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第8章 今後の取組み方針



8.1 セクター・アプローチによる取組み

重点分野毎の取組み方策

最優先の課題である貧困の緩和を実現するため、我が国の国別援助計画では以下を援助実施上の重点分野と位置づけている。本評価調査の結果から、重点分野のなかで望まれる新たな取組み策と絞り込みを検討した。なお、個別援助の実施に当ってはつねに、事業実施運営能力の強化(Capacity Building)、環境の保全に配慮した支援が必要とされる。

(1)農業・農村開発と農業生産性向上

農業・農村開発は我が国援助の優位性があるセクターであり、多くの経験が蓄積されていることから、貧困撲滅を重視する国際援助の動向、同国の開発戦略およびドナー協調に配慮した我が国独自の援助政策の構築が可能であろう。以上を踏まえた今後の取組み策としては以下が挙げられよう。

インフラ整備と組み合わせた人的資源の開発、保健衛生、社会資本の整備を一層強化する。特定地域を対象として、無償、有償、草の根無償、プロジェクト方式技術協力、ソフト支援としての協力隊派遣等を組み合わせた援助をセクター別、あるいはセクター横断的に組み立てる。

農業技術(生産力)支援においては、期待された成果が上がったが、貧困撲滅を含む総合的な農村開発においは、我が国の経験を活かした地方自治の組織づくりが求められている。農村開発の担い手や受益者である住民が、身近なユニオンにおいて中央省庁末端「タナ(ウポジラ)」の行政サービスを通して農業生産、生活を向上させるために、地方分権化と住民参加を可能とする組織育成支援を強化する。また、ユニオンにおける各セクター(農業生産、医療保険・衛生、教育等)間の連携を強化する必要がある。


(2)社会分野(基礎生活、保健医療等)の改善

基礎的な保健医療、衛生、教育および安全な水は、BHNであり、この分野への協力は貧困層への直接の裨益効果が期待できる。開発政策上もこの分野の改善は最優先の重点項目である。我が国の同国社会セクターへの協力は、保健医療分野では母子保健を中心とするリプロダクティブ・ヘルス、ポリオ、はしか、破傷風などの予防接種および感染症対策など予防・第一次医療への支援であった。教育分野では初等教育、安全な水および衛生に関しては砒素対策および上下水道の整備を通して行われた。DAC新開発戦略1を推進してきた我が国としては、望ましい方向性であり今後も継続してこの分野を支援してゆくことが望まれる。

保健医療セクターでは保健人口セクター・プログラム(HPSP)が策定され、その枠組みをベースとしてセクターの課題に対する包括的な取組みが行われている。我が国も、従来のプロジェクト・ベースによる手法を取りつつも、セクター全体の開発政策との整合性、優先度、他ドナーとの協力内容の調整と連携にも配慮しながら、セクターワイド・アプローチを補完するかたちで進められている。この事例を更に発展させ、他のセクターへの適用を可能とするための検討と協力体制の強化が望まれる。

教育セクターでは、理数科教育は我が国の経験が生かせる分野でもあり、協力隊による協力に加え、カリキュラム開発や教員養成における質の向上への協力参入の可能性は高いと考えられる。また教育分野における実績と経験を有するUNICEFとの連携を進めながら、この分野における援助の人材育成を進めていくことが必要である。なお、初等教育における就学率の向上は成果をおさめつつあり、今後は初等教育の質的向上、中等教育施設の整備拡充および就学率向上に課題が移行するものと考えられる。

安全な水に関しては、砒素流出問題が目下バングラデシュ国における緊急優先課題である。現在は調査段階であるが、近い将来、全国規模のプロジェクトとしての展開が予想されている。砒素対策では我が国の経験が生かせる分野でもあり、資金力と経験のある我が国が先導的ドナーとして率先して取組める領域の協力と思料される。

上下水道セクターでは、専門家派遣による実施機関の能力強化や組織と制度改革への支援を継続し、同様のアプローチで協力を行っている世銀やデンマーク援助庁などとの連携を進めることが望ましい。個別専門家の派遣のほか、例えば我が国の上下水道事業実施機関(具体的には都道府県の水道局など)の人材をチームで派遣し、経営財務、運営維持、水質管理に関する技術改善支援を、我が国の技術とシステムとをパッケージ化して提供し、継続的に対象機関の支援を行う協力の在り方も検討に値する。

