本章では、第3章の評価及び最近の援助動向を踏まえ、幅広い観点から、中期政策改善のための提言を行う。
4.1 ODA中期政策の位置付け
現行の政策体系において、中期政策はODA大綱と国別援助計画の中間に位置付けられ、ODA大綱以上の具体性とともに、国別援助計画を包含する抽象性が求められる。
中期政策は、ODA大綱の「重点課題」「重点地域」の記述をより具体化したものと位置付けることができるが、中央アジア・コーカサス諸国のように、国別援助計画の存在しない国々では中期政策がガイドラインの役割を果たせるほどの具体性は備えていない。また、ODA大綱にて述べられている事項であるにも関わらず、中期政策に反映されていないものもある。
従って、次期中期政策では、我が国の援助政策の体系における中期政策の位置付けを再定義し、それを中期政策の中で明記する必要があると考えられる。
4.2 政策の策定と管理
援助の利害関係者(ステークホルダー)に対するアカウンタビリティを確保し、かつ援助資源が限定される中で援助の有効性を向上させるため、各援助国・機関は従来のインプット若しくはアウトプットをベースとしたODAマネジメントから、アウトカム(成果)を重視したマネジメントに移行している。このような成果重視の意義と国際的な潮流に鑑み、我が国も中期政策の「基本的な考え方」において「成果重視」を強調するとともに、その成果の評価を通じて政策内容を改善するメカニズムについても論ずるべきである。
(1)目標の明確化
重点課題や地域別援助のあり方等、それぞれの政策目的を明確にした上で、その目的をブレーク・ダウンする形で中期政策を構築するなど、開発目標の体系化を図ることを検討すべきである。
現行中期政策の目標は、国際的な合意や潮流に相当の配慮をしたものであることがうかがえるが、到達目標そのものが抽象的で明確化されていないため、目標が達成されたか否かを判断することが困難なものとなっている。国際的な援助潮流の中で「成果重視」の考え方が広まり、アウトカムに対する意識が強まってきていることを踏まえ、ODA中期政策においても適切な目標を設定することを検討すべきである。
確かに、その目標を数値目標とすることは技術的に必ずしも容易ではないが、可能な限り定量的かつ客観的な目標を設定するよう努めるべきである。また、ODA大国である我が国が国際社会の中で果たすべき役割に留意し、「基礎教育」及び「保健医療」の妥当性評価において述べたように、その目標はミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)等の国際的目標に十分配慮したものとすることが望まれる。
一方、インプット目標については、単年度予算主義、経済財政状況の変化や外交上の要因もあり、中期政策に詳細なインプット目標を組み入れることは難しい部分もあると想定される。しかし、目標を達成するために、いかなる投入を行うのかも重要な視点であり、次期中期政策においては、可能な限り具体的なインプットについても記述を検討すべきである。
(2)評価・モニタリング
評価・モニタリング体制の整備は進んできているものの、事前から事後までの一貫した評価・モニタリング、特にアウトカム(成果)を重視した評価・モニタリング体制を整備するための一層の努力が必要である。また、モニタリングと自己評価を重視する制度の促進、政策・プログラム評価の促進、評価手法の確立に努める必要がある。
現行中期政策が策定された1999年当時、政策評価の概念は一般化していたとは言えない状況にあった。そのため、現行中期政策の構造・記述は政策評価の実施を前提としたものとはなっておらず、評価方法や評価基準等も定められていない。結果として、現中期政策の有効性の評価は、分野別イニシアティブへの反映状況や投入実績等のインプット・ベースの評価になっており、開発支援の具体的成果(貧困率の削減、就学率の上昇等)による評価が困難になっている。「評価の充実」は新ODA大綱でも重視されている。次期中期政策においては、評価を前提とした構成・記述とすべきである。即ち、体系的かつ明確な目標設定と併せ、評価方法や指標等を記載することを検討すべきである。
また、評価活動を通じて次の政策を改善するサイクルを構築できるようなメカニズムを盛り込むべきである。現行中期政策の評価・改訂サイクルは約5ヵ年である。しかし、我が国援助を取り巻く国際的な動きはますますその速度を上げており、5ヵ年のサイクルでは環境変化に対応できない恐れがある。従って、2~3年目を目処に中間評価を行い、外部環境の変化を中期政策に適宜反映できるようなシステムを構築すべきである。
4.3 実施体制等
(1)権限移譲
より機動性のある効率的・効果的な援助を行うためには、現地への権限委譲が必要である。そのためには、各援助活動の実施目的・目標を整理した上で、その活動に対する責任の所在を明確化することも必要となる。また、管理・評価体制として、活動・過程に焦点を当てる現行制度を、成果の達成度に焦点を当てる制度に改めることも不可欠であると考えられる。
