1999年2月のCG会合においてカンボジア側が自ら提案した「ドナー間の四半期毎のモニタリング会合」は、6月、 10月と既に2回開催され、さらに懸案とされた「行政改革」(代表:UNDP)、「財政改革」(代表:ADB)、「森林保全」(代表:FAO)、「兵員削減」(代表:WB)、「社会セクター」(代表:UNESCO)についても、各作業部会が多くのドナーの参加を得て設置され、カンボジア政府自らが改革に真摯に取り組む姿勢を示している。
1999年2月の第3回CG会合及びそれに続くモニタリング会合において、ドナーは一貫してカンボジア政府の改革努力と政策に対して一定の評価を与えつつも、1)経済行政改革のより積極的な実行、2)財政基盤の強化、3)森林保全の推進、4)予算・行政手続きの透明性の確保、5)改革の進捗及び援助のモニタリング強化、6)退役軍人支援計画などを要望してきた。また、カンボジア代表団もこれらの意見に対応し、各懸念に対し改善を行う旨応答した。NGOは第1回のドナー会議からオブザーバーとして出席していたが現在では正式な参加者として発言もしている。
第3回CG会合において、1999年のカンボジア経済援助として、世銀目標額の4.5億ドルを上回る総額約4.7億ドルに及ぶ新規援助の供与が表明されたことは、1997年以降、国際社会から信頼を失っていたカンボジアの状況に改善が見られたことを示している。
(1) 国際機関・二国間援助
カンボジア政府発行の文書であるDevelopment Cooperation Report (1998/1999) をもとにして、カンボジアに対する各ドナーの支援状況をまとめてみた。
1998年に実行された各ドナーからの支援は4億389.1万ドルであり、1997年の実績である3億7,540.4万ドルよりは7%の増加をみたものの、過去最高の実績額である1996年の実績5億1,806万ドルのレベルには回復していない。これは、1997年7月に発生した武力衝突事件によりドナー諸国の中には援助の実施を延期あるいは縮小した国があったことが影響しているためであろう。
ドナー別に見ると、過去と同様に1998年にカンボジアにもたらされた支援のうち、過半数が二国間援助によるものである。1997年と比較すると前述の事情もあってか、国際機関および二国間援助からの支援は減少したが、NGOからの援助は増加した。
表 3-2 1998年のドナーの形態別援助実績額
ドナーの形態 | 1998年の援助実績額 | 割合 |
二国間援助 | 2億1,435.5万ドル | 53.0% |
国際機関 | 1億3,343.9万ドル | 33.2% |
NGO | 5,609.7万ドル | 13.8% |
出所:CDC/CRDB.1999. Development Cooperation Report (1998/1999) Main Reportより作成
二国間援助の内では、最大のドナーは日本であり1998年には7,137.2万ドルを支援した。1992年から1998年の援助実績の累計でみると、日本の実績は、欧米諸国、国際機関を併せても最大の23%の貢献であり、これに続くのは国連の関係機関(UNDP等)であり、EU、アジア開発銀行、世界銀行(22.9%)である。その他の主要なドナーとしては米国、フランス、オーストラリア、スウェーデン等である。
援助の種類別に見ると、技術援助が過半数を占める。援助のうち、グラントによるものは3億2,842.4万ドルであり、ローンによるものは7,545.7万ドルである。国際収支の支援、ローンによる支援はプロジェクトへの投融資の一部および単独の技術援助の一部として提供された。
セクター別では、1998年の実績ではインフラおよび建設セクターの割合が低く、いわゆる社会セクターの割合が大きい。
表 3-3 ドナー別援助実績額
主要援助国・機関 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 (実績) |
合計 (1992-1998) |
1999 (予想) |
多国間援助: | |||||||||
国連機関 | 13,276 | 30,977 | 26,154 | 30,968 | 50,315 | 39,771 | 40,540 | 232,001 | 45,747 |
世界銀行 | 0 | 68 | 40,009 | 29,601 | 40,401 | 28,115 | 29,313 | 167,507 | 40,425 |
国際通貨基金 | 0 | 8,800 | 21,238 | 42,290 | 400 | 0 | 0 | 72,728 | 0 |
アジア開発銀行 | 0 | 12,297 | 12,388 | 37,860 | 49,238 | 18,390 | 41,334 | 171,507 | 40,378 |
EU/EEC | 32,118 | 19,068 | 9,163 | 28,886 | 57,622 | 36,793 | 22,252 | 205,902 | 4,000 |
