広報・資料 報告書・資料



第2章 バングラデシュ国の政治経済情勢と開発計画



2.2 開発計画と政治・経済の状況

バングラデシュ国は、その時代の政権の特質により、1)社会主義政権期(1971~75年)、2)軍事政権期(1975~91年)、3)民主政権期(1991年~現在)という3つの政権期に分けることができる。本節では社会主義型政権期におこなわれた第1次5ヵ年計画と、軍事政権期におこなわれた2ヵ年計画および第2次5ヵ年計画と第3次5ヵ年計画が掲げた開発目標と政治・経済状況について、1991年からの民主政権期において行われた第4次5ヵ年計画と現在進行中の第5次5ヵ年計画の開発目標とその政治・経済状況について述べる。

2.2.1 社会主義型政権期(1971~75年)

9ヵ月間にわたる独立戦争でバングラデシュ国は勝利を勝ち得たが、道路や通信網・電力などのインフラは多大な被害を受けた。1971年の独立はこうした負の遺産からスタートしなければならなかった。独立後から1975年のクーデターまでの期間はアワミ連盟が政権をとりインドの社会主義型計画経済を導入した。社会主義型計画経済を導入した理由は、独立戦争によって破壊されたインフラ建設には多大な資本費用がかかるため、単年度会計よりも5ヵ年計画が適していること、西パキスタン財閥の産業資本の所有権に対する所在を明確化するうえで、国有化が適していること、外貨準備の不足から輸出入を国家管理におく必要があったこと、貧困線以下の人々が多数存在し、市場原理はそぐわなかったことなどがあげられる。こうした環境下においてアワミ連盟政権は1973年より第1次5ヵ年計画に着手した。同計画の上位開発目標を以下に示す。

  • 貧困削減
  • 戦後復興の継続と主要セクター(特に農業と産業)の生産高の増加(1973年度までに1969年度レベルを上回る)
  • 人口増加率3%を上回る5.5%の年間GDP成長率の達成
  • 失業者の削減
  • 地方政府の制度構築
  • 日用必需品(食料、衣服、食用油、ケロシン、砂糖等)の生産拡大
  • インフレの抑制、特に日用必需品の価格上昇抑制
  • 一人当たり収入増加率を年間2.5%とする(貧困層の収入と消費を増加させる一方、富裕層の収入・消費は現状維持とする[収入上限設定等により])
  • 中央政府の管理・運営能力の効率化と中央政府の政策介入強化
  • 経済フレームの変革と民間企業の経済活動参加の拡大
  • 国内資源の活用と自主自立の促進による援助への依存低減
  • 輸出拡大と多角化、為替ギャップを埋めるための輸入補助金制度の導入
  • 食糧自給、農業セクターにおける雇用の拡大、都市部への人口流出抑制に向けた農業組織・農業技術基盤の変革
  • 人口増加抑制に向けての人口計画確立(人口増加率を3%から2.8%へ押し下げる)
  • 教育/保健、農村住宅、水供給の向上による社会的・人的資源の開発と開発に向けての支出の増加
  • 地域格差の縮小を考慮に入れた収入、雇用機会の平均化、経済発展地域への労働力移動の促進


独立直後の新政権は社会主義的政策を打ち出し、産業の国有化を行った。銀行部門もそのほとんどが国有化された。工業は経済計画のもとで中央の指令で進められた。農業部門は国有化されなかった。労働者を保護すべく労働組合の結成が認められた。農業は緑の革命による近代的高収量品種の導入を進めたが、1972年と73年に2年連続の干ばつにより農業生産は大きく下落した。不幸は重なり、1973年には第1次オイルショックが発生し、非産油最貧国のバングラデシュ国はこの外政的要因により外貨不足とインフレ高騰、失業に苦悩する。さらに1974年には大洪水が発生し食糧不足が深刻な社会問題となり、アワミ連盟政権は窮地に立たされた。

2.2.2 軍事政権期(1975~91年)

