある。我が国としては、「新開発戦略」に掲げられた目標を念頭に置き、「政府開発援助大綱」の下、ODAに取り組むものとする。
2.「新開発戦略」の目標の実現には、開発途上国自身の経済的離陸に向けた自助努力とその主体的な取組みが鍵となる。我が国は開発途上国の政策運営能力向上等を通じた「良い統治」の促進を重視し、そのための働きかけと支援を行っていく。また、援助の適正実施と透明性確保を開発途上国に働きかける。こうした自助努力と主体的取組を前提として、我が国は他の援助国や国際機関との協調・連携の強化、パートナーシップ構築に努めていく。
3.開発援助の実施にあたり、国ごとのニーズや開発課題及び相手国の意向を十分踏まえる必要がある。開発途上国の発展段階に応じて各種援助形態の効果的な組合せを図りつつ、開発途上国との政策対話や事前調査に基づき、国ごとの事情に適合した効果的・効率的な支援に努める。その際ODAが被援助国や対象分野により既得権益化することのないよう留意する。更に、円借款等、援助に関する種々の制度については、状況の変化に応じ適時適切に見直しを行っていく。
4.開発の効果を高めるためには、開発途上国、先進国、国際機関、民間部門、民間援助団体(NGO)など、あらゆる主体の持つ利用可能な資源との役割分担と連帯を図る包括的取組みが必要である。特に近年はアジアや中南米をはじめとして開発途上国の開発における貿易や投資等民間部門の役割が増していることを踏まえ、民間活動の促進と民間資金の流入が促されるよう環境整備を図るとともに、公正かつ効率的な資源配分や格差是正等に留意し、民間資金が流入しにくい部分への支援を重視する。
5.経済成長は人間の福祉向上の手段として必要であり、「人間中心の開発」は持続可能な開発を実現するために不可欠である。こうした観点を踏まえ、開発途上国の経済成長と社会開発をバランスよく支援していく。また、人間中心の考え方に基づき、後発開発途上国(LLDC)※3に特に配慮する。更に、環境の悪化や飢餓、薬物、組織犯罪、感染症、人権侵害、地域紛争、対人地雷といった種々の脅威から人間を守る「人間の安全保障」の視点に十分留意していく。
6.開発援助を進めていく上で、納税者である国民の理解や支持が得られるよう我が国の「顔の見える」援助を積極的に展開し、被援助国においても我が国の援助に対する認識と理解の促進に一層努めることが必要である。我が国企業の事業参加機会の拡大に留意し、また、大学、シンクタンク、地方自治体、NGO等による国民参加型の協力の推進に努め、民間部門を含めた我が国自身の経験や技術、ノウハウの一層の活用を図る。また、二国間援助にはない利点を有する国際機関を通じた援助も十分活用していく。そのようにして、国際社会の調和ある発展の中に将来にわたって我が国の活力を維持し、我が国に対する信頼と評価を確保することが極めて重要である。
【注釈】
※2:OECD/DAC「新開発戦略」
1996年5月、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)において、21世紀の援助の目標を定めるものとして「新開発戦略(21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献)」と題する文書が採択された。この開発戦略は、地球上のすべての人々の生活向上を目指し、具体的な目標と達成すべき期限を設定している。具体的には、[1]2015年までの貧困人口割合の半減、[2]2015年までの初等教育の普及、[3]2005年までの初等・中等教育における男女格差の解消、[4]2015年までの乳幼児死亡率の1/3までの削減、[5]妊産婦死亡率の1/4までの削減、[6]性と生殖に関する健康(リプロダクティブ・ヘルス)に係る保健・医療サービスの普及、[7]2005年までの環境保全のための国家戦略の策定、[8]2015年までの環境資源の減少傾向の増加傾向への逆転という目標を掲げている。この目標達成に向け、先進国及び開発途上国が共同の取組みを進めていくことが不可欠として、グローバル・パートナーシップの重要性を強調している。
※3:後発開発途上国(LLDC)
開発途上国の中でも特に開発の遅れた国を指し、国連の開発計画委員会が一人当たりGDP(99年現在一人当たりGDPが899ドル以下)、人的資源開発の程度(平均余命等)、経済構造の脆弱性(GDPに占める製造業の割合等)を基準として決定する。現在、全世界で48ヶ国(アフリカ33ヶ国、アジア8ヶ国、大洋州5ヶ国その他2ヶ国)がLLDCに指定されている。