多国間援助合計 | 45,394 | 71,210 | 108,952 | 169,605 | 197,976 | 123,069 | 133,439 | 849,645 | 130,550 |
二国間援助: | |||||||||
オーストラリア | 10,511 | 15,917 | 13,792 | 27,508 | 20,172 | 27,296 | 18,205 | 133,401 | 16,787 |
ベルギー | 1,941 | 2,184 | 971 | 2,695 | 1,986 | 1,672 | 3,186 | 14,707 | 4,750 |
カナダ | 5,821 | 6,584 | 4,512 | 4,261 | 3,179 | 4,179 | 4,756 | 33,292 | 1,579 |
中国 | 912 | 871 | 7,089 | 3,129 | 10,850 | 9,496 | 14,345 | 46,692 | 2,000 |
デンマーク | 3,997 | 5,880 | 5,844 | 5,129 | 20,813 | 5,076 | 4,505 | 51,244 | 2,835 |
フランス | 5,797 | 32,260 | 35,807 | 62,237 | 42,887 | 26,492 | 29,488 | 234,968 | 11,818 |
ドイツ | 2,637 | 2,483 | 3,349 | 13,896 | 9,607 | 10,082 | 9,838 | 51,892 | 4,510 |
日本 | 66,897 | 102,025 | 95,606 | 117,902 | 111,000 | 59,843 | 71,372 | 624,645 | 119,390 |
オランダ | 17,159 | 11,147 | 9,980 | 3,447 | 11,542 | 3,257 | 5,682 | 62,214 | 4,789 |
ニュージーランド | 0 | 0 | 243 | 254 | 209 | 43 | 988 | 1,737 | 698 |
スウェーデン | 13,368 | 14,994 | 10,098 | 25,314 | 16,079 | 17,413 | 13,499 | 110,765 | 10,963 |
イギリス | 7,032 | 5,075 | 7,099 | 10,700 | 4,134 | 2,250 | 6,025 | 41,245 | 7,386 |
アメリカ | 35,551 | 33,809 | 31,701 | 45,149 | 28,761 | 30,509 | 30,364 | 235,844 | 10,659 |
その他 | 32097 | 12130 | 5053 | 6494 | 3062 | 4851 | 2102 | 91,128 | 10254 |
二国間援助合計 | 203,720 | 245,359 | 231,144 | 328,115 | 284,281 | 202,459 | 214,355 | 1,733,774 | 208,418 |
NGO(主要団体) | 1,069 | 5,322 | 17,949 | 21,100 | 35,800 | 49,876 | 56,097 | 187,213 | 55,000 |
合計 | 250,183 | 321,891 | 358,045 | 518,820 | 518,057 | 375,404 | 403,891 | 2,740,817 | 393,968 |
出所:CDC/CRDB, 1999,Development Cooperation Report (1998/1999): Main Report
図 3-3 ドナーの援助実績の割合(1992-98年の累計に基づく)
表 3-4 セクター別援助実績
セクター | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 合計 (1992-1998) |
割合 |
経済管理 | 574 | 53,866 | 73,186 | 83,196 | 73,182 | 10,947 | 6,926 | 301,877 | 11.01% |
開発管理部門 | 6,051 | 14,644 | 28,303 | 64,236 | 88,185 | 78,732 | 59,163 | 339,314 | 12.38% |
天然資源 | 315 | 1,236 | 1,541 | 1,072 | 3,349 | 5,844 | 3,469 | 16,826 | 0.61% |
教育・人的資源開発 | 15,763 | 28,520 | 28,884 | 42,336 | 34,738 | 48,269 | 58,251 | 256,761 | 9.37% |