(1)2ヵ年計画・第2次5ヵ年計画と政治・経済の状況

アワミ連盟政権に対する国民の不満と政情不安を背景に、1975年8月、ムジブル・ラーマン大統領が暗殺され、ジアウル・ラーマン将軍が権力を掌握した。彼はバングラデシュ民族主義党(BNP)を結成し、軍人主導の民政化を実現した。その過程は、戒厳令を発動し、既成政党の活動を大幅に規制したうえで、軍に協力する翼賛政党すなわちBNPの結成を待ち、選挙を実施し戒厳令を解除する1という一連のプロセスがとられた。当然の結果としてラーマン大統領に権限が一極集中することとなった。

この権力を背景に、ラーマン大統領は社会主義型指令経済から市場経済に180度転換する方針を打ち出した。同大統領率いる軍事政権は、第2次5ヵ年計画につなぐ過渡期の計画として「2ヵ年計画:1978~80年」に着手した. 同計画の上位開発目標は、(1)第1次5ヵ年計画を上回る経済成長率の達成、(2)生産性の向上と雇用機会の増加による地方経済の発展、(3)自主自立に向けての援助への依存低減と国内資源活用の増大、(4)貧困削減、所得再分配向上、社会的公正促進に向けての雇用機会の増大、(5)食糧自給に向けてのペースの加速、(6)人口増加率の抑制、(7)衣食、飲料水、保健、教育サービス等、ベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)の向上であった。

これに引き続く「第2次5ヵ年計画:1980~85年」では、(1)BHNの供給による生活水準の向上、(2)地方における生活の質の向上、(3)労働人口増加を上回るペースでの雇用機会の拡充、(4)非識字率の低減と包括的人的資源開発の促進、(5)人口増加率の抑制、(6)自主自立の促進、(7)社会的公正に向けての収入・資源・機会の均等配分の促進、(8) 短期間における食糧自給率を上回る食糧生産の促進、(9)経済成長率年平均7.2%の達成、(10) 農産物加工の促進による農業付加価値化を上位目標においたものであった。

不幸にも1979年には第2次オイルショックが発生し、再びバングラデシュ国を対外不均衡と高インフレと失業の渦中に追いやった。政治面ではラーマン大統領が軍の不満分子に暗殺され、国内政治が混迷の度を一層深めたこともあり、第2次5ヵ年計画は内憂外患のもと空中分解してしまった。

(2)第3次5ヵ年計画と政治・経済の状況

1982年のクーデターにより権力の座を射止めたのは、エルシャド大統領である。エルシャド大統領は民間部門の繁栄こそ経済の牽引車となりうるという経済の市場メカニズムを重視した戦略を採用し、「第3次5ヵ年計画:1985~90年」に着手した。

第3次5ヵ年計画においては、(1)人口増加率の抑制、(2)生産雇用拡大、(3)初等教育の完備と人的資源開発、(4)長期的視野に立った構造改革に向けての技術基盤の開発、(5)食糧自給の確保、(6)BHNの充足、(7)経済成長、(8)自主自立の促進、を上位目標において進められた。同計画では輸入代替工業化から輸出志向工業化への工業化戦略の転換もうたわれた。

エルシャド軍事政権は、それまでの社会主義路線を修正し、国有銀行2行の民営化や、およそ600社にのぼる中小国有企業の民営化を進めた。政府による価格規制や統制が撤廃され、価格決定は市場メカニズムに委ねられるようになった。1985年には輸入規制がほぼ撤廃され、輸入ライセンス方式も撤廃され、貿易の自由化が進められたのもこの政権の特徴である。同時に政府は外国直接投資についても開放政策を暫時進めたが、インフラ不足や治安悪化、政情不安等の投資環境の劣悪さを嫌う外国投資家の気持ちを変えさせるには至らなかった。

高い人口圧力や毎年のように到来する自然災害のために、1人当たりGDPが示す以上の貧困がバングラデシュ国を苦しめている状況を前に、国際社会はバングラデシュ国を後発開発途上国(LLDC)の中の主要援助対象国として認知するようになった。この結果、2国間援助と多国間援助の急増をもたらした。

2.2.3 民主政権期(1991年~現在)