社会セクター全般的に、政策や制度の改善、人材の育成、社会サービス提供システムの確立などソフト・コンポーネントを重視した支援、ならびに他ドナーやNGOとのパートナーシップによる支援形態が大きな比重を占めつつある。我が国もこの流れに柔軟に対応できる体制の強化が望まれる。チーム派遣やコンサルタントの活用により、連携事業の調査計画、事業管理が有効であろう。草の根で活動する協力隊と各援助スキームとの連携強化もはかる必要があろう。

(3)投資促進・輸出振興のための基盤整備

我が国は投資促進と輸出振興のための基盤整備を重点分野として掲げており、援助手段がインフラの整備に係る資金協力に偏重したのはやむをえなかった。

バングラデシュ国の開発上位課題は投資促進と輸出振興に加え製造業の振興であり、我が国援助計画においても「工業化の推進」が上位の開発課題として認識されている。他ドナーによる援助が国営企業の改革支援に重点が置かれている状況とMFA失効後の影響を考慮すれば、インフラ整備支援に加え今後以下を例とする支援策も検討に値する。

産業創出・振興と輸出多様化計画の策定に係る技術協力

長期信用市場の機能化に向けた制度金融機関の育成とツーステップ・ローンの導入

中小零細企業の振興に向けた技術協力とNGO経由を含む我が国の金融支援(近年BRACなどNGOによる中小零細企業向け金融機関の設立運営が活発化している)


工業化支援にも援助を振り向ける一方で、都市および農村部ともいまだ整備拡充が遅れているインフラの整備も、生産性の向上に貢献するためには不可欠であることに変わりはない。しかし、今後は以下の方策をもって整備の実施に当ることが望まれる。

過去の事例より得られる成功や失敗の要因について、今後インフラ整備への支援を行う際これらの有無を把握し、適用または改善の可能性につき検討する。良好なパフォーマンスの要因としては以下が挙げられる。


  • 実施機関の組織や人事面での他者からの介入を排除すること
  • 事業方針に曖昧さがないこと
  • 関係職員らに昇給と減給のインセンティブが働いていること
  • 計画策定、組織と制度の整備、事業の実施展開、モニタリング、評価までドナーが出来る限り継続的に支援を行うこと


従来以上にソフト面での改善(組織と制度づくり)を促しうるコンポーネントをパッケージ化し供与する。資金協力と技術協力との連携を一層充実させ、専門家派遣、研修事業、プロ技協など技術協力の一定部分を戦略的に資金援助が集中する重点分野、セクターに配分する(実施形態はハリプール発電所拡充事業がモデル)。

ソフト面の改善コンポーネントの提供では、充分に到達可能な目標を検討のうえ設定し、成果重視型の技術協力を展開する。成功した取組みはモデル化し継続的に改良と見直しを重ね、他に展開を図る。


しかし、ソフト・コンポーネントを組合わせたプログラム的なアプローチでも、全体的なセクター・パフォーマンスの改善には限界がある場合も想定される。この場合は、世銀や他主要ドナーが行う改革支援構造調整融資などの進捗に歩調を合わせたうえでインフラ整備支援を行うなど、他ドナーとの協調やバングラデシュ政府のセクター変革努力を促す必要がある。

なお、民営化および民活化の動向に沿いながら支援内容を検討することが重要となろう。これは電力/エネルギー、港湾、通信セクターにおいてとりわけ重要となる検討事項である。改革の方向性次第では、我が国の支援内容も限られたものになる場合が想定される。但し今後は、民活化などサービス供給の手段、実施機関のあり方についても、我が国の経験を踏まえたうえ、他ドナーやバングラデシュ政府との対話や議論に参画していくことが望まれる。

(4)災害対策

災害対策における課題は恒久的かつ人道的な性格を有する。従って、先に述べたバングラデシュ国の課題に向けて、我が国が今後も「自然災害の克服」を上位課題として認識し、重点分野とすることは妥当である。検討すべき事項は、洪水およびサイクロン対策に対していかなる取組み策をもって援助を行っていくかにある。

洪水対策については、国際協調のもとバングラデシュ政府が策定する国家水管理計画(National Water Management Plan)に沿った協力を継続する。また、FAPのコンセプト(洪水との共生)を具現化する配慮が事業形成および実施段階に求められる。これらはソフト(非構造物)面の重視、住民および受益者の参加、他セクター間に跨る視点や計画、環境および制度面の配慮、地域の特性に応じた洪水対策計画が挙げられる。

今後は既存の災害対策施設の維持管理(堤防および排水施設など)強化コンポーネントの提供も検討する。アドバイザリ・チームやコンサルタントなど専門家派遣を中心に成果重視指向の支援とし、維持管理の改善目標の策定を実施機関に求め事後のモニタリングと評価体制の強化を行う。

