1.調査の目的と方法
対中ODA問題を巡る議論が活発に展開される中で、先に発表された「21世紀に向けた対中経済協力のあり方に関する懇談会提言」において、今後の対中援助のあり方の方向性が示された。例えば具体的には、対中円借款に関しては、これまでの5~6年というラウンド方式から、いわゆるロングリストに基づく単年度方式に変更されることとなった。
しかし、過去20年に亘る対中援助が中国経済あるいは地域経済社会にどのような効果と影響を与えてきたか、という点に関しての調査研究はこれまで不充分であった。こうした調査分析を行うことによって、今後、より効果的な援助を行うことが期待される。
また我が国の経済財政事情、中国の経済発展に伴う開発ニーズの変化を背景にして、対中援助のこれまでのあり方の見直しやその効果に対する評価が求められている。そこで、今回の経済効果調査は、これまでの対中援助が、中国経済にどのような影響を与えてきたか、また援助対象地域にどのような具体的効果を与えてきたかを、主として計量的に求めると同時に、数回に亘って行われた現地調査による定性的判断や専門家らの意見を織り交ぜて、総合的経済効果分析を行うものである。
そのため、本調査では、以下の手法および観点でまとめられている。
また、調査の過程で、中国主要官庁や日本における専門家および有識者へのインタビューを行い、意見を求めた。その結果は各章毎に反映されている。
ここで、本調査で用いられたマクロモデルについて触れておきたい。
当初、本調査研究で用いるマクロモデルの候補としては日中二国間の需要と貿易の関係を考慮するマクロ計量モデルや近年、海外で政策効果の評価として用いられることが増えている応用一般均衡世界モデルの1つであるGTAPモデルなども検討された。しかし、調査がすすむなかで最終的には中国の経済構造と、他国のデータ体系・整備状況とは異なった部分の多い中国のデータの制約によって日本の対中ODAの経済効果測定用に三菱総合研究所が開発した中国一国のマクロモデルとした。その特徴は需要項目別にGDPの内訳を推計して合計する需要型の構造でなく、生産関数によりGDPを決定する構造となっていることである。
中国においても、近年は他国と同様の経済データに近づける努力が進められており、需要項目別のGDP統計も発表されている。また特に90年代からは中国においても需要が活発化し、需要型モデルの構築も行われつつある。しかし、伝統的に中国のGDPは産業別の内訳で公表されてきており、中国経済のマクロモデル分析は生産関数により決定される構造となってきたことも事実である。今回の分析には、市場経済化があまり進展していなかった80年代の対中ODAをも視野に入れているため、分析を行うモデルの構造は供給サイドを重視した生産関数に基づくものであることが望ましいと考えられたからである。
もちろん、近年の中国において、データ整備や改良が進められてきており、また活発化している需要の動向も見逃すことはできない。この観点から消費、輸出などの各需要項目に与えた影響を分析していくことも望ましいことを考え、生産関数によりGDPを決定するモデルのなかに需要項目ブロックを作成し、このような各需要項目における日本の対中ODAの経済効果の把握にも極力努めることとした。