(1)第4次5ヵ年計画と政治・経済状況

エルシャド政権は8年の長期に及んだが、1990年末に勃発した激しい民主化運動に揺さぶられた。1991年2月の総選挙では、BNPが勝利し、暗殺されたラーマン大統領夫人のカレダ・ジアが大統領に就任した。カレダ・ジア大統領は選挙公約通り憲法を改正し議会内閣制への復帰を実現し、15年ぶりに民主政権が樹立された。LLDCのなかで最大の人口を抱えるうえ、天然資源を持たないバングラデシュ国に対する世界銀行(以下、世銀)と国際通貨基金(IMF)の構造調整融資により、「第4次5ヵ年計画:1990~95年」が実施された。第4次5ヵ年計画では、(1)経済成長を促進し、計画期間中のGDP年間成長率5%を達成、(2)人的資源開発による貧困削減と雇用創出、そして(3)自主自立の促進を、最優先目標にすえた。

(2)第5次5ヵ年計画と政治・経済状況

第4次5ヵ年計画期には相対的にマクロ経済は安定化したが、景気は回復することはなかった。貧困問題は依然として国家的問題であり続け、野党勢力にとって政府に対する攻撃材料として利用され、野党のアワミ・リーグによる執拗なまでのプロパガンダによってハルタル(ゼネラル・ストライキ)が頻発した。1996年の総選挙においてアワミ・リーグが政権の座に返り咲くことに成功し、ハシナ政権が発足した。

2001年総選挙の結果


同政権は、1996年12月にはインドとの間で懸案事項となっていたガンジス川水利配分協定の調印に成功、また2000年より国連安保非常任理事国に、2001年より非同盟運動議長国に就任、さらに国連平和維持活動、包括的核実験禁止条約批准など、外交や対外関係においてその優れた特質を示した。しかしながら、2001年11月、総選挙の結果カレダ・ジアBNP総裁が新首相に就任した。BNP率いる与党の構成は、BNP 191議席、ジャマティ・イスラム17議席、国民党(ナジウル・フィロズ派)4議席、イスラミ・オイッコ・ジョウト2議席の連合政権である。

経済面では「第5次5ヵ年計画:1997~2002年」を実施した。以下に同計画の開発上位目標を示す。

  • 経済成長率の促進(年間成長率7%)による貧困緩和とそれに伴う生活水準の向上
  • 労働集約型産業と資本集約型産業の最適組み合わせによる雇用創出と生産性の向上
  • 資源利用による地方における雇用と収入の増加とそれに伴う生活水準の向上
  • 地方における社会経済構造の変革と資源へのアクセス増加による地方貧困層のエンパワメント
  • 国内自給率を上回る食糧生産と高付加価値輸出向け製品生産の多角化
  • 初等教育と職業訓練の強化による人的資源開発と知識社会の構築
  • 電力・ガス・石炭・その他の天然資源開発などへの基礎インフラ整備による成長促進とマーケットの整備、および地方のインフラ整備
  • 優位性を有する産業の発展
  • 北西部、チッタゴン地域、沿海部等、従来取り残された地域の開発
  • 2002年における人口増加率1.32%の達成と保健サービスと母子栄養強化
  • 電子・遺伝子工学分野等における科学技術基盤の強化
  • リサイクルや天然資源の適正利用に視点を当てた規制の導入による環境保護
  • 女性教育・雇用の促進によるジェンダー格差の縮小
  • 社会的公正の確立と社会的弱者層に対する安全ネットの形成
  • 地方政府の効率化とNGOとの連携を通じた開発プログラム/プロジェクトの形成・ 実施に係る権限の地方政府への委譲


上記の開発目標とセクター/サブセクターとの関連性を体系的にまとめたものが添付図2-2-3である。なお、同図においては、我が国の援助介入の実績が確認されるセクターには色を付けている。同図では、各セクター/サブセクターにおける開発努力がいくつかまとまりをもって、「中間的な開発目標群2」に示した上位課題に影響するものとし、さらにこれら開発目標群の達成如何がよりマクロ的な「中間的な開発目標群1」に示した上位課題に影響するものと体系化した。