サイクロン対策については、今後も多目的シェルターの整備を継続する。但し、1)予警報システムとのリンケージを重視し、施設の存在意義と効果を一層高めること、2)農民らが所有する家畜の避難先確保を併せて検討することも重要である。整備の際は、住民参加型の計画を重視し、コミュニティにおけるシェルター施設の役割と施設上の要望、維持管理の主体と内容について充分な検討を行わせることが望ましい。

マクロ経済効果の高いセクター

マクロ経済分析モデルにより、ODAのセクター別累積効果(マクロ経済への中・長期的なインパクト)を分析した。結果は次の5分野が経済成長への累積的な効果発現余地が大きいというものであった。

  • 教育
  • 社会保障、女性・青少年開発
  • 農村・組織開発
  • 通信
  • 保健医療・家族計画


中・長期的に有意な経済的インパクトがあると分析されたこれらのセクターは、当該セクターでの援助の成果が比較的支障なく発現し、かつ貧困層にも届きやすい経路に沿って波及する可能性が高いと思料されるセクターである。また、上記ODAセクター以外にも、バングラデシュ国の経済成長の鍵となるGDPセクター(農業、鉱業、建設業)の成長に対して有意なインパクトが認められるODAセクター(水資源開発、住宅・施設・上水道、工業)も累積効果が大きい。

援助形態については資金協力と技術協力との連携が効果的であるという結果を得たが、バングラデシュ政府のこれまでの自助努力を考慮すると、教育分野は技術協力に比重を置き、保健医療・家族計画、水資源開発、工業分野は資金協力に比重を置いた援助が効果的であると思われる。

また、社会保障、女性・青少年開発、通信、住宅・施設・上水道分野はバングラデシュ国政府の自己資金と技術協力との連携を強化した援助が望ましいと言える。農村・組織開発については、資金協力および技術協力を拡大する一方で、両形態の連携を強化した援助が効果的である。

なお、バングラデシュ国側の問題は、援助の成果が発現する過程と波及する経路に支障や制約が多く、「本来の使命や国民のニーズに沿って税金や援助資源を効率的に活用する能力の不足」、「事業実施や運営能力の不足」、「汚職や腐敗の蔓延」などガバナンスの弱さとバングラデシュ国側の援助に対するオーナーシップの欠如となり、顕在しているものと考えられる。

インパクト分析の結果より、比較的有意ではないと考えられる他のセクターは、これら指摘される問題点による影響が大きく、援助成果の持続的な発現と波及が比較的円滑ではないセクターであると言える。したがって、本分析結果はそのようなセクターへの関与を止めるべきであるということを示唆しているのではなく、組織や制度の強化改善などソフト面への継続的な技術協力による支援またはその資金協力との連携がより強く求められる分野であるということを意味している。

新たなセクター支援の方策

これまでに指摘された内容を踏まえ、新たなセクター支援方策のパッケージ化を試みるとすれば、以下の流れに沿った取組み策が提案されよう。

対象セクター/実施機関を選定し、長期のセクター/事業改善プログラムを策定する。
プログラムは課題解決型を指向し、Physical Development Planだけでなく、事業実施・運営能力の強化(ガバナンスの向上)、政策内容および組織制度の改善策も並行して検討する。
段階的に取組みやすい内容より段階実施計画を策定し、最も抵抗の強い改善内容を最終段階に組込む。この間必要に応じて、施設や機材整備を実施する。
対象実施機関にプログラム実施支援コンサルタントや専門家や政策アドバイザーを同時に派遣する。
プログラムの見直し必要性が生じる場合を考慮し、段階計画には柔軟性を持たせる。
コンサルタントや専門家は適宜交代し、段階計画の進捗を継続的にモニタリング監理し、先方機関との対話協議を定期的に重ね、プログラムの妥当性を定期的に確認する。
最も抵抗の強い改善内容を実施し、そのフォローが完了するまで支援を行う。
対象セクター/機関が自立可能、および援助依存から脱却可能と判断される時点で支援を完了する。



1 DAC新開発戦略では社会セクターにおける開発目標として、(1)2015年までにすべての国の初等教育を普遍化、(2)2005年までに初等・中等教育における男女格差を是正、(3)2015年までに乳児および5歳未満幼児の死亡率を3分の1に削減、(4)2015年までに妊産婦死亡率を4分の1に削減、(5)2015年までに性と生殖に関する保健医療サービス(リプロダクティブ・ヘルス)の普及などを掲げている。




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