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第8章 今後の取組み方針



8.2 貧困緩和(クロス・セクター課題)に対する取組み

8.2.1 プログラム・アプローチ

貧困やバングラデシュ国の上位課題として認識されている問題(生産性の向上、投資・輸出の促進、都市および環境問題など)は、分野横断的な取組みが求められる課題(その要因が複数のセクター/実施機関の管轄に根ざし、また要因の体系化が複雑で個別事業による対応が困難な課題)である。国別援助計画では、重点分野における取組み方策を提示し、各重点分野での援助の成果が複合的かつ相乗的に、貧困の緩和などクロス・セクターの上位課題の解決に貢献するという想定がなされている。

しかし、既往の枠組みにおいて個別に実施される援助では、こうした分野横断的な対応が望まれる課題の解決に対してその効力に限界があり、効果の発現と派生状況をトレースしモニタリングすることも困難となる。

貧困問題に対するより直接的な取組み策を提起するとすれば、特定の貧困地域をターゲットとし、複数のセクターをカバーした包括的な貧困対策プログラムによる取組みを強化することが望まれる。バングラデシュ国における所得貧困の緩和に有効な施策は、集会施設、市場、道路、電気、水道などの基礎インフラ整備と、生計向上支援、教育(成人や女性識字率の向上などノンフォーマル教育)、保健医療などを一体的にプログラム化して提供することであると言われる。

これら貧困対策上必要とされる支援内容は、管轄の各実施機関を通じて提供されるものであり、過去においては村落に社会経済生活上の「面」を形成するにいたらず、各実施機関が「点」によるサービスやインフラ整備を行っているに過ぎなかったとの指摘がなされている。そのため、上記の支援策を調整のうえ統合し、効率的に実施する能力を有する地域行政機能が必要となる。一方で、コミュニティのニーズを行政機能に伝達し、働きかけを行い、行政サービスのチェック機能を果たす役割が、コミュニティ側にも必要となる。

そこで、対象コミュニティの組織化と行政評議システムの構築を行い、地域の行政機能の強化を行ったうえ、一体的な支援プログラムを実施するという流れに沿った取組みが望まれる。しかし、このような包括的な貧困対策プログラムを実行するには、一援助機関の協力だけでは困難であり、支援に必要な監理能力とスキルを全て持ち合わせていることは稀である。我が国の場合も援助機関に不足するスキルや資源を補うことが必要であり、他ドナーや現地NGOとの協調または連携を積極的に模索していくことが望まれる。

具体的にはコミュニティ・エンパワメントや地方行政機能強化を支援しているドナー、生計向上支援を提供している現地NGOとの連携を図り、我が国は対象地域をすり合わせたうえ農村インフラの整備を行うといった例が考えられる。我が国が取組んできた「モデル農村開発計画」を活用し、連携を図るのも一案である。

プログラムの立案や対象地域の検討は、我が国が主導的に行い、必要な外部リソースは能動的にドナー機関やNGOに働きかけて協力体制を構築する。加えて、プログラム自体とプログラムの構成案件を包括的に計画調査、統合、調整、実施および進捗管理していくには、コンサルタントなどのオルガナイザー機能を活用する。

多くのバングラデシュ国NGOは生計向上支援と連動してマイクロ・クレジットの提供を行っている。貧困対策プログラムの支援効果を持続的なものとするためにも、マイクロ・クレジットが果たす機能も活用する。プログラム対象地域へのマイクロ起業ファンドの設立や借入人負担によるインフラ維持管理資金の積み立てを検討すればより効果的である。

その他バングラデシュ国の上位課題に対しても、これら課題(テーマ)の改善や達成に資する各支援案件を調査計画し、外部の支援活動と統合的に組合わせたプログラムの実施によるアプローチが望まれる。貧困問題と同様に、課題(テーマ)別プログラムの実施には既存援助スキームにとらわれない実施体制と管理手段で当ることが望まれる。

8.2.2 貧困削減戦略ペーパー(PRSP)への対応

現在、貧困削減戦略ペーパー(PRSP)を、2002年6月の中間PRSPのドラフト提出に向け準備中である。今後、2章で述べた「貧困の削減に向けたアクション・パス」に沿った援助案件の形成、選定、実施が求められることになる。結果としてセクター毎投資計画を中心とした5ヶ年開発計画書とは異なり、課題対応型(セクター/実施機関毎の位置付けが薄い)の開発計画となるものと想定される。なお、バングラデシュ政府側では、PRSPの登場により、既存のセクター間の支出配分バランスが崩れることを懸念している。

近年の他ドナー機関は課題解決型の援助方策を重視している。各機関の援助計画書でも、バングラデシュ国の既存セクター/政府実施機関のカテゴリーにおさまらない課題を掲げるものが多い。例として、貧困の緩和に不可欠とされる「ガバナンス向上」、「コミュニティ・エンパワメント」、「民主化支援」、「地方行政支援」「ジェンダー格差の解消」などが挙げられる。

本調査の結果、PRSPに対する我が国援助関係者の見解はまちまちであった。我が国は、これまで個別の政府実施機関の要請に応えて援助を実施するのが通常であり、貧困緩和への貢献は想定されるものの、評価と分析を事前に行うことは困難であり稀であった。今後は、貧困の削減に対する個別援助の貢献がより定量的に示され、かつそれが最も効率的な介入策であることを、事前に説明し他ドナーに対しても理解を求めることが必要となるものと思料される。

PRSPの策定過程に対しては、我が国も一層関与することが望まれる。PRSPが描く貧困の削減に向けたシナリオは決して実証されたものではない。また、個別援助によるインプットから貧困の緩和にいたる効果の波及経路と援助効果間の作用も明らかにされているわけではない。我が国として、推進すべき方策、分野、取組み策は積極的に紹介し、他ドナーの理解を継続して求めていくことが重要となる。

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