このように体系化された経路をつうじて、各開発活動の効果や成果はバングラデシュ国最優先の開発課題である「貧困緩和」にむけて浸透するものと考える。貧困には、「絶対的貧困」と「相対的貧困」の区別がなされる。絶対的貧困の削減に資する持続的な経済成長(年平均実質7%成長)と併せて、相対的貧困の広がりを抑えるため、「社会的公正に資する所得の再分配」をはかることも開発計画書で謳われている。

2.2.4 近年のマクロ経済動向

(1)経済の成長と構造

世銀の国別分類によれば、1999年の一人あたりGNPの水準に基づき、755ドル以下が低所得国、756-9,265ドルが中所得国、9,266ドル以上が高所得国となる。バングラデシュ国は年間一人当たりのGDPがわずか373 USドル(1999/00年)の最貧国である。大河川の下流域にデルタを形成する地形は洪水が毎年のように発生する。肥沃な土砂の堆積は翌年の農業生産性を高める一方で、その年の農業生産に打撃を与える諸刃の剣である。さらにサイクロンなどの自然災害の発生により住居を奪われた人々の貧困問題をさらに悪化させている。

表2-2-1 一人当りGDPの推移 (単位:USドル)

  90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
一人当りGDP 279 277 277 288 316 334 340 348 357 373
出典:バングラデシュ国統計局


1990年の産業構造は、第1次産業がおよそ28.7%、第2次産業が20.2%、第3次産業が51.1%を占めていたが、1999年には第1次産業が24.3%へ4.4%低下した一方で、第2次産業が24.7%へ4.5%上昇したが、第3次産業はほぼ同率の51.0%であった。ちなみに、一人当たりGDPが数値上同程度のラオスやカンボジアでは、バングラデシュ国と対照的にGDPの5割程度が第1次産業に、就業人口で見ると8割程度が第1次産業に従事しており、貨幣価値に換算されない自給自足分が人々の生活を支えている。

表2-2-2 セクター別GDP構成比 (単位:%)

  90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
農業 28.7 28.4 27.7 27.2 26.3 25.0 24.6 24.8 24.3 24.3
鉱業 0.9 0.9 0.9 0.9 0.9 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0
製造業 12.2 12.5 12.8 13.3 13.8 14.6 14.8 14.8 15.2 15.0
電気・ガス・水道 1.3 1.3 1.4 1.4 1.4 1.4 1.4 1.4 1.4 1.4
建設 5.8 5.7 5.7 5.8 6.1 6.4 6.6 6.8 7.1 7.4
商業 12.4 12.6 12.6 12.5 12.6 13.0 13.0 13.0 13.1 13.3
運輸通信 9.1 8.9 8.8 8.7 8.7 8.7 8.7 8.7 8.8 8.8
金融 11.2 11.2 11.0 10.9 10.8 10.7 10.6 10.4 10.3 10.2
行政 2.0 2.0 2.2 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 2.5
その他 16.4 16.4 16.9 17.0 16.8 16.9 16.8 16.7 16.4 16.2
出典: アジア開発銀行(ADB)
備考: 第1次産業:農業、第2次産業:鉱業/製造業/電気・ガス・水道/建設、第3次産業:商業/運輸通信/金融/行政/その他


バングラデシュ国は世銀やIMFによる構造調整を通じて1990年代は実質年平均4.7%(1991~99年)という比較的順調な発展を遂げることができた。この成長に大きく貢献したGDPセクターは製造業(年平均寄与度:1.0%)、商業(同0.7%)、農業(同0.7%)であった。このうち、穀物生産の増大は、1)天候が順調に推移したこと、2)化学肥料、種子、ディーゼル油といった農業投入財の安定価格供給の実現、3)農業技術研究・普及に対する政府投資の拡充、4)高収量品種および農業機械の導入によるところが大きい。加えて貿易の自由化政策を受けて、灌漑ポンプや農業機械に対する輸入関税が撤廃された2ことで、農家支出を大幅に引き下げられ、農家経済の向上にも貢献したことも要因である。

表2-2-3 セクター別実質GDP成長率 (単位:%)

