広報・資料 報告書・資料

第2章 我が国の文化無償協力の概要

2.1. 文化無償協力の背景と経緯

 文化無償協力は昭和50年度予算より、開発途上国の文化及び教育の振興を目的として開始された援助スキームである。文化無償協力のスキーム導入の背景には「開発途上国の多くでは、社会の経済的発展のみならず、その国固有の文化の維持・振興に対する関心も高く、文化面を含む広い視野からバランスのとれた国家開発を行う努力がなされている」点が指摘されている3。文化無償協力は、開発途上国におけるこうした努力に対し、我が国としてもそれぞれの国々と協力しながら、伝統文化や文化遺産の保存、芸術・教育活動等への支援を行う国際文化協力の重要な柱の一つと位置づけられている。
 平成12年度、文化無償協力のスキームは3つの分類へと拡充し、その適用範囲が広がった。昭和50年以来実施されてきた文化無償協力は、(一般)文化無償協力としてそのまま存続し、新たに「文化遺産無償」、「草の根文化無償」という2つの派生スキームが誕生し、これら3つのスキームを総合して「文化に関する無償協力」と称するようになった。ちなみに、本件評価においては、文化遺産無償、草の根文化無償は対象外とし、文化無償協力のみを対象としている。

図表2-1:文化に関する無償協力の種類(平成12年度以降):
  (一般)文化無償 文化遺産無償 草の根文化無償
導入 昭和50年度 平成12年度
内容 各種の文化・教育活動に使用される機材の購入資金及び機材の輸送・据え付けのために必要な資金を贈与するもの 発展途上国にある世界遺産や我が国がユネスコを通じてその保存・修復に協力している文化遺産などを対象に、開発途上国がその保存・活用のために行う取組みを支援するため、文化遺産保存・修復のための機材供与や文化遺産までの道路の整備、文化遺産を保管する保管庫や簡単な展示施設の建設のための援助を可能とするもの 開発途上国のNGOや地方公共団体に加え、開発途上国で恒常的に活動を行っている我が国NGOなど、開発途上国のいわゆる草の根レベルに直接援助を行うことで、よりきめ細やかな援助の実施を目指したもの
対象機関 政府、公共機関・団体 開発途上国のNGOや地方公共団体、開発途上国で恒常的に活動を行っている我が国NGO等
限度額 1件5,000万円 1件3億円 1件1,100万円
申請方法 相手国の窓口機関(外務省、文化省等)が当該国の案件をとりまとめ現地我が国大使館に申請 NGO、地方公共団体などが直接現地我が国大使館に申請
出所:ODA白書2001~2002年版、外務省ウェブサイト情報より作成

2.1.1. 文化無償協力の目的及び対象4

 今回の評価対象である(一般)文化無償協力スキームは、その導入の際の閣議決定などから、「開発途上国の文化、教育の発展を支援する」、「我が国とこれら諸国との文化交流を促進し、友好関係及び相互理解を増進させる」、という2つの目標を掲げていると考えられる。
 対象国は、世銀融資ガイドラインに基づき、グループIVまでの国(平成14年度の場合、2000年の一人当たりGNPが5,225米ドル以下の国)であり、相手国政府機関ないし公共の機関あるいは団体を供与先としている。国際機関や民間の機関、個人は対象としていない。また、文化無償協力による供与限度額は、1件につき5千万円であり、被供与国の文化・教育の振興のために使用される「資機材」並びにそれらの輸送及び据え付けのために必要とされる「役務」を購入するための資金を供与する。施設等の建設・修復や、セミナーやプロジェクトの運営費、人件費等の経費は対象としていない。

2.1.2. 文化無償協力の手続

 まず、相手国政府より我が国大使館に文化無償協力の要請が行われると、大使館では要請内容を検討し、これを優良案件と判断すれば要請書を本省に送付する。本省ではこれらの中から実行可能性があるものについて事前調査(外部機関に委託)を行う。事前調査は現地と国内の両方で行われ、その中で被供与機関の執行能力、要請機材の妥当性、機材設置場所、維持管理状況等の調査を行う。事前調査の結果、実施方針を固めたものについては財務省と実行協議を経て実施決定がなされる。実施決定となった場合、相手国政府との間で交換公文(E/N)を締結する。 E/N締結後、機材の調達に関し一般競争入札を行い、機材調達業者を選定する。調達業者は相手被供与機関との間で機材調達契約を締結し、外務省の認証後、業者が機材を調達する。機材の現地到着後、引き渡しを行う。

図表2-2:文化無償協力実施のフローチャート
図表2-2:文化無償協力実施のフローチャート
出所:ODA白書1998年版、その他資料より三菱総合研究所作成


2.2. 文化無償協力の活用実績

2.2.1. 実績額の推移

 文化無償協力は、スキーム発足以来平成12年度までに124カ国・地域に対して、1,073件、総額439億8,290万円が実施されている。過去10年間の推移をみると、金額では毎年22~25億円で、また、実施案件数では毎年約50~60件の水準で推移している。文化無償協力の供与額が無償資金協力全体額に占める割合は、少なくとも過去5年間にわたっては約1%程度であり、無償資金協力の中では最も供与総額の少ないスキームの一つである。
 また、供与された機材の種類を見ると、平成10~12年度では、金額、件数いずれにおいても文化施設関連機材(音響・照明機材、展示機材)が最も多く、全体の約30%を占めている。その他、比較的安定しかつ大きな割合を占めているのが楽器であり、毎年約3~4億円程度供与されている。教育放送関連機材は、平成10年度、11年度については0件であるが、それ以前には継して供与されていた機材であり、これら2年間のみ0件となっている。

図表2-3:文化無償協力供与額及び実施件数の年度毎推移(当初予算ベース)
図表2-3:文化無償協力供与額及び実施件数の年度毎推移(当初予算ベース)
出所:外務省「ODA白書1999~2002年版」より作成

図表2-4:平成10~12年度に実施された文化無償協力案件(当初予算ベース)
図表2-4:平成10~12年度に実施された文化無償協力案件(当初予算ベース)
出所:外務省「ODA白書2001~2002年版」より抜粋作成

図表2-5:無償資金協力事業予算の推移
図表2-5:無償資金協力事業予算の推移


2.2.2. 地域別供与実績

 スキーム発足以来、平成12年度までに124カ国・地域に対して、1,073件、総額439億8,290万円の文化無償協力が実施されている。供与対象国は徐々に拡大し、1991年度には東欧各国、その後中央アジア諸国、バルト諸国、ウクライナ、南アフリカ、キューバなどを新たな対象国としている。平成10~12年度までの案件を対象地域別にみると、東欧・NIS諸国への供与が最も多く、中南米、アジア、アフリカが続いている。

図表2-6:文化無償協力の対象地域別供与額(単位:億円)
図表2-6:文化無償協力の対象地域別供与額(単位:億円)
出所:外務省「ODA白書1999~2002年版」より作成
(注)供与額は各年度とも当初予算ベース



3 ODA白書2002年版資料編第3章「主な事業と関係機関の実績」第1節「二国間贈与」1.無償資金協力実施状況(2)主な事業概要と実績[8]文化無償より主旨を引用

4 ODA白書2002年版資料編第3章「主な事業と関係機関の実績」第1節「二国間贈与」1.無償資金協力実施状況(2)主な事業概要と実績[8]文化無償




このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る