第7章 我が国援助に対する現地の評価と要望
7.2 バングラデシュ国側有識者の評価と要望(認知度と印象について)
バングラデシュ国の社会経済開発における我が国支援についての、同国国民の一般的な認知度や印象並びに要望に係る傾向を測る目的で、バングラデシュ側有識者50人を対象に簡便なアンケート調査を実施した。回収率は100%であった。対象者の職業構成や主な属性は以下のとおりで、バングラデシュ国学術、経済、行政各界より広く回答者を求めた。但し、回答者の地域別構成は調査効率を考慮して、ダッカ市とその郊外に限定している。
表7-2-1 有識者向けアンケート調査回答者の職業構成と平均値
カテゴリー |
回答者数 |
主な属性値 |
大学講師/教授 |
2 |
平均年齢(歳) |
40.3 |
学校教師 |
2 |
平均家族数(人) |
4.4 |
大学生 |
2 |
中等教育まで修了(%) |
96.0 |
文化活動者 |
2 |
高等教育まで修了(%) |
88.0 |
総合病院勤務 |
2 |
大学教育まで修了(%) |
42.0 |
母子保健ワーカー |
2 |
|
農民 |
2 |
エンジニア |
2 |
弁護士 |
2 |
ジャーナリスト |
2 |
個人事業者 |
3 |
民間企業管理職 |
2 |
民間企業財務/経理職 |
2 |
民間企業貿易業務職 |
2 |
民間企業販売職 |
2 |
インフォーマル・セクター従事者 |
5 |
政府職員 |
7 |
災害救済関連NGO関係者 |
2 |
環境NGO関係者 |
2 |
その他NGO関係者 |
3 |
合計 |
50 |
|
アンケート対象は「有識者」であり、概して教育履歴は高い水準にあり所得水準もバングラデシュ国平均に比較すると非常に高い。回答者の多くは先進国に視られる標準的な電化製品をほぼ所有しており、都市インフラ・サービス(電話、ガス、電気、水道、下水)なども整備された家庭に所属している割合が非常に高い。また、回答者の約80%は外国人の知人を有しており、我が国人の知人を有するものは約40%に上る。我が国人の知人のなかには、JICA専門家、JOCV、JICA及びJBIC関係者も含まれる。
(1)我が国ODAに対する認知度
まず、全体の68%がODAの意味を理解していた。理解していると回答した人は、具体的にどのような活動がODAで行われているのかについてもほぼ理解していたが、活動を説明するために「GrantやLoanの提供」という言葉が多く利用されていた。なお、68%という数字は教育水準が非常に高い対象回答者の構成から判断すると、ややODAに対する理解が薄いと判断できよう。
我が国が支援額からみて最大の支援国であることの認知度は、ODA自体の認知度より高く72%に上った。54%は具体的に我が国の支援事業を知っており、名前を挙げることができた。最も認知度の高かった支援事業は、「ジャムナ多目的橋」、「メグナ・メグナグムティ橋」など橋梁事業、次いでリプロダクティブ・ヘルス人材育成及び母子保健訓練センターなど保健事業であった。回答者のほとんどは、新聞やテレビなどのマスメディアよりこれら具体的な事業の名称や内容に関する情報を得ているか、実際に利用した経験を有する。
我が国の支援スキーム毎の認知度では、対象者全員が回答した訳ではないが、特に緊急支援、食糧支援、開発調査、専門家派遣、円借款に対する認知が高いことが伺える。これは緊急支援や食糧支援が、マスメディアに取上げられる場合が多いためである。
表7-2-2 我が国のODAスキーム毎の認知度
資金協力 |
有償資金協力 |
プロジェクト借款 |
11 |
27.5Z |
ノンプロジェクト借款 |
7 |
17.5 |
無償資金協力 |
一般プロジェクト無償 |
8 |
20.0 |
ノンプロジェクト型無償 |
5 |
12.5 |
緊急支援 |
24 |
60.0 |
草の根無償 |