  91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00 平均
農業 2.2 2.5 2.5 0.9 -0.3 3.1 6.0 3.2 4.8 2.8
鉱業 1.8 6.0 8.9 5.2 9.9 7.7 3.6 5.8 1.1 5.6
製造業 6.3 7.4 8.6 8.2 10.4 6.4 5.0 8.5 3.2 7.1
電気・ガス・水道 7.2 6.7 6.8 6.4 5.6 5.3 2.1 2.0 6.0 5.4
建設 0.5 6.0 6.0 9.2 9.6 8.5 8.6 9.5 8.9 7.4
商業 4.8 5.5 3.2 5.5 7.8 4.7 5.4 6.0 6.5 5.5
運輸通信 1.5 3.6 3.1 4.0 5.0 5.2 5.5 5.7 5.9 4.4
金融 3.4 3.4 3.3 3.5 3.7 3.6 3.7 4.0 4.0 3.6
行政 3.1 12.6 14.8 5.7 4.6 4.1 5.5 5.9 5.6 6.9
その他 3.7 7.8 5.3 3.2 5.2 4.1 4.8 3.6 3.5 4.6
実質GDP 3.3 5.0 4.6 4.1 4.9 4.6 5.4 5.2 4.9 4.7
出典:ADB


図2-2-1 セクター別成長寄与度 (単位:%)
セクター別成長寄与度

出典: ADB, Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, 2000より作成


(2)財政構造

バングラデシュ国の財政収支は、1991年以降黒字を計上している。財政再建の要因は、世銀やIMFの構造調整援助に伴う財政構造改革によるものであり、財政支出の抑制と税収基盤の拡充である。1991年の付加価値税の導入を通じて、租税基盤が拡充した結果、税収入の財政収入に占める割合は1998年度には59.1%となった。経常収入(税収入+税外収入)の増加は賃金・給与等の経常支出のみに充当されているのではなく、1994年度以降は資本収支の赤字を補填している。このことは、公共投資に占める自己資本の割合が増加していることを示しており、開発援助依存度の逓減、つまり経済的自立に向けた自助努力の証左であろう。

また、同国は租税基盤の拡大と徴税能力の強化のために石膏、アルミホイールなどに対する輸入関税の引き上げにより、関税収入の増加と輸入の減少を目指しているが、依然として国民の半数近くが絶対的貧困下にあるバングラデシュ国にとって、自助努力による公共投資の量的確保と所得再分配機能の強化は自ずと限界がある。経済成長および貧困削減に資するためにはどのような分野へ開発資源を投入すべきか、選択と集中に基づく効果的な資源の活用を考慮すべきである。

表2-2-4 中央政府の財政状況 (単位:100万タカ)

    90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
A 歳入(1+2) 120,254 146,548 162,626 179,589 191,360 231,729 236,239 251,640 270,060 197,000
1 経常収入 65,194 81,769 97,236 113,189 123,750 148,899 155,119 171,200 188,090 197,000
 1.1 税収 55,725 67,978 78,234 90,989 95,893 120,536 120,934 138,770 159,560 158,550
 1.2 税外収入 9,469 13,791 19,002 22,200 27,857 28,363 34,185 32,430 28,530 38,450
2 資本収入 55,060 64,779 65,390 66,400 67,610 82,830 81,120 80,440 81,970 N.A.
B 歳出(1+2) 123,972 125,351 138,626 151,929 181,954 208,706 220,990 234,141 252,610 332,060
1 経常支出 66,802 72,651 78,386 86,429 92,124 105,676 120,833 123,731 150,130 167,650
2 資本支出 57,170 52,700 60,240 65,500 89,830 103,030 100,157 110,410 102,480 164,410
C 財政収支 -3,718 21,197 24,000 27,660 9,406 23,023 15,249 17,499 17,450 -135,060
出典: ADB, Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, 2001.
備考: 1999年度は予測値である。また、資本収入に関するデータは欠損している。


表2-2-5 財政収入構成比 (単位:%)