農林水産省 | 16,875 | 27,528 | 24,269 | 36,650 | 64,559 | 18,012 | 12,428 | 200,321 | 7.31% |
地域・農村開発 | 35,103 | 43,548 | 28,542 | 70,191 | 78,097 | 67,918 | 63,274 | 386,673 | 14.12% |
産業 | 132 | 10 | 7 | 0 | 600 | 0 | 0 | 749 | 0.03% |
エネルギー | 1,057 | 7,498 | 23,702 | 38,972 | 13,772 | 17,335 | 30,893 | 133,229 | 4.86% |
国際貿易 | 0 | 0 | 58 | 168 | 50 | 0 | 276 | 0.01% | |
国内交易 | 300 | 0 | 297 | 273 | 2,016 | 7,448 | 5,404 | 15,738 | 0.60% |
運輸 | 8,682 | 45,126 | 57,743 | 78,299 | 60,249 | 37,236 | 47,072 | 334,407 | 12.20% |
コミュニケーション | 860 | 1,350 | 2,086 | 3,936 | 22,344 | 16,761 | 11,010 | 58,347 | 2.13% |
社会開発 | 5,571 | 15,802 | 27,095 | 41,147 | 20,828 | 18,833 | 33,106 | 162,382 | 6.00% |
保健 | 15,483 | 28,867 | 20,788 | 24,877 | 43,696 | 32,027 | 62,969 | 228,707 | 8.34% |
防災 | 2,359 | 220 | 0 | 0 | 0 | 164 | 141 | 2,884 | 0.11% |
人道援助・緊急支援 | 141,058 | 53,676 | 41,602 | 28,077 | 12,299 | 15,829 | 9,785 | 302,326 | 11.03% |
合計 | 250,183 | 321,891 | 358,045 | 513,320 | 518,082 | 375,405 | 403,891 | 2,740,817 |
出所:CDC/CRDB, 1999, Development Cooperation Report (1998/1999): Main Report
(2) NGO
カンボジアにおける非政府組織(NGO)の活動の開始は早く、公的援助が停止していた1980年代から実質的な活動を行っている。そのため、ドナーコミュニティの中でのNGOのプレゼンスは非常に大きく、CG会合やモニタリング会合にも毎回出席し、公式な提言も発表している。 30年に及ぶ内戦、共産主義政権による自由な市民活動への制約など、NGO活動を阻害してきた要因が、1990年代に入り、徐々に減り、カンボジアで活動するNGOの数は急増した。しかし、地雷や治安上の問題等によりNGOも全国的に自由に活動できる状況ではなかった。カンボジア人口の85%は農民であり、貧困も農村に蔓延しているため、1990年代に入り、NGOの活動は全国土に広がり、活発になってきている。
また、第1回カンボジア復興国際委員会(ICORC: International Committee on the Reconstruction of Cambodia)の際から、NGOの連絡協議体であるCCC (Cambodia Cooperation Committee)が代表をオブザーバーとして派遣した。その後、支援国(CG)会合には正式な出席者として参加するようになり、またセクター別にNGO、ドナーの会合をつくり、積極的にドナーと交流している。具体的には子供の人権、教育、環境、ジェンダーと開発、保健医療、HIV/AIDS、地雷、土地問題、精神医療、マイクロファイナンス、人権と法律の11である。CCCは1990年に設立され、1991年にカンボジア政府に正式に活動を認可され、NGO相互間、カンボジア政府、ドナー等の情報交流と対話のための役割を果たしている。
NGOの活動の総体が資金的にも人材の面からも一ドナーに匹敵することもあり、かつ地方での支援活動も実施していることから、カンボジア開発評議会(CDC)はNGOを開発における重要なパートナーとして評価している。具体的にはNGOが機動力と柔軟性を活かして、政府や国際機関等の大規模ドナーがアクセス不可能な遠隔地でも活動していること、食糧安全保障、弱者のエンパワーメント、社会セクターの強化、人権の尊重等の重要な問題に関して活動してきており、参加、平等、ジェンダー、生態系の持続可能性、地域共同体における協力等の経験をもつこと、とりわけ、農村開発計画の実施や草の根レベルでの活動(農村信用制度の運営等を含む)の実施に特別の経験とノウハウを保持していることなどが挙げられる。限られたカンボジア政府の予算では社会開発、貧困軽減、農村開発と農業、天然資源の管理、教育等の分野においての多くのニーズに応えることが不可能であるため、それを支援するNGOの事業活動については期待が大きい。
