現在、カンボジアの貧困層の80%が農村地域に居住し、多くがいわゆる貧困ライン以下の生活を送っている。社会的弱者には、一般に言われるような、貧困層、女性、少数民族、HIV/AIDS感染者、性的搾取の被害者にとどまらず、長年にわたる戦禍とクメール・ルージュによる歪んだ政策に起因する片親家族、孤児、身体・精神障害者も含まれることがカンボジアの特徴である。1998年に終了した人口統計と世帯調査の結果では、詳細な貧困層の状況を把握できるに至っていないため、更に、調査を実施する計画である。平均寿命、成人識字率、就学率、購買力平価による調整済み一人当たり所得等の各指標に基づく国連開発計画(UNDP)の人間開発指標(HDI)4では174カ国中137位に位置付けられている。
政府は社会サービスを最重要課題として、歳入の絶対的不足の状況下でありながら、教育・保健分野に対する予算配分を約15%と増大させている(セクター別歳出構造を参照)。
またカンボジアでは前節でも述べたように内戦の結果、15歳以上の人口の65%を占める女性が経済活動の中心を担い、母子家族の割合も全体の25~30%を占めるという特有の状況がある。しかしながら、農村部の金融業は年利150%にものぼる高金利を課しており、女性が融資を得ることは容易ではないため、女性に対する小規模融資を供与して収入創出(Income Generation)活動を支援する活動が様々なNGOによってはじめられている。
女性は保健、教育、生計などの面で不利な状況に置かれていることがデータで明らかにされている(表2-7)。すなわち、教育分野では成人識字率に男女差が大きく、特に高等教育レベルでは女子の割合は就学者数全体の15%に過ぎない。保健衛生分野でも高い妊産婦死亡率と乳児死亡率が女性の最大の問題である。間隔をおかない出産や重労働で産婦人科疾患の問題を抱える女性も多い。世界的な女性のエンパワメント重視の傾向に従い、カンボジアでも様々な施策が実施されている。女性の職業訓練や集会のための「女性開発センター」が全国で11ヶ所設立されたり、女性の権利を保護する法の立案、婦人問題・退役軍人省の設立などが政府の努力で実現された。また、国連機関などを中心とした支援プログラムとして、女性の権利向上プログラム、農村女性の職業訓練プログラムの立案、中央政府、省の女性関連局のスタッフの訓練、AIDS患者に対する支援などが、またNGOが様々な女性支援のプログラムを実施している。
行政面でも、現在婦人問題・退役軍人省が前述の「女性開発センター」の各州への拡充、講習会やラジオを通じた衛生知識の普及、無利子での小規模融資及び企業支援、少数民族の女性への訓練の課題に取り組んでいる。
表 2-7: 主要な社会開発指標
指標 | 利用可能な 最新データ |
年度 | 指標 | 利用可能な 最新データ |
年度 |
妊婦死亡率(新生児千人あたり) | 473 | 1997 | 識字率(15歳以上) | 68.7% | 1998 |
乳児死亡率(新生児千人あたり) | 89.4 | 1998 | -男性 | 81.8% | 1998 |
5歳未満児死亡率(新生児千人あたり) | 115 | 1998 | -女性 | 58.1% | 1998 |
近代的避妊普及率(既婚女性に対する) | 16.10% | 1998 | 小学校の就学率 | 78.3% | 1998 |
平均寿命 | 53.4 | 1997 | -女性 | 74.1% | 1998 |
-男性 | 51.5 | 1997 | 中学校の就学率 | 14.2% | 1998 |
-女性 | 55.0 | 1997 | -女性 | 11.1% | 1998 |
乳児の6つの主要な病気の予防接種率 | 68% | 1998 | 高等教育就学者数(10万人当たり) | 64 | 1998 |
4 UNDP(1999) 「グローバリゼーションと人間開発」