次期中期政策では、目的、目標の明確化と権限の委譲に関する基本的な考え方に言及することを検討すべきである。
(2)他組織、他機関との連携
現行中期政策においてはNGOとの連携が謳われており、これまでのところ一定の成果を上げていると評価できる。次期中期政策においてもこの方向性を引き継ぎ、特に「パートナーシップの強化」を志向すべきである。
他の援助国・機関との協調については、国際社会では援助手続きの調和化等、援助協調の動きが一層強まっているものの、我が国の場合、現地での援助国会合等、フィールド・レベルでは必ずしも適切な対応をとれていないケースもみられる。他国・機関との協調の可否は最終的には我が国としての立場に左右されるものであるにせよ、少なくとも、援助協調に対する我が国の考え方、取組方針を中期政策において具体的に明示すべきである。
国内機関間の連携については、有償・無償、無償・技協の連携に関し実績はあるものの不十分である。新中期政策は国別、プログララムアプローチを取り入れ、有償・無償・技術協力という形態ベースの援助システムから、目標に応じて、これらを組み合わせる方向へと移行することが望ましい。また、現行の組織体制下では、一つの開発目標に対して複数の組織が関与することがあるため、調整・協議の手間がかかっている。従って、開発目標に合致した統一的な対応が可能となるよう組織面でも何らかの措置を検討すべきである。
4.4 中期政策の内容
(1)ミレニアム開発目標(MDGs)
MDGsは国際社会の中心的な考えとなっており、国際機関のみならず他の援助国においても援助枠組みの一つをなしている。つまり、MDGsを目標とすることによって、他援助機関と開発目標を同じくすることができ、他国・機関との役割分担や援助協調においても有用である。また、成果指標を含んでいるMDGsは次期中期政策を評価する際の枠組みとして有益である。さらに、今後の国際会議においてもMDGs達成度及び達成への貢献度が議論される可能性があるが、そのような場において我が国の貢献を明確にすることができる。
我が国は既に多方面に亘ってMDGsの達成に向けて努力している。現中期政策及び新ODA大綱における貧困削減や地球的規模の問題への取り組み等は、MDGsと整合性がある。しかし、現在のところ、その貢献を国際社会に適切にアピールできているとは言い難い。
MDGsを次期中期政策の基本的な考え及び重点課題に対応させることが必要である。但し、全てのMDGsに対応するのではなく、我が国の援助方針等に鑑みて選択的に対応することも考えられて良いと思われる。
(2)選択と集中
ODAは一定程度の「選択と集中」及び「優先順位付け」がなされなければ、投下資源が分散し、期待される成果を上げられない恐れがある。故に、まず「選択と集中」が可能になるような仕組みを盛り込むべきである。例えば、中期政策の中では重点課題を幅広く提示しつつ、国別援助計画においては、当該国の状況に応じて限られた数の重点課題を採り上げるといった方策が考え得る。
但し、「選択と集中」の度合いは、重点分野をいくつ設定するかだけでなく、重点分野の範囲をどのように定義するか(「貧困削減」のように様々な内容を含み得る広い定義を行うか、特定の内容に限定する狭い定義を行うか)によっても変化する点に留意する必要がある。現実には複数の重点課題に跨るイニシアティブやプログラム及びプロジェクトも存在するため、関連のある内容を盛り込めるような定義が適切であろう。その上で、国際的な潮流、過去の投入実績、課題と地域との関連性等を考慮して可能な限り優先順位付けを行うことを検討すべきである。課題と地域との関連性については、課題と地域のどちらを軸にするか(重点課題をある程度絞り込んだ上で地域毎に決定するか、地域毎に援助の基本的な考え方を定めた上で重点課題を決定するか)を議論する必要があろう。
(3)各種イニシアティブと中期政策の関係性
現行中期政策策定後、様々なイニシアティブが発出されてきた。これらのイニシアティブは国際的な援助潮流、開発ニーズを反映したものであり、次期中期政策を策定する際にはこれらのイニシアティブを反映させるべきである。
また、今後、我が国がイニシアティブを発出する際には、政策の整合性・一貫性を確保すべく、基本的に(ODA大綱及び)次期中期政策の内容に沿ったものとすべきであろう。無論、次期中期政策策定後に当該中期政策の内容を超えるイニシアティブが発出される可能性もあるが、見直しプロセスを通じて対応することは可能であると思われる。
(4)個別重点課題