CDCによると1998年現在カンボジアで活動しているNGOは約400あるといわれているが、CDCの統計調査に答えたNGOは国際NGOが133、カンボジアNGOが159,その他4の合計296である。地理的な広がりは、図3-4のようになり、プノンペンにおけるプログラムには約26%の資金が使われており、全国展開型のプログラムには11%が使われている一方、バッタンバンで8%、ボンティアイミエンチァイ、コンポン・スプー、カンダール等で約6%が使われている5(図3-4)。ただし、人口一人当たりの活動資金の支出の実績を見ると、プノンペンを除いてはラタナキリー、モンドルキリー、プーサット等国境沿いの州が多く、NGOが通常のドナーの支援が活発でない地方で活動している実態を表している。
図 3-4 州別のNGOプロジェクト支出
NGOの開発協力資金が、カンボジアへの海外からの開発協力資金に占める割合は、1998年では、二国間・多国間援助の総額2億1,435.5万ドルに対し、5,609.7万ドルであった。各国ドナー及び国際機関からNGOに供与されたのではない、NGOの自前の援助資金は年々増加しており、1997年より12.47%増加している。また各国ドナー及び国際機関が、約2,600万ドルをNGOに直接資金を供与している。従ってNGOの活動資金は各国ドナー及び国際機関からの資金も合わせて1998年は合計約8,250万ドルとなり、前年より15%増加している。資金源としても、NGOの活動がカンボジアの復興と開発にとって重要であることがわかる。6
NGOの実績額が増大しているのは1997年以前はデータ不備であったこともあるが、1997年の武力衝突事件を契機に、米国などが正式に政府への援助を停止し、代わってNGOへの支援を増大させたことなどが大きい。緊急支援時に活動してきたNGO以外にも新しくカンボジアで活動をはじめるNGOが多いことや、人権、女性支援、環境保全などの支援は政府より、NGOの活動を直接支援することのメリットが多いことなども要因と考えられる。
表 3-5 NGO活動実績額(州別、人口一人当たり)
行政区分 | 千ドル | 人口 | 一人当たりの実績($) |
Phnom Penh | 14,616 | 997,986 | 14.65 |
Stung Treng | 972 | 80,978 | 12.00 |
Ratanakiri | 766 | 94,188 | 8.13 |
Pursat | 2,825 | 360,291 | 7.84 |
Krong Sihanouk | 968 | 155,376 | 6.23 |
Kompong Speu | 3,595 | 598,101 | 6.01 |
Banteay Meanchey | 3,434 | 577,300 | 5.95 |
Battam bang | 4,568 | 791,958 | 5.77 |
Kratie | 1,068 | 262,945 | 4.06 |
Koh Kong | 535 | 131,912 | 4.06 |
Kompong Thom | 2,083 | 568,454 | 3.66 |
Siem Reap | 2,750 | 764,321 | 3.60 |
Preah Vihear | 409 | 119,160 | 3.43 |
Kandal | 3,265 | 1,073,586 | 3.04 |
Kompong Chhnang | 1,151 | 416,999 | 2.76 |
Kampot | 1,364 | 527,904 | 2.58 |
Krong Pailin | 54 | 22,844 | 2.36 |
Svay Rieng | 1,114 | 478,099 | 2.33 |
Takeo | 1,619 | 789,710 | 2.05 |
Prey Veng | 1,155 | 945,129 | 1.22 |
Krong Kep | 32 | 28,667 | 1.12 |
Kompong Cham | 1,473 | 1,607,913 | 0.92 |
Mondulkiri | 0 | 32,392 | - |
出所: NGO Statement, 1999 Consultative Group Meeting On Cambodia
5 NGO Statement to the 1999 Consultative Group Meeting on Cambodia, 1999
6 CDC/CRDB.1999. Development Cooperation Report (1998/1999) Main Report