  90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
1 経常収入(1.1+1.2) 54.2 55.8 59.8 63.0 64.7 64.3 65.7 68.0 69.6 100.0
 1.1 税収入 46.3 46.4 48.1 50.7 50.1 52.0 51.2 55.1 59.1 80.5
 1.2 税外収入 7.9 9.4 11.7 12.4 14.6 12.2 14.5 12.9 10.6 19.5
2 資本収入 45.8 44.2 40.2 37.0 35.3 35.7 34.3 32.0 30.4 N.A.
財政収入(1+2) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
出典: ADB, Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, 2001より算出
備考: 1999年度は予測値である。また、資本収入に関するデータは欠損している。


表2-2-6 財政収支構造 (単位:100万タカ)

  90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
経常収支 -1,608 9,118 18,850 26,760 31,626 43,223 34,286 47,469 37,960 29,350
資本収支 -2,110 12,079 5,150 900 -22,220 -20,200 -19,037 -29,970 -20,510 N.A.
出典: ADB[2001]より算出
備考: 1999年度は予測値である。また、資本収入に関するデータは欠損している。


(3)貿易

バングラデシュ国は貿易赤字に苦しむという構造的ギャップをかかえている。1999年の輸出は57億6,200万ドルであるのに対して、輸入はその1.5倍の84億300万ドルに過ぎず、26億4,100万ドルの貿易赤字を計上した。

表2-2-7 国際収支 (単位:100万ドル)

  93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
1 経常収支 -89 -664 -1,291 -534 -253 -394 0
貿易収支 -1,657 -2,361 -3,063 -2,735 -2,352 -2,694 -2,641
 輸出 2,534 3,473 3,884 4,427 5,172 5,324 5,762
 輸入 4,191 5,834 6,947 7,162 7,524 8,018 8,403
所得収支 -31 -41 55 -107 -100 -135 221
 所得収入 147 162 253 89 91 91 97
 所得収支 178 203 198 196 191 226 318
移転収支 1,578 1,827 1,821 2,145 2,017 2,237 2,670
 政府
 (食糧援助)
331
118
401
137
346
138
375
101
267
99
262
177
443
142
 民間
 (自国からの送金)
1,247
1,089
1,426
1,198
1,475
1,217
1,770
1,475
1,750
1,525
1,975
1,706
2,227
1,949
2 資本収支 1,047 1,195 778 691 1064 814 1,857
 資本収支(除く投資収支) 379 489 331 360 304 345 283
 投資収支 668 706 447 331 760 469 760
  直接投資 16 6 7 16 249 198 194
  証券投資 53 61 -21 -132 3 -6 0
  その他投資 599 639 461 447 508 277 566
公的対外債務受取 849 849 767 746 748 867 849
公的対外債務支払 264 314 316 316 308 341 396
純・長期資本収支 -20 -8 33 50 -50 -30 104
純・短期資本収支 34 112 -23 -33 118 -219 -9
3 誤差脱漏 -166 -79 -504 -326 -729 -591 -718
4 総合収支 792 452 -1,017 -169 82 -171 325
出典:Barshik Report 1999/2000


こうした赤字体質は独立以後変わらない。その背景として、伝統的輸出商品である原料ジュート、ジュート製品および茶の市況が低迷していることが挙げられる。原料ジュートの輸出は1990年に1億2,000万ドルであったものが、1999年には7,200万ドルへと40%も減少しており、茶の輸出も同期間に4,000万ドルから1,800万ドルへと55%も減少している。

一方で経済成長を支えてきた輸出品目もある。既製服は1990年の7億3,600万ドルから1999年には30億8,300万ドルへと4.2倍に急増した。ニットとメリヤス製品の輸出は、同期間に1億3,100万ドルから12億7,000万ドルへと9.7倍増大し、縫製産業の飛躍的成長が経済全体の成長を牽引している。冷凍エビ・魚の輸出が増大していることも目をみはるものがある。輸出自体は1990年の25億3,400万ドルから1999年には57億6,200万ドルへ2.3倍の増大を示した。

表2-2-8 主要輸出品目 (単位:100万ドル)