5 |
12.5 |
食糧支援 |
20 |
50.0 |
総回答者数 |
40 |
100.0 |
技術協力 |
研修 |
5 |
16.1 |
専門家派遣 |
13 |
41.9 |
JOCV |
6 |
19.4 |
開発調査 |
23 |
74.2 |
総回答者数 |
31 |
100.0 |
|
また回答対象者に代表してもらう形で、我が国のODA事業がバングラデシュ国全体的に「広報されている頻度」に関する質問を行った。日本のODA事業が「広報される機会」はあまり高くないと考える回答者が半数を超える。一方で、ODA事業に対して「どれくらい良い印象を持たれていると思われるか」については、印象の良さを裏付ける回答が約3分の1の回答者から得られたが、無関心との回答がそれ以上に多かったことも事実である。我が国の支援投入量に見合うプレゼンスや広報機会が得られていないことの現れであると言えよう。
表7-2-3 回答者が感じる広報頻度と支持の程度
広報機会 |
たびたび |
やや多い |
適度に |
稀に |
殆ど無し |
10.4 |
2.1 |
33.3 |
35.4 |
20.8 |
印 象 |
とても良い |
良い |
無し |
悪い |
とても悪い |
9.3 |
37.2 |
44.2 |
7.0 |
2.3 |
|
(2)我が国援助の効果
我が国ODA事業の貢献があると評価された主要な事項は、以下のとおりであった。46人の回答者の複数回答による。「バングラデシュ国経済への貢献」以外に、「洪水・サイクロン被害への対策」で貢献度が大であると評価されたのは、主にサイクロン・シェルターの建設が、支援当時広報媒体に良く取上げられたことによる。
農業生産の増加は、JOCVを始めとする農業普及活動と肥料工場への投入が大きかったこと、母子保健の改善は、我が国の代表的な技術協力事例であるリプロダクティブ・ヘルス人材開発プロジェクトと母子保健訓練センター建設事業の影響が大であったため評価されたものと考えられる。
表7-2-4 我が国ODAの貢献事項
貢献が大であると評価された事項 |
延べ回答数 |
(%) |
バングラデシュの経済 |
37 |
80.4 |
洪水・サイクロン被害への対策 |
25 |
54.3 |
農業生産の増加 |
17 |
37.0 |
外国直接投資の増加 |
16 |
34.8 |
母子健康の改善 |
14 |
30.4 |
貢献が少ないと評価された事項 |
延べ回答数 |
(%) |
通信状況 |
1 |
21.7 |
初等教育のアクセス改善 |
5 |
10.9 |
輸出の振興 |
7 |
15.2 |
|
上記と同様の質問をセクター別に評価すると以下のとおりとなる。
表7-2-5 我が国ODAの貢献セクター
貢献が大であると評価されたセクター |
延べ回答数 |
(%) |
農村開発 |
19 |
41.3 |
農業開発 |
17 |
37.0 |
運輸交通/道路 |
17 |
37.0 |
教育 |
15 |
32.6 |
保健医療 |
13 |
28.3 |
貢献が少ないと評価されたセクター |
延べ回答数 |
(%) |
環境保全 |
0 |
- |
工業 |
1 |
2.2 |
水道 |
5 |
10.9 |
|
また、「我が国ODA事業の貧困削減への貢献」について質問したところ、回答は以下のとおりであった。我が国ODA事業と貧困削減努力への貢献をポジティブに関連付けた回答は、非常に少なかった。理由として、視覚的に直接貧困緩和と認識される事業が少ないことと、支援事業それぞれの貧困削減への効果発現プロセスが複雑で見えにくいことが考えられる。
表7-2-6 我が国ODAの貧困削減への貢献
全くない |
少し |
どちらとも 言えない |
いくらか |
効果的 |
34% |
- |
34% |
4% |
12% |
|