(イ) | 経済インフラ支援 我が国は現行中期政策策定以前より経済インフラ分野への支援を展開し、アジア地域を中心として実績を残してきた。例えばカンボジアの和平合意後の復興において我が国のインフラ整備支援は多大な貢献をなしてきた。現行中期政策策定当時、国際的には貧困削減、特に絶対貧困層を対象とする貧困削減に焦点が当てられる方、「脱インフラ」が謳われ始めていたが昨今では、世界的に、経済インフラ整備を支援することの重要性が再確認されつつある。我が国として引き続き経済インフラ支援を推進するのであれば、次期中期政策において、社会開発分野への貢献も含めて、その旨をより強く打ち出すことも一案である。 |
(ロ) | 平和構築 新ODA大綱では「平和構築(紛争予防及び紛争後の復旧支援を含む)」が重点分野の一つとして新たに組み入れられた。我が国はアフガニスタンや東チモールにおいて平和構築を支援してきた経験がある。次期中期政策においては、ODAを活用した平和構築の取り組みを引き続き重点課題として位置付け、新ODA大綱で定義されている新たな課題を反映させるべきである。 また、平和構築の分野では他の分野以上に国際機関との連携が強化されており、連携強化の継続・促進についても明記することが重要であると考えられる。 |
(ハ) | ジェンダー 新ODA大綱では「社会的配慮」の一つとして「ジェンダーへの配慮」が盛り込まれた。この分野の開発ニーズは非常に強く、援助の妥当性は高い。MDGsの中でも「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」が目標の一つとして掲げられ、他のMDGs達成のためにもジェンダー平等と女性のエンパワーメントが重要であることが国際的にも認知されている。 現行中期政策は既に「WID・ジェンダー」について言及しているが、「WID」に重点が置かれており、ジェンダーに関する議論が弱い。ジェンダーについては、「分野」とみるか「方針」とみるかという議論もあるが、いずれにせよ開発の様々な局面でジェンダー配慮の重要性が認識されている。従って、ジェンダーを引き続き重点課題と位置付けるとともに、横断的テーマとして明示的に盛り込んでいくべきである。 |
(ニ) | 防災と災害復興 「防災と災害復興」の妥当性に対する評価においては、実務上の対応が主として緊急援助によっていることから、これを「重点課題」とすることに否定的な議論もみられた。 しかし、災害はそれまでの開発成果を滅失、減退させてしまうことがある。その意味において災害は貧困層に最も大きな打撃を与える危機の一つであり、途上国側のニーズが大きい。故に、貧困削減の観点から、防災と災害復興を引き続き重点課題として位置付け、災害後の復興の支援に加え、防災にも重点を置いた取り組みを強化する必要があると考えられる。 |
(イ) | リージョナル・アプローチ 自由貿易地域に代表されるように、地域レベルの政治経済交流が活発化している。また、環境問題や感染症等、国境を超えた地球規模問題も援助課題として重要性を高めている。 このような潮流に伴い、援助においても国を越えた広域的なアプローチ、即ちリージョナル・アプローチの重要性が高まってくるものと想定される。例えば、ASEANという地域、或いはアフリカの保健セクターという一つのまとまりとして支援戦略を構築する必要があるであろう。「メコン地域開発」はリージョナル・アプローチの一例である。 これまでのところ、我が国はどちらかと言えば国別援助に主眼をおいてきたが、次期中期政策においてはリージョナル・アプローチを盛り込むべきであろう。具体的には、「地域別のあり方」をベースに、地域全体の分析を増やした上で、国別援助計画との整合性・連関性を図りつつ、重点課題・国・セクターについて詳細化を図ることを検討すべきである。また、我が国が当該地域において果たすべき役割を明確にするとともに、リージョナル・アプローチの採択基準や実施方法を検討すべきである。さらに、地域毎に核となる地域オフィスを設置し、現地への権限移譲を進めるなど、地域プログラム及びプロジェクトの実施体制のあり方についても視野に入れることが望まれる。 |
(ロ) | 南南協力 東アジアの国々の急速な発展に見られるように、開発途上国の開発状況が多様化している。そのような状況下で、適正な技術の移転、定期的な国家交流、経験の共有、或いは費用対効果等の観点から、南南協力の妥当性がますます高まってきている。 我が国はTICADにおいてアジア・アフリカ協力を推進するなど南南協力に積極的に取り組んできた。既に、TICADにおけるNERICA(New Rice for Africa)米の開発等具体的な成果もみられており、南南協力は我が国の強みの一つとなりつつある。また、南南協力は今後、同地域内の協力のみならず、前述のTICADのようにインター・リージョナルな協力にも展開するものと思われる。 よって、南南協力を引き続き援助手法の重要な一つの柱として位置付けるとともに、前述の「リージョナル・アプローチ」を踏まえ、「地域別援助のあり方」において南南協力のコンセプトに関し言及することが望ましい。 |