    90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
1 原料ジュート 120 85 74 57 79 91 116 108 72 72
2 ジュート製品 283 301 292 284 319 329 318 281 304 266
3 40 32 41 38 33 33 38 47 39 18
4 皮革 138 144 148 168 202 212 195 190 168 195
5 冷凍エビ・魚 171 131 165 211 306 314 321 294 274 344
6 既製服 736 1,064 1,240 1,292 1,835 1,949 2,238 2,843 2,985 3,083
7 ニット・メリヤス製品 131 119 205 264 393 598 763 940 1,035 1,270
8 化学品 32 8 37 54 95 98 108 74 79 94
9 肥料 40 25 55 51 91 95 104 59 59 60
合 計 1,718 1,994 2,383 2,534 3,473 3,884 4,427 5,172 5,324 5,752
出典: バングラデシュ国計画省


しかし輸入もまた同期間に41億9,100万ドルから84億300万ドルへと2倍程度増大しているため、輸出収入で輸入額をうめることはできない。輸入品目のうち25%を占める最大の品目は資本財である。工業化を押し進めるにも工場で使用する機械は輸入に依存せざるを得ないのが現状である。原油や石油製品、化学品、鉄・鉄鋼の輸入をくい止めることが難しいことは理解できるが、食糧の輸入が意外に多いことにより留意する必要があろう。

表2-2-9 主要輸入品目 (単位:100万ドル)

    90/91 91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
1 4 5 0 10 220 358 28 247 680 115
2 小麦 327 260 176 141 256 228 156 122 317 266
3 原油 212 152 181 116 177 166 174 140 118 232
4 石油製品 207 168 172 168 206 290 341 295 270 406
5 資本財 1,231 1,289 1,346 1,299 1,688 1,918 1,937 2,072 1,969 2,133
6 食用油 208 163 152 117 220 179 216 216 287 256
7 油性種子 1 9 35 40 80 89 62 93 100 90
8 セメント 106 77 130 129 116 171 156 152 105 80
9 化学品 - 101 126 144 155 201 257 248 250 278
10 肥料 91 117 131 135 142 97 150 108 120 140
11 綿花 93 71 91 71 135 185 195 207 233 277
12 72 92 127 168 200 296 395 327 283 300
13 織物 - 512 687 841 1,025 1,043 1,098 1,264 1,109 1,153
14 鉄・鉄鋼 - 99 106 130 206 322 437 391 345 393
15 繊維 6 19 31 31 40 43 45 48 39 43
合 計 3,472 3,526 4,071 4,191 5,834 6,947 7,162 7,520 8,018 8,403
出典:バングラデシュ国計画省


比較優位のある製品の工業化とならび食糧の自給率を高めることが外貨節約に通ずるものと考えられる。2000年の外貨準備額は16億2,330万ドルであり、同年の輸入を2.3ヶ月分まかなえる程度である。過去10年の平均でみると4.1ヵ月分をまかなえる水準にあった。

表2-2-10 外貨準備高 (単位:100万ドル)

12月末時点 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
外貨準備高 649.4 1,299.8 1,847.3 2,436.7 3,165.9 2,366.6 1,862.6 1,606.7 1,927.7 1,623.3
  20.8 21.5 22.7 25.9 27.2 26.9 28.0 25.3 22.3 19.6
外貨 602.9 1,206.9 1,783.2 2,387.9 3,102.6 2,180.1 1,724.9 1,552.1 1,892.3 1,602.5
SDR 25.8 71.3 41.4 22.8 36 159.5 109.6 29.2 12.9 0.9
輸入額 3,472 3,526 4,071 4,191 5,834 6,947 7,162 7,520 8,018 8,403
輸入可能月 2.2 4.4 5.4 7.0 6.5 4.1 3.1 2.6 2.9 2.3
出典:ADB


バングラデシュ国の対外部門の特徴は、貿易収支の赤字を海外出稼ぎ労働者からの送金と外国直接投資と対外援助によって補填しているということである。とりわけ海外出稼ぎ労働者からの送金額は1993年からの統計でみても毎年10億ドルを超えており、1999年では19億4,900万ドルに達している。この額は資本収支の黒字額18億5,700万ドルよりも大きく、外国直接投資額1億9,400万ドルの10倍、公的対外債務受取額8億4,900万ドルの2.3倍の水準にあるという事実は見逃せない。