回答者の判断根拠となった理由には、不適切な事業デザインと政府の腐敗が原因であるとの声が多かった。初等及び中等教育分野への支援の少なさも貧困削減への貢献が少ない理由として挙げられている。貧困削減への貢献という面で良好な印象を持たせるに至らない要因となっている。
なお、回答者に対して「我が国ODA事業が何か日常生活の変化や影響をもたらしたかどうか」を質問したところ、64%が「特に感じない」と答え、24%が「ODA事業による変化を実感している」と答えた。具体的には、特に交通手段(橋梁)整備による利便性の向上と保健施設の利用が挙げられた。
(3)我が国援助の問題点
回答者全体のうち、72%は我が国ODA事業の形成から実施に至るプロセスについてほとんど知識が無いと答えた。僅か4%のみがODA事業プロセス全体に通じている。
更に「我が国ODA事業が適切にバングラデシュ国民や受益者の声を事業形成段階から取入れているかどうか」についての質問を行った。結果は、「ほとんど配慮されていない」が36%、「あまり配慮されていない」という印象を持っているものが38%であった。一方で回答者の80%は、事業形成段階に国民の声を取込むことは必要不可欠であると指摘している。
なお、回答者によると全体の42%の人が我が国ODA事業の短所を指摘し、主な内容は以下に集約される。政府の腐敗体質を助長するという印象は、バングラデシュ政府側の問題ではあるが、バングラデシュ国民が強い懸念を持っている点であることに充分留意する必要はある。腐敗の助長に対して、回答者の多くからより直接的かつ積極的な政府への「介入」を求めるとの声が強かった。
表7-2-7 我が国ODA事業の短所
|
延べ回答数 |
(%) |
事業実施までに長期間を費やす |
18 |
85.7 |
腐敗を助長する |
15 |
71.4 |
地域住民の参加が活発ではない |
7 |
33.3 |
全般的にコストが高過ぎる |
15 |
32.6 |
|
(4)重点を置くべき分野と今後の開発ニーズ
回答者に、「今後はより重点を置くべきセクター」を上位5つ抽出のうえ選定してもらった。結果は下表に示す。農村開発は高い優先度を与えられており、農村部に暮らす人口の生計手段獲得や農業外経済の活性化、ひいては貧困の緩和がバングラデシュ国にとって切実な課題であることが伺える。
表7-2-8 今後重点を置くべき分野
セクター |
優先付けされ
なかった率(%) |
評点 |
農村開発 |
22 |
149 |
電力 |
34 |
124 |
商業 |
40 |
84 |
教育 |
44 |
71 |
運輸交通 |
48 |
70 |
工業 |
64 |
47 |
防災 |
74 |
45 |
|
一方、「今後の開発ニーズ」として将来一層取組むべき開発課題(クロス・セクター課題)を上位5つ抽出のうえ選定してもらった。結果はやはり貧困削減が最も注力すべき課題として認識された。民主化やガバナンスの向上を期待する回答者が多いことも注目すべきことである。
表7-2-9 今後の開発ニーズ
セクター |
優先付けされ
なかった率(%) |
評点 |
貧困の削減 |
20 |
133 |
人的資源の開発 |
32 |
79 |
民主化 |
80 |
71 |
ガバナンスの向上 |
52 |
66 |
雇用の創出 |
22 |
65 |
食糧保障の充実 |
44 |
44 |
マクロ経済の安定 |
64 |
37 |
社会保障の充実 |
64 |
34 |
|
上記の他、我が国ODA事業に対する要望としては以下が挙げられた。
- 行政能力(資源の有効利用を図る開発計画策定能力など)の向上を支援する技術協力を提供する。
- バングラデシュ国においてODA事業が如何に機能するかについてより詳細な検討と情報の収集を行った上で、支援すべきセクターを絞り込む。
- 資金援助や各種援助投入物が如何に利用されるかについてモニタリングの強化を講じる。