交易条件の推移を次表に示す。1995年を100とした場合1998年の輸出価格指数は111に上昇する一方、輸入価格指数は98に低下しており、交易条件は改善されている。

表2-2-11 交易条件の推移

  1987 1997 1998
輸出価格指数(1995=100) 54 103 111
輸入価格指数(1995=100) 79 100 98
交易条件(1995=100) 68 103 114
出典:世銀および国際協力事業団


(4)金融

現金と要求払い預金の合計額である貨幣供給量M1の増加率は、年平均GDP成長率よりも高いとはいえ、この9年間で平均12.7%程度という開発途上国では極めて低い数値を示している。最高値といえども1994年度の23.2%であった。M1に定期預金を加えたM2の増加率でみても、20%以内に収まっていることから、バングラデシュ国金融当局がいかに緊縮的な金融政策に取り組んできたかがわかる。

表2-2-12 貨幣供給量 (単位:100万タカ)

  91/92 92/93 93/94 94/95 95/96 96/97 97/98 98/99 99/00
1 M1 72,037 82,572 90,626 111,671 135,342 141,676 152,635 163,970 184,874
現金 36,118 40,726 44,801 54,160 64,523 68,195 76,074 80,756 93,870
要求払預金 35,919 41,846 45,825 57,511 70,819 73,481 76,561 83,214 91,055
2 M2 250,044 285,259 315,356 364,030 440,738 487,979 536,445 597,556 689,841
(定期預金) 178,007 202,687 224,730 252,359 305,396 346,303 383,810 433,586 504,967
出典:ADB


表2-2-13 貨幣供給量変化率およびインフレ率 (単位:%)

  1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 平均
1 M1 13.1 14.6 9.8 23.2 21.2 4.7 7.7 7.4 12.7 12.7
現金 13.3 12.8 10.0 20.9 19.1 5.7 11.6 6.2 16.2 12.9
要求払預金 12.9 16.5 9.5 25.5 23.1 3.8 4.2 8.7 9.4 12.6
2 M2 12.1 14.1 10.6 15.4 21.1 10.7 9.9 11.4 15.4 13.4
(定期預金) 11.8 13.9 10.9 12.3 21.0 13.4 10.8 13.0 16.5 13.7
3 インフレ率 8.3 4.6 2.7 3.3 8.9 6.7 2.5 7.0 8.9 5.9
4 国民預金/GDP 16.7 16.3 15.0 16.2 16.2 17.9 19.1 20.7 21.1 17.7
出典: ADB, Key Indicators of Developing Asian and Pacific Countries, 2000およびバングラデシュ国財務省、Flow of External Resources into Bangladesh, 2000より算出


結果的に、インフレ率もM1の増加率に呼応する形で2.5~8.9%の範囲内に収まっている。下表のとおり為替レートも相対的に安定している。

表2-2-14 為替レート

年平均 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
(タカ=1USドル) 34.6 36.6 39.0 39.6 40.2 40.3 41.8 43.9 46.9 49.1
出典:ADB


なお、バングラデシュ国では公定歩合を景気変動に応じて変えるという利子政策はあまりとられてこなかった。これは銀行部門が効率的な改革が依然進展していないため、利子政策の効果に疑問がもたれているからである。

同国においても金融における最大の問題は不良債権である。銀行部門は多額の長期不良債権をかかえ危機的な状況にある。銀行部門の貸付総額に占める不良債権の割合は1995年の32%から2000年には40%にふくれあがっているとの報告がある。しかし中央銀行の監理・監査能力には限界があり、法的整備も遅れていることから、不良債権の回収にはいまだ時間を要する状況である。


1 臼井雅之「もっと知りたいバングラデシュ」弘文堂、1994年

2 ADB, Country Economic Review, December 2000より




このページのトップへ戻る
前のページへ戻る次のページへ進む目次へ戻る